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 空は青く光り、大気の温みは適度で心地がよい。木々の間から零れる木漏れ日はチラチラと瞬き、その隙間を縫ってそよぐ風はまさに光っていた。

 こんな日の、しかも昼日なかに眠りこけているなど、人生の喜びの大半を取り逃がしているようなものかもしれない。だが現実に彼奴は眠りこけているし、別段それを咎めだてるような者もいなかった。

 眠っているとはいっても、寝過したとかいうわけではない。こう見えて、彼奴は惰眠をむさぼる質ではない。今こうして眠っているのは、単に基本的な睡眠を確保するためだ。なにしろ、ここ数日ろくに眠っていなかったのだから――眠れなかった、というのがより正確な表現だが――無理もなかろう。

 それにしても、いくら疲れ果てていたとはいえ、こんな場所で眠り込むとはいささか不用心だと人は思うかもしれない。やや奥になる目立たない位置ではあるが、ここは街道からはごく目と鼻の先だ。その野外で、何の準備をする事もなく、ただ木の幹に背をもたれかけて眠っているのだから。

 今の世の中、街を一歩出れば魔物の跋扈する世界である。勿論危険なのは魔物だけではなかろう。この辺りのような田舎――とはいえ辺境と言うほど中央から離れてもいない――では、中央から流れてきたあまり心持ちのよろしくない連中も少なくない。そんな連中の目には、今の彼奴は格好の獲物のように映るだろう。中央から出てきた旅慣れない若者が、疲れのままにうっかり眠り込んでいる……と。

 だが、その考えを実行に移そうものなら、連中はすぐに己の愚挙を悔いるはずだ。何故なら――。

 おや。

 下草を踏み分けて近付いてくる音がする。どうやら早速、愚かな輩が現われたようだ。

 現われたのは男だった。中年にさしかかった頃か。小柄で、あまりぱっとしない風采だ。愚かを通り越して間抜けな事に、気配は全く消されていなかった。一応、足音を潜めているつもりらしいのだが……スブの素人だな。

 男は眠っている彼奴を見て、僅かに足を止めた。逡巡……というほどではない。何かを確認しているようでもある。だがそれはすぐに済んだのか、そろそろとその手を伸ばす。彼奴の唯一の持ち物――彼奴が腕に抱え込むようにしている、一振りの剣。それを奪うつもりなのだ。

 ――馬鹿め。

 男の指先が剣に触れるか触れないか。その瞬間、神速の動きで剣が閃いた!

 体は深く眠りに入っていても、意識の全てが奥底に沈んでいるわけではない。己の身一つで魔境を渡る者の、これが身に付けた手業だ。……もっとも、今のこれは彼奴一人の手柄ではないがな。

 しかし、閃いた剣先がそのまま男を切り裂く事もなく、寸前で止まったのは――。

「……なんだ、お前は」

 凍てついた蒼の双眸を開き、彼奴は低く問うた。

 不機嫌そうな仏頂面はいつもの事だが、今ばかりはそれだけではあるまい。

 まだどこかに稚気の残る顔立ちから出たこの表情に気圧されたか、或いは単に喉元に突きつけられた刃のせいか。男はといえば声もなく、ただ、ヒイと喉を鳴らすばかり。

「小者か」

 鼻を鳴らし、彼奴は剣を引いた。とはいえ、立ち上がるついでに男を蹴転ばすのも忘れてはいない。

「コソ泥風情が己の分もわきまえず、馬鹿な真似をしたな。――もっとも、馬鹿だからコソ泥なんぞをしているんだろうが」

 地面に転がった男を見下ろし、彼奴はまず嘲りを口にした。

 さあ、この男はどう出るか。

 逆上するか、あるいは開き直るか。たまには、したたかな態度をとってくる者もいる。逆におもねってくるような者も。

 だが。男の反応はそのどれとも違っていた。

「す、すみませんっ。許してくださいっ」

そう言って突っ伏すと、肩を震わせて泣き始めたのだ。

「なんだ、泣き落としか?」

(こりゃ、新たなパターンだな)

 そんな彼奴の裡の呟きが聞こえた。

「許してください、私は、そんなっ……ただ、ど、どうしても、どうしても必要だったのでっ」

 小柄とはいえいい年をした男が、若僧と呼ばれるだろう年格好の彼奴の足元で泣いて許しを乞うている姿は、滑稽というより異様にも見える。

 これが演技なら大したものだが……どうも、この男に限っては素のままであるような気がした。演技であれば、どんな名演であろうとも、わずかなりともこちらの反応をうかがうような気配を見せるはずだ。だがそれもない。

 彼奴もそう思ったのだろう。軽い息と共にこう言葉を吐いた。

「分かった、もういい」

 どこへなりとも行け。それはごく淡々とした赦しの言葉だったのだが、男には伝わらなかったようだ。

「でも、私にはこれしかなかった……仕方がなかったんだ」

 昂奮のあまりこちらの言葉が耳に入っていないらしい。肩を竦めると、彼奴は自分の方が男の前から立ち去ろうとした。鞘を持たない抜き身の剣が、彼奴の装備のどこかと触れ合ってカチャリと音をたてる。その音で我に返ったのだろうか。男がはっと顔を上げると、あろうことか彼奴に取り縋った。

「どわ!?」

「ま、待ってください!」

 らしからぬ素っ頓狂な声を彼奴は上げたが、中年男にいきなり腰に貼り付かれたのだから、まぁ仕方がなかろう。

「何しやがるっ」

「待って、見捨てないで! わ、私を助けてくださいっ」

「なんで俺がお前を助けてやらなきゃならんのだ!」

「そんな冷たい事を言わないでっ」

 彼奴はなんとか逃れようとするが、男ががっしりと腰に抱き付いていて思うようにいかない。こうして押し問答している様は、傍から見ると、貢ぎ尽くした常客に未練を押し付けられている陰間のようでもあるな。

「なんだとっ!?」

 おっといけない。声が漏れ出ていたようだ。

「す、すみませんっ」

 自分が一喝されたとでも思ったらしく、男が首を竦めて反射的に謝った。

「でも、お願いです、どうか、どうかその剣を私に売ってくださいぃい!」

「……なに」

 もがくのを止め、彼奴は男を見据えた。

「貴様、本気で言っているのか?」

 俄かに、彼奴はただならぬ気配を纏う。それが鬼気とか邪気と呼ばれるものであるということに、果たしてこの善良そうな男が気付いたかどうか。……とりあえず異様な気配は感じたようで、縋っていた手を外して腰を落とした。

 やれやれ、小者相手に大人気ないぞ。……まぁ、気持ちは分かるがな。

 再び、彼奴は小さく息をついた。

「残念だが、これを売る事は出来ん」

「か、金なら……、払います、勿論」

そう言いながら、男がかすかに震える手で差し出したのは為替だったが、その桁は半端なものではなかった。通常の剣一本買うには過ぎた額だ。

「無駄だ。……貴様、一体何のつもりだ?」

 一瞥して突き返したが、彼奴はそこで男に問うた。それはそうだ。コソ泥かと思えば、男は金を持っている。それも、迷いもなく剣一本にこれだけの額を提示してくるのだから、羽振りはいいのだろうに……一体どういう男なのだ? また、「ただの剣」一本にこれだけの額を出そうというのもおかしな話である。

 あるいは――知っているのか?

「わ、私には武器が必要なんです」

「武器?」

 ……特に「この剣」を望む、というわけではないらしい。

「だったら、街の武具屋にでも行けばいい。いくらでも手に入れられるだろうが……。もっと手ごろな値でな」

「それはそうですが、あの時は動転していて……。でも、今からまた街に戻っていたのでは時間がかかりすぎるじゃないですか。だといっても流石に素手で行っても勝ち目はありません。そう思い悩んでいたら、君が剣を持っていたものだから、つい……。でも、私は決して盗みなど……い、いや、とにかく私は急がなくてはならないんだ! だから……」

「そうまくしたてられてもワケが分からん」

 三度目。息をついて彼奴は言った。

「……お前は、商人じゃないのか?」

 男はぱちくりと目を瞬かせた。

「た、確かに……。私はサイの村で商店を営んでいますが」

 何故それを? と問いたげな男に、彼奴は短く「見れば分かる」と応じた。

 そう。見た感じ、男の服装はこざっぱりとした旅装である。食いはぐれたコソ泥にしては、整いすぎた身なりだ。とはいえ良家の人間と考えるには簡素に過ぎる。また、現金ではなく為替、それもかなりまとまった額を持っているわけで、とくれば商人である可能性が高いだろう。尤も、だとすれば商品の詰まった荷物はおろか手荷物一つ持っていない点が奇妙ではあるが……。

「商人が品物一つ持たず、こんなところで小買いか?」

「そ……それが……荷物はなくしてしまったんです、あの時に」

「追い剥ぎにでも身ぐるみ剥がされたか」

 よくある……というわけではないが、全くないわけでもない。実際、よく見れば男の服のあちこちは引き破れてかぎ裂きが出来、腕や頬には擦り傷が目立った。

「そこらの追い剥ぎだったら、どんなに良かった事か……」

「泣くな、鬱陶しい」

 確かに、大の男の涙というのは見ていてあまり気持ちのいいものではないな。

「先程も言いました通り、私は、サイで商店を開いています……」

 彼奴の叱声に感じたか、涙をぬぐうと男は語った。

 サイはここからは西に位置する中規模の村だ。近隣に競争店が少ない事もあって、店はそこそこ繁盛しているという。仕入れは村から徒歩で一週間ほど離れた街(ここからは半日程度か)に出向いて行なっていて、いつもは男一人で出かけていたが、今回は娘達にせがまれ、観光と勉強を兼ねて一緒に連れてくる事になった。ところが……。

「いつも通り、順調でした。……昨夜までは」

 それは突然現われた。

 女だった。

 街まで後わずかという辺りで日が落ち、焚火を起こして野営の準備を始めていた。そんな時、ふと気付くと彼女は立っていたのだ。

 美しい女だが――いささか整い過ぎているきらいがあった。

 波打ち、肩から背中に垂れた金色の髪が、炎の照り返しを受けてわずかに赤味がかって見える。

 ――奇妙に不吉な情景だった。

「あなた達を、待っていたわ」

 血のように赤い唇を開き、女は言った。

「サキュバスでも出たか。……ああ、金髪のサキュバスなんて聞いた事もないな。じゃあヴァンプか……ドライアードというセンもあるな」

「私は、今でも信じられませんよ」

 男は吐き出す。

「あれが、人間だなんて……」

 こんな時間、こんな場所に女が一人。明らかに尋常のことではない。男は慌てて娘達を呼び寄せて後ろに庇ったし、護衛たちはいきりたった。だが……。

「その女に襲われたわけか。だが、相手は一人だったんだろう。余程の使い手かなにかだったのか?」

 幾分揶揄を含んだ彼奴の声に、男はわずかに言いよどんだ。言葉を捜している……いや、自分でもはっきりと理解しきれていないのだ、多分。

「違います。その女は何も……いえ」

「なんだよ」

 その女は何もしなかった。武器を持っていたわけでも、牙を剥いてつかみかかってきたわけでもなかった。

「魔物が……」

 女の周りには……魔物が集っていたのだ。

 それも、見た事も聞いた事もない種類の。

「商売柄、私は比較的頻繁に各地を回っています。魔物にだって何度も遭遇したことはあるんです。ですが……あんなものは、見たことがない!」

「…………」

「その女が何か合図をしたのか……魔物どもが私達に襲い掛かりました。護衛達はあっという間に殺されて……私と娘達は」

「その間に逃げ出した、か」

「……はい。情けない話ですがそれが精一杯だったのです。……それなのに、なのに私は」

 闇の中を男と娘達は逃げ惑った。

 人家のない郊外は自然光以外全く何の光源もない。真の闇の中をあてどもなく、無数の小傷をつけながら。時には立ち止まり、休むこともあったが、再び追う気配を感じてまた走った。

「……そいつらは……」

「は、はい?」

「いや。……それで? 今、お前は一人のようだが」

「そ……そうです」

 男は俯き、唇を噛む。

「私は娘達を……」

 いつのまにか辺りの闇は薄まっていた。夜明けが近い。

 魔物は必ずしも日光に弱いわけではないが、夜に現れたこの女や魔物たちは、日の光の下では無力化するような気がした。朝日と共に消え去る悪夢のように。その思いに励まされて男と娘達は走ったが……。

「リシェン!」

 転んでしまった娘と、父親の手を振り解き、そこに駆け戻った娘。

 再び現れた真の闇が二人を飲みこんだ。

 ……それで、おしまいだった。

「明るくなって、私は街へ急ぎました。人々にこのことを話して、人を雇って、何としてでも娘達を取り戻さなければならないと思ったからです」

「何故そうしなかったんだ?」

 ごく反射的に彼奴は切り返す。男はもうずっとそうしているように、再びきゅっと眉根を寄せた。

「……断られたんですよ! 街の連中に」

「そりゃ『ホムンクルス・マスター』だ! 悪いが、ヤツには関わりたくないね」

「冗談じゃない、いくら金を詰まれてもゴメンだ。命あっての物種だからな」

「申し訳ないが、私の力では何のお役にも立てないかと……」

 傭兵ギルドに集う剣士、魔導師。果ては神殿の方術師達にまでにべもなく断られた。

「ホムンクルス……マスター?」

「ええ……。ここに流れてきたのは最近らしいのですが、この辺ではかなり有名らしいですよ。ご存知ありませんか」

 男の逆の問いかけに、彼奴は首を振った。

「いや。俺がこの地方に来たのはつい数日前だからな」

 ついでに言うのなら、まだ人里へも行っていない。なので、この疲れた親父が、彼奴がこの地方で出会った最初の「人間」ということになる。

「そいつは魔導師なのか?」

「元は王都の宮廷魔導師だったという話です。……あくまで噂だと、皆言っていましたがね」

「…………少なくとも、ここ数年で都落ちしたようなヤツはいなかったはずだが……」

「だから、噂ですよ。……とにかく街の連中が言うには、そいつはある禁呪に手を染めて、王都から追われることになったのだそうです」

「……禁呪、か」

 彼奴は呟いた。

 既にして蜘蛛の巣のように分派した、数多の魔導の系統。その中には手を染めてはならぬと法的・倫理的に定められたものがある。行き過ぎた力や技術は死や破壊を呼ぶとされる……そのためだ。

 ――かつて滅び去った多くの人の世がそうであったように。

 だが……。確かに強すぎる力は災いの種になる。しかし、既に起こってしまった災厄を収めるためには、逆にその力が必要になることもあるのだ。そのことに、果たしてどの程度の者が気づいていることか……?

 話がそれた。

 とにかく、一口に禁呪と言っても様々な系統がある。それが一体何なのか……まぁ、予測はつくが。

 そして彼奴が尋ねるより先に男が喋った。

「そいつは『命』を作るのだそうです。全く、何もないところから」

 人工生命――何もないところから物質を生み出す魔導の一系統、いわゆる錬術師の一派にとって、それはある種、究極の夢だろう。だが……生命を創り出すこと、それは神の領域に入りこむ、まさしく禁断の業だ。

 生命を生み出すのはとても重い責任を伴うことだ。その生命自体に対する責任も勿論だが、また、世界とその世界に住む全ての生命に対する重大な責任をも負うことになる。新たな生命――種族が世界にとってどのような存在になるのか、何か重大な変化をもたらすのか、全く予測がつかないからである。

 そして、神ならぬ人間の生み出す生命は、殆どの場合――歪んでいる。

「成程……それで、『見たこともない魔物』というワケか」

 彼奴は一人ごちた。

「しかも、そいつは何もないところから命を作るだけではないのだそうです。元々、王都にいられなくなったのも……」

 男は続ける。

「人の……死体からも、そいつはそれを作ったんだそうです。蘇らせるとかいうことではなく、その、いろんな死体を繋ぎ合わせたとか」

 死体を操り、いわゆるアンデッドモンスターを生み出す技術もまた、当然禁じられている。

 以前からの取引先の主人は気の毒そうにこう言ったのだ。

「残念だけど、嬢ちゃん達のことは諦めた方がいいよ。あんたがこうして無事戻れただけでも感謝しなくては」

 ホムンクルス・マスターは人間を捕らえ、それを素材として作品を生み出す。

 人を――魔物に変える。

 そのまま、男は声もなく肩を震わせつづけた。暫くの間、彼奴は黙ってそれを見ていたが……。

「それで、お前は一人で娘を助けに行こうとしていたというワケか」

「は……はい。……あのとき、一瞬、私は娘を見捨てようとしました。だからこんな……バチが当たったんだ。私は……」

「で、その変態魔導師の居場所は判ってるのか?」

「それは、街で聞いて…………、ヘ、ヘンタイ?」

「死体を切ったり足したりするなんざ、俺に言わせりゃ余程の変態だ。……ま、そんなやつの側にはあまり近づきたくないんだがな」

 言いながら、彼奴は無造作に男が手に握ったままだった為替を取り上げた。

「あ、あっ!?」

「前払いでもらっておく。……剣一本を買うより、その使い手を込みで雇った方が、アンタも得だろう?」

 路銀も減ってきていたしな……丁度いい。そううそぶく(この場合そうでもないか?)彼奴を見上げ、男はうろたえた声をあげた。状況に頭がついていっていないらしい。

「あ、いや、でも、君は……」

 この、年齢的にまだ半人前にしか思えない青年は、馬鹿なのだろうか。腕自慢のいかつい男達や大魔導師然とした連中が皆して断ったこの話を、理解していないのか。……いや、先ほどの剣の閃きは確かに鋭かった気がする。気迫も充分だった。しかし……剣士にしては、青年の身に着けている装備は軽装に過ぎる。プロテクターの類を殆ど着けていない。身にまとった白銀のローブはどことなく方術師然としているが……違うだろう。何か、そうとは思えない雰囲気を彼は持っていた。それでは……。

 そんな疑問や考えがありありと男の顔に浮かんでいる。

「俺は魔導師だ」

 男の疑問を、彼奴は晴らしてやった。

「話を聞く限り、その変態はアンタの娘を狙っていたんだ。最初からな。護衛達は頓着なく殺してしまったんだろう。そしてアンタは捕まえなかった。つまり、娘を生かしたまま捕らえたかった。……多分、素材としてな。そして、そうまでして捕らえた素材を、そう簡単に消費するとは思えない」

「そ、それは……」

「恐らくアンタの娘は無事だ。まぁ、多少の猶予はあるだろうよ」

「…………!」

 男の顔に複雑な表情が広がる。安堵と、希望と、そして縋るような。

「き、君は……」

 再びの問いかけ。しかし、今度は少し違うものを込めた。

「俺の名は、シェゾ・ウィグィィ。……先刻も言ったが、魔導師だ」

 言って、彼奴は手にしていた剣を担ぐように軽く肩に乗せた。

 水晶――と言うにはまた少し違う、しかし半透明の刀身が日の光を受けて複雑にきらめく。

 多少なりとも魔導に関わる者なら分かるだろう。この剣から溢れ出さんばかりの莫大な魔気、――暗黒の力を。

 そう。彼奴は、今では禁呪となった古代の闇の魔導を司る――闇の魔導師。

 そして、彼奴の持つ剣。これこそが我。

 意思ある魔剣――闇の剣だ。

 


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