「コレヨリ先ニ進ムコトハ マカリナラヌ! 早々ニ引キ返セ」

 どこか機械じみた、守護者の声が響き渡る。

「引キ返サヌカ……。ナラバ排除スルマデヨ!」

 ボクは守護者に立ち向かった。

 

 もう、このダンジョンのほぼ全ては探索し尽くした。後は守護者と戦って突破するか、引き返すしかない。

 

「ヌオオ!」

「きゃああっ」

 守護者のパンチ。まともに当たったわけじゃないけど、充分効いている。痛みをこらえながら、呪文を編み上げていく。

 

 ボクより頭三つ分以上は確実に高い、こんな大男相手に――しかも人間ではない――立ち向かうなんて、ボクは随分馬鹿な事をしているのかもしれない。

 今のボクには、命までかけなければならないような理由はない。

 だけど。

 血が熱い。体の奥底から沸き上がってくるものがある。

 体力、魔力、知力。限界まで振り絞り、己の力を出し尽くす。

 その心地よさ。高揚感が、今、全てを支配している。

 

「吹け、嵐よ…! アイスストームっ」

「ヌウッ」

 氷の刃が守護者を深く切り裂いた。

 うっ…。ぱくりと開いた傷口が垂れ下がっている。

 けれど、傷口には血の一滴も出てはいなかった。やっぱり、普通の生き物じゃないらしい…。

 …んっ?

 げげ。守護者は針と糸を取り出すと、開いた自分の傷口を縫い合わせはじめたよ。

「ナカナカヤルナ、娘ヨ…。ダガ、オ前ニソノ資格ガアルカ?」

 傷を縫い合わせた守護者は、まるでダメージなんて感じさせない。

「私ヲ地ニ倒サヌカギリ、ソノ資格ヲ得ルコトハ出来ヌ」

 荒い息をつくボクに対し、守護者は肩一つ揺れていない。…呼吸もしていないのだろうか? このままじゃ、長期戦になる。でも、長引けば、ボクの方がもたないのは目に見えている。

 ボクは新たな呪文を唱える。効くかどうか分からないケド…!

「ばよえ〜んっ」

 対象者を感動の渦に巻き込む、感涙の魔法。

 きらきらした魔法の光が、守護者を包み込んだ。効いたかな!?

 守護者の動きが止まっている。やったぁ、効いたみたいだ。よーし、この間に攻撃を……げげっ?

「コザカシイ真似ヲ…」

 ギロリと守護者がボクを睨む。ひええ、効果が切れるのが早すぎるよっ。しかも、なんだか怒ってるみたい。扉から離れて、こっちに向かってくる。

「わぁあっ」

「待テ!」

 守護者が追ってくる。

「カーくんっ」

「ぐーっ」

「ナニ!?」

 カーくんがロープのように床に張った舌に、守護者は足を取られた。

「えーいっ」

 そして、間髪入れず、守護者の顔めがけてボクがばくはつたまごを投げつける。さっきシェゾから取ったやつだ。

 どっかぁああん!

「ウォオオオオ」

 どくわがっしゃああああん!!!

 壮絶な音をたてて壁を破壊し、守護者は地に転倒した。

 

「見事ダ……」

 自ら破壊した瓦礫の下から、守護者のうめくような声が聞こえる。

「タダ力ニ頼ッタノデハナイ戦イ方…。仲間トノ協力…。

 オ前ニナラ、相応シイノカモシレヌ……。

 サア、奥ノ扉ヲ開クガヨイ。

 ……永キニ渡ッタ私ノ役目モ、コレデ終ワッタ………」

 

 それっきり、守護者は黙り込んだ。

 

 

 ボクは扉を開けた。

 そこは中規模の部屋。奥に小部屋がある。

 そこに、ボックスがあった。

 ……が。

 

「あ、あれっ? 開かない」

 あろうことか。ボックスには鍵がかかっていたのだ。

 今まで、鍵のかかった箱も扉も一つもなかったのに。

 鍵なんて、持ってないよー。そんなものなかったし。

 ここまで来て、そんなのってアリなのぉ!?

 ひどいよぉ〜っ!

 

ねくすと!

inserted by FC2 system