///パノッティ


パノッティ 性別
身長 140cm
体重 32kg
スリーサイズ 不明
年齢 9歳
誕生日 4月3日
一般的紹介
(真魔導系除く)
人を驚かせるのが大好きな小人。
笛を吹いて人を踊らせる。

不思議な笛を持つ子供の小人。
踊らないあなたの耳が腐っているのか、踊らせられない彼の演奏が下手なのか?


 パノッティはMSX-2版『魔導』から登場している。『ぷよ1』『ぷよ通』『ぷよよん』と登場しているので、認知度は高い。
 その演奏で人を踊らせる不思議な笛を持っている。他人を踊らせるだけでなく、自分が踊るのも好きなようだ。『はなまる大幼稚園児』では森の奥でパーティを開いており、一族で一晩中踊り狂っていた。
 イタズラが大好きで、人を驚かせようとしてか「わっ!」と声を上げて出現する。この声でダメージを与えたり、「びっくり」状態にさせることもある。
 『ぷよ1』や『ぷよよん』では、負けるとアメリカンクラッカーのような独特な涙を流す。負けた時には、両目から垂れ下がった大粒の涙が、カチカチと打ち合いながら揺れるのである。この泣き顔は『魔導師の塔』にも取り入れられている。


●小人か、子供か
 パノッティは、初登場時は「小人」という設定だった。
 MSX-2版『魔導』取説のキャラクター紹介欄を参照すると、
とんがった耳をした小人。いたずら大好き。
 と書いてある。PC-98版『魔導』の当時では、ゲーム画面でもはっきりと小人サイズで描かれていたのだ。(GG版『魔導V』やMD版『魔導』でも、恐らくは小人サイズを意図して描かれていると思う。)
 しかし、『ぷよ通』以降の設定では、「身長140cm、九歳の子供」と定められている。小人種族にも当然子供はいるだろうが、身長140cmの子供を「小人」とは呼べないだろう。人間の中の低人こびとならともかく、伝承上の小人(妖精)といえば20〜30cmか、せいぜい1m弱の身長しかないと言われているものなのだから。
 どうしてこうなってしまったのだろう。『ぷよ1』のデモで、アルルと変わらない体格で登場していたからだろうか。

 あまり違わないじゃないか、と思う人も多いかもしれないが、やはり、「イタズラ好きの小人」と「イタズラ好きの子供」では受ける印象がかなり異なると、私などは思ってしまう。折角「小人」という面白い個性が与えられてあったのに、それを潰すことはなかったのではないか、と。


 オリジナル以降のシリーズでは唯一、『はなまる』のパノッティたちは群れて森の奥でパーティーをしており、パーティーに参加したアルルに贈り物をして消え去るなど、伝承に現れる「小人」に近いイメージで描かれている。
 だが、その他のシリーズでは完全に「小人」という要素は忘れ去られていった。
 『わくぷよ』では、子供っぽいワガママをアルルにたしなめられてしゅんとなる面を見せている。SS版『魔導』になると 笛をなくしてシクシク泣いていたり、魔物が怖くて村の外に出られなかったり、アルルを「お姉ちゃん」と呼んで懐く「可愛い村の子供」になっている。『ぷよよん』では外見的にもそれが強まり、手足のひょろんと伸びた、どう見ても「小人」には見えない、生意気そうなお子様になっている。(ただし、コンパイル公式サイト『ぷよよん』コンテンツのキャラクター紹介欄のみは、この時点でも「耳のとがった小人」と書いていた。)


 小人ではないなら、パノッティは一体何者なのだろう、と疑問に感じるが、コンパイルシリーズ晩期には、「耳が尖っている=エルフ」だと、暗に再設定されていたようなフシがある。エルフも妖精であり、伝承の中では小人として描かれることも少なくないのだが、創作ファンタジーの世界ではむしろ人間よりも長身の美丈夫として描かれることが多い。
 小説『真魔導』では更に変化が進んで、人間とエルフとの間に生まれたハーフの子供で、人間の老人に拾われて育てられているが、人々に差別を受けている……ということになっていた。「イタズラ」でさえも、深い理由あってのやむない行動だったのだ、と。お気楽な小人だったのが、エラく深刻なことになってしまったものである。


●パノッティの笛
 パノッティといえぱ笛。そう思う人は多いだろう。常に笛を持ち笛に固執し攻撃も笛で行う……と。
 実際、『魔導師の塔』や『わくぷよ』では、パノッティは笛の音で攻撃してくる。その音を聞いただけでダメージを食らってしまうのだ。
 ところが……。オリジナル『魔導3』の段階では、パノッティは攻撃の際に笛を吹かない。(少なくとも、私がプレイした時に吹いてきたことはなかった。)それでも、MSX-2版では手に笛を持っているのだが、PC-98版では持ってすらいないのである。ではどうやって攻撃していたのかというと、MSX-2版では「でこちんっ!」で、PC-98版では漠然と"襲いまくる"か、「わっ!」と大声を出して驚かせつつダメージ、「ダダダンシングッ!」と早口で歌ってアルルを踊らせる、というものだった。
 GG版『魔導V』になると笛を主体にした攻撃に変わるが、パノッティが陽気に笛を吹くとアルルの体が踊りだして止まらなくなる状態変化技か、あるいは笛で殴る、というもので、笛の音そのものでダメージを与えることにはなっていない。


 パノッティが笛の音で攻撃する……それも、特別演奏が下手なために攻撃になる、というイメージは、いつどこで発生したのだろう。はっきり「笛の音で攻撃」をしたのはMD版『魔導』が最初かと思われるが、最初のきっかけは『ぷよ1』のデモであるように思う。

(パノッティ、笛を演奏している)
アルル
「?」
パノッティ
「なんで おどらないんだよぉ!」
アルル
「知らないよ、そんなこと。」
パノッティ
「さては、耳くさってんだろ。耳くさってんなー。」
アルル
「失礼しちゃうなぁ もう。」
パノッティ
「ぼくの笛でおどらないなんて ゆるせないぃぃぃ!」
アルル
「勝負なら受けるよ!」


 このデモを、「アルルが踊らないのはパノッティの演奏が下手だから」→「パノッティはひどく笛の演奏が下手だ」と解釈したことが、笛の音で攻撃……という設定に繋がっていったのではないだろうか。実際、『ぷよ通』のノーマルモードのデモは「笛の演奏が下手」という解釈になっており、『ぷよCD通』では、はっきりと「そーんな下手な笛でよく言うよ!」とアルルに言わせている。
 なお、『魔導師の塔』では笛の音でダメージを与えつつ、「なんで ぼくの笛の音で おどらないんだよう!!」と地団太を踏むので、本人は演奏でダメージを与えたいわけではないらしい。(シェゾは親切にも「(しかたねぇなぁ)おっ 体がかってに おどりだす〜」と踊ってやったのだが、パノッティは「ぜんぜん おどりが 音楽とあってないよ おまえ ぼくを バカにしてるな ゆるせない!」と逆切れした……。)

 いつのまにやら「超絶演奏下手」ということになってしまい、同じく超絶音痴のハーピーとセットで描かれることが多かった。これは、パノッティにとっては不名誉かつ不本意なことだったのではなかろうか。


 ところで、パノッティの笛は単独アイテムとしても『魔導物語』に登場することは、意外に認識されていないかもしれない。
 MSX-2版『魔導3』では、パノッティが落としていくそれを何度でも入手できる。店売りさえしている。売ってもなかなかいい値が付くので、ラスボス戦前の資金稼ぎになるし、戦闘中に吹いてみても、敵を踊らせることができて愉快である。移動中に吹くと敵が踊りながら現れることがあるので、魔寄せも出来るようだ。
 このアイテムの記憶が、『ぷよ通』通モードのデモやGG版『魔導V』の、笛の音でアルルを踊らせる、というシチュエーションに進化したのだろう。

 しかし、これは注意すべきことだ。笛を拾っただけのアルルが吹いても敵が踊る。つまり、パノッティの笛の音を聞いた者が踊るというのは、演奏主が誰かということには依存しない、純粋なアイテムの効力だと考えられるからである。

 そう考えてみると、『ぷよ1』のデモでアルルが踊らないのは、逆に奇妙だ。パノッティが「なんで踊らないんだよぉ!」とキレるのも無理のないことだろう。
 考えられる解釈は幾つかある。

1. 笛の魔力を打ち消すほど、パノッティの演奏が下手だった
2. 笛の魔力を意に介さないほど、アルルの芸能センスが壊滅的だった
3. アルルの魔力耐性(レベル)が強かったために、この程度の精神攻撃くらいなんともなかった

 あくまでパノッティが下手だったから……と解釈することも出来るのだが、アルルの側に問題があったと解釈できなくもない。思うに、あのデモは「下手なくせに自意識過剰なパノッティを笑う」ものではなく、「当然踊るべきところを踊らない状況の奇妙さを笑う」意図のものだったのかもしれない。


 以上、パノッティの笛は「演奏を聴いた者を踊らせる」というものなのだが、『わくぷよ』ではやや異なる用途でも使われていた。さそりまんが飼っていたドラゴンを、パノッティが笛の音で操って連れ出してしまったのだ。
笛の効果が切れたら なかよくできないなんて 友達じゃないよ!
 とアルルに叱責されて、パノッティは反省する。
 ここでは、いつの間にか、パノッティの笛の効果が「他人を自在に操る」というものに変化している。


 パノッティの笛は、『はなまる』ではゲームを進行させるために使用するアクションアイテムとして登場する。この笛を吹くと、近くにモケラモの石がある場合やまびこが返る。また、高空にいるハーピーを呼び寄せることも出来る。
 なお、『はちゃめちゃ期末試験』では、試験官のパノッティが次のフロアへの扉を開ける際にこの笛を吹き鳴らしていた。音声鍵としても使えるらしい。



●伝承の世界
 パノッティの名は、どうやら中世の西欧で、遠い辺境に実在すると考えられていた奇形人間に由来するようである。
 まだ世界の完全な姿が知られていなかった時代、人々は遠い国には異様な姿の人間や動物が住むと考えていた。一本足のスキヤポデス、犬頭の人間キュノケファロス、身長が三十センチしかない小人族ピュグマイオイ。パノッティもそうした存在の一つで、ピンと立った巨大な貝殻のような耳を持った種族であり、スキタイ地方に住むとされた。スキタイの羊という別名を持つバロメッツとは、実は同郷なのである。

 しかし、実際のゲーム中のパノッティは、むしろ西欧、特にケルトの伝承に現れる小人(妖精)を基にしたキャラクターのように思われる。何故なら、彼は赤いとんがり帽子に緑の服を着ている。これは、西欧の妖精の定番コスチュームなのだから。
 妖精は緑の服を着ていたり、髪や歯が緑色だと語られることが多い。西欧では「緑」は高貴・慶事の色とされる反面、魔の色でもある。つまりは神霊の色なのだろう。西欧の民話では悪魔も緑の服を着ているし、悪魔の母親の歯は緑色のことがある。森の王の髭は緑色で、水の精も、髪か肌のどちらかが緑色だとされている。
 また、音楽とダンスを好むことや、イタズラ好きという性格も、伝承ではおなじみのものである。

 妖精の項で書いたが、妖精とは「妖怪」であり、本来は「霊」である。祖霊・神霊・死霊に対する畏れや恐怖が、彼らを敬い、かつ忌避する信仰を生み、様々な名前や姿を想像させ、物語を生み出していったのだろう。
 その姿と定義は広範かつ様々で、子供だったり年頃だったり年寄りだったり、美形だったり醜かったり獣の姿だったり、巨人だったり小人だったり普通の人間サイズだったり、翅があったり無かったり、鱗や水かきがあったりなかったりする。
 妖精は、夜に現れる。野の妖精は地下や塚や丘の中に潜んでいて、莫大な財宝を持っている。家の妖精は家の中で物音を立てたり、家事やいたずらをする。彼らを鎮めるために一杯のミルクや新しい服を供えなければならない。時には水の底や地の底に人間を引きずり込んだり、水死者の魂を水の底に集めている怖ろしい者もいる。
 これらは全て、死霊〜矮小化した冥界の神の特徴である。
 世界の民間信仰の中で、冥界は地下にあるとされる他、時には天上や山上、森の中、樹の枝葉の上、水の底、岩石の中にあるとされるが、妖精はそれらの場所によく関わる。
 彼らが音楽好きというのも、歌舞音曲と交霊儀式の関係を思えば納得がいくだろう。

 現代では、妖精はファンタジー創作に登場する気が好くて可愛いキャラクターであるが、かつての人々は これらの死霊や怪異たちを畏怖していた。彼らの名を直接呼ぶことすら避け、機嫌をとって、「紳士たち、良い人たち」を意味する「ディナ・マッハ」という呼び名以外は口にしてはいけないとしていたほどである。


 妖精の中でも、野に群れて暮らしているとされる者たちは、美しいか低人こびとで、賢く豊かであり、お祭り好きで、人間にも友好的である。――彼らの意に背くことをしない限りは。
 夜、時に、彼らは丘塚の中や牧草地で音楽を奏で、環を描いて踊っている。もしも人間がこの宴会に紛れ込んでしまったら――うまくすれば、彼らのご馳走を味わったり、素敵なお土産をもらえたり、吟遊詩人シャーマンとしての霊感を授かることもあるのだが、これはよくよく幸運なことである。大抵は命を失うか、見知らぬ場所に放り出されるか、正常な時間から隔絶され、浦島太郎のように未来に取り残されてしまうだろう。
 『はなまる』でアルルがパノッティ達のパーティに紛れ込み、一晩踊っただけでお土産までもらったのは、かなり運がいいことだったのだと思わざるを得ない。


 さて、パノッティの笛は聴く者を否応なく踊らせてしまうマジックアイテムだが、これもまた、伝承の中に容易に見出せるものである。『うかれバイオリン』の名で西欧の民話として知られ、グリム童話にも『いばらの中のユダヤ人』という類話がある。
 ある貧しい男が旅に出る。彼は乏しい財産しか持っていないが、行き会った小人に要求されて、それを気前よく譲ってしまう。すると、小人は「音色を聴いた者は踊りださずにいられないバイオリン」を授けてくれるのだ。
 男はこのバイオリンを使い、悪人や悪魔をいばらの中で踊らせてボロボロにして財宝を奪ったり、町の人々を踊らせて笑わぬ王女を笑わせたりして、幸運を得る。
 同種の、奏でれば周囲の者が踊りだすマジックアイテムと言えば、モーツァルトのオペラ『魔笛』で、パパゲーノが使う魔法の鈴をも思い出す。

 以上のものでは、楽器そのものが魔法の力を持っているのだが、小人(妖精)自身が楽器を演奏する場合、楽器とは無関係に演奏者自身の能力として「周囲を踊らせる」ことが出来る。
 ケルトのある伝承によると、ティペラーリイ地方の外れに四人の息子を持った正直な夫婦が住んでいた。上の三人の息子は優れていたが、末息子は異形で足腰も立たず、うなり声しか上げることができなかった。
 周囲の人々は「これは妖精の取替え子チェンジリングだ、シャベルに乗せて捨てるか、焼いた火箸を押し付けるかするがいい」と責め立てたが、母親は頑として拒んでこの子を育て続けていた。
 やがてこの子にバグパイプ吹きの才能があることが分かると、夫婦は特別にバグパイプをあつらえ、子供は見事な演奏の腕前を発揮した。この子の演奏で踊ると、誰もが普段より快活に踊れると喜んだ。まるで、体が勝手に踊りだすようだと。
 また、この子は誰も聞いたことのない不思議な曲を知っていて、これを吹くと家中の食器や家具が飛び跳ね、人間も老いも若きも意思に反して飛び跳ねて、しまいにぶつかり合ったり転んだりするのだった。この子はこれを吹いては人々の様子を見て喜んだ。・・・

 このように、妖精が演奏すれば、人間どころか無生物までもが踊りだすのである。また、上述の伝承では、バグパイプは町の職人に作らせたもので、妖精の楽器ではない。つまり、アイテムの力とは無関係の、純粋な演奏と曲の力である。

 北欧ではネックという川の精が信じられている。その容姿には様々な説があるが、一説によれば、金の巻き毛を垂らし赤い帽子をかぶった可愛い美少年だという。ネックは優れた演奏家で、彼が水面に座って金のハープを弾くと、自然全体に影響を及ぼすという。彼から音楽を習うには、黒い子羊一頭を生贄に捧げ、キリスト教による魂の救済を確約しなければならない。
 また、デンマークには川の人ストレムカルル(ノルウェーではフォッセ・グリム)という小さな滝に住む精がいるが、これも音楽の天才である。音楽を教えてもらう方法も同様で、黒い子羊を木曜日の晩に顔を背けながら捧げると、この滝の精は弟子の頭を右手でつかんで前後に振り回し、指先から血がほとばしるまで続ける。こうすると弟子は名人の技で演奏できるようになり、その調べを聴けば木も踊り滝も止まる。
 ストレムカルルは十一種のメロディを持っており、そのうち十種だけが人間の踊りに許される。残りの一種は彼の主人である夜の精専用のものであり、これを奏でれば、テーブルもベンチも、茶碗も、老いも若きも、体の不自由な人も、揺りかごの中の赤ん坊さえ踊り始めるのだった。
 以上のネックとストレムカルルはどちらも水の妖精だが、先に述べたバグパイプ吹きの妖精の取替え子も、最後には自ら川に飛び込み、水面に座ってバグパイプを吹きながら流れていったというので、同じ系統の妖精だと見ていいだろう。

 なお、中世のユオン・ド・ボルドーのロマンスに登場する小人王オベロンも、金の鎖で胸に吊り下げた角笛を吹き鳴らすことにより、雨や雷や雹や風を踊らせた、という。このオペロンは森に住んでおり、身長は3フィート(91.44cm)ほどしかないが、天使のように美しい顔をしている。
 オべロンはシェイクスピアの『真夏の夜の夢』でもおなじみの妖精王だが、そのルーツはドイツの叙事詩『ニーベルンゲンの歌』の地底に住む小人王アルプリヒにあるといい、アルプリヒはチュートン神話の冥界の王である。
 先に述べた川の精ネックは、一説には「絶壁の上に座って長いあごひげから水を搾り出している老人」の姿をしているとも言われるが、これは北欧神話の主神オーディンのとる姿の一つと同じものである。オーディンは、時に夜空を死霊たちを連れて疾走する死の王と同一視されるが、つまるところ、オーディンもアルプリヒもオベロンもネックもストレムカルルも、古い冥界の神の系譜に連なるモノなのである。

 これら冥界の演奏家たちの力は凄まじい。自然現象すら踊らせてしまう。
 思うに、「周囲を踊らせる演奏」とは、本来は「目の前の人間をイタズラで踊らせる」ようなスケールの小さなものではなく、歌舞音曲によって神霊に働きかけて力を借り、雨を呼び雷を閃かせて自然さえどよめかせ得るという、交霊儀式の信仰の残滓なのだろう。


 ノルウェーの山国では、時折、山や丘の間から悲しげなマイナーコードのエルフの音楽が聞こえてくるという。人間のバイオリン弾きたちの何人かは、それを聞き覚えたとて演奏する。
 それらの妖精のメロディの中には「エルフ王の旋律」と呼ばれるものがあるのだが、バイオリン弾きたちはそれだけは決して演奏しない。何故なら、いったんそれが演奏されれば、老いも若きも、無生物ですら踊らずにはいられなくなるからだ。
 その踊りは、演奏者自身が曲を逆向きに弾くか、誰かがそっと演奏者の後ろに回ってバイオリンの弦を切らない限り、止めることは出来ないのである。

inserted by FC2 system