ふふふんふんふんふん ふふふふ ふふふ ふふふふ ふふふふ ふんふんふん

自分のテーマ曲を歌いながら、彼女は来ます。ふわりふわりとまるで空中を泳ぐように。

「あっ、セビリちゃん」

彼女の姿を見て真っ赤な魚の体に人間の手足の生えた生き物、すけとうだらは、喜びの声をあげました。そう、彼はうろこさかなびとのセビリちゃんが大好きなのです。 彼女はとってもかわいらしいのですが、ちょっと困った性癖の持ち主です。

「あら、すけとうだらさん。今日はお買い物ですか」

にっこりと笑ってセビリちゃんは話しかけました。すけとうだらは、それだけでもう有頂天です。

「そ、そうなんだ。これからぷよまん本舗に行くんだけど、セビリちゃんは?」

「うん、私もちょっとウィンドショッピングをしようと思ってたところなのよ」

セビリちゃんはにっこり微笑みます。その天使のような微笑みにすけとうだらは、「よっしゃぁ」と気合を入れ、意を決したという感じでセビリちゃんに話しかけました。

「そっ、それじゃぁ、俺と一緒にぷよまん本舗にいかねえか」

「ぷよまん本舗ですか」

セビリちゃんは考えるそぶりを見せます。

「あそこはいろんなものがあって見ているだけでも楽しいぜ」

すけとうだらのひとおしです。

「そうですね、すけとうだらさんについて行きます」

まるで、プロポーズへのこたえのような返事をしてセビリちゃんは微笑んでいます。すけとうだらはもう胸がドッキドキしてクラクラです。

でも、ちゃぁんと気を取り直してかっこよくセビリちゃんをエスコートしました。 セビリちゃんがどう思っているかは知りませんが。

「わぁ、すてき」

セビリちゃんは声をあげます。

ぷよまん本舗には、食料品から雑貨、衣料品からアクセサリーにいたるまで、ピンからキリまでところせましと並んでいます。 頬を上気させてお洋服やアクセサリーを見るセビリちゃんにすけとうだらは目を細めます。 「やっぱかわいいな〜」 デート気分を味わいたいすけとうだらは、アイスクリームをふたつ買って、ショーウィン ドウをのぞきこむセビリちゃんに近づきました。

「セビリちゃん、はい」

セビリちゃんは一瞬、間を置いたあと、気持ち上目遣いにすけとうだらを見て、「ありがとう」と、にっこり笑ってアイスクリームを受け取りました。

その意味があるかないかの仕草をすけとうだらは見逃しません。なんといってもセビリちゃんが好きなのです。

「そうだ。今日は何かセビリちゃんの好きなものを買ってあげるよ」

「ええっ…そんなぁ、すけとうだらさんの気持ちはうれしいけど…」

セビリちゃんは慌てて横に首を振りました。

「いいんだよ。俺の気持ちだからさ。」

セビリちゃんはそれでも、いけないと言う様に首を振ります。

「セビリちゃんに何かプレゼントしたいんだ」

一生懸命言うすけとうだらに、セビリちゃんはようやくうなづきました。

「じゃあ」

セビリちゃんはショーウィンドウの中をのぞいて行きます。その動きが止まりました。

「どれどれ、どれだい」

セビリちゃんの視線の先をすけとうだらはのぞきこみます。そこにはきらきらと美しい宝石の指輪がありました。

「きれいだなぁ、きっとよく似合うよ」

セビリちゃんはうれしそうに、にっこり微笑みました。その笑顔を見て、すけとうだらの気持ちは舞い上がりながら、視線は自然に値札に行きます。

「げげっ」と、思わず飛び出しそうな声を、すんでのところですけとうだらは飲み込みました。 お高い。これだけあったらカレーは何百杯食べられるかなぁ、とどこか遠くで考えている自分がいます。婚約指輪って給料の何ヶ月分だっけ、とも思い浮かびます。 もっとも、すけとうだらが働いているのかどうかは謎ですが。

「すけとうだらさん」

セビリちゃんのいぶかしげな声で、すけとうだらは我に返りました。

「ああ、ごめんセビリちゃん。これだね」

「あの…」

心配そうにのぞき込み何かを言おうとするセビリちゃんを「ちょっと待ってな」と、とどめて、すけとうだらはお店の奥に行きました。

しばらくして店長のもももさんが指輪をカウンターに持って行ってきれいにラッピングします。そして、ようやく現れたすけとうだらがセビリちゃんを呼びました。

「セビリちゃん。プレゼントだよ」

そう言って、先程もももさんがきれいにラッピングしていた指輪をセビリちゃんに渡しました。

「ありがとう。すけとうだらさん」

満面の笑みを浮かべてセビリちゃんは指輪を受け取ります。セビリちゃんはすけとうだらにせがまれてさっそく指輪をつけてみました。光に透かしたりしてはしゃいでいるセビリちゃんのうれしそうな笑顔を見て、すけとうだらもとてもうれしそうです。そして満足げ にうなづくとこう言いました。

「セビリちゃん。今日は誘ったのに悪いんだけど、急用ができたんだ。またこの次付き合ってくれるかい」

「そうなんですか。急用なら仕方が無いですね。私で良かったらお付き合いします」

「ああ、また今度な」

そうして、すけとうだらとセビリちゃんは別れました。

「ももも〜。毎度毎度懲りないのね〜」

二人の様子を眺めながら店長のもももさんはつぶやきます。指輪代と引き換えに働くべく すけとうだらが店の奥に入ってきます。 もももさんにとってこの光景は見慣れたものです。よく懲りないものだと思いますが、すけとうだらはどうやら自分の立場に気づいていないようです。誰かが忠告したこともあったようですが、すけとうだらは恋に盲目です。

まあ、本人が幸せなら良いのでしょう。 一方、セビリちゃんはるんるん気分でお家へ帰っていきます。 うろこさかなびとの宝石箱にまたひとつ高価なアクセサリーが加わりました。


おわり


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