イーモデード。

 

 いつも平和なプリンプタウン。街の子供たちが通うプリンプ魔導学校も、もちろん今日も元気で賑やかです。
「むっ……。キミは」
「あら、クルークじゃありませんの」
 ピンク色の長い髪の先を巻いた女の子は、校門をくぐったところでバッタリ会った丸眼鏡の男の子を、ぜんっぜんエンリョなんてしないでジロジロ眺め回しました。
「ふーん……。今日は赤くありませんのね。いつもどおり、全身ムラサキでダッサいですわ」
「なんだって? このボクのハイソなセンスが分からないなんて、あきれるね。キミこそ、赤と黄色のシマシマで目に痛いじゃないか」
「なんですの? ほんっとにゴチャゴチャうるさいですわね。こんなことなら、赤いまんまの方がマシでしたわ」
「ボクは自力で身体を取り戻したんだ。キミみたいなレイコクでジブンカッテで増幅器無しじゃ魔法の一つも使えないバカ女に、つべこべ言われたくなんかないね!」
「むっきぃい〜!! 前から思ってましたけど、あなた、気に入りませんわ!」
「それはこっちの台詞だ。ボクは前年度のプリンプ魔導学校最優秀成績生徒だぞ。キミみたいな魔法も使えない出来損ないなんて……」
「おっ。はよ〜〜!!」
「うわぁああ!?」「きゃーっ!?」
 突然、大きな赤ぷよ帽子をかぶった女の子に突進されて、ピンクの髪の女の子と丸眼鏡の男の子は大きな声で叫んでしまいました。
「な、なんですのっ、いきなり」
「ア、アミティ……」
「おはよう。ラフィーナ、クルーク。二人とも朝から仲がいいね」
「なっ……!」
「くだらないことを言わないでくれないか。ボクがこんな暴力女と仲がいいわけがないだろう」
「そうですわ。大体アミティさん、あなたいつも……」
 ピンクの髪の女の子が食ってかかるのも気にしないで、赤ぷよ帽の女の子はしゃがんで、落ちていた赤い表紙の本を拾い上げました。
「あれっ。これ、クルークの本だよね」
「そ、それは……!」
「いつも大事に持ってたのに、駄目だよ、落としちゃ。はい」
 赤ぷよ帽の女の子は本を差し出してきます。「落としたのは、キミのせいだろう……」と呟く丸眼鏡の男の子の声には気付かずに、カバンの中からきれいなしおりを一つ出しました。
「あ、そういえば、昨日クルークにもらったしおり、ちゃーんと持ってるよ。クルークが何かくれるなんて珍しいし。ほらっ」
「あらぁ……。あなたたち、いつのまに、そーんなに仲良くなっていたんですの? ちっとも知りませんでしたわ」
「ち……ち……ちちちち違ぁうっ! ぼ、ボクはアミティと仲良くなんかないぞ。ただ、その太陽のしおりはもういらないものだから、ゴミ箱に捨てるのもアミティにやるのも同じだって思っただけだ!!」
「あははっ。相っ変わらずだなぁー。でも、その方がクルークらしいよね。昨日、ヘンな魔物のせいでおかしくなっちゃってた時はどうしようかと思ったけど……元のクルークに戻せてよかった」
 丸眼鏡の男の子の前で、赤ぷよ帽の女の子はにこにこ笑っています。男の子の後ろでは、ピンク髪の女の子が腕を組んでニタリと笑っていました。
「ふーん……。あなた、さっき自力で身体を取り戻したんだって言ってましたわよねぇ。アミティに助けてもらったんじゃありませんの!」
「う、うるさいうるさい! ボクは、魔物に体をのっとられたらどうなるかって実験をしていただけなんだ! アミティなんかの助けが無くたって、どうってことなかったんだからな!」
「うわ。ちょっと、クルークっ。暴れないでよ」
「ちょっと、何しやがりますのっ。きゃああっ、私のバッグが……」
 ピンク髪の女の子の持っていたカバンが落ちて、中からコロコロッとガラスのこびんが転がりました。
「こ、これは『月の石』……!」
「それは私のビューティフル計画に必要なアイテムですわ。返しなさいっ」
 ピンク髪の女の子が手を伸ばして命令していますが、丸眼鏡の男の子は拾ったガラスのこびんを持ったまま、ハッとしたように叫んでいます。
「まずい! 『月の石』に『太陽のしおり』に、この『封印のきろく』……。また魔物が復活してしまう!」
「えええっ!?」
 赤ぷよ帽の女の子が口を大きく開けて驚きます。……けれど、何も起こりません。
「……何も起こらないじゃありませんの」
「そ、そうだ。封印を破るには三つのアイテムがなくてはならない。だから何も起こるはずがないのさ。そう、あと一つ、『星のランタン』がなければ……」
「『星のランタン』って、これ?」
「あっ、シグ。おはよー」
 赤ぷよ帽の女の子が笑って挨拶した先に、眠そうな顔をした男の子が立っていました。魔物のような真っ赤な手に、ランタンを一つぶら下げています。
「うわぁあああ!! そ、それをこっちへ持ってくるなーー!!」
「えー?」
 丸眼鏡の男の子が青くなって言いました。眠そうな男の子はトコトコと近付いてきます。
「あっ……」
 その時風が吹いて、赤ぷよ帽の女の子の持っていたしおりがひらりと飛びました。丸眼鏡の男の子の持っていた本のページに、ぴたりとくっつきます。
「わぁああっ!」
 丸眼鏡の男の子の持っていた本から、ぼわんっと煙が上がりました。それが消えると、おや、丸眼鏡の男の子の服が赤く変わっているではありませんか。
「あーっ! またクルークがあやしくなっちゃったー!!」
 赤ぷよ帽の女の子が叫ぶ前で、あやしい丸眼鏡の男の子は「ふむ……また外に出られたか……」と言ってから、ニヤリと笑いました。
「あ……。またイヤな感じ……」
 眠そうな男の子が言って、自分の赤い手をじっと見ています。なんだか火がついているみたい見えます。
「何者かの術が、まだ魂の共鳴を防いでいるな。まあいい」
 真っ赤なマントをバサッと払って、あやしい丸眼鏡の男の子は眠そうな男の子を勢いよく指さしました。
「その身体こそ我が本来の肉体。今日こそ、お前の身体をいただくぞ!」
「いやぁあああっ! ヘンタイですわ!」
 ものすごく大きな声で言ったのは、ピンクの髪の女の子でした。
「なっ……!?」
「あやしいあやしいとは思っていましたけれど、クルーク、あなたヘンタイ野郎でしたのね!?」
「違う! おかしなことを言うな、この小娘が!」
 あやしい丸眼鏡の男の子は、顔を真っ赤にしてわめきました。手に持った本からは紫色のタマシイがはみ出ていて、ぶんぶんと振り回されて涙をこぼしています。気分が悪くなっているのかもしれません。しまいに本は放り出されて地面に落ち、ページが閉じて、はさまれたタマシイは「きゅう」と言いました。
「ぎゃーっ、近付くんじゃねーですわ。ヘンタイが感染るじゃありませんの」
「うぬうぅ、貴様ぁああ!!」
「え、えーと……。ぷよぷよ勝負、した方がいいのカナ……」
 赤ぷよ帽の女の子は困ったように笑ってほっぺたを指でかいています。眠そうな顔の男の子は眠そうでした。
 その時です。また、ぼわんっと煙が上がると、「のわぁあああ!」という声を残して、丸眼鏡の男の子は元のムラサキの服になって、地面にペタンと座っていました。
「あーっ、いつものおかしなクルークだー」
「また、今回はやけにアッサリと戻りましたわね……」
「……あ」
 眠そうな男の子が言いました。少しはなれた所に落ちていた本を拾って持っているおねえさんがいたからです。
「散らかしちゃダメでしょ。はいっ」
 おねえさんは、赤いドレスに白いエプロンをつけたメイドさんでした。ここは外なのに、なぜかモップを持っています。本から抜いていたしおりを赤ぷよ帽の女の子に渡して、本は丸眼鏡の男の子に、『月の石』の入ったこびんはピンク髪の女の子にテキパキと返しました。
「さあ、おそうじおそうじ!」
 そう言って、なぜなのか、モップで地面をふいて、あっという間に校門の外に出て行ってしまいました。
「……今の、誰?」
「さあ」
「知らない」
 赤ぷよ帽の女の子と、ピンク髪の女の子と、眠そうな男の子は、ぼーっと見送っています。
 その時、学校のチャイムが鳴りました。
「あっ、遅刻しちゃうよ」
「ハッ。いけない。最優秀生徒のこのボクが、遅刻なんてするわけにはいかないじゃないか!」
「皆勤賞なら私だって狙っていますわ。負けませんわよ!」
「……あ、虫」
 ヒラヒラと飛んできたちょうちょを追いかけていきそうになった眠そうな男の子を引っ張って、子供たちは学校にかけこんでいきます。
 最近は、よく分からない人も街にふえているみたいですけれど……。
 プリンプタウンは、今日もいい天気です。




終わり



06年の10月頃の、表の更新日記からの再録。
「あやしいクルーク×ラフィーナ」「キキーモラ」の小説を書いて欲しいというリクエストが来たので、組み合わせて書いてみたもの。
『ぷよぷよ!』にちょっと引っ掛けてるよーなそーでないよーな。
こんなんですが、『ぷよフィ2』のデモを見直したり、それなりに手間暇はかけています。
読者反応は完璧ナシでしたつまり駄作。(がくり)

06/11/26 すわさき





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