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 というわけで、辺りにうららかな春の日が復活した。といっても、既に日は傾きかけ、空気はハチミツ色にねっとりした衣装に着替えつつあったのだけれど。

「じゃあ、もう帰ろう。――カーくん」

「ぐぅ!」

 アルルに呼ばれて、それまでサタンと遊んでいた……というより、ほぼ”弄んでいた”カーバンクルが、ひらりと身を翻して駆けて来る。サタンは名残惜しそうな目でそれを見送ったが、まぁいいか、と思いなおした。ここから帰るためには、もう一度、愛しい小動物と妃を腕に抱えて、しばしのランデヴーを楽しむことになるのだから。

 それにしても。

「猫のバックプリントに、紐の白総レースに、青のボーダーか……」

 うむ、思いがけない眼福だった。今年は春から幸先がいいぞ。

「サタン様? どうされましたの、とっても嬉しそうですわ」

「ぅおっ!? いや、ゲフン。ルルー、なんでもないぞっ」

 サタン様が嬉しいとあたくしも嬉しいですわ、とでも言いたげに、無邪気に微笑む少女からにやけた顔を背けつつ、サタンは咳払いして表情を引き締めた。

 この幸運を、むざむざ惨劇に変える必要はない。……折角、ヤツが身を犠牲にしてくれたのだからな。

「よし、では帰るぞ!」

 ゆるく穏やかな風が、地に咲き広がる白い小さな花々を揺らした。

 春一番の風は去り、間もなく、爛漫の本当の春が来る。

 

 

おわり


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