ダンジョンの内部には闇が満ちていた。
ところどころに、侵入者よけの仕掛けもしてあるようだ。
だが、この私には何の意味も成さない。
なにしろ、私は魔王サタンなのだからな。
我が強大な魔気を感じて、小者の魔物どもは近寄ってもこない。
ふっ……。
私にとって、このダンジョンはただの迷路に過ぎないのだ。それとても、この超感覚と頭脳を使えば……。
カチッ
「ん?」
今、肘に何か当たったような……。
どこからか、鈍く低い響きが聞こえてきた。
お約束だな。
やはりアレか? こういう場合、背後から、通路を巨大な玉などが追いかけてくるという……。
などということを考えている間にも、音は間近にまで迫っている。
それは、やはり転がる巨大な玉だった。
ふ。罠としてはありきたりだな。予想通りだ。
それがただの玉ではなく、どでかいびっぐぷよだったこと以外は。
「ぷよぷよぷよぉ〜〜!!」
「のわぁあああああ!!!」
狭い通路を、巨大な、ぷよぷよして目玉のついた物体が、意味不明の声を上げつつ猛スピードで転がり落ちてくるというのは、なかなかに生理的圧迫感を与えるものではあった。
と、いうわけで、私は決してびっぐぷよごときを恐れたわけではない。
第一、もしもこのダンジョンにアルルがいたとして、この私の沽券にかけ、びっぐぷよなんぞに押しつぶされた情けない姿を見せるわけにはいかないではないか。絶対に!
全力疾走する通路の果てに、微かに明るく四角い形が浮かび上がっている。
出口だ!
私はラストスパートとばかりに、その中へ飛び込んだ。
そこは間違いなく外だった。
雪は小降りになり、丸い月が冴え冴えとした光を投げかけている。
問題は、地面はそこにはなく、遥か下方数百メートルの位置にあったということだけだ。
「……――――――ぁあああああああ!」
びっぐぷよと共に、私は落ちていった。
今日は、なんてよく落ちる日だ。……この高さだと流石に痛そうではあるな。まったく、安全管理のなっていないダンジョンだ。普通の人間だったら、命を落とすかも………ん? そうだ、私は魔王ではないか。なんのことはない。背中の翼で飛べばいいのだ!
「よしっ」
私は背中の翼を開いた。
どんっ。ひゅるるるる〜〜〜〜〜バキボキバキ ぐしゃっ。「ぐげっ!」
………。
落ちてきたびっぐぷよが私の背中に乗っかり、私はそのまま地面に激突した。パラパラとへし折った小枝や木の葉が降ってくる。
くうぅ。結局、びっぐぷよの下敷きになってしまった……。何か暖かくて柔らかいものの上に落ちたのが、不幸中の幸いではあったが……。
「……おおっ!?」
顔を上げて、私は思わず感嘆の声を漏らした。