噂通り、ルルーの屋敷の中には魔物が溢れていた。辺境の遺跡やダンジョンにも引けを取らない。…ってこんなコトで引けを取らなくてもいいんだケド。
ゾンビなのに筋骨隆々のマッチョゾンビ。「どうだ、美しいだろう」ってポーズを取って筋肉を見せてくるんだけど、腐りかけで気持ち悪い。
「ひゃっほう!」と奇声を上げて飛び出して来るちょっぷん。この人、何故か頭に四角い紙袋を被っている。その上に四角い眼鏡。服装はこれまた何故かボクと全く同じ…つまりスカートなんだけど、声からして男の人なんだよね…。うげげ。攻撃の仕方も変わっていて、持っているエッチな本を丸めて叩いたり、ボクのスカートをめくったり。「やっぱロリがいいッスね」なんて言いつつボクを撫で回すと、ボクはチョッピリ小さくなっちゃう。
「オー、ビューティフル」
こっちはちょっぷんに比べればまだ外見はマシのインキュバス。でも、逆に厄介だ。魅了の技を使われると…ぽわわわわん。ボクはぽーっとしちゃって気がつくと唇を奪われているなんてしばしば。ううっ、乙女の唇をっ! 冗談じゃない。こいつに魅了されてしまうとのーみそがぷーになってしまうのだ。
ぬめぬめとぬめってる舌の魔物、バングロス。舐めまわされるのはすっごく気持ち悪い。一度、倒した後に魔導杖を発見して嬉しかったけど、案の定唾液でぬるぬるだったのだ。トホホー。(勿論使ったけどさ)
「にゃにゃにゃん」可愛い双子のシャムネコの姿をした双子のケットシー。でもこの外見にだまされちゃいけないのだ。引っかき攻撃はかなり強力だし、「ふんばるにゃん」ってされると体力回復されちゃう。
ところで、こういった魔物たちを倒していると、たまに何かの種を落としていく事があった。赤い種だったり青だったり緑だったり。んー…何の種だろう。魔物の商人が「育てるといい」って、土のある所を教えてくれたけど、そんなわけにもいかない。こういった魔法の植物は普通のそれよりよほど成長が早いけど、それでも数日はかかるはずだ。
「ちょっと、引き返しなさい!」
ある扉をくぐると、小さな妖精が待ち構えていてこんな事を言った。
「え、どうして?」「いいから引き返しなさいっちゅーの!」
そんなこと言われてもねぇ。
「駄目だっちゅーのに。もー知らんからね!」
ずっと付いてきてた妖精が逃げていく。途端に、すごい威圧感。ドラゴンだぁあ!
…な、何とか倒したけど…人の話はちゃんと聞くものだね。
ドラゴンのいた先には転送の魔法陣があった。
魔物はまだまだ出てくる。
壁にボタンを見付けた。これまで何度もこんなふうなどこかの扉を開けるためのボタンを押してきたから、今回も押してみる。途端に、けたたましいベルの音が鳴り響いた。しまった、罠だ!
「わっ!」
現れたのは小人みたいな男の子、パノッティ。ちっちゃいからってなめてちゃいけない。むちゃくちゃ素早くてボクを襲いまくる! やがて笛を吹き始めると、あれ、あれれれ? ボクの体がかってに踊り出しちゃう。そんなことしてる場合じゃないのにぃ。と、止まんないよぅ。
「参り申す!」
建物の床を突き破ってというかなり非常識な登場で、サムライモールが現われた。こいつ刃物を持ってて危ない。でももぐらだけあって、ファイヤーを撃つと目が眩んじゃった。
「あれ…なんだろこれ」
つるつる滑るフロアを通っていたとき、小部屋で面白いものを見付けた。理科の実験で使うみたいな三角フラスコに入った透明な水だ。
…これってリカバ水だ!
いわゆる魔法の水で、植物の成長なんかを飛躍的に高めてくれる。すっごく高価なものなんだよ。
…ん? 待てよ。
ボクは以前商人に教えてもらった土のある場所に行って、これまでに集めてきた種を植えた。そしてリカバ水を振りかける。あっという間に土を盛り上げて芽が出、するすると茎が伸びてさまざまな色の花が開く。しかし目をなごませる時期はすぐに過ぎて花は散り、風船のように実が膨らむと、草々は重たげにそのこうべを垂らした。
中に金の入ってる金の実、体力の回復する実、黄金りんごと同じ効果を持つホベリベの実…。でも、中には変な実もあった。赤い大きな実で、取ったら中から小さな羊が這い出してきた! これはバロメッツの実だったんだ。ボクはこいつと戦わなくっちゃならなかった。
ところで、種の中に一つだけ、どうしても植えられないものがあった。それは不思議な種で、常にフワフワと浮かんでいる。だからいくら土に埋めてもすぐに外に出てきてしまうのだった。うーん…この種を育てるには一体どうすればいいんだろ…。
ボクは更に屋敷の中を回った。大きな窓があって、外の景色が見渡せた。結構登ってきたみたいだ。うーん、こうして景色を見ていると心が和むなぁ。さっさとルルーをぶん殴って、こんなところからは脱出してやる!
「美しい首だ」
宝箱を見付けて開けようとすると、誰かが言った。
「だ、誰!?」
慌ててあたりを見ると、宝箱の向こうにいつのまにか誰かが立っている。美しく勇ましげな女剣士だ。
「その首、私がもらう!」
そう言い捨てると、女剣士はボクに襲い掛かってきた。鋭い突き。わわわっ。慌ててよける。
「アイスストームっ」
女剣士がひるんだのは一瞬だけ。でも、この機を逃しちゃいけない。畳み掛けての連続攻撃で女剣士はばたんきゅーだ。…と。げげげっ。女剣士の首が取れちゃった。そ、そんなに強い攻撃をしたつもりはなかったんだけど。
ところが。
「許さぬぞ」
首のない胴体がゆらゆらと起き上がり、再び襲い掛かる!
そうか、こいつが自分の首を携えているという首なしの魔物、デュラハンなんだ。無念の死をとげた剣士がなると言われるアンデッドで、他人の首を奪って自分のものにしようとするという。…ぞぞぞっ。ってことはボクの首を自分のものにするつもりなんだ。まっぴらごめんだよ。…それにしても、首がないのにどうしてこんなに素早く動けるんだろう。攻撃しながらボクは考える。…そうかっ!
「ファファ…ファイヤーっ!」
「ぎゃあああっ」
ボクの放ったファイヤーは転がっていた首に炸裂した。
「許してくれぇ」
デュラハンは今度こそばたんきゅーだ。
やれやれ…。
それにしても、この階もだいぶ歩き回ったけど、とうとう上への階段は見付けられなかった。もちろん転送の魔法陣もない。どこかに隠し扉でもあるのだろうか? いい加減うんざりしてきたし、さっさと上に上がりたいところなんだけど。
と、その時。
「ブモーッ、待て待てぇっ!」
またまたミノタウロスだ。
「これ以上進ませるわけにはイカンっ」
ボクは無言で魔導砲を構える。3・2・1…
ちゅどどおぉおおんっ
ミノタウロスはばたんきゅー。ごめんねー。でももうキミの相手してるつもりはないんだよ。
屋内で魔導砲をぶっ放したので、建物自体がぐらぐらと揺らいだ。おまけに天井は剥がれて、中から土が露出している。ちょっとヤバい気もするけど…ま、いっかぁ。
ボクはとっとと逃げ出す。
「はらひれはれほれ〜」
通路を通っているとばさばさと羽音を響かせて、天井からハーピーが降りてきた。ハーピーは見た目はまるで天使みたいに可愛い女の子なんだけど、歌声は殺人的な魔物。のど飴を取り出してころころと舐めている。この隙にやっつけなくちゃ! でもばたんきゅーしてもハーピーは諦めない。「ほんじゃまた〜」と言いつつ目を回してる。ハアア…冗談じゃないよ。でもこのままぐるぐるこのフロアを回ってたら必然的にそうなるわけで…。
実際、次のフロアへの道を見付けられないボクは同じところを回っている。いつのまにか例の魔導砲をぶっ放した部屋に戻ってきていた。ミノタウロスはどこかに行ったらしく、もういない。
――あ、そうだ。
剥がれた天井を見るうち、ふと思い付いた。
ボクは例の不思議な種を天井の土めがけて投げつけた。不思議な浮力を持つそれは勝手にずぶずぶと土の中に埋まってしまう。よし。
リカバ水をかけるのにはちょっと苦労したけど、すぐに天井から芽が顔を出した。一体どんな実が生るんだろう…。ところが、伸びた茎は見る間にひと抱え以上になり、部屋いっぱいに蛇のようにのたうち始めた。これまでの草の種とは根本的に生える種類が違ったようだ。
「ちょ…ちょっと…」
太った植物に圧迫されて部屋がみしみしと音をたてている。こ、これは…。そしてついに植物は部屋の壁を突き破った!
「きゃああああっ」
ばらばらと天井から砕けたそれが降ってくる。ボクは思わず頭をかばってしゃがみこみ、ようやく様子をうかがった。
植物は天井と床を突き破って、それぞれの方向に成長している。木というよりはつるのようで、昔話に出てくる天の国につながる豆の木のようだった。天井を見ると大きな穴が空いていて、ボク一人なら十分通れそうだ。
「行くよ、カーくん」
「ぐぅ!」
植物をつたって、ボクは上の階に登った。