彼女は厳密には『魔導物語』のキャラクターではない。ぷよぷよ外伝と銘打たれた『ぷよウォーズ』に登場し、小説『真魔導』では名前のみが現れる。つまりは真魔導設定の、しかも傍流のキャラクターだ。

　彼女はラグナスの世界、惑星ガイアースの女神である。
　神託を下して十五歳のラグナスを「勇者」に指名した女神こそが彼女なのだ。

　本来、ガイアースは彼女を含めた五人の神々（惑星神）によって管理されていた。彼らの上位にカノンという神（全能神）がおり、彼らはカノンの命を受けて働く下級神（天使？）だったらしい。この仕事に成功すれば、彼らも昇格して自分の宇宙［リド］を持つ神になれる……はずだったのであるが。


●愛したゆえに
　真魔導設定での『魔導物語』の時代から五千年前……『ぷよぷよ』からは六千年前のこと。ガイアースは文明の頂点に達し、滅亡の危機を迎えていた。この星を担当していた男神三人・女神二人の五人の惑星神は、通例に従って世界を滅ぼす（惑星を脱皮させる）処置を行おうとしていた。
　しかし、五人の神のうちの一人・エルドラは、真っ向からそれに反対した。人間の生殺与奪権は自分たちにはない、と言うのだ。彼女を愛する二人の男神（オメガ、ウェザ）がこれに賛同し、三対二で計画は失敗した。この罰を受けて男神らは消され、エルドラはただ一人、大半の力を失ったままでガイアースを見守っていくこととなった。（何故　首謀者たるエルドラのみ消されなかったのかは全く説明されていない。）

　しかし、それは彼女にとって必ずしも辛い罰ではなかったようだ。彼女はガイアースとそこに住む人間を愛していた。よって、後にカノンに許され昇格の権利をもらった時も、このままガイアースを見守り続ける道を選んだのである。


●翼をもがれた天使
　世界を滅ぼさなかったために神の罰を受け、力の大半を失ったまま世界を見守り続ける神――この設定は、真魔導設定のサタンとそっくりである。違うのは、エルドラはあくまで世界の外から見守っているのに対し、サタンは世界の中に入り込んでいるということくらいか。似ているようでいて、彼らの「世界」へのスタンスは全く異なっているようだ。

　『ぷよウォーズ』によれば、現在、彼女の見守るガイアースと、サタンの創造したぷよ世界は、行き来自由な扉で結ばれているらしい。サタンと彼女の会談などを見てみたいものである。


●時の女神？
　エルドラは、「時間」と「空間」と「生命」を操る力を持つという。厳密には、六千年前の時点では「生命」のみを司る女神だったのが、彼女を愛し消されていった二人の男神の力を受け継ぎ、彼らの司っていた「空間」と「時間」をも扱えるようになった、ということらしい。

　真魔導設定では、"ぷよぷよ"は元々ガイアースの生物だったことになっている。しかし、その持つ特殊エネルギーが人間に悪利用され、世界は滅びの危機に瀕した。そこで、エルドラは己の時空を操る力を使い、究極の生体兵器・「ぷよと人間の合成生物」たるアンゴルと共に、ぷよぷよたちを異世界――魔導世界へ送還したのである。
　そんな危険物を異世界に送るなよ。と思えるが、エルドラとしてはアンゴルたちを救ったつもりでいたようだ。（しかし、分かりにくい愛情だと思う。案の定、アンゴルはエルドラを恨んで復讐のために還ってきた。）
　ぷよたちを異世界に送ったことでエルドラはその力の殆どを使い果たした。カノンに力の補充も禁じられたため、今ではその力の大半を失っている。しかし、それでも十人程度の死者に新たな生命と肉体を与え、任意の空間に転生させるなど、容易なことらしい。


　ところで、『ぷよぷよ』でぷよが四つくっつくと消えるのは、オワニモの呪文によって時の女神がぷよを時空の彼方へ消し去るから……とされているのは　よく知られていることだが、もしや、時空を操りぷよぷよを送還したエルドラこそが「時の女神」なのだろうか？

　時空を司る存在である以上、時の女神は一つの時空間（世界）にのみ縛られるべき存在ではないだろう。そう考えると、異世界の守護女神たるエルドラが、魔導世界で信仰される時の女神であっても　おかしくはないのかもしれない。
　しかし……。
　『鉄腕繁盛記』を参照するに、ぷよ世界での時の女神は、教会に像が置かれて祈りを捧げられるような、深い信仰を集めた存在である。こんなに信仰されている女神が、実際は異世界の守護女神……というのは、やはりあんまりだ、という気がする。

　もしもエルドラが時の女神だったとしても、時空を操る女神は実は他にもいるのではないだろうか。時の女神は複数いて、それぞれ持ち回りでぷよを消したり出したりしているのかもしれない。