扉の中は真っ暗闇だった。

「……何も見えないね」

「ぐー」

 鼻をつままれても分からないとは、このことだろう。

 けれど、何もないというわけではない。

 この闇の中に――何かとても大きなものがいて、じっとこちらをうかがっている。そんな気配がさわさわと肌に触っている。

「誰?」

「………」

 気配は微かに身じろいだようだった。

 ボクは身を硬くした。気配のもつ色が、決してボク達を歓迎しているものではないと感じたからだ。

「……なかなか、やる…」

 長い沈黙の後。

 気配はようやく口を開いた。

「ここまで来る者がいるとは、な…。

 知恵と力を兼ね備えた少女よ。妾の眠りを妨げたからには、相応の覚悟があるのだろう? 命さえ差し出すような、な…」

「眠りを妨げた、だって? 違うよ、ボクはただ…」

「ふふ…。今更、何をとりつくろう?」

 突然、闇に光が走った。赤い雷だ。縦横に走ったそれはある一点に収束し、そこから何かが沸き上がってくる。沸き上がった力の中心から、ゆらゆらと何かの姿が滲み出してきた。

「女の人…?」眠れる公主

 美しい女の人だった。赤味がかった髪は長く、腰まで垂れ、エルフのように尖った耳に赤い大きな涙型の耳飾りを着けている。衣装は、一見ルルーの着ているようなドレスに似ている気もするケド…。編み上げた靴といい、もっとクラシックな、古代じみた感じだ。

「妾は、このエリーシオン城の公主にして、封印されし者」

「こうしゅ…? お姫様ってコト?」

「妾の目を醒ませし少女よ。……最後の供物として、その力、妾の前に捧げるがいい!」

「なっ…!?」

 公主が左手を伸ばすと、手の中に大きな金色の杖が現れた。凶々しいドクロの形をしたものだ。その杖が、輝く!

「メテオ・シャワー!」

「わぁあっ」

 天空から降り注いだ幾条もの流星がボクを打った。

「くぅうっ」

 今までの魔物とは比較にならない。この人、とんでもなく強い!

「ダイアキュートっ」

「そうだ、戦え。……コズミック・レイ!」

 天空から一直線に熱い烈光が来る!

「リリ リバイアっ」

「くうっ」

 反射の魔法で、自分の魔法を食らった公主がうめく。でも大してダメージにはなってないみたいだ。

「ダイアキュートっ」

「はぁ〜〜っ」

 公主が目を閉じた。まるで眠っているみたいだけど、その全身が光り輝いている。……まずいっ。

「リバ…」

「ビッグ・バン!」

「きゃああああ〜っ」

 目の前が真っ白になった。ダメだっ……ボク、ここで……。

 カシャン、と何かが割れる音が聞こえた。ボクの全身を光が取り巻き、全ての傷が癒されていく。……そうだ、魔導水晶を持っていたんだ。

 魔導水晶の力で完全回復したボクは、再び呪文を唱え始める。

「ファ ファイヤー!」

「ブラック・ホール!」

 ぶつかり合った魔力で、空間に衝撃が走る。けれど、ボクの炎は殆ど公主の生み出した闇に負けてしまった。

「はぁ、はぁ…」

「どうした……? 所詮はそんなものか」

「…っ、そんなこと!」

 ボクは気合いを集中し始める。

「コズミック・レイ!」

 公主は烈しい攻撃を繰り返すけれど…肉を切らせて骨をたつ。そうしなければ、今のボクに勝ち目はない。

「つまらんな。もう反撃しないのか? それとも、諦めて妾に力を差し出す気になったか…」

「誰が! ボクは、絶対負けないから!」

「フッ…小賢しいことだ。流石は、ここまで上がってきただけのことはある。――では、そろそろ楽にしてやろう」

 再び公主が目を閉じた。その全身が光り輝く。

 ――今しかない! ボクは大きく息を吐き出す。これまで編み上げ、高めてきた魔力と共に。

「轟け、雷よ! ラララララ ライトニングっ!!」

「ビッグ・バン!」

 衝撃と閃光。

 空間を軋みさえさせて、二つの魔力がぶつかり合った。一瞬の膠着と、そして爆発!

「きゃああああっ」

「くぅうっ……がはぁあああ!」

 公主の叫び声。

 そして、後はただ、真っ白になった。



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