一口に沖縄地方の神話と言っても、実は島ごと・地域ごとに少しずつ違った内容の話が伝わっていて、これが正統、と言えるようなものはありません。
 そんなわけで、ここでは幾つかの別々の神話を並べてご紹介していこうと思います。全体を通して読むと、話が繋がらなかったり重複したりしていますが、ご了承くださいね。

 

沖縄の始まり


昔々、

アマミコとシルミコの二神が

天の命で島作り国造りをなさったが、

出来た島の尻は浮き、国の頭は浮き、

西の波が島の東まで越え被り、

東の波が島の西まで越え被り、

少しも落ち着くことがない。

二神はご相談なさって、

土を打ち撒いて、

森を作って、

国釘を刺して島を縫い止めて、

ようやく、島建ち国建ちが成りました。

東の波は東に止まり、

西の波は西に止まり、

山々の麓の窪みには

様々な山の木を差し植え、

港のはたには

アダンの木などを差し植え、

里の傍には

シガ松を差し植え、

海岸線には

ウル岩を据えて、黒岩を据えて、

波返しの防波堤になりました。

綾差羽あやざばに 白差羽しるざば

生え変わるまで 萌え変わるまで

願い立てて

石の島 かねの島

萌え変わるまで 生え変わるまで

願い立てて

石の杖 かねの杖

突き立てましょうか き立てましょうか

願い立てましょう。




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 これは、沖縄本島国頭地方の大宜味村に伝わる「シバサシのオモイ」を要約し、比較的易しい表現に変更したものです。シバサシは魔を祓う神事で、神人たちが輪になってこれを歌いながら踊るんだそうですよ。
 んー……。アマミコとシルミコって神様が、天から命じられて沖縄の島を作ったんだよね。……なんだか、日本本土の神話で、伊邪那岐と伊邪那美が別天神に命じられて日本を作ったのに似てない? 最初 少し失敗して、相談してやり直すところなんかも。
 そうですね、確かに。隣接している地域なのですから、互いに影響を与え合っていておかしくないですし。
 じゃあ、アマミコとシネリコも、伊邪那岐と伊邪那美みたいに兄妹で夫婦の神様なのかな?


 「シバサシのオモイ」の中では、そういうことは一切説明されていません。ただし、アマミコ・シルミコの二神は沖縄地方の創世神話に高い頻度で名前の出てくる神で、文献によっては「琉球(沖縄)開闢の男女なり」と説明されています。アマミコが女神で、シルミコが男神のようですね。
 大東諸島に伝わる伝承では、竜神の子のシルクとクルクの神がシルミクとアマミクの子神を生み、その生んだ兄妹がまた夫婦となった、とありますし、『大奄美史』でも、この二神の間の子が沖縄の人間の祖になっていますから、兄妹で夫婦と見て間違いないでしょう。
 もっとも、アマミコ単体で登場することもあるようですけど。一説によると、後に男女神に別れたのであって、元は一人の神だったのだろうとも言います。
 思うに、単独で天地開闢をした巨人神と、人間の祖となった兄妹の神話が融合してしまっているのでしょうね。

文献 神名
琉球神道記 シネリキュ(男神)、アマミキュ(女神)
おもろそうし あまみきよ、しねりきよ
中山世鑑 阿摩美久
混効験集 あまみきょう、しねりきょう 琉球開闢の男女也
中山世譜 阿摩美姑(女神)、志仁礼久(男神)
球陽 男ハ志仁礼久ト名ケ 女ハ阿摩弥姑ト名ク
 
 少しずつ呼び名が違うんだねー。
 ええ。他に、テルクミ(テルコ)・ナルクミ(ナルコ)という名前の創世神もいるようです。
 テルクミって、なんだか天照アマテラスの別の読み方の天照アマテルに名前の感じが似ているね。
 口伝によると、女神アマミコの額には角のような瘤があって、それを布を巻いて隠していたそうです。だから奄美の女性は頭に白布を巻く習慣があり、珍首ウチクイと呼んでいたとか。また、一説では、創世当時の人間は穴に住み、煮炊きも知らずに果物や獣の血を飲んで生きていたので、アマミコが天またはニライカナイ(竜宮)から五穀の種を乞うてきて、人々に農耕を教えたのだそうですよ。
 じゃあ、アマミコは農業……っていうか、知恵というか、文明の女神様なんだね。ギリシア神話のプロメテウスみたい。
 プロメテウスとは違って、盗んできたわけではないので、罪には問われなかったようですけどね。
 そういえば、邇邇芸命も天下ってきた時に天照からもらった稲種を地上に撒いてたよねー。
 プロメテウスのように、稲種を盗んで地上にもたらした、とする話もあります。次はそれを紹介しましょう。


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