地下はちょっとしたダンジョンになっていた。

 といっても、そんなに大きなものではない。二層くらいの小ぢんまりとしたものだ。

「ハイホー!」

 雄たけびを上げつつ襲い掛かって来たのは、凍りついた原始人みたいな姿をしたバーベガジだ。氷の精霊なわりに、その攻撃は棍棒を振り回してくるというもの。短い手足のその攻撃を避けるのはそんなに難しくはない…のだけれど。

 ヒュ〜……

 ハ・ハックション!

 バーベガジの出す冷気に当てられて、ボクは風邪をひいてしまった。ううう…熱が出て頭がふらふらするぅ。鼻も詰まって、じゅうぢゅうりょぐがざがるよぅ。

 モンスター商人の店で買った卵酒を飲んで一服。ふぅー。


 それから再び探索を始めたボク。ダンジョンの片隅には小さな泉(完全に人の手が入っていて噴水みたいな形をしている)があって、その水を飲むとボクの周りを星のような光が飛び交った。どうやらダイアキュートと同じ、魔力増幅の効果があるようだ。便利でいいんだけど…ちょっと気持ち悪いかも。

 ダンジョンを一巡りして、ボクはまた最初の階に戻ってきた。

 うーん…やっぱりこれだろうなぁ。

 ボクは床の魔法陣を見る。多分これが出口につながる転移の魔法陣。だけど、上に乗っても何も起こらない。きっと何か魔法陣発動の条件がいるのだ。だけどそれが何なのか…。

 それとも、この魔法陣は別になんでもなく、もっと他に隠し扉とか、何か仕掛けがあるのかもしれない。

 ダンジョンで見つけためぼしいものといえば、他に本が二冊あった。赤と青の表紙で、それぞれ壁の中に埋め込んで隠されていたりして中々いわくありげなんだけど、中は全くの白紙。何か重要な呪文か脱出のヒントが書いてあるのかと思いきや…。

 うーん。

 じっとして考えていても仕方がない。それに、魔法陣のあるこの部屋はおかしなガスが充満していて、火の気でもあろうものなら爆発しそう。恐くて火系の魔法は使えない。こんな状況でバーべガジでもやって来ようものなら踏んだり蹴ったりだ。 


「ぐー!」

 ダンジョンの一角を回っていたとき、不意にカーくんが声を上げた。

「え、どうしたのカーくん」

 立ち止まって、ボクは小さな――囁きと言ってもいい声が聞こえるのに気がついた。どうやら、壁の向こうから聞こえるようだ。声はボクの存在には全く気付かず、お互いに会話しているようだった。

「私は見たわ」「私も見たわ」

「魔法陣の上で」

「二冊の本が」

「歌うように」

「白い光がいっぱいに満ちて」

「そして扉が現れる」

「きれいだったなぁ」「きれいだったねぇ」

 それっきり、声は聞こえなくなった。

 ボクは壁の向こうに行ってみたけれど、そこにはもう誰もいなかった。


 

 ボクは魔法陣の部屋に戻った。魔法陣の上に立って、二冊の本を開く。

 と。

「そうはさせないぞう!」

 突然、大きな象の姿をした魔物、ぞう大魔王が襲い掛かってきた!

 咄嗟に、ファイヤーを唱えかけたけれど…いけないいけない、ここには変なガスが充満してるんだった。

「吹け、嵐よ! アイスストーム!

「くやしいぞ〜ぅ」

 ぞう大魔王はばたんきゅーだ。

 気を取り直して、ボクは本を開いた。

 一冊だけでは何も起こらない。けれど二冊目を開いたとき。不思議な共鳴が起こった。空気が震えている。まさに、本が歌っていた。本の歌声が合わさり、高まるにつれ…魔法陣が光を放ち始めた。その光はどんどん強くなり――部屋が白で満たされ……。

 

 

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