///サタン


サタン 性別
(ただし、変身によって性別変更可かと思われる)
身長 188cm(角含まず)
体重 76kg
スリーサイズ 不明
年齢 10万とんで25歳。
だが、真魔導設定では『ぷよぷよ』の時代には10万1千25歳になっている、はず。
また、『アルル漫遊記』の結末では10万とんで数百25歳になっている。『アルル漫遊記』を真魔導設定の時間枠に当てはめると、更に年を食って10万1千数百25歳になる。
誕生日 不明
一般的紹介
(真魔導系除く)
カーバンクルをこよなく愛す、カーバンクル至上主義者な闇の貴公子。
何度振られようともアルルに挑み続ける求婚大魔王。
気に入ったものを手に入れずにはいられない性格だが、反面、のんきな面もある。
魔導学校の校長、サタンビルダーの社長など、複数の副業を持つ。

魔王、それとも神? アルルを妃にしたいのに、連戦連敗。


 一対の大きな金の角、竜の翼に牙を持つ魔族。髪はエメラルドの長髪、瞳は血のように赤い。凛々しく端麗な容姿をしているが、実は年齢・性別ともに容姿を自由意志で変化させられるので、現在知られる姿が真実なのかどうかさえ分からない。角と翼は出し入れ可能で、特に翼は伸縮自在の形状任意。つくづく絵描きの味方である。
 『ぷよぷよ』系の解説本では「サタンさま」と「さま」を付けられて紹介されていることが非常に多く、「さま」まで入って一つの名前だ、などと冗談交じりに記述されていることすらある。しかしオリジナル『魔導』の取説にはきっちり「サタン」と、「さま」抜きで記述されており、当然ながら「サタン」が名前で、「さま」はただの敬称に過ぎない。


●闇の貴公子
 サタンが何者か、どういう立場の人物なのかということは、実は本編シリーズの各作品、二次作品、解説本によって、かなりの解釈の幅がある。

 とりあえず、オリジナル『魔導』の人物紹介の時点からあって、その後も一貫して各ゲームや書籍の人物紹介欄に記述されてきた肩書きは「闇の貴公子」である。
 闇の貴公子、それは一体如何なるものなのだろうか? 国語辞典を引けば、貴公子とは「身分の高い家の男子。貴族の子弟。きんだち。」「(比喩的に用いて)いかにも容貌、風采がすぐれ、気品の高い男子。」とある。闇を単純に「魔族・邪悪な・裏社会の」と解釈すれば、闇の貴公子は「身分の高い魔族の男」か「裏社会に君臨する優れた風采の男」ということになろう。

 一般には「身分が高い」方で認識されているようで、「魔界のプリンス」と書かれることもある。
 魔界のプリンス……単に「闇の貴公子」の読み替えともとれるこの言葉から容易に想像されるのは、魔族の支配する別世界「魔界」が存在していて、そこには魔王家があり、サタンはその王位後継者、王子様プリンスである、というイメージだ。
 実際、商業二次作品の角川版小説や漫画『とっても! ぷよぷよ』、小説『ぷよSUN』ではこの解釈で、サタンは世界征服のために魔界から現れたり、あるいは世界平和のために魔界に帰還したりしている。ゲーム本編でも、『はなまる』ではデビル君という子供魔族が登場し、サタンの親類らしいと説明されていたので、サタンには血縁があり一族があることが仄見え、それらの住む魔界が存在しているのでは……と想像させられる。

 ただ、資料によっては「自称魔界のプリンス」と書かれていたりもするので、本当に魔界があるのか、あるとして本当にプリンスなのかは定かではない。


 『魔導大全』には、「サタンが魔界のプリンスと名乗っているが、この魔界というのは別の次元の事ではないという。」と明記されてある。すると、魔界とはあくまで魔導世界の中にある魔物(人間に対する異種族)たちのコミュニティであり、その支配者がサタン、というのが正確なところか。なるほど、であれば、サタンが目的なく魔導世界をフラフラしていたり、オリジナル『魔導』で戦闘中に闇の神に祈りを捧げていた(つまり、サタン自身は魔神ではない)のも納得できる。

 なお、サタンのこの種の肩書きには、他に「魔界の貴公子」「闇の帝王」「闇の王」などもある。魔界の王子なのか王なのかどっちだ、という気もするが、本編ゲームでは「魔王」として扱われるのが基本である。


●堕天使ルシファー
 ところが、以上とは全く別の解釈も存在する。サタンは、実は天使だったというのだ。
 この解釈が最初に書かれたのは かなり初期の『ぷよ1』の取説のどれかだったらしいのだが、私は未読である。ともあれ、そこにはキリスト教伝承上の「ルシファー」すなわち「サタン」から引いた普遍的な解釈、元は天使だったが神に反抗して悪魔になった……というようなことが書かれていたらしい。
 真魔導設定ではそれをより明確化して発展させており、かつて天使軍の長だったが、人間の少女リリスを愛したがゆえに人間界(現在の魔導世界)殲滅の任務に失敗、神に十二枚の翼をむしられ(力を奪われ、ということか)魔導世界に追放された、ということになっている。彼本来の名は「ルシファー」だが、堕天した天使は全て”魔王サタン”と呼ばれるのだそうだ。

 伝承上のルシファー(サタン)は、自分に与する天使の一団と共に地獄に堕とされ、配下たちは魔族に、ルシファー自身は魔王になったとされる。同様に、ぷよ・魔導旧シリーズにおいてもサタンは「魔物たちの王」として扱われていたわけだが、真魔導設定のサタンは、どうやら事情が違う。一人だけで神に追放されたようだし、そもそも魔族(邪なるもの)は全くの別種族として以前から存在していたわけで、堕天した時から魔族の配下がいたわけではないと考えられる。してみると、魔導世界に住み着いてから地道に勢力を拡大して、天下覇道、魔物たちを従えたのであろうか。なかなかの野心家である。


●サタン、隠し子疑惑?
 PC-98版・GG版の『魔導2』を参照するに、サタンはライラの迷宮の深部に魔物の女達で構成したハーレムを持っていて、その女達にガーディアンをさせ、そこを乗り越えてやってきた人間の女を妃にする、という非常に悪趣味な花嫁選考を行っていた。
 どうして、そんな選考を行っていたのであろうか? そもそも、何故人間の女を妃にしようとしていたのか。ハーレムにいる魔物の女たちのうちの誰かを選ぶのではいけなかったのか?

 このことに関して、一つ、大胆な仮説を立ててみよう。
 MSX-2 DS版『魔導』には、「こサタン」なる小魔族が登場する。「こ」を「小」と書くか「子」と書くかで意味合いは大きく異なってくるのだが、ここでは「子」であると仮定して、「こサタン」を他ならぬサタン自身の子供であると想定してみる。『魔導大全』にも「サタンの子とか呼ばれている魔族」と明記されていることだし。そうしてみると、こサタンらは二本の角こそ生えているものの、サタンとは似ても似つかない。能力も大したことはないし、知能もさして高そうに見えない。まだ幼生体で、今後ぐーっと成長する可能性もあるにはあるが、あの強く美々しいサタンの子供たちが、これは一体どうしたことだろうか?
 また、こサタンらの父親がサタンならば、母親は誰なのか。単性生殖の可能性を排除して考えるに、こサタンはうじゃうじゃいる印象なので、もしかしたら母親は一人ではないのかもしれない。……ハーレムに所属する複数の魔物の女たち。彼女たちの多くが母親だ、という可能性はないだろうか?
 そう。恐らくサタンは、魔物の女との間には、こサタンのような能力の低い子供しか成すことが出来ないのだ。だからこそ、人間の女を妃に立てて、能力の高い後継者を産ませようとしているのである!

 魔族は、人間の魔導師と結婚すれば、高い能力を持つ子供を産ませることが出来る。だからサタンはアルルにこだわり、妃にしようとしているのだ……こう説明したのは角川版小説や『とっても! ぷよぷよ』のような商業二次作品だが、それはあながち間違っていない解釈なのかもしれない。
 というのも、オリジナル『魔導』取説のサタンの紹介欄には、「妃となる魔導師を探している」と明記されているからだ。「魔導師」とは通常、人間の魔法使いを指す。――ライラの迷宮深部に辿り着けたのなら誰でもよい、というわけではない。あくまで人間、それも魔導師を妃にと、最初からピンポイントで狙いを定めていたのである。


 ちなみに、アルルはそんなことは知らずに偶然サタンと出会うが、ルルーはサタンが妃募集をしていたこと、婚約の証としてカーバンクルが与えられる約束だったことを、どうやら ちゃんと知っていたようだ。もしかしたら、追ってくるルルーへの試練として、ライラの迷宮攻略の試験が設置されていたのかもしれない。オリジナル『魔導』におけるルルーは召喚師らしく、魔力を持っていたようなので、我こそは妃に、と真剣に迷宮攻略に取り組んでいたようだ。しかしなかなか最深部に行けず、迷宮への出入りを繰り返しているうちに、闖入者のアルルにまんまと先を越されてしまい、事態と人間関係が一挙にややこしくなってしまった、というわけだ……。


 ただ、人間の女がサタンの妃となり子供も産み終えたあと、どうなってしまうのかに関しては、少々の疑念がある。MSX-2版『魔導2』において、魔物商人のよよよがサタンを追うルルーの様子を示唆しながら、「サタン様を愛した者は決して幸せになれないんだよ」と、たいそう意味深なことを言っているからだ。
 単純に、どんなに愛そうとも捕まえられない、真に報われることがない、と言っているのか、あるいは、愛された後に何か不幸な結末が約束されていることを、よよよが経験として知っていたのか……?
 このことから更に想像をたくましくするに、サタンの人間の妃はこれまでにも複数存在していたのかもしれない。実は、こサタンたちは魔物の女たちの子ではなく、歴代のサタンの花嫁が残した子供で、妃は子を成したあと死に至る……もしかすると、殺される、などという可能性もあるのかも……。
 なにしろ、GG版『魔導U』では、サタンは「私は娘(アルル)の魂があればよい」と明言している。サタンの妃になるということは、身も心も、魂さえも捧げること。そしてサタンは、最終的には妃の魂を奪うことを欲している……そんな真相が隠されているようにも思えるのである。


 ……と、長々と書いてはみたが、『ぷよ1』以降のサタンは「彼女イナイ歴10万とんで25歳」と公式に設定されているわけで、正真正銘の独身バツ無しのピュアボーイ。潔白なチェリーサタンがお好みな方は安心されたい。(笑)
 ただ、真魔導設定では、サタン(ルシファー)はリリスを妻にした……と、周囲には言われていたことになっているので、実際のところは不明とはいえ、少しばかり微妙ではある。


●サタン様ファンクラブ
 流石に子供向けではないと判断されたのか、『はなまる』以降は、サタンのハーレムは「サタン様ファンクラブ」に姿を変えて物語中に現れることとなった。主な構成員はドラコケンタウロス族(複数)である。
 ゲーム本編のハーレムの構成員は、確定できるのはラミア、メデューサ、トリオ・ザ・バンシー、ドラコケンタウロスなどだが、角川版小説では、(夢の中の話だが)ドラコケンタウロスを会長とし、トリオ・ザ・バンシー、ドライアード、ウォーターエレメント、スキュラ、ハーピーウィッチらによって構成されている。まさに選り取り見取り。流石は魔界の王。両腕に花いっぱいの状態だ。

 面白いのは、このファンクラブにはルルーは入っていないということ。その他大勢の妾になるつもりはないというルルーの気概の表れか。
 人間はハーレムに入れないのだ、という考え方も出来るのだが、『DS Vol.7』には『はなまる』のワンシーンとして、画面写真つきでこんなエピソードが紹介されてある。
 この地を征服せんと、かつて着々とファンクラブの会員(全員女の子)を増やしていたサタン様だったが、たった一人、入会を拒んだ女性がいた。それが若き日のアルルの母だったのだ。彼女は別の男性を選び、彼との間にアルルを生んだのである。それ故にサタンはアルルに固執し、手に入れようとするのだという。
 結局、このエピソードはゲーム本編からは削られてしまい、幻となったわけだが、サタンが全女性をハーレムに入れることで世界征服を成そうとしていたこと、人間も魔族も分け隔てしていなかったことが分かり、なかなか面白い。……というより、恐ろしいまでの精力家である、サタン様。


●サタンの愛
 サタンは、様々な課題を仕掛けた迷宮の奥で花嫁を待ち、たまたま訪れたアルルに振られ、逆ギレして、倒された。
 この辺りのエピソードは、各ゲーム・媒体によってそれぞれ少しずつシチュエーションが異なる。
 MSX-2 DS版『魔導』では、サタンはライラの迷宮の最深部で眠りに就いていた。やって来たアルルに
私の眠りを妨げる者は誰だ!?」と怒鳴り、アルルを見ると
女の子だ。嬉しいな、可愛いし。私の仕掛けていた罠に耐え抜いてここまでやってこれたんだから強いし、 賢いんだろうな。うん、私の妃になるべき女の子だ」 と独り決めした。
 続くMSX-2・PC-98版『魔導2』では、眠っておらずに起きていて、どうやら今か今かと花嫁を待っていたらしい。アルルが最深部に到達すると突然サタンのアップがあって、すぐに迫られる。
 GG版『魔導U』では優雅にお茶を飲んでいて、アルルの側から近づくのを待っている。角と翼と牙をわざわざ隠して完全な人間形をとっており、人間の女の子を怖がらせずに気に入られたい、という、いかにも魔族的な配慮が透かし見える。
 小説『真魔導』では様子がかなり異なっていて、魔導師どころかその辺の村娘、しかも幼女から既婚者に至るまで、道を塞ぐサタンの塔に入った全ての女性に強制的に選考をかけていた。たいそう迷惑である。いずれにせよ、対象としたのはやはり「人間の」女のようで、つくづく、彼は人間がお好みと見える。
 ここでは、サタンとアルルは対立することもなく、平和的に出会って平和的にプロポーズを断わられ、平和的にカーバンクルを預けて、平和的に別れている。このサタンが「お子ちゃま」と言いながらもアルルにプロポーズしたのは、カーバンクルがアルルに懐いていたこと、アルルの中に異質な潜在能力を感じたこと――結局は、かつて愛したリリスの面影を感じたから、である。


 色々と例外的な『真魔導』は置いておいて、ゲーム本編に戻ろう。
 サタンはアルルに振られた。それも、ばたんきゅーさせられるという最も屈辱的な形で。しかも、最愛のペットであるカーバンクルまで奪われてしまったのだ。
 それで、サタンはアルルのことをどう思ったのか。これに関しても、各作品・解説本によって異なる解釈が成されているのだが、一般的には、
A.自分を倒せるほどのアルルの実力の高さに惚れて
B.初めて自分を振った女に出会って、新鮮だったので
C.カーバンクルがアルルから離れないので、カーバンクルを取り戻すためにも
のいずれか、または複合の理由から、アルルを妃とするべく しつこく付きまとうようになった、と語られている。

 しかし、例外もある。ゲーム『アルル漫遊記』では、サタンはカーバンクルを取り戻すためだけにアルルに勝負を挑み、甘い言葉など一言もなく、「チンチクリンな娘」などと暴言すら吐いている。カセットドラマ『ぷよぷよ の〜てんSPECIAL』になると、の〜てんコネコネ大王に扮したサタンがアルルと戦い、アルルと

「ああ、思い出した! そうよ、サタンよサタン! 何故かあたしの命を狙ってた変態魔王じゃない」
「えぇ〜い、今回は私の失敗だったが、次こそは覚えておれよアルル! いつの日か、必ずや貴様の息の根を止めてやる!」


という会話を交わしている。
 今となっては少数派ながら、サタンが自分を倒したアルルに復讐心や対抗心を抱いてぷよ地獄を仕掛けた、と解釈している公式・商業二次作品も、確かに存在していたということだ。


●サタンの性的嗜好
 『魔導2』において、サタンは初対面のアルルを「可愛い」「美しい」と評して、「妃となるにふさわしい」とプロポーズしていた。ところが、アルルの体型が幼児化して描かれるようになったコンパイル後期から晩期の『アルル漫遊記』や小説『真魔導』では、「チンチクリン」「お子ちゃま」と評して冷たい対応をしていて、少なくとも そうしたアルルの外見には、全く性的魅力を感じていないようである。
 このことから分かるのは、サタンは、よくユーザーの間で言われているような「ロリコン」では決してない、という事実だ。
 つるぺたなカラダには用はない。
 といって、ルルーのナイスバディに悩殺された様子も見えないので、巨乳好きでもないらしい。
 あくまで、適度に出て引っ込んだカラダが好きな、ノーマル嗜好であるようだ。


●アルルとの出会い あれこれ
 ところで、オリジナル『魔導』でのサタンとアルルの初めての出会いは、前述のように、ライラの迷宮深部での誤解と暴力に満ちたものなのだが、その後に作り足された幾つかのゲームにおいては、それとは異なる初邂逅が描かれたりもしている。

 例えばGG版『魔導T』では、魔導幼稚園の卒園試験の塔の中(!)に
私と出会うことのできた者には生涯の愛を誓っている。
 そなたは私に出会うための条件を一つクリアした。
 後は海より深い知恵と、大地より強い力が必要だ。
 しかし、試験を合格できないようでは、出会うこともままならぬ。
 ちなみに私は絶世の美形だから、安心しなさい

 というメッセージボードが掲げられていた。
 このゲームの発展形たるMD版『魔導T』では、サタンが試験の塔に実際に現れて、幼児アルルに戦闘を仕掛けすらした。どうも将来の妃候補(女魔導師)の青田刈りを目論んでいたようで、アルルの他にラーラの前にも現れ、戦闘を仕掛けてばたんきゅーさせている。いくらなんでも厳しくないかと思うし、幼児の時点から妃候補の対象とするなんて、周到すぎて少々イヤな感じだ。

 サタンが最初にアルルに目を付けたのは、それより更に二年前、GG版『魔導A』の時だったのかもしれない。魔物たちで構成される建設会社サタン・ビルダー(サタン組)の社長、通称「親方」として妖精の森にレジャーランドを作ろうとしていたサタンは、妖精たちに抱きこまれた四歳のアルルに押しかけられ、ばたんきゅ〜させられてしまっているからだ。

 一転して『はなまる』では、アルルの祖母の家に程近い闇の森の中にサタンの別荘があり、そこにたまたま立ち寄ったアルルを、サタンは可愛がり御馳走して もてなした。他のゲームとは大きく異なる、愛溢れた出会いである。(ただ、前述の没エピソードを下敷きにして考えると、多分に下心があったものと思われるのだが。)

 小説『真魔導』もそうなのだが、シリーズが進むにつれてキャラクターの性格や関係が優しく丸いものになっていくのは、時間と共に製作・ユーザー双方のキャラクターへの愛着が強まり、出来る限り優しいものを望むようになるからなのだろうか。


 余談になるが、商業二次作品の世界では、これまたゲーム本編とは異なる二人の出逢いが描かれていることがある。
 漫画『とっても! ぷよぷよ』では、サタンは人間界征服のために塔ごと出現し、たまたま居合わせたアルルをぷよで攻撃したが、アルルは遊びと勘違いして喜んだうえ、魔法を失敗して自滅したサタンを介抱した。このことでサタンはアルルに惚れて即プロポーズした……となっている。漫画『わくぷよ』では、サタンは魔物の森でたまたま出会った幼児アルルが魔法を使ったのに驚き、これならば偉大な魔導師になるだろうと一方的に婚約を宣言。それ以来、彼女が十六歳に成長した現在に至るまで、変質的かつ純情一途にストーキングし続けていたと語られている。


●教育する者・サタン
 前述のように、GG・MD版『魔導T』では、魔導幼稚園の卒園試験中に、サタンのメッセージやサタン自身が現れ、アルルを評価したり試したりしている。
 サタンは勝手に試験に介入したのだろうか。それとも、まさか魔導幼稚園とサタンには関わりがあるのか? 理事長はサタン、だとか……。……と、すれば。魔導幼稚園の真の設立目的とは、サタンの未来の妃たる魔導師を選抜し、育成するため、なのかも……?

 これは、いささか飛躍した想像だと思われるかもしれない。だが、根拠がないわけではない。
 というのも、サタンは魔導学校の校長としての顔を持っている。GG版『魔導V』では、サタンはアルルとルルーを妃候補として意図的に競い合わせた末、「魔導学校で待つとするか」などと呟いて立ち去っており、学校でも妃候補として磨き合わせようとしている意図が読み取れるからだ。そして実際、『鉄拳春休み』において、サタンは魔導学校の設立意図をこう明言している。
「わたしは以前から このわたしの『きさき』にふさわしい女は… 強大な魔力を持つものだと決めていた
 だから魔導学校を作って 強大な魔力を持つ者を集めようとしているのだが…


 PC-98版『なぞぷよ』では、サタンは魔導中学の先生(校長?)として登場し、やはりアルルに試練を課していて、自分好みに育てた挙句に、仕上げとばかりに戦いを挑んでいた。
 魔導中学のアルルはシェゾやルルーたちと既に知り合いだったので、魔導中学=魔導学校という可能性もあるが、ともあれ、魔導中学、古代魔導学校と、サタンがその教師をつとめて、アルルを恐らくは妃候補として磨き上げるべく指導を続けているのだ。とすれば、魔導小学校、魔導幼稚園ですらも、サタンの息がかかっている可能性は大きいのではなかろうか。

 アルル自身は、あくまで自分自身の夢のために懸命に勉強しているというのに、その意思を無視して、幼児の頃からサタン好みに教育され、競走馬のように競い合わされていただなんて……。葵の上かマイ・フェア・レディか。それとも、釈迦の手のひらの上の孫悟空か? ロマンを感じる人もいるだろうし、ぞっとする人もいるだろう。アルル自身はどう感じるだろうか?


 ちなみに、サタンが魔導学校の校長だという設定は、オリジナルの『魔導』や『ぷよ1』の時点では見ることが出来ない。どうも、94年頃に新たに作り足された設定であるらしい。この年の頭に発売された角川版小説では、サタン……ではなく、サタンの双子の弟のルシファーが魔導学校の教師をつとめているのだが、何か関係があるのだろうか。
 教師としてのサタンがマスクを着けて顔を隠している……という設定はPC-98版『なぞぷよ』から見えるが、これを「マスクド校長」に変えて、陰謀ではなく、真面目な教育者としてアルルたちに接する姿が描かれるようになったのは、『はちゃめちゃ期末試験』からである。


●姿を変えるサタン
 マスクド校長のみならず、サタンは変装を非常に好んでいる。
 最初に変装したのは『ぷよ通』で、金色のアイマスクを着けて、それだけで「マスクドサタン」という別人として振舞っていた。「謎のヒーロー」のつもりらしい。勿論バレバレで、アルルも一目見て見破っていたのだが、本人はあくまで別人として振舞いたがっていたものである。

 このように、サタンの変装は一見してバレバレなお粗末さ、なのが基本コンセプトなのだが、シリーズを通して見ると、何故か、バレていないことの方がずっと多かったりする。
 PC-98版『なぞぷよ』では、バロンマスクを着けて女性教師(?)に変装したが、アルルは三年生の最終試験にサタン自らが正体を明かすまで全く気付かない。
 『はちゃめちゃ期末試験』でも、「どこかで会ったことがあるような……」などと思いつつ、やはり、マスクド校長の正体に気付けない。
 『ぷよぷよ〜ん』でも、衣装を変えアイマスクを着けただけの「団長」の正体を、どこかで見たような……と思いつつ見抜けず、『ぽけっとぷよぷよ〜ん』ではルルーに教えられるまで気付けない。
 『アルルの冒険』では、白いフードで顔を隠しただけの「マントくん」を、本人の言うままサタンの代理人だと信じ込んで疑わず、挙句、フードを取って顔を見てさえ、「サタンに すごくそっくりだね!」などと言っていた。
 『レストランKING』やカセットドラマ『の〜てんSPECIAL』ではサタンは着ぐるみやハリボテの中に入っているが、これまたそれらが破壊されるまで気付かない。
 『ぷよぷよクエスト』では、笑いマスクを着けて口調を変えただけの「ぬぬぬ」の正体に、やっぱりさっぱり気付かない。
 小説『真魔導』では、サタンは えせヒーロー風の「マスクマンS」として出現するが、ここでも正体を見抜けないのだった。
 最初はあんなに簡単に正体を見抜いていたというのに、アルルよ、一体どうしてしまったというのだ。サタンたちとの激しい攻防を繰り返すうちに、脳内の何かがコワれてしまったのか!?


 このことに、小説『真魔導』では一応説明が付けられている。サタンはその魔力で己の正体を隠蔽しているため、誰にも正体が分からないというのだ。なるほど、という感じである。
 もっとも、ゲーム本編の方では違う解説も成されていて、『鉄腕繁盛記』の取説には、マスクドサタンの正体を誰も指摘しないのは、サタンの報復を恐れているからだ、などと書かれている。これもまた、なるほど、という感じではある。


 しかし、ただ一人、正真正銘マスクドサタンの正体に気付いていない者もいる。ルルーだ。
 ご存知のとおりルルーはサタンに夢中なのだが、『鉄腕繁盛記』では何故かマスクドサタンの正体を本気で見抜けず、それどころか(見た感じ あからさまにヘンタイだわ モーレツに身のキケンを感じるわ)と思い、彼が立ち去った後には「なに者だったのかしら? マスクドサタン… たぶんヘンタイだろうけど。シェゾなみの…」とひとりごちていた。
 小説『真魔導』でもマスクマンSの正体を見抜けず、暴言どころか暴力を振るったことさえある。普段のサタンへの態度とは150度くらい違っている。

 これだけを見ると、ルルーのサタンへの愛は果たして本物なのか? という疑念が湧いてしまうが、『はちゃめちゃ期末試験』や『鉄拳春休み』では、マスクド校長の正体を見抜けはしない、または正体を知った後で記憶を消されたものの、「サタン様ほどではないけど結構イイ線いってるわね」などとハートを飛ばしており、小説『真魔導』でも、マスクマンSを煙たがりつつも「結構イイ奴ね」と認めているので、ちゃんと本質を見抜いてはいるようだ。むしろ、普段サタンへの愛で曇りきってしまっている目がクリアになって、冷静で公正な評価でサタンに接せているのかもしれない。


 サタンは変装が好きだが、実は、どんな姿にもなれる変身能力をも有している。
 GG版『魔導V』では、ミノタウロスの迷宮に住む全てのカエルに変身していたし、『はちゃめちゃ期末試験』では「つるつるオヤジ」に変身していた。『エリーシオン城の秘密』ではメガネをかけた月(!)にさえ変身していたのだ。
 この能力を使えば、簡単に完璧に別人になり済ませるし、本当に誰にもバレる恐れはないはずである。なのに、変装に比べると、変身能力は殆ど使われていない。何故か?
 恐らくは、サタンは正体に気付いてもらいたがっているのだ。
 完璧な変身をして誰にも全くバレないのはつまらない、と思っているのである。だから、あんなバレバレの変装を好んでいるのに違いない。
 とはいえ、あんまりあっさりバレるのも面白くないので、配下に口止めしたり、魔力で中途半端に正体を隠蔽したりしているのだろう。バレるかバレないか、ギリギリのスリルを楽しむ。きっと、それが長年生きたサタンの趣味の一つなのである。


●サタンの趣味
 サタンがどんな姿にもなれる、という設定は、オリジナル『魔導』の取説に既に見えている。MSX-2版『魔導』の取説には、併せて、
黒い大鷲になり世界を飛翔し、闇に呪いの言葉を発する者を見つけ、その運命を弄ぶのが趣味
 と書かれている。ひどく性格が悪いが、いかにも「魔王らしい」趣味ではある。

 ただ、この趣味はここだけで消えてしまい、一般化はしなかった。現在よく知られているサタンの趣味と言うと、
「その持てる途方もない魔力を、他人の目から見てくだらないことに浪費する」
 というものに尽きる。

 その他、ちまちまとした趣味的なものというと、
「カーバンクルのぬいぐるみを部屋中に飾る(SS版魔導)」「カーバンクル人形を常に持ち歩く(ぷよよん/はさむんちょ)」「愛のポエムをしたためて、アルルに聞かせる(はちゃめちゃ期末試験/とっても! ぷよぷよ)
 等というあたりだろうか。……改めて並べてみると、なんだか乙女チック方向だ。


 サタンは、ぷよぷよ地獄やぷよりんぴっく、太陽を大きくする、全世界の道や橋に塔を建てるなど、その場の思いつきで大事件を起こしてばかりいる。アルルなどは大迷惑をこうむることが多いわけだが、SS版『魔導』では、塔の近くに住む人間たちに、「変だけど、いい人」などと語られたりしている。サタンは頻繁に近くの村や町に遊びに行って、人間たちと接していたという。

 人と触れ合い、ペットを可愛がり、そのペットに去られてからは人形を作って後を偲ぶ。愛する少女に思い入れたっぷりのポエムをささやいたり、「星空のハネムーン」を企画してみたりする。
 ああみえて、サタンは夢見がちで純粋な精神の持ち主なのかもしれない。かつてはダンジョンの奥で眠りに就いていたが、カーバンクルとアルルを追って外に出てからは、彼の世界は変わった! やたらと騒ぎを起こすのは、裏返せば、寂しがりな性格なのだと考えられはしないだろうか?



●伝承の世界
 一般には、キリスト教伝承上の「サタン」は、悪魔の首領の名として人口に膾炙している。だが、本来は「敵」を意味する言葉であり、特に神に反抗する存在ではなかった。
 サタンは――厳密には「彼ら」――は、神の命を受けた「審判者」だった。神の忠実な部下であり、腹心の配下だったのだ。彼は人間を試すため、策略的な質問をし、設問を与え、試練を課した。
 つまり、彼は神にとっての”敵”ではなく、人間にとっての”敵”。憎い試験官だったということになる。

 イスラム教の伝承では、サタンに相当する存在として、天使イブリース(アザジール)が登場するが、彼は人間を堕落させる反逆者でありながら、籍をそのまま天界に置いている。
 一説には、彼は精霊ジニーであり、捕虜として捕らえられ、天使の間で成長したという。
 アザジールとは「遠くに去らせる」という意味で、この神に捧げる生け贄の山羊を荒野に放ったことから来ているらしい。アザジールはつまり、本来はそういう土着の神である。流れ流れて神話の体系の中でこのような形に落ち着いたのだろう。
 キリスト教の伝承では、アザジールは反逆の罪でオリオン座に逆さに吊るされていることになっている。この場合の彼の罪は、人間に武器の製造法と、男を惑わす女の化粧法などを教えたことだそうだ。

 現在最も知られている伝承上のサタンの物語は、やはり神に反抗して地に落とされた、堕天使としてのものだろう。ここでは、サタンは「星の子」であるルシファーと同一視されている。いや、反逆者であるルシファーに人を試す者サタンの名が与えられたということか?
 神に反逆し、地に落とされたサタンは、竜の姿をしていたという。天から地に落ちる竜――これは稲妻の象徴である。また、地母神を孕ませる天神の男根の暗喩でもある。この類型は、キリスト教やイスラム教の伝承に限らず、数多くの神話伝承に見て取れる。

 竜が地に投げ落とされたのは、天神(太陽)に挑戦したためである。
 メソポタミアの神話にはアンズーというライオンの頭を持つ怪鳥が現れる。それは「嵐の鳥」であり、「空を飛ぶ火の蛇」と呼ばれることもあった。一説にはアンズーはギリシアの天空神(稲妻の神)ゼウスの前身だとも言う。アンズーは最高神エンリルのアイテム、天命のタブレットを盗み、彼に反逆した。
 しかし太陽と蛇は、多くの場合、非常に近しい関係にあった。つまり、彼らは父子もしくは双子の兄弟だった。これをもっと突き詰めれば、太陽と蛇は結局同一の神の二つの相に過ぎないということが分かってくる。だが、とりあえずそのことはルシファーの項の方に譲っておくことにしよう。


 竜――蛇としてのサタンは、エデンの園でイブをそそのかして、知恵の実を食べさせてしまったともされた。まあ、ここに蛇=男根であり、イブがそれを「知った」という示唆があるというのは言わずがもなだが。単純に「知恵を与えた」という視点で見ると、このサタンはトリックスターであり、文化英雄神である。彼は人間に文明を与えて助けたが、それ故に人間は堕落したので、人間を悪の道に誘った悪魔だと考えられたのである。
 人間に様々な秘儀――学問や娯楽を与えたため罪に問われたとされる天使は、実はサタンだけではない。グリゴリ(見張る者――眠らない者)と呼ばれた天使の一団は、人間たちにそれぞれの得意分野の知恵を与え、更には「人間の娘たちと結婚したため」反逆者として処罰されたらしい。人と天使(神)が交わることは重大な禁忌だったようだ。
 もしかしたら、サタンが罰されたのも、人間であるイブと関係を持ったためなのかもしれない。
 なお、サタンはイブ以前のアダムの妻だったリリスと結婚したとも言われる。


 伝承上のサタンは、堕天する前は上位天使の一団である熾天使セラフィムの一人だったともされる。セラフィムは「炎の蛇」を意味する。それは翼を持ち、飛翔する。セラフィムは神に最も愛される、側近の天使であり、神と直接に交流したという。
 最も神に愛される立場でありながら、神以上に愛する者を得てしまったとき。彼は神の怒りを買い、天から堕とされることになったのかもしれない。



●追記
 2009年、『魔導物語』の最初の制作者である米光一成氏が、自ブログで、サタンとシェゾのモデルはタニス・リーの幻想小説『闇の公子』だと明かした。
 この小説に登場する闇の公子アズュラーンは、青味を帯びた波打つ黒髪の絢爛たる美丈夫で、邪悪で冷酷な心を持つ妖魔の王。混沌の海に浮かぶ平らな世界の地底にある妖魔の王国ドルーヒムヴァナーシュタを統治している。自らを負かした者には賞賛と祝福を送り、しかし不快を感じた者へは容赦ない報復を行う。その行いは気まぐれである。ある意味子供のような、恐ろしくて美しくて危険で魅力的な夜の君。彼は、時に黒鷲に姿を変え、世界を巡って人間たちの暮らしを見物する。

 MSX-2『魔導』の取説に「黒い大鷲になり世界を飛翔し、闇に呪いの言葉を発する者を見つけ、その運命を弄ぶのが趣味」とあったり、作中でよよよが「サタン様を愛した者は決して幸せになれないんだよ」と言うのは、恐らくアズュラーンのイメージから来ていたのだろう。

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