初夏に呪われる

 そろそろ強くなり始めた日差しの降り注ぐ、晴れた日の昼下がり。家の前の草の上に座って、アルルは片頬をついて息を落としていました。
「はぁああああ」
「んっ……そこにいるのは我が妃、アルルではないか」
 ばさばさっ。ドラゴンの翼を打ち鳴らして、下りてきたのはサタンさまです。
「あれっ、サタン。どうしたの、珍しいね」
「珍しいのはお前の方だ。どうしたのだ、ため息などついて お前らしくもない。何か悩みがあるのなら話を聞くぞ」
「んんん、悩みって程じゃないんだけど……実は、この容器が呪われちゃって」
「なにいっ!? その、一見無害そうな量産品のガラス甕がかっ!? ……特に怪しい波動は感じないが……」
(しかし、アルルの様子は深刻だ。……この私からさえ存在を隠しおおせるほどの、魔神級の呪いなのかっ? まさか、そんなはずは無いが……)
「わかった。とにかく、それは私が預かろう」
「えっ? いいよ、そんなことしなくても」
「いいやっ。この私にさえ正体のつかめぬ呪いなのだ。そんなものの傍にお前やカーバンクルちゃんを置いておけるはずがあろうか、いや無いッ。さあ、安心して私に預けるがいい!」
「うわっ、ちょっと……!」
 サタンさまは、アルルから無理やりガラス容器を奪い取りました。
 途端に、むわっと鼻腔を刺激する、特徴ある臭い。
「ぐわっ!?  ……く、くさっ。らっきょ臭っ!」
「一度でもらっきょを漬けちゃうと、その臭いが染み付いて、二度とそれ以外に使えなくなるのよねー。
 今年は果実酒を漬けたかったのに、らっきょに呪われた気分だよ」
 容器を抱えて悶絶するサタンさまを見ながら、アルルがもう一度息を落として言いました。



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05/6/5の毒つぼより。

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