地下四階。
ここは地下三階へ上ってまた降りたり、ちょっとややこしい。見た目は普通の壁なんだけど通り抜ける事ができたり、転移の魔法陣があったり…。
早々に、更に下に行く階段も見付けた。でも、降りた先は壁に区切られていて先に進めない。通路には転移の魔法陣が仕掛けられていて、進もうとすると強引にスタート地点に戻されちゃうし。ここ、通り抜けられないのかなぁ…。壁に近づいて調べていると、その向こうから恐い獣の雄たけびが聞こえた。…ミノタウロスだ! 多分、出口はこの向こう。でも出るためにはきっと、ミノタウロスと戦う事になる。
ボクはぜーったいに泣かしちゃる、という決意を新たにしたけれど、戦って勝てるかっていうとあまり自信はなかった。ついでに言うとこの壁を通れなければどうしようもない。
まぁ…もしかしたらミノタウロスと会わずに出られる出口もあるかもしれないしね。
ボクは四階に戻った。未探索の場所を見て回ろう。
北東には池があった。と言ってもごく浅いので、凍らせて渡る必要もないみたい。そこで渡ろうとすると…わあっ。誰かに足を引っ張られた! 現れたのは頭に皿を持ったカッパのおねーさん。
「おい、ここは私の縄張りだよ」
な―んて、意地悪そうに言う。
「ちょっとだけ通らせて欲しいんですけど…」
「駄目だね」
くーっ、なんてヤな人なんだ!(って、人じゃないけど。)
「どうしても通らせて欲しいんならさァ」
コレだよ、とカッパのおねーさんは何やらゼスチャー。
「…お金?」
やだなぁ。今時、魔物も金次第かぁ。ボクは財布の口を開ける。でも、おねーさんはちちちと舌を鳴らした。
「キューリだよ」
「は?」
「通して欲しけりゃキューリを持ってきな」
げげーん。
そう。カッパの好物と言えばキューリ。キューリと言えばカッパ(?)!
でも、キューリなんてどこにあるのさぁあ。
「『ミノタウロス迷宮大浴場』…?」
塩をまぶしたキューリの気分で戻ったボクが、まだ行ってないところを回っているうち見付けたのがこの「のれん」だった。
迷宮にいきなり赤いのれんっていうのも変だけど。うーん…でも、入ってみようかなぁ。
やっぱ、疲れたときはお風呂だよねぇ。
ボクは大浴場に入った。他には誰もいない。カーくんとボクの貸切り状態だ。
んんんっ、すっきりした。ふふふん気分サイコーだよ。
上機嫌で大浴場から出ると、一匹のカエルと鉢合わせた。
「の、覗いてなんかいないよ。ホントだよ」
何故か大慌てでカエルは逃げて行った。
…なんだろ、あれ。
ま、いいか。
ん?
そーいえば思い出したよ。確か前に行ったところにカエルマートの倉庫があったなぁ。カエルマートっていうのはこの迷宮のあちこちに支店を出してるカエルのコンビニなんだけど。倉庫には店頭でも見かけなかったすっごく沢山の在庫があったし、もしかしてあそこにならキューリがあるかもしれない!
これは大正解だった。
「キューリキューリ♪ 通っていいよ」
カッパのおねーさんを懐柔し、ボクは池を渡る事ができたのだった。
…ん? 池の底に何かあるよ。
拾い上げてみると、それはカエルの形をした緑色の袋だった。袋を押すと笑い出す「笑い袋」と言うおもちゃがあったけど、それみたい。でも、この袋は押すとカエルの声で鳴き出した。
ケロケロッ
「呼んだか、ケロ」
途端に、カエルの商人が大きな商品の袋を背負って現れた。
ふーん、これは商人を呼び出せるアイテムなんだ。便利なもの手に入れちゃった。
池を渡りきると、突然視界が歪む。転移の魔法陣があったようだ。ボクはまた別のどこかへ運ばれて行った。