///シェゾ・ウィグィィ


シェゾ・ウィグィィ 性別
身長 ぷよぷよ・178cm/魔導物語・184cm
184cm(『ぷよ通』〜『ぷよSUN』)
体重 ぷよぷよ・68kg/魔導物語・71kg
71kg(『ぷよ通』〜『ぷよSUN』)
スリーサイズ 不明
年齢 180歳
不詳(『ぷよ通』〜『ぷよSUN』)
誕生日 3月16日
一般的紹介
(真魔導系除く)
闇の魔導師の肩書きを継承し、偉大な魔導師になるために他の魔導師の力を吸収してきた。そのため、努力嫌いだとされている。
アルルの魔力を執拗に狙うので、彼女に「変態」のレッテルを貼られている。

彼が彼女を見出した時、『物語』は始まった。
アルルを付け狙う闇の魔導師。「変態」だって本当ですか……?


 その名は、古代魔導語で「神を汚す華やかなる者」を意味するという。
 流れる銀色の髪に蒼い瞳、すらりとした長身の、絵に描いたような美青年。そのうえ実力も高く、恐らく世界トップレベルの魔導師の一人だ。闇の剣と呼ばれる魔剣を装備しており、それを使った魔法攻撃、そして剣技も得意とする、オールマイティーな戦士である。
 また、魔導に関しては知識も深く、頻繁に関連地域を探索しており、『魔導師の塔』や『魔導RUN』を参照する限り、本も好きでよく読んでいるようだ。……が、いまひとつ知識が知恵になっていないようで、口下手でもあり、普段の言動がなんとなくトンチンカンな、どうにも困ったお兄さんでもある。
 自負心うぬぼれが強く自己中心的な「悪いヤツ」であり、自ら「悪」として振舞うが、自分が認めた範囲内での約束ルールや他人からの恩には律儀に報いる面もある。分かり易い意地っ張りで、女難の気があって女性陣にはオモチャにされていたり、不思議と憎めない。

 初出はMSX-2 DS版『魔導』。シリーズ処女作の、それも冒頭から登場している、物語の発端を作ったキャラクターである。


●シェゾの性格
 魔導・ぷよシリーズのキャラクターは、ゲームごとに顔のみならず性格も違う。中でも揺れが大きいのがシェゾだ。それは、彼の一人称のバラつきにも現れている。主流なのは「オレ」だが、「オレ様」、「私」、というものも使われている。というのも、オリジナルスタッフ作品(オリジナル『魔導』〜『ぷよ1』)では彼は一人称を使っていないので、後継スタッフたちがそれぞれの判断と解釈で一人称を選択したからである。

 オリジナルのシェゾはギリシャ彫刻のような容姿に静かな表情をしていて、口数は少なく、神秘感のあるキャラクターだった。そのくせ、喋るとなんとなーく変なところがあったり、(魔導師なのに)剣を持って軽快に立ち回ったりといった意外性もある。だがその実態は、冷やりとしたシャレにならない危険の匂いのする、シリアスで冷徹クールな闇の魔導師だ。

 後継スタッフたちは、こんな彼をどうにかして親しみやすいキャラクターにしようと試行錯誤していたように思う。
 その結果、彼は「ちょっと口が悪いだけの普通の男の子」になったり、「ナルシストな勘違いナンパ野郎」になったり、「悪事を目論むがことごとく失敗する間抜けな小悪党」になったり、「己の覇道を模索するストイックまたはワイルドな戦士」になったり、「周囲に馬鹿にされるだけの哀れな道化」になったり、様々な姿で描かれることになった。
 この結果 彼のファン層はぐっと拡大したのだが、彼自身の姿が茫としてつかみにくくなったのも確かである。


●シェゾの生い立ち
 彼の素性について判っていることは少ない。ただ、十四歳当時の姿が『A・R・S』のS編で語られているので、そこから何がしか読み取れることもある。
 また、コンパイル晩期の真魔導設定中に、唯一、シェゾの家族について触れた部分がある。


 真魔導年表を参照すると、彼が生まれたのはアルルの誕生より164年前。古代魔導が衰退し、現代の魔導が確立・普及した頃となっている。父親違いの兄弟がいるとされている。(兄か弟かは不明。)
 この点を見ると、彼の実の両親は離婚したか、あるいは彼の実の父親もしくは義理の父親が夭逝したということになり、いずれにせよ母親と二人の父親を持つ、それなりに事情のある家庭環境に育ったのだということが分かる。
 ちなみに、異父兄弟とは「幼なじみ」とも表現されており、ある程度の年齢まで他人として接していたらしく思われる。

 ありがちな推測ではあるが、この二人の父親、そして母親のいずれかが魔導師であり、剣士だったのではないだろうか。シェゾは魔導師だが剣も使う。初めて闇の剣を手にした十四歳の時、さして困惑せずこれを使いこなしているので、基本的な剣の心得があったのではないかと思われるからだ。
 彼の異父兄弟であるソードが後に伝説の三剣士の一人になっている所を見ると、義理の父親が剣士で、実の父親もしくは母親が魔導師だったというのが有力な気がする。


 さて、ゲーム本編に目を移そう。
 『A・R・S』によれば、十四歳当時、彼は魔導師養成系の学校(男子校らしい)に通っており、制服を着て修学旅行に参加していた。
 取説の紹介文にはこうある。
一人前の魔導師になるため勉強中の学生。成績優秀で将来を期待されているが、本人は今の生き方に何かしら疑問を感じている。
 この文章から感じ取れるのは、「どこにでもいる、何の変哲も無い子供」という印象だ。
 例えば親がなかったり、経済的に困窮していたりして、奨学金などでカツカツやっているのだとすれば、こんなふうに漠然とした疑問を抱いている余裕はないだろう。毎日の生活に具体的な不安が無いからこそ、こうしたことを考えるものである。

 成績優秀とはいえ、彼はカチカチの優等生ではなかった。
 なにしろ、修学旅行だからといって二日完徹ではしゃぐような「おバカちゃん」である。二晩も一人ではしゃぐことは出来ないと思われるので、恐らくは一緒に騒いだ友達が大勢いたことだろう。修学旅行のシーンで、彼の隣にいる少年も大あくびしているので、一緒に騒いだ仲なのかもしれない。『わくぷよ』では「人とつるむヤツの気が知れぬ。友達なぞジャマなだけだ」と言っていた彼だが、子供の頃は友達は多かったようである。
 その他、修学旅行の列からこっそり抜け出して行方不明になるわ、他人に冷静にツッコミを入れて泣かせるわで、結構「問題くん」でもある。
 しかし、制服を着崩さずにキチンと着ていた点、先生に耳を引っ張られて説教された時、「トホホ」な顔はしたものの特に反抗的態度は見せなかった点から、根本的に「素直な良い子」だったことが判る。

 成績はいいが真面目すぎもせず、頭でっかちで生意気だが傲慢すぎるほどでもなく、クラスの友達にも馴染んでイベントでは盛大に騒ぎ、問題は起こすが手のつけられないような反抗はしない。
 非常に伸び伸びと育った利発な悪ガキで、ある意味では理想的な少年といえよう。ついでながら外見も優れた美少年である。周囲の大人たちが将来を期待していたのも頷ける。
 そんな少年が、遺跡の地下に封印されていた古代の邪悪な魂に魅入られてしまったことにより、大きく運命を狂わせていくことになる。


●闇の魔導師
 闇の魔導師。
 それが、現在の彼の通り名だ。
 闇の魔導師というのが具体的に何なのか、というのは実は本編では未だ語られてはいない。
 白魔術師に対する黒魔術師のように、己の魔法を悪事に使う者をさすのか。単に闇属性の魔法を操る者をさすのか。あるいは、もっと他に意味があるのか。


 シェゾが「闇の魔導師」である、と語られたのは、実は『ぷよ1』が最初である。オリジナル『魔導』三作品では、ゲーム本編でも取説でも、全くこの言葉は出てこない。
 しかし、MSX-2版『魔導』から「やみのつるぎ」を装備していること、PC-98版『魔導』には「首が切断されるが死なない」というエピソードがあることから、「シェゾは闇の魔導師」だという設定が内部には既にあったものと推測できる。

 そもそも、闇の魔導師とは『魔導師ラルバ』の設定だ。『魔導師ラルバ』は『魔導』以前のMSX-2のゲームで、オリジナル『魔導』の企画やグラフィックを担当したスタッフらが製作したものである。
 闇の魔導師ラルバは敵のボスキャラクターで、46億年のいにしえより(つまり、世界の始まりから?)存在し、2億4千万の配下がいるという、壮絶な力を持つ存在だ。しかし顔はスッポリと仮面と兜で覆われ、体もマントで覆い隠されているため、性別も外見も分からない。一度、光の剣を持つ主人公・サイバーキャットに首を斬られ殺されるが、その首が舞い上がって体にくっつき、甦った。闇の魔導師は死を超越した存在だと言うのだ。彼を倒すには、サイバーキャットが己の体を光に変えて封印するしかなかった……。
 ゲーム中には、彼の配下としてリザードマン兄弟、サイクロプス、アウルベアらが登場するが、リザードマンとサイクロプスは、オリジナル『魔導』において、アルルが閉じ込められたシェゾの地下牢の見張りとしても登場する。この点からも、シェゾが当初から「闇の魔導師」として設定されていたのは間違いないと思われる。
 シェゾが古代魔導を使うのも、恐らくは、ラルバと同じように「太古から存在している魔導師」というイメージがあったからなのだろうし、「闇の剣を使う」のは、ラルバの宿敵たる光の戦士・サイバーキャットの攻撃パターンを取り入れたもののように思われる。


 『ラルバ』ゲーム本編を見るに、闇の魔導師とは光の戦士(勇者)と対立し続ける悪の存在である、という風に読める。(取説のプレストーリーを読むとまた違う感じなのだが……。)
 商業二次作品の角川版小説は、この流れを引いて「闇の魔導師」を解釈しているようだ。すなわち、勇者と対立し「倒される悪」として必ず生まれるもの、それが闇の魔導師なのだと。先代の闇の魔導師ルーン・ロードは、シェゾに「必ず倒される悪」としての宿命を譲り渡す。
 もっともこの論は、勇者に倒されたルーン・ロードが自身を正当化するために考え出した詭弁と取れなくもない。いずれ必ず倒されると決まっているのに、ルーン・ロードがシェゾと入れ替わってまでこの世に復活しようと目論むのは奇妙である。


 シェゾとルーン・ロードの邂逅を描くエピソードのオリジナルは、『A・R・S』のS編だ。この物語を見るに、シェゾは十四歳まではごく普通の日常を過ごしていたが、修学旅行で訪れた廃都ラーナの遺跡で不思議な声に導かれて鏡の迷宮に迷い込み、そこに封印されていたルーン・ロードの魂に出会う。

「んふふふふ よーやくやってきたか 待っていたよ」
「あーん? なんなんだ あんた」
「わたしは ルーン・ロード 教科書くらいには のっているだろう?」
「るぅん・ろぉどォ!? この迷宮に封じられたっていう大魔導師のことかよ」
「そのとおりだ シェゾ・ウィグィィ 若き魔導師よ」
「げっ オレの名前を!」
「んふふふふ きみのことはすべて知っているよ 過去のことから 未来のこともね」
「未来…?」
「そう わたしの力をうけつぎ 闇の魔導師として生きていくのですよ きみは!」
「はぁ? だれが 好き好んで悪モンになりたがるかよ ジョーダンは よしてくれ!」
「だが きみにはその資格があるのだよ 闇の剣の主人であり古代魔導アレイアードを使いこなす…」
「しつこいぜっ! オレはそんな気 サラサラないんだ それより ここから出してくれ」
「残念だよ きみはかしこい子だと思っていたんだがね 自分の持つ力の意味を理解できないとは…」


 この会話を参照すると、闇の魔導師たる資格とは「闇の剣の主人」であることと「古代魔導アレイアードを使いこなす」ことらしい。
 しかし、ルーン・ロードが先代の闇の剣の主人であったかははっきりしていない。角川版小説と真魔導設定では否定解釈されていて、ルーン・ロードは闇の剣を扱えない、あるいは、闇の剣はルーンロードの所持物だったのではなく、かつてルーンロードと戦った勇者の落し物だった、としている。
 また、アレイアードに関しても、『魔導大全』を参照すると使えるらしいのだが、今まで私がプレイしてきた限りにおいて、ルーン・ロードが一度もそれを使ってきたことがないので、疑惑に拍車がかかってしまう。
 本当に、「闇の剣」と「アレイアード」は闇の魔導師の条件なのか?

 ついでながら、ルーン・ロード自身は「わたしの力をうけつぎ 闇の魔導師として」と言ってはいるものの、修学旅行のガイドは「悪の魔導師」と言い、シェゾは「大魔導師」と呼んでいて、一度も「闇の魔導師」とは呼ばない。もしかすると「闇の魔導師」という呼称は一般的ではないのか、あるいは「悪の魔導師=闇の魔導師」程度の意味しかないのだろうか。シェゾが即座に「だれが 好き好んで悪モンになりたがるかよ」と反論しているので、ルーン・ロードが世間的にかなり憎まれていた「悪者」なのは間違いがないようであるし。
 しかし、単純に「悪の魔導師=闇の魔導師」でしかないのなら、ルーン・ロードがシェゾを後継者にしようとするのは奇妙である。勇者がそうであるように、悪人は自発的に生まれてくるもので、代々名を受け継がせていくようなものではないのではないか。そもそも、受け継がせてどうするというのだ?

 私は思う。「力をうけつぎ」云々というのは彼の詭弁であって、本当の目的は、シェゾの肉体を奪って自分自身が復活することにあったのではないかと。

 真魔導設定では、この方向の解釈を行っているようだ。
 ルーンロードはかつて賢者たちが集ったラーナの都を一瞬で壊滅させた太古の伝説の魔導師で、彼自身は「力を増す」ことを存在目的とする思念体と化し、欲望に駆られた人間に寄生しては、肉体と能力を奪って生き続けた。
 つまり、ルーンロードは十四歳のシェゾに寄生しようとしたのであり、撃退されはしたものの実際にその一部がシェゾに寄生していて、故にシェゾは異様に魔力吸収にこだわるようになったのだ……と示唆しているものと私は解釈している。
 なお、『A・R・S』ではシェゾがルーン・ロードの後継者である根拠の一つとして、名前の意味が「神を汚す華やかなる者」だから、と語られるのだが、真魔導では、シェゾ・ウィグィィの名は代々の闇の剣の後継者にもれなく付いてくるあざなだとされており、闇の魔導師とは無関係になっている。ついでながら、アレイアード・スペシャルも闇の剣の所持者に自動的に受け継がれる技らしい。

 どうも、作品ごとに解釈・設定が異なっていてはっきりしないのだが、「闇の魔導師」と「闇の剣の主人」は似て非なる(対立する?)存在で、それを知らないまま、シェゾはその双方を継承してしまっている、という説が大勢のようだ。「アレイアード」や「”神を汚す華やかなる者”という名」は必須資質ではないのに、ルーン・ロードがそれを闇の魔導師(悪人)になる資質だと思い込ませた……ということだろうか?


 シェゾは執拗に誘ってくるルーン・ロードの魂を打ち砕いた。なのに、迷宮からようやく逃れ出た彼は自らこう呟く。

…俺が奴の 後継者だ…?
 くっくっくっ…
 はーはははははははっ!
 面白い この名が闇に魅入られたものならば それに 従って 生きてやろうじゃないか!
 神を汚す華やかなる者 として…!


 命がけで拒んだはずの「悪モン」への道を、何故彼は「好き好んで」選択したのか。この変化はあまりにも唐突に思える。
 私は、この時点で彼は捨て鉢になっていたのではないかと思う。それは、滅び去る間際にルーン・ロードの吐いた呪いの言葉のせいだ。

200年前…わたしの肉体は勇者に砕かれ そして 魂は いまあなたに…
 ですが これで終わりではありませんよ!
 すでに あなたの魂には闇の種がうえられ芽が顔を出しました…
 わたしには わかりますよ…
 いずれ咲く 花の色が 美しい闇の黒であるというのが…!


 子供ゆえの潔癖さで、シェゾは自分の魂が取り返しの付かないほどに穢れてしまったと感じたのではないだろうか。それが許せず、自ら汚濁の中に飛び込む自棄を起こしたように思える。

 ……それとも、真魔導設定でそう解釈されているように、このとき本当に「闇の種」がシェゾの魂に植えられ、そのために少年の魂は変質してしまったのだろうか……?


●正と負の天秤
 十四歳のシェゾは、ルーン・ロードの示す運命に沿って生きる決意をした。
 しかし、彼の歩み方はフラついていて、色んな意味で半端である。

 ルーン・ロードは一つの都市を壊滅させた。悪名は響き渡って教科書にも記載され、その封印の地は観光名所にまでなっている。
 では、その後継者である闇の魔導師シェゾ・ウィグィィはどんな悪事を働いているのだろう。
 ゲーム本編を参照して、はっきり「悪事」だと言えるようなものを並べていってみると……。

・アルルを拉致監禁して魔力を吸収しようとした。(魔導2)
・アルルの持っているカレーの材料を奪おうとした。(アルルのルー)
ルルーを利用してイル・シュ・アの塔に侵入し、秘宝を奪おうとした。ついでにルルーのパンツも見た。(鉄腕繁盛記)
チコの家の台所を荒らして堂々と食料を食べた。(PSぷよよん)
・アルルに負け過ぎてブチ切れ、タマゴ(デカい鳥)(と、ついでにセプテム)を拉致軟禁して魔力を吸収しようとした。(アルルの冒険)
・空腹とビンボーのあまり、アウルベアのハチミツ、マミーの包帯20cm、ぞう大魔王のりんごを、密かに盗んだ。(ぷよクエ)

 ……と、まぁ、やけにスケールが小さい。特に、食料強奪を頻繁に行っている辺りが涙を誘う。

 そもそも、彼は悪事向きの性格ではないように思える。
 アルルに最初に出会ったときも、アルルを眠らせたその場で魔力を吸収すればよかったものを、何故か地下牢に監禁して、目覚めて抜け出て出口にやって来るまでじっと待っていた。(回復ポイントも使わせ放題……。)
 ルルーの影の中に潜んでイル・シュ・アの塔に潜入したときも、さっさと秘宝を奪って逃走するか、不意をついてルルーを倒してしまえばよいものを、ルルーが来るまでじっと待っていて自分がしたことを全部説明し(パンツを見た、などという余計なことまでバカ正直に……。ルルーが怒るのを見てポカンとしていた辺り、あまりに情緒がなさ過ぎる。)、挙句にルルーが勝負を仕掛けてくると、「しょーがねーなー」と言いつつも実に嬉々として受けるのである。……結局、正面突破がしたかったらしい。これでは、策を弄した意味がない。

 また、悪事を働くつもりでいて、あるいは自分勝手に行動したつもりで、いつの間にか人助けになっていることも多い。

・逃げたアルルを追いかけるうち、サタンに襲われてピンチのアルルを救う形に。(GG魔導U)
・ムカつくままにサタンをどついて、灼熱化した世界を救った。(ぷよSUN)
・世界支配すらできるという秘宝を探していたが、アルルに探索用アイテムを譲って状況を教えるサポート役を果たし、しまいに命を捨てて彼女とルルーを救うことに。(はちゃめちゃ期末試験)
・吸血鬼伯爵の魔力を奪うつもりで返り討ちされていたのをルルーに救われる。ルルーに協力して伯爵を倒し、気絶したルルーをミノタウロスのところまで運んで介抱を促した。(鉄拳春休み)
ウィッシュの魔導力を奪うつもりでいたが、ウィッチの世話を細かく焼いた上に彼女たちを守って戦い、世界を滅亡に導こうとしたダークマターの野望を「そんな事は 断じてさせない!!」と阻止。もらった魔力までわざわざ返して、何も奪わずに帰還。(魔導師の塔)
・最初は巻き込まれて、最終的には自らの意思で、アルルたちと共に次元邪神から世界を救った。(SS魔導)

 果たして、これでルーン・ロードの言う闇の黒の未来を歩んでいると言えるのだろうか。

 シェゾは半端な人間だ。
 闇に魅入られた者に相応しく、欲望に忠実に生きるつもりでいて、実際には躊躇して機会を逃し、なんだかんだで誰かの世話を焼き、人の情に触れれば律儀に恩を返して、そのために己の命を危険にさらすことすら厭わない。かと思えば、くだらない恫喝や盗みなどやってみせ、ゲーム本編に現れていない部分では、誰かの魔力(命?)を実際に奪っていたらしいことも示唆されている。

 一人の人間に正と負の両面があるのは当たり前だが、彼の場合、それがあまりに激しく極端だ。己の欲望を満たすために他人の命すら軽んじる一方で、誰かを守るために自らの命を捨てさえするのだから。

 鏡の迷宮にいた占いオババが、十四歳のシェゾに
おまえさんはおもしろい相をしてるね
 大物にはなれるよ
 どっちにかたむくか わからんけどね

 と言ったのは有名な話だが、実際、彼は未だに「どっちに傾くか分からない」半端な天秤のままでいるように思える。
 その意味で、彼は非常に危険な存在だ。何度か世界を救ったことすらある彼には、すなわち、世界を滅びに導くだけの力があるはずなのだから。

 いつか、天秤が「どっち」かを選択したとき。彼はルーン・ロードすら霞ませる稀代の悪の魔導師として歴史に名を刻むのだろうか。それとも、ルーン・ロードの知らない「正」の未来が、そこにはあるのだろうか。


 神を汚す華やかなる者として闇の道を歩むはずだったのに、悪事が常に未遂に終わるどころか、いつの間にやら変態呼ばわり。何をやっても馬鹿にされ、まっとうに相手をしてもらえない。恐怖の象徴だったはずの”闇の魔導師”の名は地に墜ち、気付けば、アルルたちに引きずられて勇者の真似事までしている始末。
 一体、何のために偉大な魔導師になろうとしていたのだか。

 シェゾは不幸な人間だ。
 そもそも、ルーン・ロードに魅入られて、十四歳で人生踏み外してしまった時点で既に相当ツイテナイのではあるのだが。
 実は、『わくぷよ』やSS版『魔導』のような、能力値が数値化されているゲームを参照すると、彼の「運」の値はアルルやルルーに比べて実際に低い。基本能力が高めなので、それでもなんとかなっているのだが。

 十四歳で初めて闇の剣に遭遇したとき、自分の使い手になるために来たんじゃないのか、と闇の剣に問われてシェゾはこう返した。
オレはただの不幸な迷子だよッ!
 鏡の迷宮を抜け出した今でも、彼は不幸な迷子のままでいるのかもしれない。


●魔力の奪い方
 シェゾは多くの魔導師達から魔導力を奪い、自らを高めていた。MSX-2版『魔導』の時点で、既に紹介文にこう書かれている。
偉大なる魔導師となるために、ほかの魔導師の力を吸収してきた。
 しかし、それが具体的にどういうことなのか、どうやって吸収し、吸収された者はどうなったのかは、オリジナル『魔導』では語られていない。
 文字通り魔力を奪うだけで、命まではとらないのか。それとも、命まで奪うのか。命は取らないとして、犠牲者はもう二度と魔法が使えなくなるのか。それとも、血を取られたようなもので、そのうち回復するのか。

 この点にある程度の答えを見せたのはGG版『魔導U』だ。
 何故かアルルの魔力を奪わなかったオリジナル『魔導』と異なり、ここでは、眠っているアルルから さっさと魔力の一部を吸収してしまっている。そのためにアルルは基本魔法しか使えなくなってしまった。しかも、地下牢をさまようアルルは干乾びたミイラを発見し、「まりょくをすいとられたミイラがいる。ぞぞぞっ・・・はやくにげないと ぼくも おなじうんめいになってしまう。」と呟くのだ。
 どういう方法で魔力を吸収するのかは相変わらず不明だが、吸収する量の調節が可能なこと、魔力の一部を吸収されると高等魔法が使えなくなり、全部吸収されるとミイラになる……らしい、ことが判明した。なお、この後ごく短期間のうちにアルルは元通り魔法が使えるようになっており、魔力を取られてもすぐに回復する――詰まるところ、ミイラにならない限りは吸われても大して影響はないらしい――と判る。

 しかし、疑問を感じる点もある。
 地下牢の中で魔法を使おうとして、アルルはこう叫ぶ。
ま、まほうが おもいだせないっ!? くそぉーーーーーーーーーーっ!! まりょくを すいとられたっ!!!!!
 これは、奇妙ではないか? 「魔法が使えない」のではなく「思い出せない」のである。「魔力=記憶」なのか? 魔力を吸い取られた影響で記憶の混濁でも起こしていると解釈すべきかもしれないが、それ以外のアルルの言動には全くおかしな点はないし、気分も悪そうではない。ついでながら体調も問題ない。
 いや、そもそもアルルは、本当に魔力を吸われていたのだろうか。逃げられないように魔力封じでも施されていたと考える方が自然である。
 地下牢で発見したミイラも然りだ。アルルは見るなりシェゾの仕業だと判断したようだが、実際にその場面を見たわけではないのだから。
 遺跡並みに古そうな地下牢と同様、このミイラも、いつからどんな理由でそこにあったのか知れたものではないと思われるのだが……。


 実を言えば、相手の力(体力、魔力、気力、思考力、年齢?)を吸い取るキャラクターは魔導物語シリーズでは珍しくない。
 ザッと挙げるだけでも、ウィザード、デュラハンバンパイアインキュバスサキュバス、ヴァルキリー、ちょっぷん、ラミア系、サタンなどがいる。
 吸収する方法は、ウィザードのように呪文を唱えるもの、デュラハン・バンパイア・インキュバス・ラミアのように相手に噛み付く・口付けるもの、ヴァルキリーのように目を光らせたり、剣を振るうもの、ちょっぷんのように撫で回すもの、サタンのように迫る(抱きつく?)ものなど様々だ。
 では、シェゾはどうなのだろう? サタンらのように口付けたり抱きついたりするのなら、変態と言われても仕方がないのだろうが……。

 シリーズが進んでいくと、シェゾが実際に魔力を吸い取る場面も現れた。
 『魔導師の塔』ではウィッチの、SS版『魔導』では老いた女魔導師の魔力を、彼女たち自身の希望によってシェゾは吸収する。その場でパッと吸収しており、時間も手間も設備も必要ないようだ。とすると、アルルやタマゴの魔力を吸収しようとした際に拉致の手間をかけたのが奇異に思えるが……抵抗があると上手くいかないのか、何か別の理由があったのだろうか。
 また、SS版『魔導』には「魔導力を注ぎ込む」と偽ってアルルがシェゾにファイヤーを撃ち込むエピソードがあるのだが、ファイヤーを撃たれるまでシェゾは何ら疑問を抱かずにワクワク待っていたので、魔導力を注ぐ・吸収するという行為には、(シェゾにとっては)肉体的接触は特に必要ないことが判る。
 実際、『わくぷよ』では「ダグアガイザン」や「マジックスナッチ」といった魔法を使って、離れた位置の敵から魔力や経験値を掠奪し、小説『真魔導』では「エヴスォウブ」という古代魔導を唱えてアルルに手のひらをかざし、魔力を吸収しかけた。
 シェゾの魔力吸収はウィザードと同様に呪文によって行うもので、相手に触れる必要はないと、複数の作品で明示されているわけである。


●変態と道化
 さて、アルルに抱きついたり口付けたりしているサタンたちがそう呼ばれないのに、そういう行為を行わないシェゾは、執拗に「変態」だと呼ばれている。

 シェゾが変態と呼ばれることになった原因は、オリジナル『魔導』での冒頭シーンにある。魔導学校へ向かうアルルの前にシェゾが現れ、魔力を奪う目的で拉致を行うのだが……。
 ここで「お前がほしい!」という台詞を吐いてしまったがためにアルルに変態だと誤解された……という解説がなされることがあるが、それは不正確だ。ここでシェゾが言ったのは、「おまえの ちからが ほしいだけだ!!」という台詞なのだから。
 この台詞を聞いたアルルが即座に「あああああああ! へんたいだわ この人っ!」と思うのはいささか飛躍が過ぎる気がするのだが、取説のプレストーリーを参照するに、シェゾが口を開く以前から、アルルはシェゾを「変態の目」だ、と警戒していたのであった。(細かいことを言うと、オリジナル三作品中、アルルがシェゾのことを変態云々と言うのはPC-98版『魔導』のみで、MSX-2 DS・MSX-2版『魔導』では取説のプレストーリーでそう語られているだけである。)

 変態の目……。それは如何なるものなのであろうか。
 「変態」という単語には幾つかの意味があるが、普通は性的倒錯者のことを指す。
 私は現実の変態を並べて目つきのチェックをしたことはないので分からないのだが、一般的には相手を性的対象として見ている目つき……「好色そう」「いやらしい」「粘っこい」か、明らかに精神状態が異常だと思わせるもの……「視線が定まらない」「目つきが異様」といったところかと思う。
 しかし、オリジナル『魔導』での実際のデモ画面の映像を見ると、シェゾは完全な無表情で、ニヤついてもいないし興奮している様子もない。睨みつけてもいない。絵で見る限り、特に異常な目つきはしていない。(後のGG版『魔導U』においてのみ、悪そうなニヤリ笑いを浮かべている。)
 では、アルルは何故「変態の目」だと思ったのか。
 思うに、シェゾがあまりにアルルを凝視していたからではないのだろうか。
 人気の無い山道。年頃の女の子の前に立ちふさがる見知らぬ男。彼は黙ってじーーーーっと彼女を見ている。
 とくれば、アルルが貞操の危機を感じたとしても無理はないのかもしれない。……多分、この時シェゾは、アルルが想像したのとは違うことを考えていたのだろうとは思うのだが。
 ともあれ、そんな危機感を抱いていたからこそ、シェゾの「おまえの ちからが ほしいだけだ!!」という発言から「変態だわっ」という結論に跳んだのだろう。……何か聞き間違えていたのかもしれない。
 それとも、魔導世界では力を吸収しようとする輩は即ち変態なのだろうか。だとすればサタンらも立派に変態のはずだが……。


 プレストーリーで「変態」だとアルルに評されてはいるものの、オリジナル『魔導』取説のシェゾの紹介欄に「変態」の文字はない。つまり、この時点ではシェゾのキャラクター性に「変態」は必須のものではなかった。
 『ぷよ1』でも同様で、ここでは「外見は二枚目、行動は三枚目」とされる程度で、「変態」とは言われていない。続く『A・R・S』、GG版『魔導U』の紹介欄にも「変態」の文字はなく、GG版『アルルのルー』でその文字が出てくるものの、「アルルの魔力を狙ったために、変態お兄さんのレッテルを貼られたかわいそうなやつ。」という書き方である。
 劇的な変化が起こったのは『ぷよ通』作品群からだ。ここから、取説・解説本の紹介欄に殆ど必ず「変態」の二文字が踊るようになる。それも「そう誤解されている」という書き方ではなく、殆ど「そうだ」と断定されている。解説本には「性格:変態」と紹介されているくらいなのだから、もう救いようがない。

誰よりも優れた魔導師になりたいという野望は大きいが、いかんせん変態らしい。
 どの辺りが変態なのかはちょっと不明だが とりあえず前作よりは強くなってアルルの前に立ちはだかる。ゆけ、銀髪の変態!!
(スーパーファミコン必勝法スペシャル『す〜ぱ〜ぷよぷよ通』/ケイブンシャ)

 そして実際、『ぷよ通』のシェゾはそう言われてしまっても仕方がないくらい、あからさまに言動が浮いていて、異常なのだった。
 そう。シェゾを変態にしたのは、彼の言葉遣いでもアルルの一言でもなく、『ぷよ通』の製作スタッフたちだったのだ。


 とはいえ、それ以降の全てのシェゾが、そう呼ばれても仕方がないほどに妙な言動をしていたわけではない。紹介欄に「変態」とほぼ必ず書かれはするものの、「と、周囲からは呼ばれている」というような曖昧な書かれ方が主流であったし、コンパイル公式サイトの『ぷよよん』キャラクター紹介欄のように、「アルルに対し、「お前が欲しい」と言ったため、変態呼ばわりされる。が、決して変態ではない。」と断言されたことさえある。
 『ぷよ通』で悪ふざけしてしまったけれど、シェゾは本当は変態じゃない、という認識が製作スタッフの間にちゃんとあったのだろう。

 しかし、全てのスタッフがそう思っていたわけでもないようだ。面白ければ商売としてそれが一番、という考え方もあっただろうし、ユーザーの間にも、「シェゾは変態だからこそ面白い」「お前がほしい、と必ず言わないと面白くない」という意見があったのは確かである。
 シェゾは変態に「しなければならない」、という不文律があったらしく、マトモなシェゾが描かれると、バランスを取るかのように必ずどこかを崩す作業が行われた。『魔導師の塔』で徹頭徹尾マトモな言動のシェゾを描いたスタッフは、次回作の『セリリのはっぴーばーすでぃ』では、埋め合わせのごとく徹頭徹尾言動が妙なシェゾを描いている。今まで散々変態呼ばわりされたことに逆襲するかのようなシェゾの姿が描かれた『わくぷよ』がPSに移植されると、シナリオの一部がギャグ調に変更され、風俗風のチラシをもらってムフフとなったり、アルルに「お前がほしい」と言うシーンが追加された。
 『ぷよ通』のおかげでシェゾは重い十字架を背負わされた。常に著しく妙な言動をしなければ許されない身になってしまったのである。

 この意を受けてか、『ぷよDA!』やコンパイルでのシリーズ最終作『ぷよクエ』では、完全に壊れたキャラクターとして扱われていた。ヒラヒラ衣装でマラカスを振りながら踊ったり、橋の真ん中で「おなかへったよ〜」「もう水だけは いやだ〜」などと言いながらぐっすりと眠っていたところを驚かされ、川に落ちて溺れて流されたり。……こういうのは変態ではなく、「道化」と言うのだと思うのだが。
 「妙な言動で面白ければそれでよし。だって彼は「変態」だから」……というのが、コンパイルスタッフとユーザーの出した”シェゾ像”の結論となった。「闇の魔導師」は、どこへ行ってしまったのだろうか。


●お前が欲しい!
 シェゾが「お前が欲しい」と言ったのは、『ぷよ1』が最初である。

アルル
「なんのようなのっ!」
シェゾ
「お前が欲しい。」
アルル
(赤面して)「ええっっ!?」
シェゾ
(咳払いして)「もとい、お前の力が 欲しいだけだ。」
アルル
「・・・いいかげんにしてよっ! あんた、まだそんなことやってんの!?」
シェゾ
「お前の魔力を吸収し、この闇の魔導師シェゾ・ウィグィィ様が ぷよぷよ地獄の王者となるのだっっ!」
アルル
「はあ!?」
シェゾ
「ゆくぞっ!」


 このデモはオリジナル『魔導2』のプロローグデモの焼き直しではあるのだが、実は、基になった実話もあるのだという。
 『コンプリート・コンパイル』(エクシード・プレス/ビー・エヌ・エヌ)の記事によれば、この台詞は元々、オリジナル『魔導』などのプログラマーだった たつき・けい氏のものだったそうだ。

確か開発中にグラフィックの相談をしているとき、女性デザイナーで氷樹さんて人がいて、そこでつい「氷樹さんが欲しい!」と口を滑らせてしまった。デザイナーとして使いたい、って意味だったんですけど、もう遅かった(笑)。次の日には、アーケードの「ぷよぷよ」に使われていました。

 氷樹むう女史はオリジナル『魔導』のグラフィック・キャラクターデザイナーで、『ぷよ1』ではデモシナリオも担当している。


 このような経緯から生まれた台詞だったが、オリジナル『魔導』で「お前の力が欲しいだけ」という台詞に「変態だわっ」と返すのは やはりいささか無理があったので、それを上手にフォローする形になったと思う。
 だが、『ぷよ通』でシェゾから「変態」という肩書きが外せないものになってしまってから、この台詞も一人歩きをするようになったのは確かである。何度も何度も執拗に、果てはアルル以外の者(ルルー、ファントム・ゴッド、吸血鬼伯爵、セリリ、ウィッチ、すけとうだら?、タマゴ)に、ついには魔力狙い以外の目的(ナンパ、鬼ごっこ)の際にさえも「お前が欲しい」と言わされるようになった。それを喜ぶユーザーがいたのは確かであるし、製作側がそれを見越して言わせていたのも間違いはない。


●アルルとシェゾ
 シェゾはシリーズ中では希少な人間型美形男子であるせいか、変態と馬鹿にされている割に、意外と女性キャラとの絡みが多い。特に、コンパイル後期頃には「恋愛ブーム」とでも言うべきものが起こっていて、やたらとそれを匂わせるエピソードが多かった。
 この頃、ウィッチがシェゾに片思いしていたのは確かなことだし、その他にもセリリやドラコブラックキキーモラ、サキュバスが(男女関係的なニュアンスで)彼と絡んでいる。
(面白いのがドラコとセリリとの関係で、『はっぴーばーすでぃ』ではドラコを振るがセリリには振られているのに、『わくぷよ』では逆に、ドラコには(ある意味)振られてセリリには一途に慕われている。)

 しかし、シェゾと絡む女性キャラクターの第一は、やはりアルルである。
 無論、この二人の間に恋愛関係はない。だが、互いに全く無関心かというと、そうとは言えないのだ。


 オリジナル『魔導2』の冒頭において二人は初めて出会った。彼の手で地下牢に監禁されたアルルは開口一番、こう呟く。

・・・いったぁー・・・
 何よあの魔導師! ちょーーーーっといい顔してると思って・・・


 拉致行為と顔はなんら関係がないのだが……。シェゾが顔を武器にしてアルルを騙したと言うのならともかく、彼はそういう素振りは見せていない。
 ……いや、実際はその通りなのではないか? つまり、シェゾの意思はともかく、アルル自身がシェゾの顔に騙されたと思っていたため、開口一番こう言ったのではないだろうか。すぐ後にサタンに会った時には顔のことを問題にしないので、その疑惑は強まる。
 そしてそれを裏付けするかのように、GG版『魔導U』取説のプレストーリーには、こう書いてあるのだった。

なんと、中から現れたのは、目元が危ないハンサムなお兄さん。
 早く逃げないと、何をされるか分かりません。
 だけどアルルは、お兄さんに見とれているのでした…。


 どうやら、(中身はともかく)顔だけは、シェゾはバッチリ アルルの好みに合致していたらしい。後の『わくぷよ』でも「見た目だけなら わりと ちょっぴり ほんの少しは いい男なんだから」と言っている。初対面の時にあんなに簡単に捕まったのは、彼の顔に見とれていたためらしいのだ。


 GG版『魔導U』では、シェゾはライラの迷宮にまでアルルを追っていき、何度も挑戦を繰り返す。(そして、間抜けな姿をさらけ出す。)アルルはそのうち慣れてしまい、シェゾが現れても まるで怯えもせず、余裕の笑顔で対応するようになっていく。彼が目の前で気絶しても放っておくだけで、拘束も止めを刺しもしない。(つんつんつついたり 持っていたアイテムを取っていったりはする。)なんとも奇妙な関係が形作られ始めるわけだが、やがて迷宮の最深部に到達すると、更に奇妙なことが起こる。アルルがサタンに強引に唇を奪われそうになったとき、そこに憤然とシェゾが飛び込んでくるのだ。

「ちょっとまったあああああああ!!!」
「だれだ!?」
「そいつから はなれろ!」
 シェゾっ!? たすけにきてくれたんだ!
「そのむすめは おれがさきにみつけたのだ。きさまのすきにはさせん!」
 ・・・・・きたいしたぼくがバカだった。とほほ・・・
「なにを たわけたことをいっている。この むすめは みずからのいしで わたしにあいにきたのだ。おぬしのでるまくではない」
「そこまでいうのなら、ほんにんに きめてもらおうではないか!」
「フム、よかろう。むすめよ、どちらにするか きめるがよい」
「おれのところへ こい!」
「さぁ、わたしのもとへくるのだ」


 ここで、シェゾとサタンどちらを選ぶか、あるいはどちらも選ばないかの選択肢が出現する。
 このエピソードを最終的にどう解釈するかは各ユーザーに委ねられるだろうが、製作側が擬似的な男女三角関係を意図していたのは間違いのないことだと思う。(ちなみに、どちらも選ばないでいると、強制的にゲームオーバーになる。)

 勿論、シェゾはアルルの魔力だけを狙っているのであり、それを横取りされまいと飛び込んできたのだ。
 だが、それだけでは説明のつかない部分があるのも確かである。
 アルルの魔力だけが欲しいのなら、アルルが誰に唇を奪われようと――極論、アルルが誰と結婚しようと、全く問題のないことのはずだ。しかし、彼は飛び込んできた。
 この直前にアルルが大声で「よ、よるなぁーーーーーーっ!!」と喚いているので、彼女の命の危機と勘違いして、魔力を奪う前にアルルの身がどうにかなっては困るからと思い……という考え方も出来ようが、それもおかしい。強い魔力を持つ人間は世の中にアルルだけではないはずで、シェゾが自分自身の命を危険にさらしてまで、獲物のひとりに過ぎないアルルを守らなければならない義理は、実際のところないのだから。偉大な魔導師になるためにアルルを狙い、そのアルルを守って自分が死ぬ(傷つく)としたら、全く本末転倒だ。

 アルル自身は「きたいしたぼくがバカだった」と思っているのだが、シェゾ本人は、恐らくはかなりの部分純粋に「アルルを救うために」飛び込んできたのだと判断できる。それを恋愛感情だとは言えないが、擬似的なもの(ヒロイズムとそこから来る男性的独占欲)はあっただろう。だからこそ、あれほど自信満々に「ほんにんに きめてもらおうではないか!」などと言えたのだ。この阿呆は、自分がアルルを追いかけてきた悪党だということを、この時すっぱり忘れていたのである、多分。

 なお、選択肢でシェゾを選ばないと、「そ、そんなバカな! おのれぇ! おまえらふたりとも ここでしねっ!!」だの「おれは あいつのちからが ほしいだけだ」だの言って襲い掛かってくる。ロクでもない行動だが、あたかも振られた男の狂乱のようではある。
 シェゾを選択すると、彼はサタンと戦い始め、倒される。残ったアルルはサタンを倒してカーバンクルを連れて去っていき、シェゾのことはまるで思い出さない。ちょっと気の毒ではあるが、自業自得なので仕方がない。


 この後の二人の再会が、『ぷよ1』の前述のデモになる。シェゾに「お前が欲しい」と言われて赤面して絶句するアルルと、対照的にシラッとしているシェゾの対比が面白い。

 このように『ぷよ1』ではシェゾはシラッとしていてアルルの方がドギマギしていたのが、『ぷよ通』『ぷよCD通』では逆転が起こる。今度はシェゾの方が一人で浮かれてアルルに恋愛アプローチをかけて、アルルの方がシラッとしている、というシチュエーションになるのだ。

SS版ノーマルモード
シェゾ
「フッフッフッフッフ。待っていたぞ。」
アルル
「ま、またキミなの。」
シェゾ
「このシェゾ・ウィグィィさまのために、ここまでやっとてくるとは、フッ、かわいいヤツよ。」
アルル
「なにかカンちがいしてるんじゃない。」
シェゾ
「やれやれ、テレることはないぞ。いまここにはオレさまとおまえしかいないのだからな。フフフ……。」
アルル
「こーのヘンタイ魔導師がっ! なにヘンなこと考えてんのよ。」
シェゾ
「……お、おまえはオレさまの真の恐ろしさを知らぬようだな。よかろう。思い知るがいい、闇の魔導師の脅威のぷよさばきをなっ!」


『ぷよCD通』二周目
シェゾ
「ふっふっふっふっふっふっ。」
アルル
「このあからさまにいやらしい変態な声は……。」
シェゾ
「この私のために、ここまでやってくるとは、ういヤツよ。」
アルル
「まっ、ま〜たキミなの……どぉ〜してここには、こういうヘンなのしかいないんだろう……。」
シェゾ
「フフフフ。その照れかたが、またいちだんと……。」
アルル
「やっぱりぃ、彼にするんだったらぁ、背が高くってぇ、お金持ちでぇ、美少年でぇ……。」
シェゾ
「キュ、キュートだぞ……。」
アルル
「車は持っててぇ、次男でぇ、ジジババ抜き〜。そいで、そいでぇ〜。」
シェゾ
「だーっ、もう、人の話を聞けよ、おまいわー!!」
アルル
「ん!? なんか言った?」
シェゾ
「こっ、こいつは……よかろう。思い知るがいい! 闇の魔導士、シェゾ・ウィグィィ様の、脅威のぷよぷよさばきを!!」


 『ぷよ1』からのこの豹変振り。一体、シェゾに何が起こったのであろう。『はっぴーばーすでぃ』では女の子をナンパせずにはいられない、そして百人ナンパに成功しなければ解けないという(絶望的な)呪いをかけられていたが、この時も似たような呪いが掛かっていたのであろうか。

 『ぷよ通』のこれらのデモで、シェゾはどうやらアルルに気があるらしい……という認識が広まった。ユーザーにだけではない。アルルをはじめとする作中人物たちにもだ。
 これ以前のシェゾとアルルの対峙デモは、シェゾが唐突に、かつ一方的に「欲しい」と言ってアルルがウンザリする……というのが基本だったのだが、『ぷよ通』作品群のピークが過ぎた95〜96年頃から変わってくる。アルルに余裕が生まれ、むしろシェゾをからかって怒らせる、というのが基本になるのだ。惚れられている、という女の自信がそうさせるのであろうか。
 少なくとも そう危険視しなくなったのは確かで、『はちゃめちゃ期末試験』では気絶したシェゾにわざわざヒーリングをかけてやって正気づかせ、しばらく会話をする。また、このゲームではGG版『魔導U』の逆シチュエーションが起きていて、迷宮の最深部でピンチになっているシェゾを助けるべく、アルルとルルーが飛び込んでくる。シェゾはその恩に応え、命を捨てて彼女たちを危機から救うのであった。

 シェゾをからかうアルル、という流れは『わくぷよ』に最も強く現れている。ここでは、むしろアルルの方からシェゾに声をかけ、近寄り、しつこくからかってはウンザリさせている。ヘンタイ、ビンボー、暗いと暴言を吐き、彼をじっと見つめては動揺するのを見て喜んだり。シェゾがアルルに向かってこんなことを言っているくらいだ。

お前なぁ…。そんなこと言われて怒らないほうが おかしいぜ! ったく お前ってけっこうイヤなヤツだぜ。

 また、このゲームではアルルはこんなことも言う。

アルル
「ねえねえ シェゾは何しにここに来たの?」
シェゾ
「ふっ お前には関係ないことだ」
アルル
「や やっぱり ナンパしに来たの?」
シェゾ
「は?」
アルル
「いつものように女の子に声をかけに来たんじゃ…」
シェゾ
「ち ちっがーう! だいたいその『いつもの』ってのはどういう意味だ!」
アルル
「だって『お前がほしい』って女の子を追いかけ回してるじゃない」
シェゾ
「な…オレはそんなコトしてないっ!」
アルル
「またまた そんなコト言って…『闇の魔導師』も男の子だねぇ…」


 「変態」の次は「ナンパな男の子」呼ばわりして、まるで”お姉さん”のごとき余裕を見せているわけだが、裏を返せば、これまで自分にかけられてきた「お前が欲しい」の台詞を、ただのナンパ台詞だと理解している、ということになる。
 『アルルの冒険』では、「お前の全てをいただく!」と言われて「そ それって…もしかして…プロポーズの言葉?!」と返したりもしていた。
 いや、頭では「魔力狙い」だと分かっているのだろう。しかし心のどこかで「惚れられてる」と思っているからこそ、こんな発言が出てくるのだと思われる。
 なお『ぷよぷよCD』には、シェゾにプロポーズ(?)されたと勘違いしたらしいアルルが、真っ赤になってモジモジしながらOKを出しかける……というアレンジデモがあったことを特記しておく。

アルル
「なんのようなのっ!」
シェゾ
「お前の全てが欲しい。」
アルル
「ええっっ!?
そ、そんなぁ。ぼくまだおとなじゃないしぃ いきなりそんなこと言われても心の準備だってできてないしぃ
でも、シェゾがどうしてもって言うんだったら、ぼく・・・」
シェゾ
「お・・・お前、何か勘違いしてないか!?」
アルル
「へ!?」
シェゾ
「私が欲しいのは、お前の持つ魔力の全てだ!」
アルル
「・・・い、いいかげんにしてよっ あんた、まだそんなことやってんの!?」
シェゾ
「ふっふっふっ、お前の魔力を吸収し、この闇の魔導師シェゾ・ウィグィィ様がぷよぷよ地獄の王者となるのだっっ!」
アルル
「は〜ぁ!?」
シェゾ
「ゆくぞ!」



 アルルはシェゾが言葉足らずなこともよく承知していて、『アルルの冒険』ではこんな風にからかっている。

シェゾ
「そう言っていられるのも今のうちだ。魔力の壁からは約束通り手をひいたが、その代わりにアルル! 貴様の魔力をもらうぞ!」
アルル
「ええぇーーっ!! う 嘘でしょう シェゾ! シェゾが… あのシェゾが……!」
シェゾ
「今更 驚いても もはや手後れだ」
アルル
「あのシェゾが ちゃんとセリフを言えるだなんてっ!」
シェゾ
「だぁーーーーっ! もういい! さっさとかかってこい!!」



 このように余裕たっぷりのアルルだが、たまにシェゾから反撃が来るとかなり動揺する。『わくぷよ決定盤』にはこんなデモもある。

アルル
「おーい シェ〜ゾ〜っ!」
シェゾ
(うーむ… このままではイカンな…)
アルル
「おーい! ヘンタイ魔導師〜っ!」
シェゾ
(そうだ… 女だ! アルルといい ルルーといい あのヘンタイコウモリ女といい、女がからむとロクなことがない!)
アルル
「おーいっ!! ヘンタイで ネクラで ビンボーな魔導師〜っ!」
シェゾ
「(怒)やかましいっ!」
アルル
「シェゾ、キミ最近おかしいよ。何か悩みでもあるの? たとえば 恋の悩みとか…」
シェゾ
「お前だ お前っ! お前のようなやつが…」
アルル
(赤面)「えっ!? ボク!? い いきなり 何を言うんだよ!」
シェゾ
「は?」
アルル
「ボクだってねぇ…」
シェゾ
(な なんだというんだ…?)
アルル
「もぅ! そんなに見ないでよ!」
シェゾ
(スキだらけだ! 今ならアルルの魔力を吸収できるっ!)
アルル
「…?」
シェゾ
「お前がほしいっ!」
カーバンクル
「ぐぐぅ!」(ビーム発射)
シェゾ
「ぐはっ…」
アルル
「ちょ ちょっとカーくん! こんなところでビーム撃っちゃダメでしょ! でも自業自得だからね。あいかわらずヘンタイなんだから…。ったくしょーがないなぁ。行こっ カーくん!」
カーバンクル
「ぐっぐー!」
シェゾ
「ち ちがうぅぅ…」


 面白いのは、シェゾに告白された(と思っている)アルルが、少なくとも拒絶の台詞は発していないことである。「いきなり言われた」「あいかわらずヘンタイ」なことには「しょーがないなぁ」と腹を立てているようなのだが。
 ちなみに、逆シチュエーションで、シェゾの方がアルルの発言を勘違いして赤面してしまうデモも存在する。


 『わくぷよ』は恐らくコンパイルシリーズ中 最も密度濃くキャラクターたちがコミュニケーションするゲームだが、シェゾとアルルのエピソードの白眉は、アルティメットタワー前での二度目の会話に尽きるだろう。

シェゾ
「…あそこにいるのは」
アルル
「あっ! シェゾだ」
シェゾ
「アルル。お前はなぜ あのアイテムを欲しがるのだ?」
アルル
「アイテムを探してるワケじゃなくて ここで遊んでいるだけだよ」
シェゾ
「だったら ここは手を引くことだな」
アルル
「どうして?」
シェゾ
「どうしてもだ」
アルル
「じゃあ ボクも アイテムを探そっかな〜」
シェゾ
「くっ お前というヤツは…。勝手にしろ。どうなっても知らんぞ」
アルル
「あーもうっ! 何か言いたいなら はっきり言えばいいじゃないか! なんかヘンだよ 最近のシェゾ!」
シェゾ
「…お前は 自分自身について考えたことがあるか?」
アルル
「え? 何だよ いきなり…」
シェゾ
「オレは 失われし自分自身を甦らせるために ここに来た。
 のー天気に遊んでいるお前なんぞにとやかく言われる筋合いはないっ!」
アルル
「そ、そんな言い方…。シェゾのイジワル!」
(アルル、逃げ去る。)
シェゾ
「少し言いすぎたか…。許せ、アルル。
 闇の魔導師シェゾ ウィグィィともあろう者が あれくらいの言葉で ムキになるとは…。アルル… 不思議なヤツだ。いったいお前は…。
 …いや、どうでもいいことだな」


 シリーズ中唯一、シェゾが口でアルルを言い負かしたエピソードである。恐らく今後シリーズが続くとしても同様のシーンが出てくる可能性は低いだろう。
 実際、アルルはあまりにシェゾを馬鹿にしすぎているので、溜飲の下がるエピソードではあるのだが、シェゾ自身はすぐにそれを後悔している。そしてアルルの言葉に容易くかき乱され調子を崩してしまう自分に、初めて疑問を抱く。
 何故なのか?
 幸か不幸か、彼はそこで思考を停止してしまったのだが……。


 これ以降、コンパイルシリーズでシェゾの思考が掘り下げて描かれたものはない。
 しかし、小説『真魔導』には、シェゾがアルルについて深く思考するエピソードがある。
 (ここでのアルルは人間外の存在なので、)彼はアルルが異質な存在であることに薄々気付き、人間の自分には決して彼女の魔力を吸収することは出来ないと、物語序盤の時点で悟ってしまう。しかし、それからもアルルに関わることをやめず、表面上は「魔力を奪うためだ」と言い続ける。
 ……つまりは、それが彼の出した結論なのであろう。


 なお、『わくぷよ』後に製作された『ぷよよん』(『ぽけぷよよん』除く)や、セガの『みんぷよ』では、「やい、シェゾぉ!(中略) うるさい! ヘンタイは ヘンタイらしく おとなしくしろ!」「フンッ! キミの言うことなんか だれが きくもんか! 世のため 人のため そして何よりボクのため! ここで たおしてやる! カクゴしろ シェゾ!!」などと、アルルは殆ど憎悪していると言っていいほどの態度をシェゾに見せている。『SUN』や『わくぷよ』、SS版『魔導』などのシリーズ前回作から連続したものとしてこれらのゲームをプレイすると、この断絶にぎょっとさせられてしまう。既存シリーズで積み重ねられてきたはずの人間関係が”なかったこと”に……それどころか”マイナス”になってしまっているではないか。

 シェゾとアルルの微妙な関係は、明文化された確定的な設定ではない。あくまで、作品の中に漂っている”空気”のようなものだ。だから後継スタッフの胸三寸で、継承されたり”なかったこと”にされたりしてしまう。
 長いシリーズの中で変化し積み重ねられてきたはずの人間関係が、シリーズの次回作では理由なくリセットされている。シリーズを重ねるごとにだんだん交流が生まれ、仲良くなってきた……と思っていたのに、次回作でまた、いや以前以上に険悪な関係になっている。しかしそうなった理由は語られない。あるいは、前作で友達になったはずのキャラクターと、今作で、はたまたその次作でも初対面の挨拶を繰り返している。
 この断絶された状況。シリーズと言いながら、実際はオリジナル『魔導』を原作にした二次創作アンソロジー群に過ぎなかったということなのか。だから簡単にリセットされて、いちいち最初の状況(その製作者が理解するところのオリジナル『魔導』での人間関係)に戻されていたのだろうか。


●闇の剣
 シェゾは、闇の剣という魔剣を装備している。初装備はMSX-2版『魔導2』で、それ以前のMSX-2 DS版『魔導』では何も装備していない。また、初装備時は「やみのけん」ではなく「やみのつるぎ」であった。
 ファンタジーの世界で剣士が魔法を使うことは珍しくないが、魔法使いが剣を使うのは珍しい。


 闇の剣は今やシェゾに欠かせない装備であるが、そのデザインは未だに定まっていない。初装備のMSX-2版『魔導』の時点では、壱女史が『ぷよSUN』以降定番にしているのと同じようなシンプルなデザインだったが、PC-98版『魔導』では刀身が反り返っていて、持ち手はサーベルのようになっている。その後、登場ゲームごとに異なるデザインで描かれた。『わくぷよ』では長さも可変だと設定されている。
 この不確定さを逆手に取ったのか、真魔導設定では覚醒して段階ごとに形を変え、主と有機的に融合までする「生きた剣」だとされた。

 ちなみに、シェゾと闇の剣の出会いを描いた『A・R・S』では、闇の剣は濡れた様な刃から圧倒的な力の波動を放ち、触れたシェゾに不敵に語りかけてくる「意思ある魔剣」として描かれている。しかも「試験」として自らシェゾと戦ったり、シェゾを主人と認めてからも、たまに勝手に敵に斬撃を放ったり、シェゾに暗示をかけて動きを素早くさせたりして、どうやらある程度自分の意思で動き、主の精神に干渉することさえ出来る、かなり危険な武器のようである。シェゾがダメージを受けると「戦いは 始まったばかりだ!」と力を注ぎ込んで回復してくれることがあるが、考えようによっては主を「使役」し、限度を超えて戦い続けさせようとしているようにも思われる。
 もっとも、『魔導物語』では魔導師用の杖が喋ったり、勝手に攻撃したり、主に暗示をかけたり、逃走を禁じたり、自分の意思で行動するのは珍しくはない。だが、闇の剣ほど饒舌なものは珍しい。これほど饒舌なのは、唯一、古代魔導文明の遺産だったわんだふりゃ魔導砲くらいだ。闇の剣も、同時代に製作されたアイテムなのだろうか。(ただし、わんだふりゃ魔導砲は勝手に攻撃したり主の精神に干渉したりすることはなかった。)
 真魔導設定では、闇の剣は太古の神魔の争いラグナロクの際に使用された、魔神(天使)を殺すことの出来る希少な精神武器スピリチュアルウエポンの一つ……ということになっているようである。

 闇の剣が喋るという設定は、その後のゲームでは完全に無視され、使用されなかった。残念なことである。しかし、角川版小説や小説『真魔導』では引き継がれ、シェゾと会話を交わしている。
 なお、現在ユーザーの二次創作等で多く見られる闇の剣の口調や人格は「あるじよ、我は〜だ」のような、忠実でいかにも人工人格的なものなのだが、実はこれは角川版小説のオリジナル設定で、ゲーム本編では(少なくともシェゾを主と認める以前は)「クックック… ようやく 新しい使い手のおでましか…/何ィ!? きさま オレのことを知っていて ここにきたんじゃないのか!/チッ…! まぁ いい 一応 資格はあるようだしな… さぁ きさまがオレを持つにふさわしいか 見せてもらおう!」などと、邪悪で自我の強い感じで喋っていた。ただし、シェゾを主と認めてからは、「我が主よ その真の力を見せるのだ!」など、角川版に近いイメージにはなる。


 さて、闇の剣といえば、透き通った刃の水晶の剣だ、というイメージを持っておられる方も少なくはないだろう。
 この設定が初めて現れたのは恐らくAC版『ぷよ通』等のゲーム中キャラクター紹介文で、シェゾは「クリスタルのつるぎを持つ」と記されている。だが、それ以前に彼の剣の刀身が透き通っていたことはなく、一体どこから何の理由でこの設定が出てきたのか不明である。
 『ぷよ通』以降、闇の剣の刀身を透き通らせるか否かは各グラフィッカー、イラストレイターの判断に任されたようだ。なので、透き通っていたり透き通っていなかったりする。メインのイラストレイターだった壱女史は頑として不透明に描き続けていたが、何か思うところがあったのだろうか。
 『ぷよよん』では、透き通った刀身をディスプレイに見立てて、攻撃時にそこに魔法文字が浮き上がる、という設定になっている。


 ところで、闇の剣は普段何処に収納されているのだろうか? 
 『ぷよSUN』では何もない所からぱっと抜き身の剣を取り出しており、普段 剣を亜空間にでもしまっているらしいと明かされている。ところが、同じ『SUN』のカットインアニメーションでは、鞘から剣を抜くシーンがあったりもするのだった。
 SS版『魔導』では、腰に剣を帯びた絵があり、実際その小説版では「腰から剣を抜いた」という描写がある。小説『真魔導』では、剣を亜空間から呼び出すことも腰に下げることもあり、しまいに、「鞘に入った剣」を亜空間から呼び出していた。なんでもイイらしい。

 『ぷよよん』の設定では、剣の使用時に宙に魔法陣を描いて呼び出すことになっている。(だから、鞘はない。)常に剣を持っていると、それだけで魔導力を食われてしまうそうだ。


●シェゾと遊園地
 シェゾと遊園地……。一見して全く関わりのない、むしろ相反する要素のように思えるものだが、実は両者の間にはそれなりの繋がりがある。単刀直入に言えば、漫画『とっても! ぷよぷよ』初期においては、シェゾは何故か「魔導ゆうえんち」の経営者であった。それも、愛情の掛け方が並ではない。かなり大規模な遊園地なのだが、アトラクションの一つ一つが彼の手作りであり、動力源は彼の魔力だったのである。
 なんでまた、彼はそうまでして遊園地を経営していたのだろうか? その理由は一切語られることはなかったが、ともかく、彼はアトラクションをもっと快適に動かして客を満足させるために強大な魔力を欲していたのである。

 さて、恐らくこのイメージが根底にあるのではないだろうか、ゲーム『わくぷよ』では、ドッペルゲンガーシェゾが「わくわくぷよぷよランド」を創造し、サタンに運営させていた。彼は消滅間際、サタンとこんな会話を交わしている。

サタン
「お前には世話になったな。お前のおかげで 束の間ではあったが 楽しい遊園地を作ることができた」
ドッペルシェゾ
「ふん。オレはただ もっと人の力を吸い取るためにワナをはっただけだ」
サタン
「…まあ そういうことにしておいてやろう」
ドッペルシェゾ
「……」(消え去る)


 このドッペルゲンガーシェゾは、時空の水晶がシェゾの力を吸収し、姿と人格を複製したことで現れた。いわば、シェゾの分身である。しかるに、馴れ合いは嫌いだと公言してはばからないシェゾではあるが、心の中には人を楽しませることを好む気質が、実は隠されているということなのだろう。


●シェゾとカーバンクル
 シェゾとカーバンクルは、ゲーム本編中では殆ど直接絡んだことがない。ストーリーを伴う関わりと言えば、せいぜい『魔導四五六』(ただし、このゲームではプレイヤーキャラは全員同等・同質でカーバンクルと関わるのだが)、そして『わくぷよ決定盤』でアルルに挑んだときにビームで撃たれたのと、『わくぷよ』二作のシェゾEDで、アルルたちと言い争っていたときに「ぐぅ!」と鳴いたカーバンクルに勢いで「しつこいぞっ!」と怒鳴ってしまい、アルルやサタンらに恨まれて追い回される羽目になった……というくらいのものだろう。

 だが、商業二次作品の中では、シェゾがカーバンクルと直接、それも大きく関わるエピソードを見出すことが可能である。
 まずは、漫画『とっても! ぷよぷよ』。前述のように、この漫画初期のシェゾは魔導ゆうえんちの経営者なのだが、アトラクションを快適に動かすために強大な魔力を欲し、そのためにカーバンクルをアルルの手から連れ去った。なんと、この漫画ではシェゾは元々、アルルではなくカーバンクルに「お前が欲しい!」と迫るキャラクターだったのである。彼の理屈によれば、

 昔、こいつのかいぬしだったサタンは、絶大な魔力を持っている。そしてアルルも…。
 それはきっと、カーバンクルとなかよしだったからだ!! りゆうは わからんがっ!
 なかよくすれば、きっと魔力はアップする。


 とのことだった。彼は早速カーバンクルを誘拐したが、「今日からおまえは、オレのペットだ。わかったか!」と強気で言えたのは最初だけ。すぐに「オレを無視するなぁ! ペットがいやなら、お友だちでもいいから!!」と涙で哀願し、「カーバンクルさま」と呼んで、お友達どころか下僕か太鼓持ちのようにカーバンクルの機嫌をとる有様だった。
 ……この状況を見ていると、ここでの彼が何度チャンスがあってもアルルの魔力を奪えない理由が分かるような気がしてくる。結局のところ、彼は他者に無理強いし続けられない性質たちらしい。泣かれたりふて腐られたり、ちょっと優しくされるとすぐひよって、自分が我慢して退いてしまう。もしも彼が子供を持ったとしたら、どんなに厳しい教育方針を計画したところで、なしくずしに果てなく甘やかしそうなものである。

 さて、次は小説『真魔導』だ。アルルの魔力を狙うシェゾは執拗に襲撃を続けていたが、常にアルルとルルーに返り討ちされていた。ところがある夜に現れたシェゾはいつもと様子が違う。つまり、泣かれても罵倒されてもからかわれても、いつものようにひよらないし退かない。そして手加減もしてこなかった。(裏返せば、彼はいつも手加減していたのである。)たちまちルルーは倒され(それでも、命を取ったり致命傷を与えたりはしなかったが)、アルルも追い詰められる。シェゾはアルルの魔力を奪いかけるが、カーバンクルに魔法を跳ね返されて、逆に自分の魔力の殆どをカーバンクルに吸収されてしまう。意識を失いかけながら、シェゾは咄嗟にカーバンクルを奪って逃亡した。
 この後、カーバンクルを人質にしてアルルを呼び寄せ、引き換えにアルルの魔力を差し出させようとするわけだ。

 この時、シェゾとカーバンクルは十日弱もの間、二人だけで行動していた。面白いのは、その間カーバンクルは全くシェゾの元から逃げ出そうとはしなかったし、シェゾの方もカーバンクルを拘束したり、虐待するようなことは一切していない、という点だ。急激に魔力を失ったために、逃亡した後でシェゾは昏倒し、しばらく動けなくなっていたのだが、その間もカーバンクルはずっと側にいた。そして目覚めたシェゾはカーバンクルに多量の食料を食べられたようだが、それに関しても溜め息をついて呆れる程度で、怒ったりはしていない。
 シェゾが思うに、カーバンクルが彼から離れないのは「この黄色いヤツは、それほどまでに自分の主人(?)である、あのアルル・ナジャのことを信用しているのだろうか?/ いずれ必ず、自分の元に会いに来てくれると信じて……。」という理由からだが、それにしても、シェゾのことを忌み嫌ってはいないらしい。シェゾの方も同様で、嫌がるでもなく媚びるでもなく、淡々とカーバンクルと共に過ごしていた。

 このように、商業二次二作品におけるシェゾとカーバンクルの関わりは、面白いことに、どちらも「シェゾがカーバンクルを誘拐する」というエピソードだった。確かに、二人が深く関わるとしたら、これしかないのかもしれない。


 ちなみに、『魔導四五六』のシェゾチームEDでは、スゴロク大会の賞品としてカーバンクルを入手したシェゾが、それを盾にサタンの闇の力を吸収しようと目論むのだが、インキュバスと口喧嘩している間にカーバンクルはアルルの元へ逃げ帰ってしまったと語られている。ここでは、シェゾはカーバンクルにはあまり気に入ってもらえなかったようだ。『わくぷよ決定盤』でもビームを撃たれていたし、ゲーム本編のシェゾはカーバンクルにわりと嫌われている……というのが結論であろうか。



●追記
 2009年、『魔導物語』の最初の制作者である米光一成氏が、自ブログで、サタンとシェゾのモデルはタニス・リーの幻想小説『闇の公子』だと明かした。
 最初期シェゾの神秘的で美しく危険なイメージは、恐らくその小説を源としているのだろう。

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