■はねつきの話

 あけましておめでとうございます。

 新年の遊びといえば、やはり「はねつき」ですよね。こま回しや凧上げはお正月でなくとも出来ますが、はねつきはお正月限定ですから。

 といっても、私生まれてから一度もはねつきを遊んだことはありません……。既に死滅しかかってる風習なのかもしれませんが、一昔前のマンガや、現行の「お正月イラスト」の中ではバリバリに現役なので、イメージ知名度は非常に高いと思われます。お正月は「はねつき」。これニホンの常識。

 といっても知らない人も もしかしているかもしれないので一応。「はねつき」とは板のラケット(羽子板)で小さな重りのついた羽――シャトル(追羽根)を打ち合う、バドミントンのようなゲームです。羽を落とした人が負けで、罰として顔に墨を塗られるのがスタンダードです。(マンガ知識)

 

 ところで、はねつきのルーツって何なんでしょうね。まさか、バドミントンが日本に伝わって変化したとか? なーんて。

 実は、はねつきのルーツはよくわかっていません。とりあえず、室町時代に既にお正月のゲームとして存在していたことは知られています。なぜって、当時の絵に描いてあるのだそうです。ちなみにバドミントンが成立したのは19世紀だそうですから、単純に見てもバドミントンがはねつきのルーツというわけではありませんよね。

 バドミントンのルーツは、1873年、イギリスの貴族・ボーフォート公のホームパーティにあるとされています。このパーティーで、当時イギリスの植民地であったインドで昔から愛されていたというゲーム、”ブーナ”の説明をするため、インド駐留から帰国中の陸軍士官たちが、そこにあったコルク栓に鳥の羽根をさしてシャトルを作り、テーブル越しにテニスのラケットで打ち合って見せました。ここからこのゲームが広がり、パーティの開かれた領邸の名を取って「バドミントン」と呼ばれた、というわけです。(違う説もあります。)

 しかし、ではそれ以前にそういうゲームがなかったのかといえばそうではなく、例えばテニスは既にあったわけですし、重りのついた羽……シャトルをつかう、非常に似たゲームは、少なくとも17世紀頃にはもう存在していたといいます。このゲームはバトルドア・アンド・シャトルコックといい、主にイングランドで楽しまれていたとか。

 この手の、シャトルをラケットで打ち合うゲームの源流はどこにあるのでしょうか。一つのゲームから派生したものなのか、それともあちこちで別々に発生したのか。インドのブーナがイギリスに伝わったように、ブーナ(またはこのゲームの原型)が古い時代の日本に伝わり、「はねつき」になったのでしょうか。

 いずれにしても、日本では「特別な時にするゲーム」か「装飾品・縁起もの」になったわけで、普段の遊びとしては定着しなかったわけですよね。きっと、そんな遊びをする生活的余裕が日本人にはなかったのだろうなと思うのですが。でも、せめてお正月くらいは楽しく遊ぼう、ということで、お正月のゲームとして定着したのではないでしょうか。

 

 お正月のゲームとなったためか、はねつきには様々な縁起もの的な意味が込められてもいます。

 たとえば、羽子板。赤ん坊が生まれてはじめて迎える初正月。この際には男の子には破魔矢、女の子には羽子板を贈る習慣があります。いずれも、子供の魔除けの意味があるのです。元々、お正月に男の子が弓矢で的を射てその年の占いをしたのが破魔弓の、女の子が正月に追羽根を突いてその年の厄落としをしたのが羽子板の起源だというわけで、つまりはねつきは単なるゲームではなく、女の子の無病息災を祈る呪術的儀式だったというのですね。「シャトルをつき合うゲーム」そのものの本来の起源がどうかはわかりませんが、日本国内でのいわれはそうなっているわけです。

 同じような意味が、シャトル――「追羽根」の方にも込められています。

 バドミントンのシャトルはコルク栓に羽をさしたものが起源となっていますが、日本の追羽根は木の実と羽で作られています。実の種類は決まっていて、「むくろじ」のそれです。(正確には実の中の種。秋にこれを取っておき、キリで穴をあけて羽を付け、追羽根にする。他には、数珠玉にもした。) むくろじは漢名を無患子といい、「子が患わない」という意味が込められています。また、追羽根はトンボに似ている、トンボは蚊を食べるので蚊が恐れるから、子が蚊に刺されない、という、ちょっとムチャな意味を込めることもあるようです。

 むくろじの実(果皮)は、昭和の初め頃までは自然の洗剤として用いられていました。むいた果皮を煮出した汁を使ったようですが、ぬるぬるとした泡が立って、よく汚れが落ちたそうです。ただ、大変な悪臭があったとか。この洗剤としての作用は、含まれるサポニンによるものです。これは毒でもあり、しかし様々な植物に普通に含まれる成分です。人間の体内には吸収されにくく、せきどめなど、薬として使われたりもします。

 

 はねつきが一般化したのは江戸時代からだそうで、そのころから押絵細工を施された縁起ものの豪華な羽子板が登場しはじめました。遊ぶための実用的なラケットではなく、縁起もの、贈答品として重視されたわけです。子供のためだけのものではなく、歌舞伎役者(いわば男性アイドル)の似顔絵を貼りつけたものを、多くの女性客が胸ときめかして買い求めたのです。今でも、浅草観音の羽子板市は有名ですよね。




02/01/02

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