地下二階。
いきなり、目の前の突き当りに新しい魔法陣が見えた。右手の床には穴。
あれ? もしかして、地下一階にあったのと同じ穴かな?
ボクは自分でマッピングしている地図を見る。
…間違いないみたい。
うわぁ、随分深い穴だったんだなぁ…。
おそるおそる、ボクは穴を覗き見る。
ずぅうっと奥深くまで、穴はぽっかりとその口を開けている。
お、落ちなくて良かった……。
なんとなく、真っ直ぐに目の前の魔法陣に乗る気はしなかったので、左手奥の扉に進んだ。その向こうにあったのは、またも魔法陣。
…この廃虚に住んでいた人は、よっぽど魔法陣が好きだったんだなぁ。
その魔法陣に乗ると、一階に戻ってしまった。マップで見ると、位置はそのまま、高さだけ上に移動したみたい。いや、さっきの最初の魔法陣も同じなんだけどさ。なぁんだ、これじゃワープしたのと変わらないや。…今のボクはワープなんて使えないんだケド。
ここはリディアの店なんかの裏手に当たる部屋のようだ。
そこで見つけたボックスの中には、ばくはつたまご。
敵に投げつけると爆発して、ダメージを与えると共にしばらくその動きを止めてしまうアイテム。今のボクのおサイフからすればかなり高価なアイテムだ。いいもの見つけちゃった。
ボクはまた地下二階に戻った。
さっきの部屋は行き止まりだったし、今度こそ先に進まなくちゃ。
転移した先は…。
…また地下一階だよ。
やっぱり、位置はそのままで、高さだけの移動。
ううう…。ここを作った人って、何考えてたのかなぁー。
細長い部屋の奥には四つの扉。一つは最初のリディアの店に戻っちゃうらしい一方通行のドア。もう一つは、ただの小部屋…かな? …うわ!?
「おたんこなーっす!」
部屋の中に潜んでいたのはナスグレイブ。眼鏡をかけたナスみたいな形の魔物だ。
「ぼけなーっす!」
ナスグレイブが火を吐いた! が。火が自分の体に移って燃えはじめた。
「言うことなぁああっす」
ナスグレイブはばたんきゅー。……何だったんだろう…。
隣の部屋にはボックスがあった。
中に入っていたのは、シールド。木の盾だ。今の、あまり強い魔法の使えないボクにはお役立ちかもね。
ボクは最後のドアに近付く。と。
「見参っ!」
唐突に、誰かが剣で斬りかかってきた。
丸い頭に、正反対のひょろひょろした手足。茶色い体には木目が浮かんでいる。パペットナイトだ!
「成敗いたすっ!」
「うわぁああっ!」
パペットナイトの渾身の一撃!
ボクはしたたかにダメージを負ってしまった。
「ボクは成敗されるような事なんてしてないよっ」
次に振り下ろされた剣は、ボクが展開したシールド――木の盾に阻まれた。
シールドが鉄壁の守り!
「ぬぬうっ」
その間に、ボクはヒーリングをかける。
「成敗いたすっ」
パペットナイトの再びの一撃。シールドが大きくたわむ。
「ファイヤー!」
「ぬうっ」
炎であぶられ、パペットナイトはたじろぐ。かなりのダメージを与えたようだけど、決定打には至ってないようだ。
「成敗っ」
「きゃあぁっ」
激しい音をたて、ついにシールドが砕け散った!
これで、ボクに攻撃を防ぐ術はない。
パペットナイトの、気の抜けたー―人形然とした顔が、ボクを見据えている。いや実際人形なんだけど。人形なのにどうして動けるのかなぁ…。
「成敗いたす!」
パペットナイトが剣を振りかぶる。その剣より更に上、体の上で、銀色の光がきらりときらめいた。
「アイスストーム!」
「うぬっ!?」
がくり、とパペットナイトの体勢が揺らいだ。ボクの放った氷の嵐が、パペットナイトを吊り下げる銀色の糸を断ちきったのだ。
「ファイヤー!」
「まいったぁ!」
動けなくなったパペットナイトは、炎の中に消え去った。
パペットナイトを吊り下げていた糸が何処から繋がっていたのかとか…そういう事は考えないでおこう、うん。
ううう…。にしても、今のは結構きつかったなぁ…。
ボクは先へ進んだ。しばらくは何もない部屋に、通路の連続。
やがて、行く手に四つ目の魔法陣が現れた。
だけど。
「はらひれはれほれ〜」
今度現れたのはハーピーだ。なんだか、すごく強そう…。
「ハララー!」
ハーピーが衝撃の歌を放った。
うわぁああっ。
の、のーみそがよじれるような大衝撃っ。
再び放つ。ハーピーの猛烈な連続攻撃で、ボ、ボクはもう立ってらんないっ…。
ああぁあああ〜っ、駄目だぁ〜〜!
「えいっ!」
ボクはばくはつたまごを投げつけた!
どっかぁああん!
凄まじい爆発。それほど強いダメージは与えられなかったみたいだけど、ハーピーはビックリして動きが止まっている。
い、今のうちに逃走だ!
なんとか逃げおおせたけど、ボクはかなりのダメージを負ってしまった。魔力も残り少ない。
うう…。リディアの店に戻って、回復アイテムを買い込もう…。
「お客さん、苦戦しているみたいですね」
相変らず何の屈託もなさそうな笑顔で、リディアが言った。
「これなんかどうです? お役に立つと思いますよ」
「魔導書…?」
短い手でリディアが差し出したのは、二冊の魔導書だ。
「この魔導書は、なんと、特定の魔法の発動制限を解くことが出来るんですよ!」
え…ええと。つまり、このダンジョンに入ってから使えなくなっていた魔法が、使えるようになるってこと?
「買った!」
「倍力の魔導書は650G。感涙の魔導書は860Gです」
「うっ…」
合計、1510G!?
ボクはとぼとぼと店を後にした…。
ビンボーって…辛いよぉお…。
魔導書が買えないんだから、自力で何とかするしかない。
ボクは再び、四番目の魔法陣の辺りまで行った。
「はらひれはれほれ〜」
どこに潜んでいたのか、バサバサとハーピーが舞い下りてくる。
「ハララー」
ハーピーが衝撃の歌を放ってくる。ううう。こらえながら、ボクは魔法を解放する。
「ばよばよ!」
時空の歪みが一時的にハーピーの若さを奪い、ハーピーの力が弱まった。よし、今だっ。
「アイスストーム!」
「きょひー!」
悲鳴を上げながら、それでも休む事なく、ハーピーはボクを攻撃してくる。でも、先刻よりは痛くない。
よし、イケるっ。
何度も自分にヒーリングをかけながら攻撃し続けて、ボクはついにハーピーを倒したのだった。
や…やったぁあ…。
ボクは魔法陣に乗った。
再び、地下二階。
魔法陣は、相変らず位置はそのままで、階層だけ移動してくれる。
…これなら、いっそ階段を作ればいいのに…。設計ミスでもしたんだろうか?
扉を開けて進むと、小部屋の突き当りにボックスを見つけた。開けてみると…あれ?
ボックスの中には何も入っていなかった。
マップをチェックしてみたけれど、間違いなく、ここは初めて来た場所だ。
あれぇ…? 誰かが先に取っていっちゃったのかなぁ。
それから、幾つもの扉をくぐって進む。
ある小部屋で、またボックス発見。今度は入ってる…かな? ボクはボックスを開ける。…んんっ?
ボックスの中に入っていたのは、奇妙な縦笛だった。細長くて、先がぽこんと膨らんでいる。どこが奇妙って…ええと…その、なんだ。なんだか、どこかで見た事があるような気がするんだよね。何かの見世物とか…。
一応、ボクは笛を吹いてみた。
思っていたより随分と甲高い音だ。
……何も起こらない。
なんなんだろう…。ただの笛なのかな。こんなに大切そうにボックスに入ってたのに。
とにかく、ボクは縦笛を道具袋に放り込む。
やがて、五つ目の魔法陣をボクは発見した。