ボクたちはあっけにとられて闖入者を見た。

「お互いに見事だ。しかしこれ以上の戦いは互いに無駄な血を流すのみ」

そうしたり顔で言っているのは…。

「…カエル?」

これまで何度も遭遇してきた緑色の小さなカエルなのだ。

しかしカエルはスカした態度を崩さない。

「ある時はカエル王ゲーロン、またある時は「24時間いつでも開いてます」カエルマートの店員っ」

その姿が一瞬で変わる。すらりとした長身、漆黒の翼に頭から伸びる二本の角。変わらないのは髪の毛の緑色くらい。

「しかしてその実態は…」

…ドスケベ覗きカエル

「はうっ! ち、違うぞ! 私は見ていないっ」

ジト目のボクにサタンは慌てて弁明したが。

ふーん。そっかぁ。あれはサタンだったのか。そっかそっかぁ………。

「がーんがーんがーん」

一方ルルーはよほどショックだったのか、サタンが現われてからずっと座り込んでいる。

「サタン様の正体がカエルだっただなんて…」

ちっが〜う! 私の正体がカエルなのではなく、カエルの正体が私だったのだ!」

「どっちでもいいけどね…」

溜め息ついてるボクの気持ちなんて、相変らずサタンは気にもかけていないよう。

「しかし、さすがは我が妃だ。ルルー相手に一歩も引かないその魔導力、見事だったぞ」

「だ・れ・が妃だよ!」

「まあ、そう照れるな。やはり我が妃は偉大なる魔導師であるアルル、お前…」

ボクは無言で魔導砲を構える。「え?」という顔のサタンめがけて。

ちゅどおおおおおおんっ!

サタンはどこかに吹っ飛ばされていっちゃった。

ま、仮にも魔王ならこんなことで死んじゃったりしないでしょ。

これに懲りて二度と現れなくなってくれればいいんだけど…。

「やれやれ…ボクは早く魔導学校へ行かなくちゃ」

その前に、魔導砲は置いていったほうが良さそうだね。カーくんが今度こそしわしわになっちゃう。

「あ、そうだ」

ボクはまだ座り込んでいるルルーに向き直る。

「ルルー、ババウ岩が取れるようにしてよ」

「…何よそれ」

「しもやけの薬の原料だよ。モケモエの遺跡にあるんだって。でも、あそこに魔物が多くて取りに行けないって街の人が」

「そんなの知らないわよ。あそこは元々ウチの所領よ」

「でも、街の人たちは困ってたよ」

「…ひとつ条件があるわ」

「…何」

「あなた、魔導学校へ行くんでしょ」

「? うん」

「あたくしも一緒に魔導学校へ行くわ!」

「――は?」

「サタン様はおっしゃったわ。偉大な魔導師を妃にすると…。だからあたくしも魔導学校に行って、偉大な魔導師になるの」

…な、なんか筋が通ってるようなめちゃくちゃなような…。

「で、でもボクだって受験の途中なんだよ」

それに、言ってはなんだが古代魔導学校は魔導の最高学府だ。幾多の魔導を志す者たちが目指し、しかし到達できる者は少ない。そんなところに(たとえ才能があるのだとしても)昨日今日急に魔導師を志したような者が入学できるのだろうか? そう思ったけど…言ったらなんだか恐いので飲み込んでおく。

「あなた…さっきババウ岩がどうとかって言ってたわよねぇ」

煮え切らないボクの態度をどう取ったのか、ルルーはにっこりと微笑むとこんなことを言った。

「あたくしを連れて行かないと、ババウ岩は取らせないわよ」

「うっっ」

なんてヒキョーな…。

って、実際ババウ岩が取れなかったからってボクが真剣に困るわけでもないんだけどね。

……ま、いーかぁ。

ボクは一つ、小さく息をつく。

「行くわよミノ、いつまで寝てるのっ」

ルルーが恐らく部屋の中で伸びてたのだろうミノタウロスを呼んでいる。

うーん…怖いミノタウロスも女王様の前じゃかたなしだね。

外に出るとあたりはすごい夕焼け。楽しげなのか不吉なんだか分からない赤で一面に染め上げられている。

「ふふふ…さすがは我が妃候補筆頭の二人だ。互いに競い、磨き合うその姿…美しいぞ!さて、私も校長室に戻って、あの二人を待つとするか」

「ん?」

「ぐっ?」

「何でもないよカーくん、気のせいだったみたい」

何かが羽音を鳴らして飛んでいったような気がしたんだけれど、ま、カラスか何かかな。

こうして、魔導師の卵のボクと色っぽいおねーさんのルルー、寝たふり得意のカーバンクルに牛突猛進(?)のミノタウロスの二人と二匹は、遥か古代魔導学校目指して旅立ったのだった。


とっぷへ
NEXT!

 

 

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