『〜聖魔導物語〜』感想文 17/17

◆限定版について

限定版を購入しました。
失敗したと悔やみました。

コンテンツは以下の三つです。

  • 「なりきりクーシーセット」……着せ替え衣装のDLコード
  • 「スペシャルシチュエーションCD」……簡易ドラマ三篇
  • 「設定原画集」

着せ替え衣装は可愛いです。でも着せ替えにさして興味がないので、あれば嬉しいけれど購入の理由にはならないって感じです。

ドラマCDは、旧魔導ノリの楽しいドラマだといいな、ゼオが出てるといいなとワクワクしていましたが、やがて公表された情報で、期待とは異なるものだと判りました。

この時点で、限定版の予約を取り消すか、かなり迷いました。

しかし三つ目の「設定原画集」。これに惹かれました。公式サイトやゲーム誌には、これに掲載されているというププルやくぅちゃんのカラーデザイン案画がサンプル表示されています。旧キャラを原型としたププルたちが、どんな風に今の形にまとまっていったのか知りたいと思いました。

というわけで予約を取り消さず、清水の舞台から飛び降りる気持ちで限定版を購入したのです。

で。
届いた限定版の箱を開いて、ビックリ。

「設定原画集」はCDケースサイズの冊子でした。まず、その小ささに驚きました。
表紙・裏表紙含めて全40ページ。カラーは22ページまで。
ページ数自体は想像していたより多い。けれどカラーページのイラストはどれも他所でも見られる既存絵で、描き下ろしは一枚もありません。
大半を占める、メインキャラの立ち絵に紹介文を添えたページは、絵も文も公式サイトで無料で閲覧できるものと変わらず、新規情報は一つもなし。
まるでゲーム取扱説明書のキャラ紹介ページの体裁です。
(ちなみに、このゲームの取説はソフト内にデータ形式で収録されていますが、キャラ紹介ページは設けられていません。代わりに、ゲーム内に「キャラクター図鑑」というコンテンツがあり、「設定原画集」と同じ絵、ほぼ同じ文章でのキャラ紹介が収録されています。)

そして肝心のデザイン案画は。
小さな冊子中に更に縮小して載せられていて、しかもモノクロ。グレースケール処理のため、線画部分もぼやっとして見辛い。
見る人のこと考えてないよね、というクオリティです。

繰り返しになりますが、発売前の限定版紹介記事では、設定原画集のサンプルとして、デザイン案画が《カラーで》表示されていました。なので《デザイン案画がメインの》画集で、それが《カラーで》、画集なんですから《サンプルより大きく高画質に》収録されているのだと思いこんでいました。

手前勝手な錯覚だと言われればそこまでです。画集の大きさやページ数、カラーかモノクロかは、事前に告知されていなかったですから、確かに。
でも。
なんでしょう、この騙された感。

そもそも、この冊子でどういう層が喜ぶの?
イラストレイターの画集を期待した人には、小さいし描き下ろしもない。
設定原画を期待したマニアには、小さいし見辛いしカラーじゃない。

せっかくのカラーページの殆どを、あちこちで散々使い回されたキャラ紹介記事で埋めている辺り、「画集」と名乗る意味を見失っているとしか思えません。
やっつけで作ったのではという疑念がわくほどです。



「スペシャルシチュエーションCD」にも疑問があります。
このCD、恋愛シミュレーションゲームのノリで、キャラ(ププル、プニィ、ギガディス)がリスナーに恋愛感情を向け、各編10分前後もの長時間、デレデレ媚び媚びと語りかけ続けてくる内容です。最初から恋愛ゲージMAXって状態で。


第一の疑問。
同人二次創作や、キャラ人気が高まってからの特殊層向け商業二次ならともかく、《初っ端から》《公式で》やるネタかなぁ? 
世のオタク皆が、キャラと恋愛したいと思ってるわけじゃナイ。個人的に妄想はしても公式には立ち入ってほしくないと考える人もいます。自分をどこかに投影するにしても、あくまでキャラ同士に物語中で恋愛してほしいと考える人もいます。
そもそも『聖魔導』は、(12歳以上なら)誰でも遊べる健全コミカルRPGのハズ。その最初のスペシャルグッズを、特殊性癖に特化するのはどうなのか。

キャラを使った恋愛シミュ風ドラマってのは、聴く人を選ぶモノです。同性愛化や性別転換の二次創作みたいなもの。人によってはドン引きます。
普通のドラマCDの方が、楽しめる層の間口が広いので、本編に付けるグッズとして相応しかったと思うんですけど…。どうしてコレを選んだのか? 疑問です。


実は、ゲームクリア後にゲーム内の「サウンド」項目から聴けるようになる「お楽しみボイス」という無料ダウンロードコンテンツがありまして。やっぱりキャラ(ププル、プニィ、ギガディス、クリオラ、ゼオ、エターニャ)がプレイヤーを恋愛対象にして、デレデレと語りかけてくる内容なんですよね。

とは言え、こちらはよくある《電話用メッセージボイス》を恋愛ネタ特化した感じで、「おはよう」「おやすみ」「一緒にカレー」「告白」「ふる」「看病」など20種ほどのシチュエーションを、各10数秒〜1分前後の台詞で消化。短く区切られているし、気に入らなければそのシチュだけ飛ばせるので、10分ぶっ通しのシチュエーションCDよりは聴き易い。全キャラが同じシチュなので比較する楽しさもある。こちらは普通に楽しめました。(そもそも無料なので、ありがたく拝聴するばかりです。)

それにしたって、どうして二つの特典コンテンツで同系ネタを? 無料でコレを配信するなら、それこそ、限定版の方は普通のドラマCDでいいじゃないですか。
『聖魔導』スタッフは、よほど恋愛シミュが好きなのでしょうか。謎です。


第二の疑問。
キャラが崩壊してます。

私は最初にこのドラマCDを聴き、後で本編ゲームをプレイしました。そうしたら、プニィやギガディスのキャラが全然違うじゃないですか! ビックリしました。

ププルも浮足立ってますが、本編ププルが恋愛を始めたらこんな感じになるかなぁと思えるレベルなので、あまり気にしません。
しかしプニィとギガディスは、キャラそのものが違ってる(汗)。

このキャラ崩壊は、恋愛シミュのテンプレにキャラを押し込んだ結果?
人によっては、所詮ネタCDなんだから、そのくらいいじゃんと肩をすくめるのかもしれません。あるいは、アイドル声優が喋ることが重要なんだから、他は気にするところじゃないと言うのかもしれません。
色々な考え方はあると思いますが、個人的には感心しなかったです。テンプレ的にウフンアハンスキヤネンと言わせるだけなら、キャラの皮をかぶらせる必要もないですよね。


ちなみに「お楽しみボイス」の方は、プニィもギガディスも違和感なかったです。クリオラなど、リスナーに愛を囁くはずのシチュで、結局ギガディスの話ばかりをしていたり、テンプレよりキャラ性を重視した感じでした。


第三の疑問。
何様だと罵倒されそうですけど、一購買者としての素直な感想です。シナリオのクオリティが低いと思います。

ププル編は、悪いとまでは思いません。三篇の中では一番面白かったです。
ただシチュエーションCDという仕様上、ププルが《リスナー》を好きな理由が判らない。最初からデレ状態で告白までしてくるので、話に乗りきれず、この子どうしたよ(汗)と引きながら聞いてしまいました。

(どーでもいいけど、初聴時、なんとなくシェゾ×アルルの同人二次創作のイメージが浮かびました。
アルルがシェゾを買い物や食料調達に付き合わせて、お礼にって自宅に呼んでカレーを振舞うことにして、でも嫉妬する第三者の介入でシェゾがひどい目に遭って、最後にアルルがちょっと思わせぶりな態度をとる、ってやつ。
いや、自分がそういうのを好んで書いたり読んだりしてきたからってだけですけど(^_^;)。

だからってわけじゃないですが、くぅちゃんが二人を呑みこんだのって、お腹をすかせたからってより、嫉妬かなと思いました。二人のいちゃいちゃにムカついたっていう。吐きだしたのも、二人きりになって(大魔王が出歯亀してそうですが)むしろ盛り上がっちゃったププルの告白を阻止するためのよーな。最後に思わせぶりなこと言うププルの脇で「ペッ」て唾吐いてた(?)し。)

ギガディス編は現代パラレルな白衣コスプレもの(?)から胡蝶の夢(?)への二段落ちで、凝ってます。でもキャラが別人です。男前インキュバスに俺様鬼畜系少量投入って感じ。本編のギガディスは、育ちの良さが前面に出ているカッコ可愛い人なのにね。
コレ系の女性向けオーディオドラマのパロディという感じで(そういうの聴いたことないですけど)、これは笑わせようとしてるのか? それとも本気で萌えさせたいと思ってるのか?

っていうか。
アイドル声優ユニット・ゆいかおりを起用したププル編とプニィ編(男性ユーザー向け特化の内容)が製作側の本命。でも女性ユーザーもいるかもだし、女性向けテンプレのギガディス編をオマケに付けておけば文句ないよね、と安易に思われてるような気がして、なんっかモヤっと……。


そしてプニィ編は、マジひどい。
頭から終わりまで、キャラ崩壊したプニィが「おにいちゃん」「ご主人様」「特別に●●してあげるね」的なことをヤマなくオチなく言い続けているだけ。
収録日当日に20分でシナリオ書いたよね? と言いたくなる、やっつけクオリティです。
しかもこれが、このCDに収録された三篇の中で一番長い話だという。

無料の特典物ならアリでも、有料の商品でコレはナイでしょう。アイドル声優がテンプレ萌え台詞喋ってればいいのか? ユーザー甘く見んな、です。



このように、限定版は個人的にはがっかりクオリティでした。
と書くと、満足している人だっていますよ、作った人の苦労も知らないで何様ですかと怒られそうですけれども。
でも。購買者が「限定版買って本当に良かった! 宝物にする!」と思うレベルのものを作ろうとは思ってなかったでしょう? と言いたい。
低クオリティのものでお金をとっても、評判を落とすだけだと思います。



・・・
どーでもいい妄想ー。(※二次創作注意)
例えばシチュエーションCDププル編シナリオが、プニィもギガディスも、できればクリオラ達も出て、15〜20分くらいの、オールキャラ系ドラマだったらどんなんだったかなーと、モヤモヤ想像してみる。

ププルが商店街に買い物に行って、プニィと会って話してるとギガディスが来て、いつもの調子で鬱陶しく絡んで(怪しげな高級食材を、そなたのために買い占めておいたぞとか言って押しつけようとしたり)、やっぱり買い物に来てたクリオラと鉢合わせてギャーギャーもめて(クリオラはギガディスが買い占めた怪しい食材を探し回っていたりする。彼に食べさせるカレーに入れるために)、通りがかったゼオが騒ぎに巻き込まれて(ププルたちが魔力増強話してると勘違いして喰いついてくるのでもいいけど、本編と被るから鬱陶しいかな)、最後に収拾役で御隠居様…じゃない、エターニャが登場……したのに、空腹で癇癪を起こした(?)くぅちゃんがププルとプニィを呑み込んでしまう。

くぅちゃんのお腹の中で無人島遭難して、二人でカレー煮込んでた時、プニィが「このまま二人だけで暮らしてもいいかも」「プニィは、ずっと一人ぼっちだった。だけどププルと一緒だと、毎日楽しい」とか言い出す。

ププルは「ボクもプニィと一緒だと楽しいよ」と笑顔で返して「でも、二人だけじゃなくて、みんな一緒なら、きっともっと楽しいよね」「だってカレーは、たくさん作ると美味しくなるでしょ。一緒に食べてくれる人たちがいなくっちゃ」とか天然に笑う。
「あ、でもくぅちゃんがいたら、一人でみんな食べちゃうかも…」などと言ってると、くぅちゃんが二人を吐き出す。

「あなたたち、大丈夫!?」とクリオラ。プニィ「クリオネちゃん…」。「心配したぞププルぅ! そなたもお父さんのようになってしまうのかと」と、泣きの涙で飛びついてくるギガディス。「え? ギガディス様のお父様…?」と首をかしげたクリオラに「な、何でもないのだ!」とか取り繕ってる。

「チッ…。なんで俺がこんなことを」と不満げなゼオ(なんか大きな鳥の羽を持ってて、少しボロけてたりする)と「まあそう言うな。お前のような社会不適合者でも、いや、社会不適合者だからこそ、たまには世の役に立つのもいいものだぞ、闇の魔導師」とか、その隣で涼しげに言ってるエターニャ。「誰が社会不適合者だ!」「おっと、すまん。お前は変態だったな」「だあああっ ちーがーうー!」とか、パターン的やりとり。

どうやらみんなで、ププルたちを吐き出させようと頑張ってくれたみたいです。
でも、ププルの買い物(作ったカレー)はくぅちゃんのお腹の中の世界に消えちゃった。くぅちゃんはそれでも空腹らしく、「ぐー! ぐー!」と不満げに喚きだす。
「しょうがないなぁ。今日は料理するのは諦めて、スマイルカレーさんに行こうか」「くっくー!」「それがいいかも。…ピピピ…。今日からお得なキャンペーン期間中。ぐつぐつとろとろのカレー電波、受信。いっぱい煮込んでるから、とっても美味しいかも」「うん。一緒に行こうよ」

とか笑顔でププルが言ってると、
「おお、それはデェ〜トの誘いだな」と、例によって明後日なことを言いだすギガディス。「ふっ。やっと素直になったか。いや無論、余にはそなたの気持ちなどとうに解っていたがな。ふふふ…はーっはっはっは」とか言ってるとすかさずクリオラが割り込んで「はい! わたくしの気持ちは、とうの昔からギガディス様一直線ですわ」「え? いや、その」「嗚呼。ギガディス様とカレー屋でデートできるだなんて。きゃっ。どうしよう〜」とか、パターン的会話。

「うむ。では、わしも寄せてもらおうかな」とエターニャ。ゼオが「フン。まあ、腹も減ったからな」と憎まれ口をたたくと「えぇ〜? ヘンタイさんも来るの?」とププル。「なっ? なんだ、その嫌そうな顔は!」「だってキミ、カレーはそんなに好きじゃないんでしょ」「くっ、まだ根に持ってるのか。しつこいぞっ。…って、俺は変態じゃない!」

なんて、いつものやりとりを見つめるくぅちゃんとプニィ。
「ワイワイ、ガヤガヤ。収拾つかないハチャメチャ電波…」
「くー」(少し呆れたように)
「…だけど、ちょっとだけ楽しい、かも」
「くー!」
で、BGMの音量アップで各キャラのドタバタ会話がアドリブで一通り入って、終わり。みたいな。
ネタばれ要素がありますが、クリアしないと判んないことだから、多分問題ない。(えー)

普通〜、というか、パターン的すぎですね(^_^;)。
キャラ劇とダブるから、こういう系のドラマCDは駄目だったんでしょうか。

こういうのでなくても、(魔導シリーズ的に)いつものやつ〜、あのノリが帰ってきた〜、みたいな、キャラ劇の規模を少し大きくしたくらいのが聞きたかった気がします。(これって、再放送の時代劇を好む老人や韓国ドラマを見続ける主婦と同じ心境なのかしらん?)
それなら、話がその一本だけでも、画集じゃなくてスタッフコメント掲載の4Pくらいのライナーノーツでも、自分は満足していただろうと思います。ボーナストラックで、声優さん達の挨拶とか、キャラなりきり一言とかのコメントが3〜5分くらい付いてたらなお良し。(好き勝手なこと言ってすみません。)

◆誰に売りたいの?

ゲーム封入のアンケート葉書を読んで「えっ?」と思いました。
この商品を購入したきっかけは何ですか?
という質問に、「魔導物語シリーズのファンだから」という回答項が用意されていなかったのです。「好きな声優が出演していたから」というのはあるのに。
(「好きなジャンルだったから」という項目もありますが、これは《RPG》《ローグ風》といったゲームジャンルのことに受け取れます。)

ゲームのパッケージを見返せば、「あの『魔導物語』が、見た目も新たに超新生!」というキャッチコピーが躍っています。発売前のWEBや雑誌での紹介記事でも、第一に掲げられたのはその要素でした。

「あの」と書かれようと、『魔導物語』はマイナーなゲームです。一部の熱狂的ファンと、何より、派生ゲーム『ぷよぷよ』の人気から細々と記憶されていたタイトルに過ぎない。
即ち、メインターゲットは旧シリーズファン。そして他社が製作を続けているぷよシリーズから旧魔導に興味を持った若年ユーザー(PS Vitaを購入できる二十代の男女)ではないのでしょうか。

思えば、限定版や店舗特装版には、旧シリーズファン向けと思しきコンテンツが見当たりません。強く感じられるのは《ギャルゲー/恋愛シミュ系ゲーム嗜好のユーザー》や《アイドル声優ファン》へのアピール。明らかに方向が違います。

そこに不満を感じていたところへ、このアンケートです。
セガの方は、新生ぷよシリーズ(ぷよぷよフィーバー)を始めても、アンケート葉書にコンパイル時代の旧タイトルを並べてどれを持っているか尋ねたり、毎回、旧ファンを対象にした質問を入れていたものだったのに。
(念のため。版権がどうとかという話じゃないですよ。「魔導物語シリーズのファンだから」という回答項を作るのには何の障害もないのに、何故そうしないのかというコト。)

なんだ。コンパイルハートは、本当は旧魔導ファンを視野にすら入れていなかったのか。

過去に囚われては発展しない、切り捨てるべきという考え方があります。新規層を取り込まねば先細るのも確かです。
しかし、制限も多いこのタイトルを、あえて復活させた第一の理由は、《旧ファンの熱意に応える》ためではなかったのでしょうか。

しょんぼりしながらゲームをプレイしてみると、あれあれ? シナリオやアイテム設定など、文芸方面には旧魔導ネタが満載です。中には恐ろしくマニアックなものまであります。

WEB上で拝読した、旧魔導を知らない方の感想に、シナリオの展開が不条理だと批判するものがありました。冒頭の卒業試験のくだりは必要ない、どうしてそんな展開なのか理解に苦しむというのです。
私は旧魔導ファンなので気付きませんでしたが、『聖魔導』のシナリオは、旧魔導を知らない人には不条理なものらしい。
つまり、文芸方面は確かに、旧魔導ファン向けに特化して作られている。

んん〜…?

・・・
少し話がずれつつ戻りますが。旧魔導ファンって、少なからず女性がいると思うんですよ。でも、限定版や特装版には女性ユーザーへの目配りが乏しい。「シチュエーションCD」のギガディス編が女性向けのつもりかと思いますが、色々履き違えていると思います。
(念のため。女性向けに男キャラのエッチな絵をつけろとかホモ要素を入れろとか言ってるんじゃないですよ。エッチにしなくてもいいでしょ、という話。)
そもそも『魔導物語』というタイトルに求められるのは、カッコ可愛さやキテレツ楽しさではないでしょうか。(個人的には、そこにほんの一つまみの不気味面白さと神秘なシリアスが加わると嬉しい。)『聖魔導』本編はそういう内容に仕上がっていると思います。なのに、どうして限定版や特装版は、ギャルゲーテンプレ的な性愛キャラ萌え方向に?
・・・

このゲームは、誰に向けて、どう売りたかった商品なのか。

魔導マニア向けのシナリオ。
ギャルゲー系の限定版・特装版コンテンツ。
ローグ風としては簡易的だと評価されつつ、キャラゲーとしては配慮の足りないシステム。
『魔導物語』のタイトルをキャッチコピーにまで使いつつ、魔導ファンを視野に入れないアンケート。

文芸、システム、販売と、各方面のスタッフに、『魔導物語』というタイトルを使う意味への認識や熱意の差があり、それが足並みのバラつきを生んでいるように感じました。

◆ゲームの面白さ

ゲームの面白さって、何に由来するんだろう。
余章の天空聖殿をプレイしながら、そんなことを考えていました。

何度も述べてきた通り、天空聖殿は私にとって《苦行》でした。あらゆる面で単調で、やればやるほど飽きがきて《面白くない》。

でも、作った方々はこれこそが《面白い》と思っているわけですよね。
一体どこが?
256層のぶっ通しプレイという、尋常ではない多さ長さ、過酷さ。そのストレスを乗り越えてゴールすることこそが《やりがい》であり《面白さ》だ、ということでしょうか。

天空聖殿に限らず、このゲームにはプレイヤーにストレスを与えることを《面白さ》とみなす傾向があると感じます。
たとえば学園掲示板のクエスト。《メインストーリーの各迷宮を15回ずつクリア》という課題がある。

15回? あの変化に乏しい迷宮を、それぞれ15回ずつですって!?
楽しんで遊べる範囲を超えていると思います。


さて。
WEBを見渡したとき、しばしば目にするこのゲームの評価に《ローグ風ゲームなのに難易度が低い》《ローグ初心者向け》というものがあります。
そうした視点に立つ方は、「この程度でストレス? ローグ慣れしていない人はそうなんですね。私にしてみれば難易度の低いゲームですよ」と笑うのかもしれません。
しかし、そういうことを言っているのではありませんので、ご理解ください。


私が『聖魔導』の前身だと考える『わくぷよ』『わくぷよ決定盤』も、「ローグ風ゲームを遊び慣れた人」には「ヌルくてダメなキャラゲー」と評価されがちです。その意味で『聖魔導』と大差ないと言う人もいます。
しかし『わくぷよ』と『聖魔導』には、(バグの多寡を除いても)明確に異なる点があると思っています。
それは、《楽しくプレイさせよう》という意思の大きさです。

『わくぷよ』は最初にセガサターン(SS)で発売され、一年後にプレイステーション(PS)に移植されました。その際の変更内容を見れば、このゲームが何に主眼を置いていたかは明らかです。

迷宮のテンプレート(背景)と音楽を五階ごとに変更。十パターン前後の変わり部屋。モンスターの登場パターンにも特殊版を組み入れ。一度倒したボス戦フロアでは特殊演出のザコ戦闘。などなど。
SS版時からチュートリアル迷宮の階層を2階分増やしたり、新たな迷宮を一つ追加したりしつつ、一方では、SS版では15階ずつあった迷宮三つを10階に縮小しています。

迷宮の階層が多ければ多いほど、条件が過酷であればあるほど《面白い》という思想は、このゲームには見えません。
プレイヤーを飽きさせない、苦行だと思わせない、《楽しませよう》という姿勢が徹底していたと思います。

無論、『聖魔導』にそれがないとは思いません。幾つもの工夫がされていたと思います。《サプライズフロア》が最たるものでしょう。
けれど、申し訳ないながら粗かったです。
バリエーションが乏しい。そのうえ序盤から終盤まで全く変化しない。迷宮ごとの変化もない。
デモタウロスや迷宮崩壊のような、発生をプレイヤーがコントロールできるものはまだしも、強制的に発生し続ける《サプライズフロア》は。序盤では楽しませていただきましたが、天空聖殿まで来ると、「もう飽きたよ!」「楽しくないんだよ!」と、ストレス要因の一つになり果てていました。

《サプライズフロア》に悪い効果しか用意されていない点にも、《プレイヤーにストレスを与える》ことを《ゲームの面白さ》だと考えているのかな、という感想を抱かされたものです。


『わくぷよ』では、マイナス効果のアイテムや罠にも、プレイヤーの工夫次第でプラス効果を得られるものが多く用意されてあって、それも《面白かった》。
また、設定された課題をクリアするだけではなく、自分なりの遊び方を見つける余地も色々用意されてありました。
例えば、特定のアイテムを使えば罠を任意で設置し直すことができるので、性別で効果の違う罠で、性別不明の魔物の判定テストをしてみるとか。
魔物に食べ物を投げつけると(ボス戦時のボスキャラ以外なら)友好化することができるなど、アイテムを何に使うかにも、もっと幅がありました。

『聖魔導』には、そうした余地はありません。
変化しない迷宮に潜って、変化しない敵と戦って、くぅちゃんにアイテムを投げ与え続けて、運がよければ装備を合成して。
それしかできない。


『わくぷよ』のアイテムの効果はユニークなものが多く(敵を一瞬でリンゴに変えてしまうとか)、プレイヤーの使い方次第で色々なことができて楽しいものでした。
また、アイテム名と効果が連動していて、主人公・仲間・敵それぞれへの効果も同じか同傾向に設定されており、感覚的に使い易かったです。

一方『聖魔導』のアイテムは、主人公・仲間・敵それぞれで、まったく違う効果が出ることがままある。
きっと面白くするための工夫なのでしょうし、設定するのには手間がかかっただろうと思います。
そして、アイテム名から効果が想像できないもの、説明文からも効果が判らないものも多い。
その方がミステリアスで《面白い》という判断だったのだろうと思います。
しかし申し訳ないですが、単に使いにくかった。ストレスを生むものでした。(私は、全アイテムの効果表を自作しましたけど、それと首っ引きでプレイしてましたよ…。めんどくせぇ。)

『聖魔導』のアイテムには、「ポーション」と「ボーション」、「解毒薬」と「劇毒薬」のように、プラス効果アイテムに似た名前をマイナス効果アイテムに付けるという作法も多く見られました。
プレイヤーがうっかり間違えて使うことを期待したもので、《面白い》と思って作ったのだろうと思います。

ですが、冷静になって考えてみてください。
間違えてマイナスアイテムを使い、「騙された!」と思う。この時プレイヤーは楽しいのでしょうか?
楽しいのは騙した製作者の方です。騙されたプレイヤーにはストレスでしかありません。


鑑定システムのありようを見ても、姿勢の差はうかがえるように感じます。

『わくぷよ』では、ゲーム序盤からアイテムの大半が未鑑定。イベントで得た鑑定スキルをプレイヤーの裁量で育てて、ゲームが進むほど、プレイヤーが頑張れば頑張ったほど、ストレスなく遊べるようになる仕組みです。

『聖魔導』は逆で、ゲームが進むほど未鑑定アイテムの種類が増えていきます。鑑定スキルやアイテムはあるものの、制限があるか、《運》に頼るもので、プレイヤーの裁量ではどうにもできません。ゲームが進むほどストレスが増える仕組みになっています。
過酷になればなるほど《面白い》という思想で製作されているからだと思います。

どちらの方式がローグ風ゲームのスタンダードなのかは知りませんし、そこは問題ではありません。
主観のみで言いますが、『わくぷよ』方式の方が私には楽しかったです。
『聖魔導』方式ではプレイヤーは製作側にストレスを押しつけられるだけ。自分で環境を変えることができない。自分の判断で遊べないようになっているからです。

ゲームに《面白さ》を生みだす方法の一つに、プレイヤーへのストレスかけがあることは否定しません。プレイヤーに甘く、至れり尽くせりすぎるゲームは確かにつまらないものでしょう。
しかし条件が過酷ならば、それだけで面白いのでしょうか。
今作をプレイした感想として、私はそう思いませんでした。


過酷な条件で楽しく遊ばせるには、製作側の、相応の工夫と努力が必要なのだと思います。
そしてそれは、難易度とは別次元の問題です。

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