「いやー、今日はいい天気だねぇ」

 野原に寝転んで、ボクは言った。

「ぐー」

 赤や黄色や、色とりどりの小さな花に埋もれながら、カーくんが気だるげに返してくる。

 特に予定がない――というより、ぽっかりと空いてしまった日のお昼前。

 どこまでも青く澄みわたった空には、小さく鳥の影なんかが横切っていくのが見える。

「ホント、気分も晴れ晴れ。こーゆー日はさあ、やっぱり……」

「ぐ?」

 ボクは身を起こすと、ぐっと拳を握った。

「ダンジョンに潜るしか!」

「ぐー!」





魔導物語
道草異聞





 ここでいきなり冒険のあらましについて話すより、まずはボク自身の事なんかを説明した方がいいよね。

 ボクの名前はアルル・ナジャ。この間十六歳になったばかりの女の子。一流の魔導師を目指すボクは、魔導師養成の最高学府である古代魔導学校目指して旅に出た。街を一歩出れば魔物の跋扈するこの時代、己の力だけではるか魔導学校まで辿り着くというのが、つまり入学試験でもあるというわけ。

 勿論、ボクのこれまでの旅も平穏なものではなかった。

 イキナリ「お前が欲しい!」なーんてのたまうヘンタイおにーさんシェゾに捕まったり、初対面で「生涯の愛を誓えっ」とキスを迫る結婚偏執狂の魔王サタンと戦ったり。ま、いろいろあったけど、今は一番のトモダチ、カーくんことカーバンクルとも出会って、楽しく旅を続けているんだけどね。

 そうそう。実を言えば、今のボクの道連れはカーくんだけでなく、あと二人(一人と一頭?)いる。ナイスバティの格闘お嬢様・ルルーと、そのお供の獣人・ミノタウロスだ。彼らと出会ったいきさつは…説明するのも疲れるので詳しくは言わないけれど…簡単に言えばルルーはあのサタンに恋していて、彼のお嫁さんになるために魔導学校で魔法の勉強がしたいと考えているらしい。魔力を持ってないらしいのに、どうやって魔導師になるつもりなのかは知らないケド…。



 人を人とも思わぬ…もとい、ちっとも遠慮がない…いや、ちょっぴりワガママなルルーの態度にもなんとか慣れてきた頃(ミノタウロスが矢面に立ってくれてるおかげでもある)、ボクらはオーイガの街に到着した。

「なんだか騒がしいわねぇ…。何かあったのかしら?」

 ここ、オーイガの街は宿場町として栄えている。というのも、街を分断するように流れているオーイガの河のおかげである。不思議な魔力を持つこの河は、かつては交通の難所として有名だった…らしい。

 「らしい」というのは、今では大きな橋が架けられていて、交通料を払えば誰でも簡単に行き来できるようになったから…なんだけど。

「橋が渡れないですってぇ!? 一体どういうことよっ!」

「し、仕方ないんですよぅ…」

 ルルーにつかみかかられた係の人は、目を白黒させて言った。引っ張られた襟で首が絞まってて、苦しそうだ。

 橋のたもとにある管理事務所に行った時の事。

 すごい人だかりで、全然前に進めない。とうとう、キレたルルーが人ごみを押し分けて事務所に押し入ったんだけど。そこで、このセリフになったわけ。

「とにかく、キケンなんです。今は人が通れる状態じゃないんですから」

 それは数日前、突然に起こったという。

 魔物の大発生。

 それも、今まで見た事もない種類のものだという。

 赤や、青や、黄色や…それら複数の色を持つ半透明の物体が、ぶにぶにと押し寄せて、橋のちょうど真ん中辺りを塞いでしまっているというのだ。

 勿論、街もただそれを放置していたわけではなかった。幾人かの魔導師や戦士など、腕に覚えのある者にその退治を依頼した。けれど、多少片づけても、すぐに何処からともなく新手が現れ、元に戻ってしまう。中には橋ごと魔物をふっ飛ばしてしまおうとした魔導師もいたらしいけれど、元々橋を通れるようにするための依頼なのだ。これでは本末転倒だ。

「うーん…。橋を壊さずに、魔物だけを退治する方法かぁ…」

 確かに、そんな魔法をボクは知らない。

「ルルー様、抑えてくださいっ。ルルー様のパワーでは橋なんて跡形もなく…いえ、壊れて…いや、もしかしたら傷が…」

「うるさいわねウシッ! 解ってるわよ。確かにこの程度の橋、あたくしの超絶パワーの前には板切れ同然でしょうよ」

 ……かなり大きな橋なんですケド…。

「しかたないわねぇ…。それであんたたち、早く通れるようにしてくれるんでしょうね?」

「そりゃ勿論、私達だって早く通せるようにしないと、街の死活問題ですから。一刻も早く解決しようとしてますよ」

 襟元を直しながら、係の人はちょっとむっとしている。

「あたくしだって一刻も早く魔導学校に行きたいわよ。
 …でもまぁ、ここの所歩き詰めだったしね。いい加減、マトモな宿にも泊まりたいし。庶民なお子ちゃまと違って、あたくしはちゃんとしたベッドでないと良く眠れないのよね」

 長い青い髪をかきあげて、ルルーは言う。

「ものすごーく良く寝てたように見えたけど…」

「何か言ったかしらぁ〜? アルルちゃん?」

「べ…別に?」

「ふんっ。とにかく、いい機会だから二、三日宿で休養するわよ。…行くわよ、ミノ!」

「は、はいっルルー様」

 その後ろ姿を見送りながら、ボクらは呟いたのだった。

「…あーあ。ヘンなトコロで足止め食っちゃったね、カーくん」

「ぐー!」


 それから、一週間ばかり宿でぼんやりしていたけれど、橋が開通する様子は一向に見えない。

 だんだん機嫌が悪くなっていくルルーと一緒にいるのも怖かったので、(ミノタウロスには悪かったけれど、)ボクらは街外れの丘の上に登ってきていたのだった。

 この近くに古い廃虚――ダンジョンがあるというのは、宿の人から聞き取り済み。

 そうして、ボクとカーくんはそのダンジョンに向かったのだった。

 とゆーわけで、いってきまーす!

 

ねくすと!

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