注意!

 

ANTHOLOGY DRAMA CD VOL.1 TALES OF THE ABYSS

脚本:松永孝之、司月透、野間美琴/演出:鳥島和也/スペシャルサンクス:実弥島巧/フロンティアワークス

 本編ドラマCD完結の五ヶ月後に発売された、ギャグアンソロジードラマCDです。翌月にはVol.2が出ることが決定しています。

 脚本は本編ドラマCDの脚本家さんとは異なります。プロデューサーでもある松永孝之さん、そして司月透さん、野間美琴さんの三名だそうです。ただ、六本ある脚本のどれをどなたが担当しておられるのかまでは分かりません。松永さんは本編ドラマCD最終巻の特典ディスク収録ミニドラマの脚本を書いた方ですね。

『アビス』のパロディ漫画アンソロジーは沢山発売されていますが、内容的にはそれらと差異はありません。そう思えば漫画に比べて値段が四倍はするドラマCDの意義はどこにあるのかとも思えますが、ただ、漫画には”絵の威力”があり、ドラマCDには”声の威力”がある。そんな特長があると感じました。

 そんなわけで、普通に面白かったです。買って満足です。本編ドラマでは存在を抹消されていたミュウが活躍する話があったのも嬉しいポイントでしたし、パーティメンバーがまんべんなく会話していて、その会話の楽しさで多く話が進んでいる点も嬉しかったです。ただ、今回はアニスが強く目立つ話がなかったので、次巻はアニスと、それから今回欠席だったイオンの活躍する話があるといいな。

 

 以下は各ストーリーの感想。ネタバレですのでご注意ください。

 

 

君にとどけ

 どこかの大きな街に初めてやって来たルークたち一行。道端に輪投げゲームの出店を発見したルークは、生まれて初めて見たそれに興味津津。輪投げの景品『万能調理器具チョウリくん』に目を輝かせるナタリアのためにも、ガイとティアにねだって、いざ挑戦開始。ところが、そこに現れたアッシュ。最初はルークを馬鹿にしますが、ナタリアが『チョウリくん』を欲しがっていると知るや、彼もまた挑むことに。今ここに、熱き男の戦いが勃発する!?

 

 繰り返しシチュエーションの面白さが効いていて、何と言ってもルークが可愛い話です。

ルーク「おっ、なんだあれ! 見たことねぇぜ。面白そう!」
ガイ「はっはっは」
ルーク「なぁガイ。あれ、やってみていいか?」
ガイ「ん? 輪投げか、あれは。いいんじゃないか?」
ルーク「うひょー! あの輪っかを欲しいのに入れりゃあいいのか?」
ティア「何言ってるのよ。そんな寄り道している暇はないわ。それにお金も勿体ないし」
ガイ「まあいいじゃないか。地元の顔役とは思ったより早く話がついたから、ジェイド達と合流するまで、まだ少し時間があるだろ。役所の方は、そんなにすぐには終わらないよ」
ティア「でも……」
ナタリア「そうですわ。もっと時間は有効に使うべきです」
ガイ「たまには気分転換も必要だって。ナタリア」
ルーク「なぁ〜、いいだろ。バッチリ景品取ってくるからさ」
ティア「別に必要な景品なんてないわ」
#少しむくれるルーク
ルーク「ンなこと言って。ちゃんと見てねぇじゃねーか」
ガイ「なあ。少しくらいいいだろ、ティア。こいつは、今までこういうの経験がないからさ」

 こんな感じで、渋るティアとナタリア(ダブルお母さんズ)を熱心に説得するガイ(お父さん)。何このほのぼの疑似親子(笑)。やがて景品の『チョウリ君』に心奪われたナタリアが味方についてくれたので、ルークはめでたく輪投げが出来ることになりました。お財布を握っているティアからお金をもらって、いざ挑戦。……したものの景品が取れなかったので、現れたアッシュに張り合う気持ちもあって、もう一度やりたいとだだをこねます。

ルーク「ティア〜! ここまで言われて引き下がれねぇよ! 頼む、もう一回だけ挑戦させてくれよ〜!」
ティア「もう……。これが最後よ」
#ティア、お金を渡す

 ところがやっぱり取れません。流石は完全同位体か? 輪投げの腕前は同レベルでした。無駄にヒートアップしていく二人のルーク。

アッシュ「親父、もう一回だ!」
ルーク「くそ〜、俺だって! ――というわけで、ティア。お金」
ティア「駄目よ」
ガイ「ティア。これで最後にさせるからさ。な?」
ティア「もう〜。ルークには甘いんだから」
#ルークにお金を渡し、言い聞かせる口調で
ティア「これで本当に最後よ?」
ルーク「うほー! 今度こそ取ってやるぜ」

 賭け事にハマって転落していく人間の典型例ですか(笑)。

アッシュ「親父、もう一回だ!」
ルーク「くそ〜、俺だって! ――というわけで、ティア。お金っ!」
ティアいい加減にしなさい!
#ルーク、たじろいでガイを振り仰ぐ
ルーク「なぁ〜、ガイからも言ってくれよ〜」
#ガイ、軽く息をつきながら言い聞かせる口調で
ガイ「ルーク。こういうのは諦めが肝心だ。引き際ってもんがある」
#ナタリアは微笑んで
ナタリア「そうですわルーク。そろそろ大佐たちも待っていましてよ?」
ルーク「えぇ〜〜!?」
ティア「ほら。もう行くわよ」
ルーク「え〜、もう一回やらせてくれよ。いいじゃねぇか〜」
ガイ「ほーら。ルーク」
#ルークを掴んで強引に連れて行くガイ
ルーク「〜〜ガイ、引っ張んなっ」
アッシュ「フン。結局逃走か。レプリカにはお似合いだ」
#ルーク、引きずられて行きながら遠吠え
ルーク「この状況をよく見ろよ、お前!」
アッシュ「まあいい。俺は俺の戦いを続けさせてもらう。――親父、もう一回だ!」

 ガイがただルークに甘いだけなんじゃなくて、締めるべき時は頑として締める風に描かれていたのがよかったです。ルークが知らないことをなるべく体験させてやろう、という親心で熱心に他の人に頼みこんで輪投げさせてやって。でも節度は守らせる。ゲームは買ってやるけど一日一時間だとかどこへ行ってもいいけど晩飯までには帰るんだとかいうよーな(笑)。それ以上はルークがどんなにブーブー言ってもダメ。”小さなお母さん”って感じのティア含め、ホントに保護者だなーと、にこにこしながら聴いちゃいました。

 このあと、愉快なオチが「ジェイド・アニス組と合流したルークたち」「神託の盾オラクル本部のヴァンとリグレット」「戦い続けるアッシュ」の三か所で付けてあります。おかげでストンと落ちる爽快感が犠牲になっちゃってるんですが、オチの贅沢三段重ねでもありますね。

 

 ところで、WEB上に出ている感想を見ても気にしている方が多かったんですが、この話、本編のどの辺に当たる時期なのか、ちょっと疑問に思う感じではありました。

 背景状況だけ見れば崩落編の序盤〜中盤なんですよ。その街を初めて訪れたことになってて、ルークがまだ色んなものを物珍しげに見てて、ナタリアが同行していて、アッシュが既に”正体不明の敵”扱いにはなっておらず、面と向かってルークを「レプリカ」と呼んでいる。もっと厳密に考えると、イオンが見当たらないので崩落編中盤、戦争イベント後ですかね。

 なのにどうして困惑しちゃうのかと言うと、ルーク役の声優さんの演技がかなり砕けた感じで、長髪時代のルークっぽいんです。おまけに、今巻のジャケットイラストが、ガイの肩を叩いてニヒッと笑う”長髪ルーク”と苦笑気味のガイ、そんな彼らをちょっと困った様子で見上げるティア、という組み合わせなものですから。シチュエーション的には、どうもこの話をイメージして描かれたもののように思えるからです。

 でもやっぱこの話、背景状況的には崩落編ですよね? さもなければ原作とは関わらないパラレルワールドってことになっちゃいますが……。あ、そう言えば、アッシュが”ヴァンに与えられた情報収集の任務”に従って行動してることになってます、ね……。これはあからさまに本編とつじつまが合ってません。アクゼリュス崩落前ならヴァンからの任務に従って行動してておかしくないですが、そうするとルークたちの前に普通に現れて、ルークを面前で「レプリカ」と呼ぶ時点で本編とはつじつまが合わなくなる。

 

 自分がレプリカだとルークが知っている、即ちアクゼリュス崩落後のはずなのに、アッシュが平気で神託の盾オラクルに活動資金を請求していて不思議な感じでした。漫画のパロディアンソロジーでも同様のネタをチョコチョコ見かけますので、きっと一般的な認識なんでしょう。でも自分的には、アッシュはアクゼリュス崩落後はヴァンから離れていたと思ってるんで…。(ヴァンの方は「少し綱を緩めて自由に散歩させてやるか」程度に思ってたと思うけど。

 ギャグ・コメディに野暮な突っ込みを入れるなと叱られるのを承知で語っちゃいますと、アッシュは良く言えば高潔、悪く言えば融通の利かないところがあって、ヴァンから離れた以上、資金請求なんて筋の通らない真似は出来ない。意地を張ってでも自分で何とかする……んじゃないかなー。というのが私の脳内のアッシュ像なもんでして。そうか、資金請求しちゃうんだーと。いやこのドラマではそもそもヴァンから離れてないんでしたね。

 

 にしても。アッシュー。信者の皆さんからの善意の寄付で賄われてる神託の盾の資金を、婚約者へのプレゼント目的に使い果たすなよー(笑)。

 

リグレットの苦悩

 私はリグレット。魔弾のリグレットとも呼ばれる。神託の盾オラクル騎士団の総長付き副官を務めながら、第四師団師団長も兼任し、ヴァン閣下の右腕として騎士団をまとめ、閣下の信頼も厚く、任務遂行には寸分の隙もない私のはずだが……!

 仕事では隙がない自負があったのに、作戦会議室に置いておいたはずの作戦計画書を紛失してしまったリグレット。ヴァンに正面から頭を下げて謝罪していたところにアリエッタが仔犬のように闖入。自作のヴァンの似顔絵を見せて褒められます。なんたる明暗。……が。よくよく見ればその絵の紙こそがくだんの作戦計画書ではないですか。けれどヴァンは叱るどころか「リグレット。作戦計画書は見つかったのだ。あまりアリエッタを責めるな」「アリエッタには、私からよく言って聞かせる。今後は気をつけさせるから、この場は許してやってくれないか」と言うばかりなのです。アリエッタ本人には「アリエッタの絵、取っちゃった。せっかく総長描いたのに。リグレットなんか大嫌い!」「アリエッタ悪くないモン。リグレットのおこりんぼ〜!」なんて罵られちゃうし。

 内心に不満を抱えながら本部の通路を歩いていたリグレットは、どうやら部下(?)の失敗を庇っているらしいティアの姿を遠くに発見します。

騎士団員「しかし、グランツ響長」
ティア「みなさんの仰りたいことはよく分かっています」
リグレット(あれは、ティアか)
ティア「彼にはよく言って聞かせます。ですから、今回は許してあげてもらえないでしょうか」
騎士団員「――。響長が、そう仰られるなら。しかし、今回の対応は甘いのではありませんか?」
ティア「確かに、今回は彼の行動に問題がありましたが、彼もよかれと思ってやったことだと思います。それは、彼なりの良さだと私は考えています」
騎士団員「〜〜そう言われてみればそうですが」
#ティア、畳みかけるように
ティア「ヴァン総長も、そのことはよく理解しています。だから、彼に対しても、私たちは学ぶところがあるのだと思います」
騎士団員「確かにそうかもしれませんね。仰る通りです。ありがとうございました」
ティア「いえ」
#立ち去るティア
リグレット(ティア……)

 ティアの言う通りかもしれないと素直に感じ入ったリグレットは、アリエッタから学ぶべき点とは何かしら、とその場で考えを巡らせ始めます。そして至った一つの結論。リグレットがアリエッタの口真似をして「ヴァン総長。リグレット、作戦計画書を失くしてしまったのっ」と可愛らしく独りごちてみたとき。何の因果か、通りすがったヴァンに目撃されてしまったのでした。ヒィーー!

 ここのところは本当に”声の威力”の勝利です。リグレットのガラリと変わった可愛子ぶり、持ってた書類も鉛筆も全部取り落としていつにない様子で怯え動揺するヴァン、その様子におたおたするリグレットと(笑)。この可笑しさは実際に聞いていただかないと伝わらないですね。

 このギャグオチで終わり。かと思いきや、この後にもう一段フォロー的なオチがありまして、リグレットとアリエッタの”ちょっといい話”に調整されて締められていました。あれれ?(笑)

 

 一つだけ違和感を感じたのは、ティアが部下(?)を庇っているシーンが挿入されていることでした。ヴァンを引き合いに出して相手を説得している様子からすると、少なくとも表面的はまだヴァンと対立していなかった時期、本編開始直前くらいのはずなのですが、それにしては物言いに柔軟性がある感じで。ティアが優しいのは元々ですけど、四角四面で筋を通したがる性格でもあって、内心で「悪気がなかったんだし…」と思っていたとしても、少なくとも仕事上では「だから許してあげて」みたいなことを他人に主張はしないんじゃないかなぁ、とか。崩落編中盤以降のティアなら言うかもしれないですけど、本編開始前なら精神性がより幼いわけですから。それにヴァンの名を出して相手を説得するのも。例えば導師やモースの名を出してならいいですが、身内の名を盾に意見を通すようなことは、潔癖なティアなら避けるんじゃないか、なぁ……なんて……。

 これがティアじゃなくてイオン様なら納得なんですけども。うーむ。もしやイオン役の声優さんを呼べなかったからとか?

 アリエッタが「アリエッタ悪くないモン」と言っていることも含めて、ここのティアのセリフを聞いているとアクゼリュス崩落後の「俺は悪くねぇ!」を思い出してしまうのでした。あのシーンでもこんな風に、ルーク(よかれと思って問題行動を起こした”彼”)に優しく甘く接するべきだったんデス、なんていう脚本家さんの密かなメッセージが籠もっていたりして? ……なんて、考え過ぎなのは明白ですが(苦笑)。

 

 会議にかけられるはずだった『赤い霧作戦』って、どんな作戦だったんでしょうか。

 

食べ合わせレシピ・アイテムは大切にね

 ナタリアが一人で食事を作ると張り切った日。ものすごーーく待たされた挙句に出てきたカレーは、甘苦くてぬた〜っとしてデロデロしてて薬臭かった。グミしか入ってないこの画期的なカレー、ジェイド命名するところのグミカレーをきっかけにして、ガイやアニス、ナタリアは子供の頃に遊びで試した”食べ合わせ”の話を始めます。現実世界で言うなら「胡瓜に蜂蜜をかけるとメロンの味」とか、ああいうやつ。

イチゴ+レモン=キルマフルーツの味 …そうなんだー。実際に試せますね。オールドラントでは有名な例だそうです。
アップルグミ+オレンジグミ=ミックスグミの味 …「なんか普通だな」byルーク
ロニールタケ+味噌=サンドワームの肉の味 …これも有名だそうな。

 最後の「ロニールタケに味噌でサンドワームの肉の味」は、実際にサンドワームの肉がそんな味なのかは不明ながら、組み合わせ的に結構美味しいという噂で流行し、本来は薬品の原材料であるロニールタケが品薄になって社会問題になったこともあったんだとか。どんだけ(笑)。

 初めて”食べ合わせ”の話を知って興味を引かれたルークは「サンドワーム味」を実行しようとしますが、ティアに「アイテムを無駄にしてはダメ」と怒られ、それでも「不味いカレーの口直し」だの「だって食えたもんじゃない」だの調子に乗った暴言を吐き過ぎた挙句にナタリアまで怒らせて、「そこまで仰るなら、このカレーは食べていただなかなくて結構です! サンドワームを狩りに行けばよろしいではありませんか」と皿を取り上げられてしまいました。いつもながらの行き過ぎルーク。あ〜あ……。(でもティアも、そのくらい試させてやればいいのにね。相変わらず固いなぁ。)

 ぶちぶち言いながらお腹を鳴らしてサンドワームを探す(?)ルークは、美味しそうな匂いに引き寄せられて料理中のアッシュと遭遇。これ幸いとばかりに「今日もさ、俺は事実しか言ってないのに、メシ抜きにされちまってよぉ」なんてグダグタ懲りてない愚痴を聞かせますが、アッシュには「屑レプリカのことだ。どうせ、ロクなことを言わなかったんだろう」なんて見抜かれています。ここ、兄弟っぽくてなんかいい感じの会話ですね。ルークがいちいち凹んだり怒ったり顔色をうかがったりせずに傍若無人に会話を続けますし。うんうん。

 話の流れでアッシュも”食べ合わせ”の例を知っていると聞くや、食べ合わせマイブーム到来中なルークは喜んで聞き出そうとします。ナタリアを盾に脅されて仕方なくアッシュが口にした例は……

冬虫夏草+幻の魚+地精のシッポ+コクマー樹皮+ルグニカオオベニテングダケ=メジオラフィッシュの味

 材料も出来るものも、全部食材じゃねぇ、交易品だぁーー(大笑)! あまりの怪しさに、思わず声を潜めて「誰が言ったんだよ、それ」とルークが尋ねると。「……昔、ナタリアが」と呟きを返すアッシュ。更に彼は、「一応忠告してやる」と大真面目にルークに言うのです。「食べ合わせの話はするな」と。

「忠告って……。これってそんなにヤバい話題だったのか?」

 俄かに不安になってしまうルークなのでした。

 その後、仲間たちとの野営地に戻ったルークにある出来事が降りかかり、それがオチとなっています。これはストンと落とすオチ。笑いました。何の屈託もなく面白かったです。アッシュの実感のこもった言葉に納得。過去に彼も恐ろしい目に遭ったんだろーなぁ。そしてナタリアは優しいよ。あんだけひどいことを言われたのに、心を込めてルークのために……。

 しかし優しさは時に人を殺すのである。(^_^;)

 

 トラック1の「君にとどけ」に引き続き、表面上の主人公はルークですが、実はナタリアが物語を支配しています。やっぱアッシュとルークの間にはナタリアが欠かせないなぁ(笑)。

 それにしても大佐が……(笑)。オイシイ役と言うか意地が悪いというか。マンウォッチングが好きなのね。確かに見ていて飽きない人ばかりです、アビスチームは。

 それはそうと、テイルズシリーズの回復薬はグミなんですが、現実のグミキャンデーをイメージしてしまうので甘くて美味しいんだと思い込んでいたんですけど、この話では「甘苦い」「薬臭い」と言われていて、薬なんですから考えてみれば当たり前なんですが、目からうろこでした。ちなみにミラクルグミは激苦いらしいです。ルークとか余程瀕死にならなければ食べるの嫌がりそう(笑)。

 交易品やらグミの解釈やら、ゲーム内の小ネタを丁寧に拾って作ってある脚本だな、と感じました。

 

ここほれミュウミュウ

 コメディとしてスタンダードな話です。そしてミュウが活躍!

 

 昨日アニスが話していた「うしにんの恩返し」の物語が気になって、宿で『オールドラント童話』を紐解いたルーク。うしにんが助けてくれた人への恩返しに宝の埋まった場所を教えてくれる……という筋立てに目を輝かせています。

「いーよなぁこれ。うしにんが指定する場所を掘るだけで、欲しいものが全部手に入るんだぜ」「あー、俺も一回くらいこんな経験してみてぇ!」

 そんなわけで、いつも「ご恩は忘れませんの」なんて言っているミュウが、宝の埋まっている場所が分かるんじゃないかと期待。「ミュウ、やってみたことがないから分からないですの」と戸惑うミュウを「じゃあ、挑戦してみようぜ」なんて乗せちゃって、止めるティアも呆れつつ面白がってるジェイドも、「って言うかお前、そのスコップどこから持って来たんだ?」と苦笑して突っ込むガイもどこ吹く風。善は急げとばかり、スコップ片手にミュウと飛び出して行ってしまったのでした。「なんでもいいから早く来いよ!」と呼ばれて、仕方なく追っかけるティアとガイの保護者二人(苦笑)。

 それからミュウの勘が告げた場所を掘りましたが、出てきたのはネコニン草でした。ゲーム中でも名の挙げられているチーグル族の好物なんですが、ガイ曰く「主に、土の中で成長する草だな」だって。エェエエエ〜〜!? どういう草だよそれ。
#調べたら、土の中で育って地上に葉も花も出さない植物って実在するんですね。蘭の一種のリザンテラ・ガルドゥネリとか。 ビックリ。土中のバクテリアから養分を貰い、光合成を必要としないんだそうです。

 ともあれ、チーグルには宝でもルークは嬉しくない。むくれて、「もうちょっとマシなもんを探せよ!」と無茶な要求をする彼に、それでもミュウは笑顔で承知。でもティアは呆れて帰り、ガイも「夕飯までには戻ってこいよ」と笑って帰ってしまいました。

 一人と一匹で宝探しを続けるルーク。一体幾つの穴を掘ったのか……。でもやっぱり草しか出てきません。夕飯時も近くなって諦めかけた、その時。ミュウが「この辺りに、すごく強い音素フォニムの流れを感じるですの」といつにない様子を見せます。示された場所を喜び勇んで掘ると。どどーんと、ソードダンサーが出てきました。泡食って逃げたルークは、ミュウとはぐれてしまいます。

 ミュウを探しまわるうちに、今度はアッシュと遭遇。ところが、何故か彼は泥だらけのボロボロで……。

 

 以降は非常にシンプルでスタンダードなオチに。小気味よいです。っつーか、ミュウ可愛いなぁ健気だなぁ。

 ルークたちが自分のいない間に宝さがしに出たと知ったアニスが憤慨して、何気にものすごく黒い一言を呟いてたんですが……。「魔物の餌食になってしまえ」は流石に言い過ぎかも。(^_^;) こえー。オールドラントじゃシャレにならんぞ。もちっとヒネリの効いた痛快な黒セリフはなかったのかしらん。それこそお決まりの「月夜ばかりと思うなよ」でよかったんじゃないかな。

 

弟子は師に似る?

 コミカルではあるんですが、コメディとかギャグだとは言い切り難い、シリアス長編の中から切り取ったちょっと愉快なワンシーン、という感じの話です。

 この話は時期がはっきりしていて、崩落編の中盤から終盤の間ですね。ティアとルークが超振動特訓を続けていることを話していますし、ディストが出現したときにガイが警戒して「この辺りにはセフィロトも何もないぞ」なんて言いますので。ルーク役の声優さんの演技も落ち着いた感じで、いかにも短髪ルークっぽいです。この話はルーク自身が暴走したりワガママを言ったりする内容じゃないからでしょうね。

 

 ルークの第七音素セブンスフォニム制御の師匠はティア。そのティアの師匠はリグレット。ティアの教え方が上手いと褒めたルークに照れたティア曰く、もし上手いとしたらリグレット教官が教え上手だったから。弟子は師の影響を受けるもの。そう言えばティアとリグレットって少し似てるかも? ……なんてところから話を始めたルークたちは、当番で宿の手配に行ったジェイドを待つ間、師匠談議に花を咲かせ始めます。

アニス「うーん。そう言えばちょっと似てるかも。怒るとおっかないとことか」
ルーク「おー! それそれ。怒るとおっかないとこだろ。あと、言葉がやたらキツいところだろ」
ティア「……それは、私がおっかなくてキツいってこと?」←この声の演技は絶品だと思った
アニス「胸がおっきいとこも似てるよねー。いいなぁー」
ティア「ちょ、それは関係ないと思うわ」
ナタリア「そうですわ。そんなことを言っては、弓術の師が男性であるわたくしは絶望的ではありませんか」
ティア「ナタリア……。それも少し違うと思うわ」
ガイ「まあ、多かれ少なかれ、弟子は師匠に似るっていうからな」
ルーク「俺、全然ヴァン師匠せんせいに似てねぇけどな」
ガイ「そうか? 結構似てると思うぞ」
アニス「第七音素のとことか」
ナタリア「まあ。扱う音素フォニムも、師匠と弟子で似るものなのですか?」
ティア「あまり関係ないと思うけど……。でも確かに、剣術は少し似ているわね」
ルーク(笑って)そんなの当たり前だろ。俺の剣は、ヴァン師匠に習ったんだし」
ガイ「まあ、剣術以外で挙げるなら、極論に突っ走るとことかな」
#からかう口調のガイに、ルークぐっと詰まって
ルーク「あんま嬉しくねぇ」
ガイ「ははは」
ルーク「ん〜。じゃあ、ジェイドとディストはどうなんだよ。あの二人、同じ先生についてたんだろ?」

 ジェイドとディストの二人から、師であるネビリムの想像を始める一同。ガイ曰く、「あの二人から想像すると、ネビリムっていう人は、すごく両極端な人間だったってことになるよな」。アニス曰く、「譜術と譜業に優れて、空飛ぶ椅子に乗りながら槍で攻撃してくる、アマゾネスだったりして〜」。そしてティア曰く、「どちらから想像しても、あまり家庭的なタイプではなさそうね」。そんなことを話していた時、突然空から、高笑いしながら椅子に座ったディストが飛んできました。敵将の出現に、一気に緊張するルークたち。身構え、何をしに来たのかと鋭く問いますが。

ディスト「何をしにですって? 当然! あなた方が作り上げている間違ったネビリム先生のイメージを修正するためです」

 ……一体何でルークたちがネビリムの話をしていることが分かったんでしょう。盗聴器でも仕掛けてたのかと思いましたが、その割にジェイドがその場にいなかったことを知らなかったりして謎。ガイは「譜業を使って、特別なセンサーでも作ってあるんじゃないか?」と推理してましたが。ルークの推理はもっと身も蓋もない。「つか、出番が欲しかっただけじゃないのか?」。……真理だろうけどそんな現実に帰すような楽屋ネタは。(^ ^;)

 ディストはネビリムがどんな人物だったのか聞きたくないのかと問い、ルークはつい「お、それは少し気になるかも」と言ってしまう。おかげでディストの長話が始まるのですが、素晴らしい素晴らしいと繰り返すばかりでちっとも人物像を結びません。

ルーク「なんか全然要領を得ねぇなぁ」
#ティア、声潜めて
ティア「どうするのよ。あなたが迂闊なことを言うからこうなったんでしょう?」
ガイ「ジェイドが戻ってくる前に追い返さないと、後で何を言われるか分かったもんじゃないぜ?」
アニス「でもあの調子だと、しばらく帰らなそうだよ。むしろ、大佐に追い払ってもらう方がよくない?」

 ディスト、思いっきり厄介者扱いされてる(苦笑)。ティアはそれでも声を潜めて気を遣ってるけど。そして敵将であるディスト自身よりも、味方なジェイドに嫌味を言われることを問題にするガイ(笑)。ストレスで毛が抜けそうなのかもしれませんね。

 話が分かりにくいと突っ込まれたディストは「分かりました。ならば私を、この薔薇のディストを通して想像なさい。ネビリム先生の教えを受けて成長した、才覚溢れる美しい姿から、先生の面影が垣間見えるはずです」なんて言い出しますが、うんざりするばかりのルークたちは次々突っ込む。薔薇じゃなくて死神だとか、ジェイドは鼻たれと呼んでたとか。ディストが再び「ムキー!」と怒ったとき、唐突に放たれた譜術の爆発エナジーブラストが彼を吹っ飛ばして……。

 

 このように、はっきりしたストーリー上の山場があるわけではなく、キャラクターたちの会話の面白さを延々つなげて聞かせるタイプの話でした。落ちもゆるゆる終わりに達する感じ。独自の味わいがあります。場面転換がなく長台詞が続くので、音声ドラマや小説向けの内容ですね。

 

戦士たちの肖像

 性質転換ネタです。あと、”声の威力”の面目躍如の話。実際に聴いていただかないと可笑しさが伝わらないPART2、ですね。

 

 ティアとガイの声に呼び覚まされ、目を開いたルーク。ティアと、そしてガイが心配そうに覗き込んでいる様子が目に入ります。魔物の大群に襲われ、ルークだけ仲間たちから分断されて崖下に転落し、それから今まで目を覚まさなかったと言うのです。状況は納得したルークですが。……ん? なんか、変な気が。

ティア「私のフォローが遅かったから……。ごめんなさい……うっ、うっ」「ごめんなさい、ルーク。全部私が悪かったの」←か弱い声で泣きながら
ガイ「ティア。もう泣いちゃ駄目だ。もう済んだことだし、この通りルークも無事だったんだし、良かったじゃないか。な?」←ダンディ〜〜ズム濃く
ティア(可愛くスン、と鼻をすすって)ありがとう、ガイ」
ガイ「それより、涙を拭いて。始祖ユリアも色褪せる、いつもの美しい笑顔を、見せてくれないか……っ」
ティア「んもぅ。ガイってばァ」

 あのティアがめそめそめそめそ泣いて自分を責めてる超卑屈っ子に。そして女性恐怖症のはずのガイがキモいくらい濃いと言うかズバリキモ過ぎる特濃女たらしになってるじゃーありませんか。動作もキモいよ! しかも ルークお気に入りの ティアのデカメロンが! まな板のごとき真っ平らに! ショ〜ック!

ティア「ひどい!! 私が一番気にしていることをォ〜〜!」
#指摘されてワッと泣き伏すティアと焦るルーク
ルーク「うぉ〜い、ティア」
ガイ(笑いながら)なぁぁ〜にを言ってるんだルゥウ〜ク」
#ガイ、フッと声の調子をニヒルに沈めて
ガイ「――スレンダーバディも。おもむきのあるもの、だ・ZE☆」
#キラキラと輝くガイ

 一体なんで二人ともこんなんなってしまっているのか? ハッとして、ルークは他の仲間たちの居場所を尋ねます。ルークのために医者を呼びに行ったという彼らを追いかけて話しかけてみると……。

ジェイド「おぉ〜! これはルーク・フォン・ファブレ子爵〜」
#ジェイド、ひざまずいて
ジェイド「御無事で何よりでございます。我ら一同、心よりお祝い申し上げます」
ルーク「うげっ」
ジェイド「しかし、まだ何があるか分かりません。このようにお走りあそばさず、しばし安静にされるのがよいかと愚考いたします。くれぐれも御身お大事に。そうでなければ、このジェイド・カーティス、インゴベルト六世陛下に合わせる顔がございません」

 ルークに慇懃なまでに敬意を払うジェイド。いやに豪放で男言葉を使うナタリア。気前がよくて幾らでも無利子でお金を貸してくれるアニス。

 あ・り・え・ねぇ〜〜!!

 恐怖に駆られた(大笑)ルークは、悲鳴をあげながら闇雲に逃げ出します。その行く手に現れたのは……アッシュ。彼はルークを見ると。

#爽やかな好青年の声で
アッシュ「やあ、どうしたんだい?」

 今まで以上の悲鳴を上げて逃げたルークの背に、アッシュが誠実そうな声音で「おい君、そっちは危ないぞ。崖になっているんだ」と言う声が聞こえましたが、時すでに遅し。ルークはもう一度崖から落ちてしまったのでした。なんか往年のアメリカギャグアニメっぽい落ち方で。

 

 結論から言えば、夢オチだったんですけど(笑)。大量の魔物に襲われ仲間たちから分断されて崖から落ちたルークが見た夢。目覚めればやっぱり心配そうにティアとガイが覗きこんでいます。いつも通りの二人が。

 勝手な印象なのですが、私、この話に、メッセージのようなものを感じた気がしました。

『アビス』はパーティーメンバーが主人公をそんなにチヤホヤしないです。そのため、仲間キャラクターを激しく嫌うプレイヤーの方たちと言うのも、一定数おられるらしい。それで、そういう方たちが仲間キャラを責める根拠の一つに掲げているものに、「ルークは公爵子息で身分の高い要人なのだから、仲間キャラはもっと彼に敬意を払い、敬語を使いひざまずくべきだが、そうしてないからおかしい。常識がない」っていうのがあるみたいで。

 この話ではそれが実現されてるんですよね。ルークに敬意を払うジェイド。その他、堅苦しくない(王家王家言わない)ナタリアとか、お金に汚くなくて優しいアニスとか、ルークに対して絶対厳しいことを言わず、ひたすら謝って「私が悪いの」ばかり言ってるティアとか。ガイはまあ置いとくとして(笑)、これら性質逆転パーティーメンバーたちって、仲間キャラを否定している方たちが掲げる”理想の仲間キャラクター”のパロディーだと捉えることもできるなぁと。

 でもですね。物語の最後、現実の世界で目を覚ましたルークは、仲間たちがいつもどおりなのを確認すると、本当に嬉しそうに笑いだすのです。

「はははっ。こうでなくちゃ。可愛くねぇティアに、女性恐怖症のガイ」「へへへっ。堅苦しいナタリアに、俺を敬わないジェイドに、金に汚いアニス。うんうんうん、やっぱりこうでなくちゃ。これで一安心だ。ははは、ははははっ」

 夢の中の話ではあるけど、ジェイドがルークを「子爵」と呼んでいたことを根拠にしますと、この話はレプリカ編終盤、既にルークが音素乖離を起こしている時期のことになるんですよね。

 ルークにも仲間たちにもなかなか治らない欠点はいっぱいあって、ひと癖もふた癖もある。けど、そういうのも含めて仲間で友達で。だからルークは、ティアが可愛くなくても、ナタリアが堅苦しくても、アニスががめつくても、ジェイドが嫌味言っても。夢の中のみんなより本当のみんなが好き。長い旅の終わりに、そう思えるようになったんですよね。

 ……なんて勝手に思ったので、この話が今巻の最後に配置されている点も含めて、ちょっといいなと感じたのでした。





 各ストーリーの感想は以上です。

 この他、冒頭のタイトルコールが、ダラダラし過ぎなレプリカルークと、その態度に腹を立てて天誅を加えるアッシュのショートコント仕立てになっていました。……しかしこのコント、一人二役で、例によって別録りなしにその場で落語式に一人で喋ってるんだろーなーと想像しちゃうと、少し微妙気分に(笑)。

 なお、ボーナストラックはルーク役の声優さんとガイ役の声優さんの対談です。二巻目が出ることは決まっている(タイトルにVol.1と付いている)のに、ガイ役の声優さんが笑って「(二巻目が出るかは)分からないよ。『一巻目』というタイトルかもしれない」「多分、これでね、作家さんは非常に楽な立場になったんじゃないかな(笑)(そう言ってスタッフの方に顔を向けたっぽい)」「(しかしCDが売れればどんどん続刊されて)もうもうもう当然、休む間もなく書かなきゃならないってことになるんでしょうからね」なんて言っていて、なんとなーく、本編ドラマCD最終巻の脚本が遅れに遅れたという事情を背景にした冗談かなー、なんて思いました。

 また、やはりガイ役の声優さんが「(今回はギャグだったので)僕らも、普通、このCDをやってる範疇からちょっと越えたところでやれたんで、とっても楽しかったなーと」と仰ってたんですが、「普通のこのCD」って……? もしかして本編ドラマCD最終巻の収録をするより前に、このアンソロドラマの収録は行われてたのかも? 本編ドラマCDは最終巻が出るまで一年近く間が開きましたもんね。今一番旬の話題のはずのTVアニメ化の話が一切出ない点も含めて、古いトークであるように思えました。

 



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