「次の関門はワープ地獄」
プレートのこの予告どおり、地下3階はとんでもなく厄介な場所だった。あらゆる通路に転移の魔方陣が書いてあって、どんどんどこかに転送されてしまう。
まあ、転移先がこの階のどこかに限られているのと、危険な場所への転移はなかったからいいんだけどね。またプレートがあった。
「汝は迷える子羊か? ならば地下2階に戻るがよい」
…それはご親切にどうも。でもボクは迷子じゃないし…ルベルクラクを探してるんだもんね。更に先に進もうとすると、痛っ! 何かが足の裏に刺さったよっ。ボクは飛びのいた。見ると、床一面に画鋲がばら撒いてある。誰がこんなことを。って、犯人はもうわかってる気もするけど…。
果たして、ボクは床に置かれた手紙を発見した。
「罠にかかったようね。そんな実力でサタン様を奪おうなんて無謀だわね。おーほほほ! ルルーより」
むかーっ、ルルー許せん! …とはいえ、会ったコトもないんだよなぁ…。
やっとのことで次の階への階段を発見。その近くの壁には例によってプレートがかかっていて、「次は壁地獄」と書いてある。…ハイハイ。もー何でもいいよ。
地下4階。うひゃあ、何だかここは暑いなぁ。…んんっ? 階段から降り立つと四方はすぐに壁。扉も何もありゃしない。どーすればいいんだろ。…待てよ。さっき「壁地獄」って書いてたよねえ。
ボクは試しに手近の壁を叩いてみた。…変化はない。よおし、それじゃ、これならどおだ! 体当たり! …いったぁ〜いっ! だけど、間をおかず壁が消えうせたじゃないか。やっぱりね。他の壁も試してみたけれど、消えるのはその壁だけのようだった。壁が消えた先はほんの少し空間を空けて、また壁になっている。そうか、つまり消える壁と消えない壁があって、消える壁をどんどん消しながら先へ進めってコトなのね。わかった。わかったケド…これって、痛いよぉ。
そしてボクが先に進もうとすると。
「ハアハア…み、見つけたぞ!」
もはや聴きなれてしまいつつある声が聞こえた。よほど焦って追いかけてきたのか、肩で息をついてる銀髪の魔導師。
「また倒されに来たの?」「今度こそお前をもらう!」「えっ!?」
…今、なんかすごいコト言われたような。
「いや…コホン…訂正。お前の力をもらう!」
なんだ…ちょっちビックリしたけど。ボクは笑い、ウインクしてみせた。
「ボクに勝てたらね!」
彼は強い。だけど、いいかげん戦い方のクセとか技なんかを覚えてしまっている。ワンパターンの剣の攻撃と、古代魔導。へっへーん、もう楽勝だもんね。
とはいえ、結構てこずったけど。「無念っ!」と魔導師が倒れるのに、そう時間はかからなかった。
さーて、先に進まなくっちゃ。
この階には巨大な赤いカエルの姿をした魔物の商人、むほほがいた。装備を整えて。ちなみに一番買ったのは毒消し草だったかもしれない。何せこの辺りにはスキュラやメデューサのような毒を持った魔物がやたらと徘徊していたからだ。
ある消えない壁に、こんなプレートがかかっていた。「らっきょと鍵の重さは同じ」…? なんだろコレ。
穴のあいている壁があった。覗くと…危ないっ! 矢が飛び出た。ほほを掠めて、血がにじむ。こ、これはシャレになんないぞー。床には手紙が落ちていた。またぁ? …でもまぁ、一応読んでみよう。
「意外に頑張ってるじゃないの。でも私の方が早いからムダよ! おーほほほ! ルルーより」
相変わらずワケわかんない。ん? まだ続きがあるぞ。
「そうそう、この手紙は自動的に消滅するから気をつけて」
途端に。ぼんっ! 手紙が爆発した。ボクは顔真っ黒になっちゃった。なんなの〜…。
やっとのこと、次の階への階段を発見。…ひええ、ボクもうフラフラだよ。だけど、この階では瞬間移動アイテムどんぱうんぱを発見出来たんだ。これで探索が随分楽になるよ。とりあえず、どんぱを仕掛けて、ワープで 3階の隠し部屋へ。そこには古ぼけた魔導書が置いてあった。
「暗闇に対抗する力…ライト」
ボクはライトの魔法を覚えた。
それからうんぱを使うと、たちまちどんぱを仕掛けた4階へ移動。うーん、これは便利だね。
そういえばこの階にはヘンな宝箱があって、開けると一回り小さな箱。それを開けるとまた…って感じで、延々と箱が入っていた。で、苦労して手に入れた中味はというと、金10。…そりゃないよぉ。
ボクは5階に降りた。
降りてすぐ、突き当たりの壁にプレートがあって、「右と左、どちらかの扉を選べ」とある。選べって言われても…うーん、なんとなく左。
左の扉をくぐってふと見ると、さっきまであった右の扉は影も形もなくなってしまっていた。選べって…こういうコトかぁ。
その時、誰かがいきなり怒鳴った。
「きさまッ!! 今度という今度は許さんぞ!」
お馴染みの声。やれやれと振り向くと、やっぱり、銀髪の魔導師だ。
「またあんたか…しつこいなぁ」
「うるさいっ。大体、人を「あんた」呼ばわりするのはやめろ。俺の名はシェゾ・ウィグィィだ!」
「ふーん…そうなんだ」舌噛みそうな名前だね。魔導師…シェゾはおもむろに剣を構えた。
「何度倒されようと、お前の力を手に入れるまで俺は諦めん!」
「ご勝手にどうぞっ」
全く、懲りないんだから。
ばたんきゅ―したシェゾを置いて、ボクは先に進む。
この階にもルベルクラクはない。いや、これまでに通過した階でまだ入れていない隠し部屋にあるのかもしれないけど。
地下6階。
真っ暗だ。何も見えない。
手探りで進もうとする…と。 つるっ。足元が滑った。あ、あややや? つるつる、とまんない。どーなってんの? やっと止まったから立ち上がると、またつるつる。ひえええー。
何も見えないし、何がなんだかわかんないよぉ。この暗闇に対抗するには…あ、そうだ。
「ライト!」
ボクの手から放たれた光の玉が辺りを照らす。やれやれ…やっと人心地ついた。
とはいえ、床が滑るのまでどうにかなったわけでは当然ない。
つるつる滑っていると、どこからか何かが聞こえてきた。床の下・・どうやら下の階にいるみたい。女の人の声だ。
「おほほほほ! これで完璧ね。こんな所に地雷があるなんて絶対誰も気付かないわ! さてと、進みま……し、しまったああ! 仕掛けるのに夢中で、地雷を置いた場所を忘れてしまったわ! …仕方ないわ。南に進んでみましょう」
カツカツ… ドカン!
あ、爆発した…。すっさまじい振動。
「あいたたた…こっちはダメみたいね」
げっ…地雷を踏んで、あいたたたで済むかふつぅ…。
「そうそう北よ、北だわ!」
カツカツ… ドカン!
あ、まただ。
「んもぅ、痛いわねぇ…」
し、しぶとい…。
「西なら大丈夫なハズよ! もう、お気に入りの服が台無しじゃないの!」
ふ、不死身かこいつは…。
「着替えを持ってきて良かったわ。地雷は8つだからここから北にはないハズね」
カツカツ…
あ、爆発しない…。
「おほほほほ! こんなワナにこのあたしが引っかかると思って?」
ハア…。
「って言ってる場合じゃないわね。さっさと着替えてサタン様に会いましょ」
…あ、音がしなくなった。
なんなんだろーなー。って、なんとなく予測はつくケド…。
ううう、あんまり関わりたくないってカンジがするなぁ。
それから、相変わらずつるつると滑っていたら、床に大きな穴が開いていてそこから下に落ちてしまった。
いたたた…お尻から落ちちゃったよぅ。
ここ、地下7階は霧に覆われた階。手探りで進んでいると…足元で何か小さな音がした。
え?
ドッカアアァアン!!
ボクは地雷を踏んでしまったのだ。
ひ、ひどいよ〜ぉっ。
よく見ると、床にはいくつか大きな穴が開いていた。地雷が爆発した跡なのかな…。それから、スコップ。きっとあの女の人…多分「ルルー」が地雷をうめるために使ったものなんだろう。って言っても、ここ石畳なんだケド…。びりびりに破れたドレスも落ちていた。
それから、壁に手をついて進んでいると。
「お前の力が欲しい!」
んんっ? まーたあいつか…って、あれ? なんだかボクに言ってるんじゃないみたい。
「おほほほほ! あなたも私の美貌に惚れたのね」
ルルーだ。二人の声は壁の向こうから聞こえた。
「誰もそんなコト言っとらん」「でも、私には素晴らしいフィアンセがいるの。だから諦めて」「何をワケのわからんことを言っている! 俺は力が欲しいのだ!」「ちょっと! 手を触らないで! 嫌だったら! もーしつこいわねっいい加減にしてよっ!!」「なにっ!?」「とりゃー!! 必殺・背負い投げっ!」
うわあ、すっごい音がする。
「ぐぐぐ、無念っ!」
シェゾはばたんきゅーしたみたい。
「おほほほほ! 弱い男は嫌いなの。バイバイ」
カツカツ…。勝ち誇ったルルーの足音が遠ざかっていった。
ボクは壁の向こうに行ってみた。って言うより、次の階への通路だから仕方がないんだけどね。
床にシェゾが落ちている。
あれ? これは…。ボクはシェゾの右手にイヤリングを見つけた。ルルーのかな。すっごく高価そうなイヤリングだ。ボクはそれをいただいてその場をオサラバした。
ちなみに、この階からワープで上の階の隠し部屋にも行った。そこにあったのは古ぼけた魔導書。
「呪文をかけられた物体の空間をひずませ、時間を高速に進ませる。その名もばよばよ」
ボクはばよばよの呪文を覚えた。
これは敵をよぼよぼにして弱くしちゃう魔法なんだ。
黄色いだるまみたいな魔物・もももの店で装備を整えて(あれもこれもっていっぱい買ってたら、「もー、しつこい客」って嫌われちゃった)、ボクは地下8階へと降りていった。