――その時、我々の目の前に現れたのは古代の宝物庫であった。一体、如何なる素晴らしい宝がそこに隠されているのだろうか。我々取材陣は、ついにその中へと踏み込んだのである。


 …な―んて冗談はさて置き。

『古代宝物庫』

 実際に、ボクの目の前にそんな看板がそびえている。

 はるか昔、現代とは異なる体系の魔導が確立し、全盛を誇っていた時代があった。それがいわゆる古代魔導だ。今となっては伝える者もいないが(そのわりに、こないだ出会ったヘンタイおにーさんは呪文使ってたケド)、その威力・技術の水準は素晴らしいものであったと言われている。そんなわけで、今でもたまに遺跡などで発見される古代魔導の遺物…特殊なアイテムなど…にはかなりお役立ちな物が多い。手に入るものなら手に入れておきたいんだけど…。


「いただきまぁす!」

 そう言って飛び出してきたのはおっきな卵のモンスター、ぱくぱくエッグだ。こんな可愛い外見をしていて実はアンデッド。要するに、食べてもらえないまま腐ってしまったゆで卵から生まれたモンスターらしいってコトなんだけど…体の大きな裂け目(要するに口だよね)から黄身を撒き散らして攻撃するのはやめてほしいよ。まぁ、そんなわけでおいしく食べてもらいたがってるらしくて、ボクにゆで卵を差し出した。「ゆで卵食べない?」う。でもこれ腐ってるよ。もらって食べたらお腹がきりきり痛み出したぁ〜。なのにぱくぱくエッグの方はこれを食べると回復しちゃうんだから、ずるいったらない。


 古代宝物庫をぐるぐる回って(ここの床はかってにどんどん動いて行っちゃう。扉や枝道を見付けたら通りすぎないうちにすばやく飛び込まないといけないのだ)、ボクはちょっと変わった扉の前に辿り着いた。扉に大きなライオンの首の飾りがついているのだ。んんっ、いかにも何かありますって感じ。早速扉を開けようとすると…。

『我の問いに答えよ!』

「わあああっ、扉が喋ったああ!」

 どうやら質問に正解しないと開けてもらえないみたい。

 でも、ライオンの質問は変なものばかりだった。

『質問。ルベルクラクとはカーバンクルのひたいの宝石である。○か×か』

 こんなのは楽勝だけど。

『質問。カエル王は右手に杖を持っていた。○か×か』

 ええっ? そんなの、どっちだったかなぁ。

『質問。スキヤポデスの足の指は六本である。○か×か』

 そんなの知らないよぉ。

『質問。ミノタウロス迷宮大浴場は地下四階にあった。○か×か』

 うーん…違ってたような気もするけど…。

 ボクは一問一問答えていく。そして最後の質問だ。

『質問。納豆バナナカレーはおいしい。○か×か』

 ………。


 そんなこんなで。

 全問答え終わったボクはどきどきしながら合否発表を待つ。

『汝はまだ修行が足りぬ。もう一度やり直すがよい』

 だあああっ。

 ボクは宝物庫の最初のフロアに戻されてしまった。


 それから、何度やり直した事か。

『見事だ。通るがよい』

 ボクはとうとう…と言うかやっとと言うか。扉をくぐる事ができたのだった。

 こんなに苦労して入った中の事。勿論、そこが宝物庫だったのだ。でも、そこにはガーディアンが待ち構えていたから、かなり辛い戦いをしなくてはならなかった。

「…杖がある」

 ガーディアンを倒して踏み込んだ部屋の中。沢山のアイテムががらくたのように乱雑に積み重なっている。その中に一際目立って直立する一本の大きな杖があった。

『わしは杖ではないぞ』

「わっ! 杖が喋ったっ!」

 意志を持つ魔導杖は珍しくない。けれどそれは付け添えなもので、こんな風に手に取ってもいないのに意思表示をしてくるヤツなんて初めてだ。

『わしは魔導砲だ。さあ、わしを手に取るがいい』

「魔導砲?」

 杖に似ているけれど、よく見れば確かにそれは何か違うものだった。どうやら溜め込んだ魔導力を杖(?)の先の穴から撃つもののようだ。こういう、機械の仕掛けと魔導を融合させた技術は古代魔導のそれの一つ。たとえば、魔導師の意のままに動く意志ある鉄のゴーレムだとか。ボクは幼稚園の頃そんなゴーレムの一人と友達になった事があるから知っている。

『これを肩につけて、中にカーバンクルを入れるのだ』

 器みたいなのの中にちょこんとカーくんが入る。動力源にはカーくんのエネルギーを使うようだ。

 ……うーん。なんかちょっとカッコいいじゃない?

 もしかして、これならミノタウロスに勝てるかも!

 残念ながら、ここから直接外に出られる道はなかった。だけど俄然やる気の沸いてきたボクは、急ぎミノタウロスの迷宮へ戻って行ったのだった。

 ミノタウロスの迷宮。

 相変わらず、壁の向こうからミノタウロスの声と気配がする。

 よーし、見てろよっ。

 ぼくは魔導砲を構える。チャージ開始、3・2・1……。

どっかあああああぁん!

 すっごい威力!

 壁は粉々、その向こうにいたミノタウロスもひっくり返ってばたんきゅーしてる。

 やった!

「やったねカーくん。…か、カーくんっ!?」

 何気なく肩のカーくんを見やって、ボクはぎょっと目を見開いてしまった。何となれば、カーくんがしわしわのしおしおになっちゃってたのだ!

 魔導砲の威力は確かにすごいけど、エネルギーを取られるカーくんにはかなりの無理がいっちゃうみたい。ああああ、いったいどうすればいいんだろおお。カーくんがしわしわのまま元に戻んないよぉお。

 パニックを起こしてぐるぐる回っていたら、ある部屋で出会ったカエルが「カーバンクルを元に戻すのなら金のらっきょがいいケロ」と教えてくれた。

「待っててね、カーくん。絶対金のらっきょを見付けるからっ」


 迷宮の出口探索は急遽、金のらっきょ探索に変更。

 やがてボクは宝箱を発見した。

 早速開けようとすると…。

 さささっ

 …ええええ!? 宝箱が走って逃げたっ!

 しかも壁をすり抜けて、隣の部屋へ消えちゃったよ。

 追いかけてボクは隣の部屋へ行く。ボクは壁抜けできないから回り道だけどね。

 案の定そこには例の宝箱が鎮座していた。けれど、近付くとやっぱり。

 さささっ

 また隣の部屋へ…。

 うぬぬぬぬっ。ボクは意地になって宝箱を追い掛け回した。そりゃもう何度も。…で…やっと捕まえる事ができたんだけど…。

 …つ、疲れたよぉ…。

 金のらっきょでカーくんは復活!

 そうして、ボクは見付け出した転送の魔法陣に乗った。

 視界が歪み、白色に塗りつぶされる。

 こうしてボクはミノタウロスの迷宮を抜け、ルルーの屋敷に帰還したのだった。

 とはいえ、まだまだこれから。ルルーに会うにはこの入り組んだ屋敷を探索していかなくてはならないのだ。

 

  

NEXT!

inserted by FC2 system