魔導物語3


 それは、ボクらが一緒に旅を始めて三日目のことだった。

 ボクらっていうのは勿論ボク――魔導師の卵アルル・ナジャと、不思議な黄色い生き物・カーバンクルことカーくんだ。

「お腹すいたね、カーくん」「ぐー」「そろそろお昼食べよっか」「ぐっぐー!」

 なんて会話を交わしながら、森の脇に沿う街道を歩いていた時。

「ちょっとアンタ、待ちなさいよっ!」

「え?」

 突然呼び止められて、ボクはビックリして立ち止まった。

 そこにいたのはとってもきれいなお姉さん。豊かな淡いサファイアの髪は背で波をうち、大胆なスリットの入ったドレスでその豊満な肢体を覆っている。顔立ちも美しく――ボクを睨み付けている今の表情がちょっとキツい印象だけど――概ね文句無しの美女である。

「あなた、よくもこのあたくしを無視してくれたわねぇ」

「は?」

 お姉さんは形のいい眉をきゅっと逆立てて言った。…そう言えば…さっきから誰かがごちゃごちゃ喋ってるような気がしてたけど…あれってボクに言ってるんだったのか。

 でも、こんなお姉さんがボクに一体何の用…。

「サタン様はあたくしと結婚するのよ! アンタなんか、絶対に認めないんだからっ」

「へ?」

 な、なんだ?突然話がよく分からない方向にワープしたぞ。

「あの…何の話だか分からないんですけど…」

「とぼけないでよ、あんたの連れているカーバンクルこそサタン様との婚約の証! カーバンクルを手に入れるのはあたくしのはずだったのよ」

 ボクは驚いてカーくんを見る。婚約って………ナニ言ってるんだ?

 ボクは三日前の、あまり思い出したくない出来事を思い返した。サタンっていうと…アレだよねぇ。キス魔の変質者…。ううう、あーいう目には二度と遭いたくないよぉ…。

「あのー、サタンはライラの遺跡の地下100階でばたんきゅー状態ですけど…」

 なにがどーなってそんな誤解をされてるのか分からないけど、とりあえずボクはそう言ってみる。

「うそばっかし! キーッ、許せないわぁあ!!」

 でも、お姉さんはてんで聞く耳持たない。

「出でよ、ミノタウロス!」

 どこに控えていたものか。お姉さんの呼び声に合わせて、突如、斧を持った大男が現れて雄叫んだ。それもただの大男ではない。頭が牛の姿をした恐ろしい魔物だ。それが斧を振りかざしながらボクに向かってきたものだからたまらない。

「わあぁああ!」

 ボクは逃げ出した。でも、後ろからミノタウロスの荒い息が追ってくる。ひえええ、一体何なんだよぉ〜っ!

 ボクはとにかく逃げた。むちゃくちゃに逃げて…ふと気付くと。

 ミノタウロスの気配がない。

 それもそのはず。ここは街道から遠く離れた森の中。…そう。ここは迷いの森。一度入ったら二度と出られる者はないという、迷いの森の中だったのだ!

 

 

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