夜が明けるのは早い。

 狭間はほんの僅かの間に過ぎず、光と闇の間に生まれた蒼は、束の間で消えていくさだめにある。

「ここらで大丈夫だろう」

 立ち止まり、彼奴は言った。

 前方に街が見える。

 あの街で、男は娘達の帰りを待っているのだ。

「報酬は先に受け取っている。わざわざもう一度顔を突き合わせる必要はないからな」

 相変らず少女達の返事はなかった。

 あの後――気まずい空気がより明瞭なものになっていたことだけは確かだ。

 人は闇を忌避する。光の中で活動する種としてそれは当然の感覚であろうし、計り知れぬものに対する恐れもあろう。

 闇は、死と滅びと眠りの傍にある。闇は魔を司る。闇は――人の情動を支配する。

 それを理知の光で退けるか。溺れるか。向き合うか。――目を逸らし知らぬ振りをして排除するかは、人それぞれだ。

「……リシェン。行こう」

 口火を切ったのはセラだった。妹を促し、手を引いて背を向ける。小さなリシェンは顔を俯け、彼奴の視線を避けるようにしていた。

 やれやれ。――本当に嫌われたものだな。

 二人の少女は街へ向かって小走りに駆けていく。……ふと、その片割れが止まった。

 セラが振り返っていた。

 少し迷っているように見える。

「………」

 彼奴も何も言わないので、ひどく間が開いた。

「……あのねぇ!」

 ややあって、セラが言ったのはこんな台詞だった。

「あんたは、ちゃんと自分の仕事をやり遂げた」

「………」

「あたしも、リシェンも、ちゃんと父さんに会える。……だ、だからっ」

 こころもち逸らしていた視線を、初めて、セラははっきりと彼奴に向けた。

「忘れないから。……元気でね!」

 そして背を向けた。少し先に立ち止まっていたリシェンと合流する。その一瞬、リシェンがちらりとこちらに視線を向けるのが見えた。

 二人は今度こそ駆けて行く。

 少女たちが去った後を追うように、朝日が射していった。

 


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