「あの……大丈夫ですか?」

 なんとなくグロストと並んで歩きながら、アルルはそう声をかけた。

 アルルの買い物はもう終わっている。そしてグロストも元々買い物に来たわけではない。となればあれ以上ウィッチの店にいる必要はないわけで、必然的に一緒に店を出て、こうして街までの道を歩いている。

「一体どうすれば引き受けてもらえるんでしょうね」

 悄然としながらのグロストの呟きに、まだ諦めてないんだ、とアルルは少し驚いた。

「闇の魔獣なんて言っちゃったのがマズかったのかなぁ……」

「あのー、……どうしてそんなにシェゾにこだわるんですか?」

 優秀な魔導師や剣士というなら他にもいそうなものだ。不思議に思って尋ねると、グロストは胡乱な目つきでちらりとアルルを見た。

「……そりゃ、彼はとても名の知れた人ですから」

「名の知れた……って」

 アルルはごくりとつばを飲む。

「何かすっごいヘンタイ行為をしでかしたとか?」

「はぁ?」

「えっ」

 ひゅぅう……。

 風が吹きぬける。

「え、えーと……」

「彼は魔導の世界ではとても名が知れた人ですよ。禁断の闇の剣を持ち、失われた古代魔導を操る……ずば抜けて強い力を持った、美しい銀髪の闇の魔導師」

「へえ……そーなんですか?」

 アルルにはいまいちピンと来ない。

「だから、彼にはぜひ来てもらいたかったんだけど……どうしようかなぁ」

 言いながら懸命に思いを巡らせているように見える。

 グロストさん……本当に困ってるんだ。

 アルルは気の毒に思った。そうだよね、そんなに恐い魔獣がいるんなら困るに決まってる。

 でも、シェゾの頑固さは筋金入りだ。一度断ったらそう簡単には気を変えたりしない。今のままでは、多分彼を雇うことはできないだろう。

「ねぇ……カーくん」

 アルルは肩のカーバンクルに語りかけた。

「ぐー」

「うん」

 アルルは頷く。

「あの……グロストさん。ボクを連れていってもらえませんか?」

 アルルは言った。

「え? あなたを……ですか?」

「ボクはまだ学生だし、あまり役に立たないかもしれないけど……みんなが困ってるんでしょ。できることがあるならお手伝いしたいんです」

「…………」

 グロストはじっとアルルを見た。そして、ふと笑う。

「……そうですね。あなたにお願いするのもよさそうだ」

「はい! ボク、がんばります」

「よろしく。ええと……あなたは?」

「アルル。ボクはアルル・ナジャです」

 グロストはかすかに目を見開いた。

「あなたが……」

「え? ボクのこと知ってるんですか」

「いえ……」

 グロストは笑った。

「よろしく、アルル・ナジャさん」


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