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「ふ〜んふふ〜ん♪」
鼻歌など歌いながら、ドラコことドラコケンタウロスは空の散歩としゃれ込んでいた。全身に春の日差しを存分に浴び、んーっと伸びをする。
「あーっ気ぃ持ちいいーっ。やっぱ、あったかいのっていいわよねぇー」
寒いと、体温が下がって てきめんに体が動きにくくなる。トカ……竜の形質を引く者の定めというものだ。
――さぁて、今日はこれから何をしようかな。格闘技の修行もいいけど、こんなにいい天気だもん。どっかに遊びに行きたいわよね。例えば、ショッピングとか……。そうだ。街に行って、春物の服なんかを見よう。世界一の美少女たるもの、ファッションのチェックも怠らないでいないとね。
そんなことを考えて、宙でくるりと横に一回転してみる。
「そうと決まれば善は急げ。……んっ?」
背後から何かが近づいてくる気配がする、と思った直後、ごーっと強い風が吹きぬけた。
「わわわっ」
煽られて、足から縦上に回転してしまったが、赤い竜の翼を何度かはためかせて立て直す。
「何だ? 今の」
風と一緒に白いものが通り過ぎたような……と思い、それを探そうと目を凝らすと、これまた後ろから、接触スレスレの感じで黒い風が吹きぬけていった。
「わっ」
「失礼っ」
一言、声を残していく。箒に乗ったウィッチだ。「あっぶないじゃない!」とドラコが憤慨していると、下から途切れ途切れに自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あれっ。ルルー?」
高飛車格闘オンナのルルーと、そのお守役のミノタウロスだ。更には、ずっと後ろの方に、肩にカーバンクルをつかまらせたアルルの姿も見える。
みんなで走っちゃって、一体なにやってるんだろう?
興味を覚えて、ドラコは地上近くへ空を滑っていくと、走るルルーたちと並んで飛び始めた。
「やっほー。ねぇねぇ、何してんの? マラソン? それにしちゃ網なんて持っちゃって、変な感じねー。それって、新しい遊び?」
「……から、……のよ」
息を切らしながらルルーが何か言う。
「ん?」
「いいからっ、あの子供をつかまえるのよっ!!」
「わわっ。な、なによ怖い顔しちゃって〜」
格闘ならともかく、これじゃ、この美少女ドラコちゃんの敵じゃあないわね。
と思いながらも迫力に押されてルルーの差す方を見ると、宙で箒に乗ったウィッチと白い傘をさした子供がくるくると追いかけっこを続けているのが見えた。
「よくわかんないけど……あの子供を止めればいいのね」
ドラコは翼を鳴らして舞い上がると、すぅーー、と息を吸い込む。
「がぁおぅ! グレートブレスだ!」
ドラコが口から吐いた豪炎に包まれて、それはあっという間に燃えあがると、地にぽてりと落ちた。――白いレースの日傘が。
「ふふん。ざっとこんなものね」
地上に降りて胸を張ったドラコを、後ろからルルーが殴りつけた。
「いてっ! なにすんのよ!」
「なにすんのはこっちの台詞よ! どうしてくれるの、あたくしの傘を!」
「はぁ? 足止めしろって言ったのはそっちでしょ。だから傘を燃やして……って。もしかして、傘で飛んでたワケじゃない?」
などと言っている背後で、宙に浮かんだままの子供がしゅーっと上に舞い上がり、ぴゅーっとどこかに飛んでいく。
「ああっ。熱い空気を食べてますますパワーアップしましたわ!」
空の上から、ウィッチの叫ぶ声が聞こえた。
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