雪がヴェールのように視界を遮っていた。
「どこに行ったのだ…」
一時間後。私は雪の舞い散る夜空を天翔けていた。
流石にあのままでは落ち着かなかったので、アルルを捜しに出て来たのだが、どこへ行ったのか家には帰っていない。ルルーの屋敷にも行ってみたが、こちらも帰っていなかった。
二人して、どこかへ行ってしまったのだろうか。
ミノタウロスもついているし、別に心配するほどの事もあるまいが……。雪も降っていることだしな。
「ん…?」
細かい雪片の向こうから、ゆらゆらと大きな白い物体が近付いてくる。耳慣れた騒音も……。
「ハーピーか」
「はらほろひれ〜〜。サタン様ー、こんばんはですわ〜〜」
ううう。相変らず大した音痴だな。
「少し尋ねるが。ハーピーよ、お前、アルルとルルーを見なかったか?」
「アルルさんとー、ルルーさんですか〜?」
「うむ」
「ああ〜〜〜〜っ!!」
「うぎっ!?」
い、今のは……。脳天に響いた、ぞ…。
「し…知っているのか…?」
「いいえ〜。全然知りませんわぁ〜。今、発声練習中なんです〜〜」
私は黙ってこの鳥頭の鳥女の頭をはたいた。
「痛いですわぁ〜〜! はぁ〜らぁ〜らぁ〜〜〜〜」
「ぬぐぁああああ!」
猛烈な音の暴力で、私はふらふらと墜落していった。
ぼて。
雪の積もった地面に落ちる。
くぅうう……。
まだ耳がじんじんしているぞ。
この私にここまでダメージを与えるとは、ハーピーおそるべし……。
「ふふふ。来たのね」
「んっ?」
顔を上げると、目の前に飛び出した目玉の大アップがあった。
「どわぁあ!?」
「ふふふ。いきなり降ってきてその態度、失礼ね」
……金魚商人のふふふか。少し驚いた。
「すまなかったな。…それより、お前は何をしているのだ? こんな鳥も通わぬような山奥で、商売か?」
たとえ封印された異次元であろうとも、どこからともなく訪れて商売する。それがヤツら魔物商人のやり方ではあるが。
しかし、見たところ品物もない。
「ふふふ。……入場料なのね」
「は?」
ふふふの視線を辿ると……。
山肌に、ぽっかりと暗い口が開いているのが目に入った。
「ほお。ダンジョンか?」
それも自然のものではない。人の手が入ったもののようだ。見たところ、古代魔導期のものか。
「こんなところにダンジョンがあったとは…。成る程、ここの入場料をとっているというわけか?」
「ふふふ。入場料、金5000」
「なっ!? たかが入場料に5000だと? 暴利だぞ! 大体、私は入るとは……」
……待てよ? アルルなどは、こういう場所が好きそうではあるな…。
「ふふふ」
「くっ…。仕方がない!」
「まいどありがとうなのね。ふふふ…」
私は金魚商人に金袋を投げ渡すと、ダンジョンに入った。