誰かが覗き込んでいる。
目を開けるなり、いきなりのどアップ。思わず飛びすさった(気持ちだけは)ボクだけど、よくよく見ればそれは小さなカエルだった。
うーん…カエルのアップなんて初めて見た。
「ミノタウロスの迷宮に落ちるなんて、ついてないケロ」
カエルは言った。カエルが喋るのも初めて聞いたよ。…のーてんきな顔してるけど、これで魔物の一種なのかもしれない。
「ミノタウロスもルルーも恐ろしく強いやつらだケロ。ケロたちは小さいから平気だけど、お嬢さんはきっと大変だケロ」
カエルはそんな事を言う。ボクがちょっとむっとすると、とりなすようにこう続けた。
「とりあえず、王様に会ってみるといいケロ。相談に乗ってくれると思うケロ」
「王様?」
「王の中の王、カエルの中のカエルのカエル王だケロ」
言うだけ言うと、カエルはケロケロと跳ねて行ってしまった。
…カエルの王様かぁ。
確かに、ここに住んでいるカエルの王様なら、ここからの脱出方法も知っているかもしれない。他に当てもないし、会いに行ってみようかな。
少し先に進むとアイテムショップがあった。けれど店員はお馴染みのモンスター商人ではなく、カエル。確かにここはカエルの国みたい。
店を出ると、床に刻まれた文字を見つけた。
『七つの鍵が次の扉を開く鍵』
なんだろこれ。
答えはひどく単純だった。
このフロアのあちこちには七つの鍵が隠されていて、それで次のフロアへの扉を開けなければならなかったのだ。七つも鍵穴のある扉だなんて、随分厳重な扉もあったもんだよ。
七つの鍵の扉を開けて次のフロアへ進もうとすると、またも床に刻まれた文字があった。
『この先キケン! 覚悟はいいか』
うーん…なんだか随分と親切だかおせっかいな人がいたみたい。
「よく来たケロ。わしがカエル王ゲーロンだケロ」
カエル王は「王」と言うだけあって立派なカエルだった。…ひげが生えてるんだよ。あれって付けひげかなぁ。右手に杖…と言うか王笏を持っていて、もっともらしく玉座に座っている。
ボクはこの迷宮の出口を聞き出そうとしたけれど、カエル王はなんだか一方的に喋り出した。
「究極の女王…それにふさわしい者にスーパー魔導スーツを渡すのが、わしの使命だケロ」
「…はぁ?」
「見たところ、そなたにはスーパー魔導スーツを着こなす素質があるケロ」
「ボクにその…スーパー魔導スーツをくれるっていうの?」
「スーパー魔導スーツは地下三階の南の倉庫にあるケロ。ただし、今は魔物がはびこっていて危なくて近寄れないケロ。悪いけど取ってきてほしいケロ」
あらら…ボクはずっこけちゃった。
「ぐっ」
肩でカーくんも一緒にずっこける。
そうそううまい話はないってことだよねぇ。…とはいえ、そんなにすごい魔導スーツなら是非とも欲しいところだし…究極女王云々ってのは別にして、ミノタウロスやルルーはむちゃくちゃ強いって話だもの。
「ボク、取りに行ってくるよ」
「じゃ、がんばるケロ」
カエル王に見送られて、ボクは地下三階へ。そして辿り着いた倉庫で待っていたモノは…。
「うっ…何、この匂い!」
「があぉ! まーた盗み食いに来たなぁ!」
「うわっ、ドラコ、またキミなのぉ?」
意味不明の台詞を叫びながら飛び出してきたのはドラコケンタウロス。
「ちっちっちっ…今回のあたしは一味ちが〜う! 」
ドラコは立てた指先を左右に振る。
「パワーアップしたあたしは、そう、スーパードラコ! あんたなんかに絶対負けないんだからね!」
ドラコ…いや、スーパードラコはボクに襲い掛かる。
「アイスストーム|」
「いったいなぁ」
へたり込んだドラコは、餃子を取り出すとすごい勢いで食べ始めた。
うっ…この匂いだぁ。にんにくくさ〜い!
にんにくパワーでスーパードラコは完全回復だ。大きく息を吸い込む。
「くらえっ、ファイヤーブレスっっ!」
だああっ、炎の熱さもさる事ながら、この匂い、たまんないよぉーっ。
…なんとかスーパードラコをばたんきゅー。
倉庫の片隅に、問題のスーパー魔導スーツがあった…けど。ううう。すっかり匂いが染み付いちゃってるぅぅ。
ボクはくさい魔導スーツを手に入れた。
やだけど…仕方がない。着よっと。
着てみると、結構可愛いデザインだったりしてちょっと嬉しくなった。ボクが今まで身につけていた左胸と肩だけを覆う簡単なものではなく、両肩と両胸、腰の一部を覆う仕様。一番の特徴は胸の真ん中についた大きなリボンだ。ちょっと某美少女戦士みたいだね。
とりあえず、カエル王に報告に戻ろっと。
「おお! まさか本当に取ってくるとは…いや、ゲフンゲフン、とにかくたいしたもんだケロ!」
カエル王はえらく喜んだ。ちょっと不穏な台詞も混じってたけど…。そのうち「まさにそなたこそ究極女王様だケロ!」なーんて騒ぎ出したりして。でもねぇ…究極女王様、究極女王様って…なーんか怪しい人みたいだよ。それに女王様って言ったら、なんとなくあのタカビーおねーさんを思い出すんですけど。
カエル王は、試練を潜り抜けた褒美にと北の扉を開けてくれた。そこを通って、ボクは更に次のフロアへと降りて行ったってワケ。