「この先に恐ろしいものがいる」
床に転がっていたウシみたいなトカゲの頭が言った。
「命が惜しければ引き返すがよい」
そう言われても、ここを通っていくしかないもんねえ。ここの階はちょっと変わった構造をしていて、中心から外側に向けて渦巻き状に通路が連なっている。
ぴょん
ん? …のみだ!
文字通りノミサイズのこいつは、しかし体の小ささからは想像もできないパワーと小ささを生かしたすばしっこさで襲ってきた。すっさまじい連続攻撃。うわ、背中にもぐられて血を吸われたっ。
ぷち。
何とか倒した…けど。歩いていると…じわじわ。せ、背中が痒いいぃいい!
…も、もしかしてウシトカゲの頭の言ってた恐ろしいものってこれだったのかな。
ある小部屋の中に、緑色の固まりが転がっていた。いや、違う。よく見たら苔にまみれてるけど小さな樽だ。振ってみるとごとごとと音がする。滑るので苦労したけれどボクは樽を開けてみた。
「わっ!」
樽の中から転がり出してきたのは、何と言ったらいいのか…喩えて言うなら馬…それも、口の部分だけを分解したような、そんなものだった。しかも、それはぱくぱくと動きながらこう言った。
「女王様は僕たちを人間どもから守ってくれるんだ。人間なんか滅びちまえ!」
それっきり、馬の口は床に落ちて動かなくなった。
こういう話は前にも聞いた事があるような気がする。そう、迷いの森の魔物が言っていた事だ。仕方がないのかもしれないけど、魔物に人間は嫌われている。いや、憎まれてる。でも…それじゃルルーは違うんだろうか。
ちなみに、
「ルルーはメチャクチャ強いケロ。魔導砲もきかないケロ」
と、さっき会ったカエルは言っていたけど。頼みの綱の魔導砲がきかないとなると、どうすればいいんだろう? …にしても魔導砲がきかないなんてルルーは本当に人間なのかな。
「死んでもらおうかぁ!」
考えに耽ける間もなく魔物たちは襲ってくる。
非常にダイレクトな台詞と共に襲ってきたのは……はげ頭だった。
だってその通りなんだから仕方がない。はげ上がった男の首が宙に浮かんでいて、牙をむき出して飛びかかってくる。いわゆる飛頭という魔物だ。
「アイスストームっ」
ボクが攻撃すると、それに怒ったのか、はげ頭は真っ赤になってぷーっと膨らんだ。どんどんどんどん膨らんでく。
どかぁん!
うわぁあああっ。はげ頭が爆発して、ボクは結構ダメージを負ってしまった。
それから何度か飛頭と遭遇して分かった事には、膨らみ始めたら爆発してしまう前に倒さねばならないという事だ。時間制限付きなんてヤな魔物だなぁ。自爆前に倒すと「死んでしまったよっ」とこれまた分かりやすい台詞でばたんきゅー。
ボクはいよいよフロアの外周に到達したようだった。小部屋が連続して続いている。扉を開けると死角がなく、且つ中に何がいるのか開けるまでボクには分からないからとても不利だ。緊張しながら進んでいく。
そしてある扉を開けると…わわわっ。変なガスが噴き出してきたよっ。く、苦しい…これじゃとても前には進めない。
ボクは閉じた扉の前で思案する。
「どうしよっか、カーくん…」
「ぐーっ」
「え、道具入れの中を見ろって?」
ボクは道具入れを広げる。えーと、これは体力回復のふくじんづけ、これはももも酒…あれ、これは?
丸い実がある。確か色んな種を育てたとき収穫した実の一つだ。くわえると口の中に風が吹いてきてスースーするんだよね。
「ぐっぐー」
「あっ、そうか!」
ボクは実を口にくわえた。そしてガスの溜まってる部屋の空気を吸わないように、実から出てくる空気を吸って進んでいく。思った通り苦しくなる事はなく、ボクは怪しい部屋を通過する事ができた。カーくんのおかげだね。道具袋を広げたとき、中から勝手にらっきょを取って食べちゃったけど、それは大目に見てあげよう。
部屋を抜けるとそこは少し長い通路になっていて、突き当りに扉がある。中から、なにやら物音が聞こえた。
「まったくあんたはっ! どーしてそう情けないのよっ」
ビシーッ! ビシーッ!
「お、お許しくださいルルー様ぁっ」
ひええええ…おっとろしい。
ボクはちょっとためらったけど…ええい、女は度胸! ここで帰ったら女がすたるっ。
歩み寄って扉を開けようとすると…扉の方が勝手に開いた。中から誰かが出てきたのだ。