目の前は、銀に輝いていた。
「雪、か……」
積もった雪ではない。まるで雪の結晶のような小さな銀の花をいくつも付けた草。それが、森の中にぽっかりと開いたこの空間一面に、白銀のじゅうたんのように咲き誇っていたのだ。
この私が初めて見る花。まさに、雪の花と呼ぶに相応しい。
それが降り積もる雪に囲まれ、青白い月光の下で煌いている様子は、まるで幻想じみて美しかった。
私は、自分の心が感動に震えているのを感じた。
世界と共に生まれ、十万年以上の時を経ていても、こうして自然の美しさに感動することができる。
そう。一万年前にあの少女と出会い、そして今、アルルと出会って心の糸を震わせているように。
思うに、「情」というもの――「痛み」を含む――は、人間どもが言うように枯れ果てたり石になることはなく、泉のように常に湧き出で生まれてくるものなのだろう――「心」を持つ限り。
「……おい。いい加減にどきやがれっ…!」
「んっ?」
「下」から声がして、初めて私は自分の下にあの男――シェゾ・ウィグィィが潰れているのに気付いた。
「貴様……。ここで何をしておるのだ?」
「それがイキナリ空から降ってきて人を押し潰した奴の台詞かぁああ…!」
息も絶え絶えに奴は言う。
そういえば、私の上にはびっぐぷよも乗ったままだったのだ。人間にはさぞや苦しかろう。
……というより、よく生きていたな、こいつ。
「では、この花はお前が育てたのか……」
数分後。
ようやく人心地ついた奴から、私は話を聞いていた。
「意外だな。お前に花を育てるような趣味があったとは…」
「別に育てたって訳じゃない。たまに様子を見に来ていただけだ」
言いながら、奴は痛めたらしい腰をさすった。
「そうは言うが、自然のままではここまで見事には咲くまい。……何という花だ?」
「知らん。
……昔、旅をしていた頃に見つけて、ここに植えた。夜、それも雪の降るような寒い季節にしか咲かん。俺は勝手に、雪の花と呼んでるがな」
「そのまんまだな」
「うるさい!」
「しかし、そう呼ぶしかあるまい……。冬の夜にしか咲かない花か。見事という他ない自然の造形だな」
そのまま、私達は黙って雪の花群れを眺めた。
「……しかし…」
ややあって、シェゾが呟く。
「なんでこんな森の奥で、夜、野郎と二人で花を眺めてなきゃならんのだ?」
「それを言うな…」
考えないようにしていたというのに…。
「大体、お前なんでここに来たんだよ。今日はパーティーとやらを開いているんじゃなかったのか?」
「ぬぉっ! そうだった!」
私はアルルとカーバンクルちゃんと、ルルーを捜していたのだ。
何故こんな事になったかといえば、そもそもはプレゼントで……そうだ!
「シェゾ! 貴様に頼みがあるのだが!」
「な、なんだ?」
面食らったシェゾに向かい、私は口を開いた。