一方、シェゾは逃げた猫を探して街中を走りまわっていた。

「くそっ、あの猫のやつ……」

 追いかけようとして店の戸口でぶつかった女どもに因縁をつけられ、ついでにバカ高い指輪の代金も払わされた。

 こうなったらなんとしても猫をとっ捕まえ、指輪を取り戻してもももから金を返してもらった上に、あの猫に……。

「みかんの皮の匂いを嗅がせてやるっ」(←猫の嫌いな匂い)

 そんな恐ろしい計画を練りながらシェゾが周囲を見まわしていたときだった。

 キィ―――ン!

 そんな音……いや、衝撃波と言うべきか。はるか彼方から、それがシェゾめがけて襲いかかった!

「どわぉうっ!」

 危うく避ける。それはたった今までシェゾの立っていた石畳をえぐり、派手な音を立てて止まった。土煙の中から人影が現れる。

「サタン? 貴様、何しやがるっ。危ないだろーが!」

 だが、サタンはシェゾの罵倒にびくともしなかった。……というより、聞いていない。憎しみに燃えた目でシェゾを睨み、魔王は怒鳴った。

「うぬっ、いたな米屋! アルルはどこだっ」

「……は? 誰が米屋だ」

「うるさいっ。我が妃をかどわかす不逞の輩、この私が成敗してくれるっ。サタンブレード!」

 サタンは己の手のひらから剣のような形の魔力を打ち出した。

「だぁあっ!」

 シェゾはすんでで飛び退る。しかしサタンの攻撃は連続だ。

「ちょろちょろと逃げるなっ」

「この状況でじっとしてられるかーっ」

 そこでサタンはわずかに攻撃を止め、気を溜めた。

「変態魔導師め、我が裁きを受けよっ。カイザー・ジャッジメント!」

 光と共に、周囲に大音響が起こった。

 石畳が粉みじんに砕け、もうもうと土煙が舞いあがっている。

「……むっ?」

 ようやく薄まってきた土煙の中に目を凝らし、サタンは憎い目標がいないのに気がついた。煙にまぎれて逃げたらしい。

「おのれっ……! シェゾめ、この私を怒らせたらどうなるか思い知るがよい!」

 もはや当初の目的を完全に忘れているようだがしかも思いこみで、まぁいいとしておこう。よくないって。

 

 

「ったく……サタンのやつ、どうしたってんだ……?」

 一方、こちらはシェゾ。

 土煙に紛れてテレポートを使った。まだ同じ街の中だが、先程までの場所からは反対側の外れになる。

「アルルがどうとか言っていたな……」

 また、何か変な思い込みでもしてたのか。

 それは半分当たりで、半分外れだ。

 シェゾの不幸は、ここで与えられたヒントをもう少し突き詰めてみようとしなかったことであろう。

「……ん? あれは」

 シェゾは目をすがめた。

 街外れの公園、更にその隅の茂みの中で、こちらに背を向けて座っている者がいる。いましもシェゾが探していた、そう、小さな白い猫だ。

「こんなところにいやがったか!」

 用心も忘れ、その背中にシェゾは大股に歩み寄った。

 


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