「……と、いうわけで、昨日のことは全くの誤解なのだ。不快な思いをさせてすまなかったな」
目の前の少女達に向かい、私は言った。
翌日の朝。
昨夜、街に戻るとアルルもルルーもとうに家に戻っていたが、(アルルはルルーの屋敷に泊まっていた。)流石に深夜に女性の家を訪ねる無礼はしたくなかったので、朝になって出向いたわけである。
「あの……」
ルルーが口を開く。
「昨夜のことって…? あたくし、あまり覚えていなくて……。ミノに聞いても何も言わなくて。何かあったのですか?」
どうやら、酔っていた間の記憶はすっ飛んでいるらしい。
「覚えていないのか? ……いやっ、無理に思い出さなくていい。くだらんことだ」
少し気抜けしたが、その方がいいだろう。私は少しホッとした。
さて、アルルは……。
「まぁ、別にいいケドさ……。ボク、よくわかんなかったし」
ケロリとした顔でそう言ったので安心したのも束の間。
「今回は信じてあげるよ。でも、次にそういうヒキョーな手を使おうとしたら、許さないんだからね!」
耳元でさっと囁いて、アルルは私から離れた。
「ちょっとアルル、サタン様になに内緒話なんてしてるのよ。いやらしいわねぇー」
「なんでもないよ。ねっサタン」
「は、ははははははははは………」
とりあえず笑うこと以外、今の私に出来るだろうか……。
「そ、それでだな……。一晩遅れなのだが」
そう言うと、私は背後に控えていたホネ男から、二つの鉢を受け取った。
「これを二人に。受け取ってくれ」
クリスマスおめでとう、とお決まりの辞を述べながら、私は二人にそれを渡した。
「これ…?」
「それは雪の花だ。夜になれば花が咲く。……ああ、部屋の中に置いては駄目だぞ。なるべく寒い場所に置くんだ」
「へぇー……。見たことのない葉っぱだね」
「サタン様……! サタン様からこんなものをいただけるだなんて! あたくし、大切にいたしますわ」
頬を紅潮させたルルーに、アルルが笑いかけた。
「よかったね、ルルー」
「あんたと同じってのが気にくわないケド……。ま、いいわ。どっちが綺麗に咲かせられるか競争よ。といっても、あたくしの勝ちは目に見えているけどね。オーホホホ!」
「競争って……。でも、ありがとうサタン。サタンがお花をくれるなんて、ちょっとビックリしちゃったよ」
「あ、いや……」
私は口篭もった。
「実は、それは私からだけのプレゼントというわけではないのだ」
「え?」
「それは元々、シェゾの育てていた花でな。奴から譲り受けてきたわけだ」
あまり言いたいことではなかったが、黙っているのも男らしくない。
「げ、シェゾが!?」
「もっと意外……。へぇーシェゾがねぇ…」
二人は目を丸くしている。そうだろう。私とて驚いた。
「ま、いいや。大切に育てるからね。……どんな花が咲くのかなぁ…」
咲いた花を見て、二人が驚いたり喜んだりしている様子を想像して、私はふと笑みを浮かべた。贈り物をする楽しさというのは、結局これに尽きるのかもしれんな。
だからこそ…。我らが世界に忘れ去られた存在になってなお、私はこの祭りを消し去る気になれないのかもしれない。――聖なる者、光が生まれた記念すべきこの日を。
地に堕ちた私がこんなことを思うのを知れば、神は笑うだろうか?
「サタン様、あたくしのさしあげたセーターも、ぜひ着てみて下さいね!」
「うっ!? そ、それは……」
日に輝く雪はあくまで白い。まばゆい光が青空の下に広がっていた。
THE END