うぇるかむ とぅ PuyoPuyo減る
「ふんふんふ〜〜ん♪」 旅の空。焚き火の前で何やら上機嫌のアルルの背中に、低空飛行で通りすがったドラコが声をかけた。 「アルルじゃない。ねぇ、何してんの?」 「あ、ドラコ。ちょっとね。製作中なんだ」 「って……何、これ」 そこに並べられていたのは、鍋、おたま杓子、砂糖やお酒といった調味料、そして、白くて四角い物体。鍋には、赤いどろっとした液体が入っている。 「いちごのゼリーを作ってたんだよ。で、折角だからちょっと形に凝ってみようと思って……」 「あぁ……この四角いのって、ゼリーの型なのね」 納得の声をドラコは上げた。それにしても、四角いしかなり大きいし、ヘンな型であることは間違いないが。 「ほら、ぷよぷよってさ、ゼリーみたいじゃない。いろんな色があって綺麗だし、おいしそーって思わない?」 「はぁ?」 「けど、流石に本物のぷよは食べられないからさ。ゼリーで作ってみたら面白いかなーって」 「あっ、じゃあ、この型ってぷよぷよの形なんだ」 「うん」 アルルは鍋を傾け、中味を白い型の上に開いていた穴から注ぎ込んだ。 「よし、じゃあ冷やしてっと。――アイス!」 かざした手から放たれた冷気が、型を冷やしてたちまちのうちに水滴を貼りつかせる。型を手に持って少し揺らしてみて、 「ん、いいかな」 荷物からナイフを出すと、型の切れ目に差し込んだ。四角い型が左右にぺりぺりと剥がれ、中から一抱えはある、まん丸の赤いゼリーが現れた。……目玉の部分までが赤いゼリーになってはいるものの、ぱっと見、本物の赤ぷよそっくりである。 「やったぁ! 成功」 「ほぇ〜〜。すっごいわね。本物そっくりじゃない」 ドラコは感嘆の息をついた。二つに分かれた型を手に取ってしげしげと眺める。どうやら、手作りのようだ。 「それにしても、よくこんな本物そっくりの型が作れたわねぇ〜」 魔導以外、そんなに器用だとは思わなかったのに、と思いながら言ったが。 「あ、本物から型取ったから。それより、さっそく味見しよー」 「……あんた今、さり気に恐ろしいこと言ったわね」 本物のぷよを粘土か何かに埋め込んで、それを基に型を作ったらしい。埋められたぷよの冥福を祈ろう。 「ほら、ドラコもそっち側から食べていいから。今、カーくんはお散歩に行ってるんだ。今ならゆっくり食べられるよ」 そう言うと、アルルは大きなぷよゼリーの端っこをかじる。 「あ、おいしー。自画自賛しちゃう」 「ふーん……。じゃ、ひとくち。……うん、形はともかく、いけるよ、これ。アルル、あんた結構やるじゃない」 「ふふふ」 少女たちが笑顔を見合わせ、もう一度かぶりついたとき。ざざざっと音を立てて、目の前の茂みから誰かが躍り出てきた。 「アルル・ナジャ!」 「げ。シェゾ……」 「キミって相変わらず とーとつだねぇ」 露骨に厭な顔をした少女たちの様子にかまわず、白銀のローブをまとった闇の魔導師は苦悩したように顔をしかめ、こぶしを握り締めている。 「お前にそんな変態的食嗜好があろうとは、知らなかったぜ……。いや、たとえどんな悪食であろうとも、お前の魔力が至上のものであることは違いないが。――だが、しかし! いくらなんでも、そんな生臭いものを食べなくとも……!」 「うわ。こいつ ぷよ食べたことあるらしいよ」 「シェゾ、ヘンタイでビンボーだから」 などと、無駄にテンションの上がっているシェゾの演説を眺めていると、ごおっと髪を揺らす風と共に空に誰かが舞い飛んできた。漆黒の翼を広げた魔王サタン。その腕にはカーバンクル。お散歩先で一緒になったらしい。 「アルル!! まさか、お前がぷよを好物としていたとは……。そうと分かれば、お前にクールなプレゼントを贈ろう。カーバンクルちゃんも大喜びだろう!」 それっ、と手を振ると俄かに空が掻き曇り、雷鳴一声、どどどどどっと大量のぷよが降ってきて下にいた者たちを埋めた。ちなみに、全部青ぷよである。落ちたショックからか、一斉にびちびちと跳ね動き、周囲にひやひやと冷気を振りまきまくる。 『ぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぉっ』 「だぁーっ、冷てぇーっ」 「がうう、サタンさま、クールの意味がちがいますぅーっ」 「カーくん!」 カーバンクルは小躍りしながらサタンの腕から飛び降りて、長い舌で次々とぷよを口に放り込んでいる。大満足らしい。 「ぐーぐぐぅーーっ」 「そーかそーか、そんなに嬉しいのかいっ。私も嬉しいぞ!」 宙に浮いたまま腕組みし、高みの見物そのままに満足げにサタンが胸をそらしたとき。 ドドドドドドドドドドドドドド、と地響きと土煙を上げながら、誰かが彼方から駆け込んできた。 「サタンさまぁあああああっ!」 駆け込んできたのは、白くきわどいドレスに身を包んだ美女、ルルー。 「ブモー。ルルーさまぁあ」 少し遅れて牛頭人身のミノタウロス。 「サタンさまに喜んでいただくためでしたら、このルルー、ぷよぷよ一千匹だって食べてみせますわ!」 「ルルーさま、お供しますモー!」 言うなり、ものすごいスピードで青ぷよを口に運び始める。 「ぐー」 負けじと、カーバンクルも舌の動きを早めた。 「おお、力の限り、共に競い合うその姿。美しい、美しいぞ!」 「はいサタンさま。ルルーは力尽きるときまで食べて食べて食べまくりますわ! ……うぇっぷ」 「ルルーさま、しっかり!」 「なっ……! 何故だ? ぷよは普通に食べられるモノなのか? もしかして俺の味覚がおかしいのか? 食べていいのか!? 食べるべきなのかぁ〜〜っ!!」 「ぐーぐーぐぐーーー!」 「ダメでしょカーくん、そんなに間食しちゃっ。晩御飯がお腹に入らなくなっちゃうじゃないか!」 「ぐー!」 「きゃっ。アルルっ、あたくしに飛び掛ってくるなんて、例によってあたくしとサタンさまの仲を邪魔する気ね!?」 「うわっ。ちょっと、カーくん! ルルー、悪いけど退いてってば」 「ヴ……ヴモォォオオオオ!!!」 「ぎゃっ。吐くんじゃないわよ、ミノっ」 「………やっぱり生臭い……」 「皆大喜びだな。今日もいいことをした。私ほど世のため人のためになっている魔王は他におるまい。ふっふっふ……ふぁっははははははははははははははぁ!」 『ぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぷよぉっ』←少し減ってる
「あぁ〜〜、もぉ〜〜、なんなのぉ〜〜〜!?」 ただ一人、とりあえずその場のノリに巻き込まれそびれたドラコが、頭を抱えて叫んだ。
……これがホントの”ぷよぷよ地獄”?
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