バン!!

 その時、扉が壊れるほどの勢いで、誰かが部屋に飛び込んできた。

「誰だ!?」「そいつから離れろ!」

 サタンの鋭い誰何に答えたのは…。

 シェゾっ!? 助けに来てくれたんだ!

 だけど、シェゾはそんなボクに冷たい一瞥をくれたっきり。

「その娘は俺が先に見つけたんだ。貴様の好きにはさせん!」

 …期待したボクがバカだった。トホホ…。

 突然の闖入者に、だけどサタンは余裕の顔だ。

「何をたわけたことを言っている。この娘は自らの意志で私に会いに来たのだ。お主の出る幕ではない」

「そこまで言うのなら、本人に決めてもらおうではないか!」

「フム、よかろう。娘よ、どちらにするか決めるがよい」

 えええっ? なんだかおかしなコトになったぞ。

 サタンとシェゾはどっちも自信満々。

「俺のところへ来い!」

「さあ、私のもとへ来るのだ」

 トホホ………………………………うええ、どっちもイヤだぁ!!

「遅いっ!! 早く決めねば、半分ずつに切り裂くぞ!」

 短気なシェゾは魔剣をかざしてとんでもないことを言う。そ、そんなぁ。トホホホ………究極の選択だよこれは…。

 ヘンタイおにーさんのシェゾと、変質者魔族のサタン。シェゾに魔力を取られるのもサタンと結婚するのもイヤだけど…でも、間抜けなぶん、まだシェゾの方が抜け道があるかも…ばたんきゅーさせようと思えばそう難しくないし。逆に、サタンの強さはまだ未知数だ。

 ボクはシェゾを選んだ。

「!!!!! 私より、こやつの方がいいのか!?」

「ハハハハハ、だろうな。あんなオッサンなら誰だって嫌だろうよ」

 勝ち誇ったシェゾの台詞に、サタンの肩がぴくっと震える。

「まぁ、オッサンなんか はなっから相手じゃないし」

 ぴくぴくっ

「若く見せてるだけで、実はジジイじゃないのか?」

 ぴくぴくぴくっ

 シェゾってば…もしかして、わざと煽ってるのだろうか? サタンの殺気がどんどん膨れ上がっているのが分かる。わざと言ってるんじゃないとしたら、やっぱりシェゾって相当なマヌ……。

「さぁ、ジジイは放っておいて俺と一緒に来い」

「まぁああああてぇえええ!! そこまでコケにされて黙っていては、サタンの名がすたる!」

 やっぱり、サタンは大激怒。右手を突き出し、そのてのひらから漆黒の刃を打ち出す。

「死ねぇっ! サタンブレード!!」

「なにおっ!! アレイアードスペシャル!」

 どっがああぁあああん!

 ぐわっがっしゃあぁあああああんっ!

 二人が戦ってる。ひえええええ、すさまじいぃ。ボクは巻き込まれないようにするだけで精一杯。

 最初は拮抗しているかのように見えた二人の力だけれど、やっぱり、やがてシェゾが押され始めた。さっきまであんなにフラフラしてたんだもんね…それに、サタンの力はもしかして底無しなのだろうか?

「く、くそぉッ!」

「少しはやるようだが、そんな力で私に刃向かおうなど百億年早いわッ。サタンブレード大打撃ぃいいいい!!!」

 うわあぁあっ。

 どぐぁっっしゃああぁぁぁんっ!!!

「む、無念っ!」

 シェゾはばたんきゅーだ。

 部屋は急に静かになってしまった。

「フ……、これで邪魔者はいなくなった」

 サタンがボクに近づいてくる。

「それでは契りの口付けを」

「やだっ」

「恥ずかしがることはない。潔く私の妃になれ」

「やだよっ」

 キツく返すと、サタンは一瞬おかしな物でも見たような顔をして、急に表情を荒げた。

「生涯の愛を誓えっ」

「やだってば!」

「私は世界が滅びようともお前を愛してやるというのに」

「いらないよぉーだ!」

 ボクはアカンベーをする。いくら愛してくれるっていったって、一方的な愛を押し付けられてもメイワクなだけだ。しかも、ついさっき会ったばかりで名乗り合ってすらいないボクにそんなことを言うなんて、なんだか胡散臭いよ。

 あくまでかたくななボクの態度に、サタンは業を煮やしたようだった。シェゾほどではないものの、こいつもあまり気の長い方ではないらしい。

「しかたない、大人しくしてもらおう」

 サタンの身体に魔力がみなぎってくるのが分かる。ボクはダイアキュートの呪文を唱え始めた。サタンが迫ってくる。

「お前の力を捧げよっ」

「よ、寄るなぁ!!」

 ううっ。体力と魔力を吸い取られた。シェゾだけかと思ってたけど、こいつもヘンタイだわ。

「アア アイスストーム!」

「ほお」

 ボクの渾身の一撃を受けて、しかしサタンは余裕の顔。

「なかなかやるな」

「はぁ はぁ はぁ…」

 ボクは息を整える。

「フム、予想以上だな。ますます気に入ったぞ。さぁ、私と誓いの口付けを交わそう」

 …こいつはそこからアタマを動かせないのかぁ――っっ!

「ち、近寄るなぁ―――!!」

「フ、照れるでない」

 再び、がっしりとつかまえられてしまう。シェゾは…っていうと、ばたんきゅーしたまんまだし。

「ちょ、ちょっと待って!!」

 ボクはなんとか逃れようともう必死。

「その前に、ルベルクラク知らない?」

「勿論知っておるが、それがどうしたというのだ」

 ボクは元々、それを探しにきただけなんだよーっ。

「実は、それを取りに来たんだけど」

 途端に。

「な、なにぃ! そんなことをしたらカーバンクルちゃんの命が!」

 サタンの顔色が変わった。

「へ? カーバンクル? 何のこと?」

「ゆ、許さぬっ!」

「ちょ、ちょっと!?」

 なんだか様子がおかしい。さっきまでの余裕をかなぐり捨てて、サタンは本気でボクをにらみつけた。

「たとえ私の妃であろうと、それだけは絶対に許さなぁあああい!!」

 おいおい、誰があんたの妃だよ。…って突っ込みしてる場合じゃない。サタンの姿が変貌した。頭にはねじくれた二本の大きな角が直立し、背中には竜のそれのような漆黒の翼が広がる。多分、これが彼本来の姿なのだ。

「許さぬぞ」

 朱金の瞳が炎のように輝いている。わわわ、相当怒ってるよ。まいったなぁ…。

「ダダ ダイアキュート!」

 ボクの身体を魔力の輝きが取り巻き、駆け登る。

「死ねっ!」

 サタンがボクを攻撃した。いった〜いっ! でも、ボクだって…! 

「ファファファファ ファイヤ―!」

「甘いな」

 げげげっ! なんてことだろう。サタンはマントをひるがえして攻撃を跳ね返した。そして連続攻撃。

「死ねッ」

 ひええええっ、巨大な衝撃っ。このままじゃホントに殺されちゃうよ。

 その時。

「ぶーぶー」「その声はピグラ!?」

 戦いの場にまるで不似合いなブタの商人は、背中の包みから一本の杖を取り出した。

「グレートスタッフ出来た。渡す。金10,000くれ」

 ボクは財布を放り投げる。

「お金は全部あげるからそれを渡して!」

「毎度あり。またよろしく」

 杖はしっかりとボクの手の中に収まった。それから大きな魔力が染み入ってくる。傷ついた身体も、疲弊した魔力も全て回復していく!

 よおっし!

「ダイアキュート!」

 ボクは再び増幅呪文を唱え始める。

「死ねっ!」

 あまりの場違いさに止まっていた攻撃の手を、再びサタンが繰り出す。だけど…!

「吹け、嵐よ!」

 爆発的な魔力がボクの掲げた手の先に集中し、膨れあがった。

「アアアアアアアア アイスストームっ!」

「ぐぁっ」

 氷の渦がサタンを覆う。大打撃っ!!

「ばたんきゅ――っだ!」

 サタンは倒れた。

 

 

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