その階には特に複雑な仕掛けはない。プレートも宝箱もない。

 ただ、長い廊下がずうっと続いていて、時々スイッチを押して、鍵のかかっている扉を開ける。

 …設問作るのが面倒になっちゃったのかなぁ? 楽でいいけど。

 そうやって、二つ目の扉を開けたとき。

「…っとにしょうがないんだから。いつまで面倒掛けてれば気が済むのよ、あのウシはっ」

 格闘おねーさん、ルルーがいたのだ。

 形のいい眉をきゅっと逆立てて、なんだか機嫌が悪そう…。

 係わりたくないところだけど、狭い通路、ここを通らなければ先に進めないのだから仕方がない。

「あら、アルル?」

 当然だけど、気付かれた。

「やぁ。ルルーもここまで来てたんだ」

「あったりまえでしょ。それより、あんたはよーやくここまで上ってこれたみたいね。ま、お子ちゃまのあんたの頭には、この城の謎かけはちょーっと難しかったかしら。オーッホホホ!」

「むっ…。そんなの関係ないでしょ? それより、ルルーはこんな所で何してるの? そういえば、ミノタウロスもいないみたいだけど…」

 途端に、ルルーの顔が怖くなった。

「あんな三半器官のおかしいウシのコトはどうでもいいのよっ! 全然役に立たないんだからっ」

「あ…。またはぐれたんだ」

 ミノタウロスって、もしかしたら方向音痴なのかもしれない。期末試験の時も、ルルーとはぐれてたもんね。折角無理を言って試験に付いてきたのに。

 それより、ルルーにカーくんのことを聞いてみよう。不機嫌で怖いケド…。

「ねぇルルー、カーくんのことを知らない? この辺で見たとか…」

「ん? カーバンクル? …そういえば、今日はあの黄色いのがくっついていないわねぇ。…さては、逃げられたのね?」

「逃げ……違うよ! ただ、カーくんが一人で先に行っちゃったから、ボクは…」

「あーら、やっぱり逃げられたんじゃない」

 勝ち誇ってルルーは笑った。

「そんなわけ…」

 ボクは口篭もる。

 ……そうなのかな? カーくんはボクのことが嫌いになっちゃって、それで逃げちゃったのかなぁ…。

 ううん、そんなことない。きっと。

 でも、ルルーは容赦ない。

「あたくしは、いつかはこうなると思ってたわ。大体、カーバンクルがあんたに懐いていたこと自体、おかしいのよっ」

 ビシリと言い放つ。

「ううっ…」

「本来カーバンクルが選ぶべきなのはあたくし。サタン様との婚約のあかしであるカーバンクルを手に入れ、すなわちサタン様と結ばれるのは、あたくしなの!」

「な…。あのねぇ!」

 ガクリときて、ボクは怒鳴った。

 カーくんは元々サタンのペットだった。そしてサタンはカーくんを自分の奥さんに渡すつもりでいたらしい。でもっ、そんなの。

「サタンのことなんか関係ないよ。ボクは、カーくんが好きだから一緒にいるんだ。だって、カーくんはボクの大切なトモダチだもん!」

「………」

 ルルーは、黙ってボクの言うことを聞いていた。しばらくの間があって。

「よく言ったわ、アルル。…分かったから」

「ルルー…」

 やっと、ボクの気持ちを分かってくれたんだね。

「あんたが、本心ではそんなにまでもサタン様と結婚したがってたってことがね! でもあたくしだって譲るワケにはいかないのよ。ここで決着をつけるわっ!」「そうですわ〜」

「どぇええっ! なんでそうなるんだよ〜!?」「そうですわ〜」

「問答無用。覚悟なさいっ」「そうですわ〜」

 って…。さっきから、なんだかウルサイ。

「聴・い・て・もらいますわ〜〜♪」

 ああぁああああ! ハーピー! いつの間にぃい!?

 ピンクの髪に金色の翼。破滅的な歌声を誇る半人半鳥の女の子が、ボクらのすぐ側に浮かんでいる。

 ハーピーがすごく大きく息を吸い込んだ。

「わぁあああっ」

「ちょっ…。待ちなさいアルル! …一人だけ逃げるなんてヒキョーよっ」

「行〜か〜な〜い〜で〜〜〜♪」

 全力疾走するボクとルルー。その後ろを、ハーピーがゆらゆらとはばたきながら付いてくる。

 こ、こんな狭いところでハーピーの歌声なんて聴きたくないぃ〜っ!!

 長い通路はやがて扉で突き当っていた。駆け込み、ボクは思わずそれを閉める。取り残されたルルーが扉に激突する音が聞こえた。

「○×▽$&☆?◆〜〜!!!」

 うわぁああ、怒ってる!

 後ずさると…。

「わっ!?」

 視界が歪んで、見知らぬ景色にボクは放り出されていた。ワープゾーンがあったんだ。

 辺りは静まり返ってる。

 た、助かった……って、ルルーは?

 流石にこのままじゃマズいと思ったので、ボクはすぐに戻ろうとしたんだけれど。…あれ? 仕掛けが反応しないよ。

 どうやら、このワープゾーンは一方通行だったらしい。

 しばらく待ってみたけれど、ルルーがこちらに現れる様子は……ないみたい。

 ……………。

 ま、まぁ…。

 ルルーならきっと大丈夫だよね。鼓膜も丈夫そうだしっ。

 

 戻れないんだから、先に進むしかない。

 この先にあった魔法陣に乗り、ボクは次の階に向かった。

 

 

 次の階。

 ここは、もう何階になるんだろう…。

 マップを確かめてみると、9階だった。随分と上ってきちゃったなぁ。

 長い通路を歩いていくと、突き当りにプレートを見つけた。なになに…?

"ここまでご苦労だったな。だがこれからが本番だ。わはは〜" 

 ………ハラが立った。

 うー。ダメだなぁ。いいかげん苛々してきてるんだ。カーくんは見つからないし…。

 少し進むと、今度はこう書いてあった。

"苦労して手に入れたアイテムを売ったり食べたりするな。きっと後悔するだろう"

 ……確かに、このお城ってアイテムが手に入りにくいところではあるみたいだけどね。ダンジョンなんかでは、壁の中にアイテムが埋め込まれていることがよくあるんだけど、ここにはそれが全然ないみたいだ。

 北西から出発し、フロアを南にぐるりと回って、北東へ。扉は、すぐ左手と突き当りに一つずつ。…あ、あれ? 左手の扉には鍵がかかっている。

 仕方ない、突き当たりに行くしかないね。

 突き当たりの扉は単なる小部屋で、でもワープゾーンがあった。転移した先は長い通路。左手に扉が二つ。とりあえず手前の扉をくぐると、またワープゾーンだ。

 そこはちょっとした空間になっていた。奥まったところに回復の泉がある。アイテムの手に入れにくいこのお城では、泉は重要な休憩場所だ。

 またプレート。

"行かずとも開く道はない。供物を探すことができなければ、どんなに速く進もうとも意味はないだろう"

 ……供物?

 なんだろう、それ…。そんなの、ボクは一つも持っていない。なにか重要なものなのかな…?

 泉の更に奥には扉があった。…ありゃ。ここも開かないよ。

 他に行ける場所はない。ボクは一つ前の通路に戻った。開けていない扉はあと一つ。

 扉の奥には、白いスイッチがあった。

 ……これを押せば、開かない二つの扉のどちらかが開く…ってコトかな?

 

 開いたのは、最初に見つけた方の開かない扉だった。くぐると、転送の魔法陣。…んん? まだ、この階に開けられない扉があるのに…。

 まぁいっか。とにかく、行ってみるしかない。

 ボクは魔法陣に乗った。

 

 移動したその階は、一見してこれまでと変わってないみたいに見えた。

 まっすぐ通路が伸びている。右のすぐ手前にひとつ、左の奥にひとつ、口を開いた通路があって、この道自体は割とすぐに突き当たり。

 なんとなく右にいこうとしたんだけど…。

 ゴゴッ

「あれっ!?」

 ボクは目を瞬いた。

 目の前には壁がある。

 ええと…? 今、この先に進もうとしたんだよね。

 なのに、どうして壁があるんだろう。

 気が付かないうちに方向を間違えちゃったんだろうか? 似たような景色のところばかりぐるぐる回ってきたから、方向感覚がおかしくなっちゃったとか。

 だけど、右にあったはずの通路自体が消えちゃっている。…錯覚?

 首を傾げながら、突き当たりまで行ってみた。

"見えない道を探せ"

 そこに掲げられたプレートには、それだけ書いてあった。

 見えない道…って言われてもねぇ。何のことなんだろう。

 引き返して、左の通路に入る。と。わわわっ! 床が回転したよ。

 ゴゴッ

 ……え?

 目の前にはまた壁。

 って…三方が壁になってる?

 ええええっ、そんな! だって、一瞬前までここは通り抜けられるようになっていたはず。一体どうなってるんだよ!

 混乱しながら方向石とマップを見比べたボクは、そこでやっと気が付いた。

 違う。床が回転したせいで惑わされていたんだ。ボクが通り抜けようとしていたのは、今ボクの背中の方に開いている道。…たった今通り抜けた道が、壁で塞がっちゃってるんだ!

 手を伸ばし、ボクは壁を叩いてみた。

 …普通の壁だ。

 壁が自分で動いて、道を塞いだ? へ、ヘンなのぉ…。それに、これじゃ元の道には戻れないよ。

 とにかく、先に進むしかないみたいだ。

 動く壁に追い立てられながら、ボクは先に進んでいった。

"供物を見つけることができなければ、ここを出ても何の意味もないだろう"

 北にあったプレートには、こんなことが書いてあった。

 また「供物」だ。よっぽど無ければ困るものらしい。

 戻って、東の突き当たり。

"ふさがった道の反対にまた行けば、道は開いて壁はなくなる"

 え? それは……。あ、なるほど。ここはさしずめ一方通行のフロアってコトなのか!

 ってことは、水の流れみたいに逆らわずに進めば、先に行くのはそう難しくはないハズ。

 ボクは先に進んでいく。――と。

「ぐーっ」

 ……え?

 今のは…カーくんの声!?

 声は壁の向こうから聞こえる。うう…どうやったら向こうに行けるんだよ。……あ、この小部屋!

 床に、色の違う場所がある。ワープゾーンだ。

 それを使い、ボクは壁の向こうに飛び出した。

「カーくん!」

 そこで、ボクが目にしたのは…。

「シェゾ!? キミ、カーくんに何してるんだよっ!」

 これまで何度もボクを狙って来たヘンタイ魔導師。そのシェゾが、カーくんの耳を持ってぶら下げ、ちっちゃい手をぐいぐい引っ張っていたのだ。可哀相に。カーくんは嫌がってぐーぐー鳴いている。

「アルル? カーバンクルがいるのに姿が見えんと思ったが、やはり来たか」

「シェゾ! ヘンタイだとは思ってたけど、カーくんを誘拐して苛めるだなんて…。もう許さないよ!!」

「ふん、なかなか面白い言いがかりだな。…いいだろう。ここまで来たということは、お前も一つや二つ、供物を見つけているのだろう? お前に勝ってそれをいただく。ついでに我が物にしてやるから覚悟しておけ!」

「ついでなんかでキミのものになりたくなんかないよ、このヘンタイっ」

「くっ。さっきから…。ヘンタイヘンタイ言うなっ、のーてんきなサル女がっ」

「ひ・ひっどーい! ボクがサルなら、キミなんかシーラカンスじゃないか! いっつも眉間にしわ寄せちゃってさ」

 ちなみに、言い合いながらボクらは互いに魔力を高めている。

「ぐぬうぅううう……もうガマンできんっ! ――アレイアード!」

「わあっ!」

 闇を司る古代魔導!

 直撃は免れたものの、巻き込まれたボクは一撃でかなりのダメージを負ってしまった。物も言えずに床に転がる。

「……っ」

「急所は外したが……当たり所が悪かったか?」

 近付いてくるシェゾの気配。転がったまま、バッとボクは腕を伸ばした。

「何!?」

「ファファ ファイヤー!」

「くぅうっ!」

 飛び退いたものの、覗き込もうとしていたシェゾは炎の直撃を避けられなかった。顔を庇った腕が焼け爛れている。起きあがり、荒い息でボクはシェゾを睨んだ。

「つ……っ。流石に侮れん奴だな、アルル・ナジャ…」

 シェゾはヒーリングを唱えようとしているようだけど、刀印が結べないからやりにくいみたいだ。結構、見た目が痛々しい。

「……ボクは! カーくんさえ無事に返してもらえばいいんだ。そうしてくれるならこれ以上は戦わないよ」

「なっ…」

 一瞬、たじろいだみたいに息を呑んで、けれどすぐにシェゾは笑った。バカにするみたいに。

「それ以上戦わない、だと? フッ、麗しき博愛精神か」

「だって。キミ…その腕じゃもう戦えないでしょ?」

「――ふざけるなっ!!」

 ビクリ、とボクの体が震えた。

「この俺に情けをかけるだと? …お前にそうされるいわれなどないっ!!」

「この、わからずやっ!」

 右手を諦め、シェゾは左手で水晶の魔剣を構えている。

「闇の剣よっ」

 ボクも口の中で呪文を唱える。

「切り裂けぇっ!」

 剣から放たれる衝撃波。でも、なんだかんだ言って、片手で繰り出す斬撃にはいつもほどのキレはない。避ける。ボクは呪文を解放した。

「ブレインダムドっ」

「な!?」

 元々痛みで集中力を欠いていたんだろう。あっさりと術中に落ちたシェゾは、ボーッとしている。

 そのシェゾの前に立つと、ボクは真正面から最後の呪文を唱えた。

「スリープっ」

 糸が切れたみたいに。シェゾは床に崩れ落ちた。

 ふう……。

 ばたんきゅ〜させたっていうのとは少し違うけど。これで、ボクがシェゾに勝ったんだよね。

「ぐーっ」

 ちょこちょこと、懐かしい黄色い生き物が、ボクの方に駆け寄ってくる。離れていたのはほんの数時間のことなのに、なんだか胸が詰まって、ボクはカーくんに腕を伸ばした。

 可哀相に…怖かったんだよね。心持ち、青ざめて色が薄くなってるような気がするよ。表情も……いつもみたいにニコニコ笑ってるけど、きっとさっきまでは怯えていたに違いない。

「カーくん、キミ、こんなところにいたんだね。さぁ、ボクの肩に上がっといでよ!」

「ぐー!」

 声を上げると、差し出したボクの腕を駆け登って、カーくんはボクの肩の上に座った。

 いつものカーくんの位置だ。これで元どおりだね!

「ぐー…」

「うん? ところでこれは何? 黒い玉みたいだけど…」

 カーくんがちっちゃな手で差し出したものを見て、ボクは首を傾げた。

「ぐー ぐぐー」

「えっ、これを探すためにどこかに行っちゃってたの? …シェゾに捕まってたワケじゃないんだ」

 どうやら、シェゾはカーくんの持っていた黒い玉を見つけて、それを奪おうとしていたらしい。さっきカーくんの腕を引っ張っているように見えたのは、玉を取ろうとしてたんだ。

「それにしても、これって何なんだろう?」

「ぐ!」

「え、シェゾなら知ってるって? …そうだね。シェゾって、魔導に関する知識だけなら人一倍あるもんなぁ」

 他が色々欠けてる気がするケド。

 なんにしても、カーくんの玉を奪おうとしたのなら、その意味も知っているに違いない。

「ヒーリング!」

 ボクは、眠っているシェゾに治癒の魔法を掛けた。傷は全て癒えていく。……あれ、でも起きないなぁ。

「ぐっ」

 ぴょんとボクの肩から飛び降りると、カーくんがシェゾの顔の上に寝そべった。

 ………。

 …………。

 …………………。

「ぶはぁっ!」

 シェゾの体がわなわなと震えて、かばっと起き上がった。

「あっ、目が覚めた?」

「って、殺す気かぁあっ!!」

 シェゾはぜえぜえと息をつきながら怒っている。ホント、怒りっぽい人だよね。

 

 

「供物とは、その名の通り、ある存在に対して捧げ与えるためのものだ」

 質問すると、シェゾは案外すんなりと話しはじめた。

「そうして物を捧げ与えることにより、なにがしかの見返りを得る」

「ふぅん…。つまりは、ワイロってこと?」

「ま…まぁそんなものだな。

 とにかく。このエリーシオン城の最深部には"大魔力"が眠っているといわれている。供物はそれを目覚めさせ、こちらの希望を叶えさせるための手続きであり代償というわけだ」

「大魔力…」

 ボクは首を傾げる。

「一番にクリアしたら、願いが叶うっていうんじゃなかったのかなぁ? あ、もしかしたら"大魔力"が願いを叶えてくれるってことかも」

「さぁな…俺は知らん」

「って…。シェゾは願い事をかなえに来たんじゃないの?」

「俺は、古の力を秘めるという"大魔力"を吸収し、己の力とするために来たのだ。願い事のことなど知らんな」

 そう言うと、シェゾはつまらなさそうに口をつぐんだ。

 どうやらお城に入ってきた経緯も、場所もボクらとは違っていたみたいだった。だから、カーくんを見つけたときかなり驚いたみたい。

「まっ、とにかく。願いを叶えるためにはこの玉が必要なんだね。見つけてくれてありがとう、カーくん!」

「ぐーっ」

「……言っておくが、供物は一つじゃないからな」

「へ?」

 黙って、シェゾは懐から道具袋を取り出した。中から何かを取り出す。

「うっ…。シェゾ、キミってやっぱり…。もっと清潔にしなくちゃダメだよ。道具袋の中にキノコが生えてるなんて」

「ちっがーう! 何を言っとるんだお前は! これは供物の一つだ」

「えっ、これが?」

 ボクはしげしげとキノコを見た。

「だって…。緑色だよ?」

「緑色だと何だというんだ? これは、俺が宝箱から見つけたんだ」

「宝箱に生えてたんじゃなくて?」

「しつこいっ!」

 シェゾが取り出したのはキノコだけじゃなかった。銀色のベル、青いびんに入った聖水。

「これ、全部供物? 結構沢山あるんだ…」

「これで全部じゃない。供物は、全部で八つだといわれている」

「八つ? …じゃ、カーくんの玉と合わせても…」

 やっと半分だ。

「それは、お前にやる」

「え?」

 そう言って、供物を床に置いたままシェゾが立ちあがったので、ボクはすごくビックリした。

「シェゾ…。これ、ボクに譲ってくれるの!? ホント、本当にっ?」

「……そんなにおかしいか?」

「だ、だって…。シェゾだって苦労してこれを集めたんでしょ? それにシェゾが何かくれるなんて、青天の霹靂っていうか太陽が西から上がったっていうか…」

「お前が俺のことをどう思ってるかは、よーく分かったぜ」

 憮然として、シェゾは言った。

「だが、誤解するなよ。供物は一つ欠けても意味がない。

 ……勝負に負けたら、カーバンクルは返す約束だったからな。そいつがその黒い玉を大事に抱え込んでる以上、俺は供物を揃えられないだろーが」

 俺は無駄なことはしない主義なんだ、と首をすくめる。そして小さく一人ごちた。

「別に、治癒呪文の礼ってワケじゃないからな」

「シェゾ…。ありがとう」

「礼など言うな! …言っておくがな、アルル。おまえがどんな願いをかけるのかは知らんが……それでどんな力を手に入れようとも、俺はその力ごとお前の力を吸い取ってやる。

 覚えていろよ。――お前は、俺のものだ」

 そう言うと。青いマントを翻して、シェゾは去って行った。

 相変わらず……。

「ヘンタイくさい物言いだよね」

「ぐー!」



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