やたらとキスを迫る結婚偏執の変質者も倒したし、ヘンタイはのびてるし。
一安心していたボクの足に、何かがぶにっと触れた。
「きゃああああっ!」
思わず悲鳴を上げてしまった。それはあったかくって柔らかくって…しかも、動いたのだ。
「何?」
薄暗い部屋の片隅で、何かがキラッと光った。小さな、赤い光。
「ぐ…ぐ…」
「ぐ?」
……!
生き物だ。
それはちっちゃくって真っ黄色で、ウサギみたいな耳をしていた。やっぱりちっちゃくて短い手足。丸いしっぽ。黒くてビーズみたいなつぶらな瞳。そして暗闇で光っていた、ひたいの赤い宝石。
それを見た瞬間、何故だかカミナリみたいに閃いた。
…これ…ルベルクラク、だ。
ボクは鮮明にサタンの言葉を思い出していた。
「そんなことをしたらカーバンクルちゃんの命が!」
ちっちゃな黄色い生き物…カーバンクルは部屋の隅でふるふると震えていた。……脅えてるんだ。
「…大丈夫だよ」
いつのまにか、ボクの顔には笑みが浮かんでいた。
「安心して。キミのひたいから もぎ取ったりしないから」
「ぐ…ぐ…?」
カーバンクルが恐る恐るといったカンジでボクを伺う。ボクはそっと手を伸ばす。やわらかな感触が指先に触れた。
「ぐ…!」
分かってくれたみたいだ。カーバンクルはぴょんと跳ねると、ボクの肩に飛び乗った。まるで長年の指定席みたいにね。
よろしくね。
何故だか、そう言ってるのが分かる。ふふ、こちらこそよろしくね。
「じゃあ、行こっか。カーくん」「ぐー!」
ルベルクラクは手に入らなかったけど、代わりに見つけた小さなトモダチ。
こうして、ボクとカーバンクルはライラの遺跡を後にした。
外に出ると、辺りは夕焼け。結局丸一日以上かかっちゃったなぁ…。とんだ寄り道だったよ。
カーくんと一緒に歩きながら、ボクはふと、何か忘れていることがあるような気がしたんだけど…んー…なんだっけ? 思い出せない。ま、いいか。
実際、ボクは忘れてた…そして知らなかったのだ。カーくんがサタンのとても可愛がっているペットだったってこと。そしてそのカーくんを連れていってしまったがために、今後ずっとサタンに付きまとわれる羽目になるだなんて。
そしてもう一人。今回ずっとすれ違っていた「彼女」に、カーくんが原因で散々な目に遭わされるってことも、当然、この時のボクは全く知らなかった。
ちなみに、ヘンタイおにーさんのシェゾと再会するのは、もう少し先になるんだけどね。
とりあえず「彼女」と出会うその事件が始まるのは、これから三日後。ボクとカーくんが街道を歩いていたときだった。