「こ、このお方は……!!」

 トリトハイムの驚愕に引きつった顔を見て、イオンレプリカは身を縮めるとアニスの背にしがみついた。

「ご存知かと思いますが、彼も導師イオンのレプリカです」

 簡捷にティアが説明し、アニスが続ける。

「……ダアトにお預けするのが一番いいと思って連れてきました」

 その静かな声にようやく我を取り戻した様子で、トリトハイムは深く息を吸うと頷いてみせた。

「分かりました。お預かりしましょう」

 イオンレプリカはぶるぶると震えている。その手を両手で包み込むと、アニスは緑の瞳を覗いて笑いかけた。

「大丈夫だよ。ここの人たちは、あなたに預言スコアを詠むように強制したりしないから」

「……アニスは……残らないの?」

 幼子めいた様子で訊ねる少年に、優しく、それでもきっぱりと答える。

「うん。やらなきゃいけないことがあるから」

「大丈夫。全部終わったらアニスは戻ってくるよ。時々顔も見に来る」

 取り成すようにルークが言った。「勿論、俺もさ」と笑って付け加える。トリトハイムが訊ねた。

「ところで彼はなんとお呼びすればよろしいのでしょうか。イオン様では……」

「うーん……」

 ルークは考え込む。ティアが提案した。

「アニスが名付けてあげたら? アニスになついているもの」

 そうだ、それがいいだろう。異論なく人々が見守る中、アニスは少年をじっと見詰めると、明瞭な声で言った。

「……フローリアン」

「フローリアン?」

 ルークは小首を傾げる。「無垢な者という意味です」と説明したのはジェイドだ。ルークの名と同じく、古代イスパニア語なのだろう。未だ小さな子供のような、真白さを感じさせるこの少年には相応しい。

「彼の世話はオリバーたちに任せましょう」

「分かりました。では、フローリアンは私たちが夫妻の部屋に連れて行きます」

 トリトハイムの声にティアが頷く。一行は詠師の執務室を出ると、タトリン夫妻の私室へと向かった。



 戦乱が絶え間なく続いていたこの世界では、身寄りをなくす子供は少なくない。そういった子供の保護にも教団は関わっており、フローリアンを引き受けたことは、その意味では特別なことではないと言えた。だが……。

 ひそひそと声を潜めた囁きが交わされている。

 教会の廊下を歩いて行く間、そんなざわめきが付きまとっていた。行き会う人々の視線がチクチクと刺さってくるような気がする。――フローリアン、ただ一人に。

 無理もないのだろう。彼は、先日慰霊祭が行われたばかりの導師イオンと瓜二つだった。誰もがその姿を見て驚き、中には悲鳴をあげかけた者さえいる。レプリカの存在が知られるようになったためか深刻な騒ぎにはならなかったが、取り巻く空気は明らかに尋常ではない。

「なんか、怖い……」

 タトリン夫妻の部屋に着いて扉を閉ざすと、フローリアンは俯いて身を震わせた。

「……アニスたち以外は、ボクのこと変な目で見るの」

「……そうだな」

 暗い気持ちでルークは頷きを返す。自分自身、覚えのある空気だった。それを受ける辛さも身に染みてよく分かる。

「なぁ、アニス、しばらくフローリアンと一緒に居てやった方がいいんじゃないか?」

 そう提案したが、アニスは首を横に振った。

「ううん。ダメだよ。私たちにはやることがあるじゃん。フローリアンのためにも」

「そうだけど……」

「アニス、本当に行っちゃうの?」

 縋るような目を向けるフローリアンに、アニスは優しく笑いかける。

「うん。もう一頑張りだもん。でも、今日は一緒にご飯食べて一緒に寝よっか」

「一緒に!?」

 思わず大声をあげたルークを、アニスはジロリと見やった。

「ルーク……変なこと考えてない? みんな一緒に決まってるっしょ」

「……」

 ルークは気まずげに視線を逸らす。フローリアンはと言えば、全く無邪気なものだった。

「今日はみんな一緒なんだね」

「うん。ご飯も私が作っちゃうよ! 今まで作ったことのないものでもチャレンジしちゃうんだから! フローリアン、何が食べたい?」

 訊ねると、少年は素直に思考を巡らせている。

「……シチューが食べたいな」

「シチュー?」

「ボクたちがずっと閉じ込められてた部屋にあった本に書いてあったの。美味しそうだよ」

「ふむふむ。了解。レシピは図書館の本に書いてあると思うし。アニスちゃんに任せなさい!」

 薄い胸を叩いて、アニスは力強く請け負った。


 フローリアンをトリトハイムに預けようとする時、ティアが「ユリアシティから報告が行っていると思いますが、導師イオンのレプリカです」と言います。

 これ、ノベライズする時、かなり扱いに困りました。

 

 ユリアシティから報告が行っているとはどういうことか?

 ルークたちはアブソーブゲートからダアトに行く途中でユリアシティに立ち寄って、そこからダアトへ連絡させたということなのか? しかし、この世界の連絡手段は郵便と鳩と伝声管しかありません。鳩を飛ばしたとしてもアルビオールの方が早いでしょう。フローリアンを確実に保護してもらうためにテオドーロのお墨付きが欲しかったと言うなら、そんな手間をかけずとも、テオドーロに一筆もらってそれを持ってトリトハイムに会いに行けばいい。

 では、単に「導師イオンがレプリカであったこと」「導師イオンのレプリカは、シンクなど、複数存在していたこと」についてユリアシティからトリトハイムに報告されていて、それ繋がりで「この子も導師のレプリカです」というつもりで言っているのか?

 とりあえず後者に解釈して、このノベライズでは既にイオンの慰霊祭の時点で導師のレプリカの存在が明かされていることにしていますから、「ご存知かと思いますが、彼も導師イオンのレプリカです」という台詞にアレンジしてみました。

#そういえば、前に書いたように、最終決戦前にテオドーロに会いに行くと「導師イオンまでもがレプリカじゃったとは……」と言うんですが、インタビュー記事を読むと、メインシナリオライターさん的には、テオドーロは最初からイオンがレプリカだと知ってたつもりでおられたみたいなんですよね。文芸スタッフ間での打ち合わせやチェックが徹底してないってことなんでしょうが、おかげでプレイヤー的には何がなにやら。

 

 アニスがフローリアンに「今日は一緒にご飯食べて一緒に寝よっか」と言うと、「一緒に!?」と素っ頓狂に叫んだルーク。変な妄想をしてしまったらしいです。そういえばユリアシティで昏睡から覚めた後も、自分が寝かせられていたのがティアのベッドだったと知って、なにやら妄想して赤くなっていましたが。妄想力日々増大中。思春期マッサカリだよなぁ〜。(笑々)

 そのくせ、ティアと知り合ったばかりの頃に同じ部屋に泊まってた時は、ティアに夜這いされ……もとい、寝顔を覗かれるまでは全然意識している様子はなかったですよね。よく分からん子だ。(はっ…。アレが思春期の目覚めだったのか!?)


 そろそろ高くなり始めた日の光を受けて、ダアトの街並みは白く輝いている。

「じゃあ、パパ、ママ。フローリアンをよろしくね」

 教会の大扉を出たところで足を止め、くるりと背後に向き直るとアニスは言った。

「はいはい。アニスちゃんも気をつけるのよ」

 見送るパメラの笑顔はいつも通りの暖かなものだ。

「皆さんもお気をつけて」

 娘の仲間たちを気遣うオリバーに、「はい」とルークが頷きを返した。

 昨晩は、楽しいものだった。

 タトリン夫妻は快くフローリアンの世話を引き受け、人の好い夫妻にフローリアンもなついて、屈託ない笑顔を見せた。アニスが初挑戦したというビーフシチューは極上の味で、みんなよく食べたし、よく喋った。

 だが、いつでも均等に時は過ぎる。朝は訪れ、ルークたちは先へ進まねばならなかった。

「フローリアン、また来るから」

 いたいけな少年の目を覗き込むようにしてアニスは微笑う。だが、その瞳が刹那揺らぎ、わなないた唇が囁きのような声を漏らしたのを、ルークの耳は捉えた。

……イオン様……

「……アニス。行きましょう」

「……うん」

 近付いたティアに促されて、アニスは自分こそ離れ難そうに握り締めていた少年の手を離す。

「アニス。行ってらっしゃい」

 そんな少女の様子に何を思ったのか、フローリアンは昨日までのような不安な色を見せなかった。アニスももう一度笑ってみせる。ことさらに明るい調子で声を返した。

「行ってきま〜す」

 それらの様子を見届けてから、ルークは先頭に立って街へ続く階段を下り始める。が、すぐにその足が止まった。止まらざるを得なかったのだ。突然、鼻先に何かを突きつけられたのだから。

「おっ、反応したぞ」

 小さな端末から繋がった機器の表示部分を見ながら言ったのは、二十歳を幾らか過ぎた年恰好の若者だった。見た感じ、教団員ではない。巡礼の旅でもしているのか、くたびれた、やけに重たそうな荷物を背負っている。

「ってことは、やっぱりあの反応は間違いじゃないってことだな」

 なにやら得心した顔で独りぶつぶつ呟いている様子に、ルークは憮然とさせられた。

「な、何だよ。人に変な音機関向けて……」

「あ、ごめん。実はこれはインゴベルト陛下のご命令で作成したレプリカ探索機なんだ」

「レプリカ探索機? あなたはキムラスカの方なのですか?」

 ナタリアが訊ねる。

「ああ。俺はシバ。こっちは愛犬のペコだ」

 そう言って男が示した足元には茶色い中型犬がいて、ヘッヘッと息を吐きながら丸まった尾をパタパタと振っていた。ティアがフラフラと歩み出て、その前にしゃがみ込む。

「ふさふさ……」

「シェリダンの職人なんだが、見聞を広めるため、いつもは世界中を回ってんだ。

 この前シェリダンに戻った時、レプリカを保護する為に彼らを見分ける音機関が必要だってことで、街の連中がこいつを作ってたんだけど……」

「だけど、何?」と、アニスが先を促す。

「この音機関はレプリカと、作動中のフォミクリーに反応するんだ。これを試運転していたらワイヨン鏡窟の方から物凄いレプリカとフォミクリー反応があって……」

「ワイヨン鏡窟はディストが研究に使っていた筈ですね」

 ジェイドが考え深げな色を目に浮かべた。

「ああ。音機関の誤動作かとも思ったけど、どうやら装置は正しく動いているみたいだな」

 シバは、ルークがレプリカであることを知っているらしい。シェリダンを訪ねた時にでも見られていたのかもしれない。だがそれよりも、ルークは『物凄いフォミクリー反応』の方が気になった。

「なんか気になるな。まさか、ディストの研究を誰かが引き継いでるとか……」

「俺もそれが気がかりで、ワイヨン鏡窟の奥の、反応がある地点を掘り返してみるべきだと言ったんだけど、知っての通りあそこには魔物も出るし、硬いエンシェント鏡石で覆われていて、掘削くっさくするのに特殊な工具が要るんだよね。その資金もないからって、街じゃ計画が中断しちゃってさ」

「うーん。だったら伯父上や父上に相談すれば……」

「でも陛下たちは掘り返すのに反対なんだよねぇ。エルドラントのこともあるのにわざわざ危険を冒す必要はないって……」

「まあ、確かに一理ありますね」

 そう言ったジェイドを、腕を組んでガイが見やる。

「しかし、放っておいて危険がないとも言い切れないぜ」

「俺も気になるから、様子だけでも見てこようと思ったんだけど……」と、シバが言った。

「もしかして、その重そうな荷物って掘削機?」

「一人で行くなんて無茶ですわ!」

 アニスとナタリアが声をあげる。ガイが、ふと首をかしげた。

「だが、それなら何でこんなところにいるんだよ?」

「いやぁ、ペコと遊んでたら船を乗り間違えたらしくて。いつの間にか……ね」

 照れたように頭を掻いたシバの足元で、ペコがパタパタと尻尾を振りつつ見上げている。思わず沈黙したルークたちの脳内には、図らずも同じ思いがよぎっていた。

(変なヤツ)

 ティアだけは、動くペコの尻尾をうっとりと眺め続けていたが。

(しっぽがふさふさ……)

「なぁ……」

 気を取り直すと、ルークは仲間たちを見渡した。アニスが胡乱げに目をすがめる。

「……アニスちゃんいやーな予感」

「俺たちで資金を出して、一緒に……」

「ホラ来た!」

 頭を抱える仕草でそう言われて、ルークは唇を尖らせながらも訴えた。

「だけど、フォミクリーが作動してるなら放っておけないよ」

「そうね。兄さんが関わっているとまずいし」

 ティアもようやく立ち上がって意見を述べる。ジェイドが肩をすくめた。

「やれやれ。見過ごす訳にも行きませんか」

「ええ。この際ですわ。不安の芽は潰しておきましょう」

 ナタリアも賛同する。ガイがシバに顔を向けた。

「ということらしいが どうすればいい?」

「うん。じゃあ掘削機の交換用の切刃を買い揃えてよ。それが済んだら、一緒にワイヨン鏡窟へ行くからさ」

「あの、ペコは……」

 ティアが訊ねる。

「そうだな。これまではいつでも一緒だったんだけど……。今度ばかりは流石に置いてくか。危険だからね」

「そうですね。よかった……」

「そんなこと心配してるなよ……」

 少しばかり憮然となって、ルークは胸を撫で下ろしているティアに言った。


 謎のレプリカ反応を確かめるためにワイヨン鏡窟へ向かう『深淵のレプリカ施設』のイベントは、ゲームではエルドラントでシンクを撃破した後、シェリダンへ行くと起こせるものです。(ただし二周目以降限定で、更に『チーグルを救え』イベントをクリアしておく必要がある。)

 このイベントに登場するシバは、それ以前に起こせる『コーラル城の肖像画』『ミュウファイア2』にも登場するのですが、奇妙なことに、これら二つのイベントと、最後の『深淵のレプリカ施設』では、口調がちょっと違ってたりします。初期のイベントでは普通の男の子口調というか、『シンフォニア』のロイドに近い感じなんですが、最後のこのイベントでは語尾に「ねぇー」「だよぉ」と付ける、なんだかおっとりした感じの人に。こりゃ一体なんじゃらほい。

『深淵のレプリカ施設』イベントは本当にゲーム製作の最後の方に作られたものだと思われますので、製作スタッフさんもキャラの口調を忘れちゃっていたんでしょうか。

 

 ちなみに、ゲームではエンシェント鏡石を掘る為には大変な資金がかかるという触れ込みで、壁を一箇所掘りぬくたびに大金を取られます。よほど高価で特殊な機材が必要か、大勢の人間を雇わなければならないのかと思いきや。…画面で見ていると、シバ一人がツルハシで掘ってるんです。

 しょぼっ。

 掘削機ってツルハシのことかよー。ツルハシ型の音機関なのかもしれませんが、エンジン音みたいなのは全く聞こえず、シバがカツンカツン腕を振るって掘ります。大金を支払わないとシバの体力の減りが早くなるという仕様です。高価なツルハシを使うと疲れにくいとか、そういうレベルの話なんでしょうか。

 ホントにオールドラントの文明の発達具合って分からない。


 ワイヨン鏡窟を訪れたのは三度目になるが、驚いたことに、シバがルークたちを案内したのは、以前とは異なる場所だった。鏡窟の入口は一箇所ではなかったのだ。

 その入口から続く内部には鏡石を運び出すためのベルトコンベアが設置され、更に奥には壁を穿って作られた無数の檻があって、チーグルが一匹ずつ入れられていた。実験に使われていたものらしい。まだ元気に生きていたので、つい最近まで誰かが世話をしていたように思われた。それらを解放してやりながら奥へ進んだが、稼動しているフォミクリー機器は見当たらない。やがて道は消え、壁に突き当たった。

「ここ、ここ! この辺から強い反応あるから」

 だが、探索機の表示部を見ながらシバは興奮した様子で訴えてくる。ルークは首をかしげた。

「この壁の奥があやしいってことか?」

「うん。ちょっと掘ってみるよ」

 シバは掘削機を取り出し、螺旋状の切刃を取り付けると鏡のような壁に穴を開けた。

「よし、入ってみよう」

 仲間たちを促して、ルークは率先して狭い穴を潜る。



 内部の天井は意外に高く、鏡石でぼんやりと照らされて、中規模のホールのようになっていた。

「……みゅう……。怖い魔物の気配がするですの……」

 尻尾を立てて震えるミュウに、「……そうね。嫌な気配だわ」とティアが応えている。

「……おや、この音機関は……フォミクリーですね」

 部屋の中央にそびえていた円座を積み重ねたような形の機械を見上げて、ジェイドが言う。ふと入ってきた壁の方に視線を向けて、少し考えてから声を落とした。

「なるほど、これはやっかいだ」

「どうした?」

 訊ねたルークに、彼は淡々と返す。

「このフォミクリーは先程掘った壁のレプリカを作っているんです。つまり一定時間が来ると壁が閉じて、私たちは閉じ込められてしまう」

 ぎょっとして、ルークたちは壁の穴を見やった。たった今潜ってきたそれは、その時よりも狭くなっている……ような気がする。ナタリアが声をあげた。

「まあ! 何故そんなことを……」

「……壁に穴を空けさせない為……でしょうね」

「誰かを侵入させない為か?」

 ガイが訊ねたが、ジェイドは首を横に振る。

「逆だと思います。何か……まずいものを作ってしまったんでしょう。そうでなければこんな馬鹿な仕掛けは作りませんよ」

「それって、この奥に閉じ込めなきゃいけないヤバイものがあるってことですか?」

 アニスが訊ねる。これには素直に頷いた。

「はい」

 それを聞いた全員が、なんとも言えない気分になって黙りこんだ。ある程度の覚悟はしていたものの、本当に得体の知れないものの棲処に入り込んでしまったのだ。しかも、時間と共に退路が断たれてしまうとは。

「……どうする? みんな」

 ルークが訊ねた。

「今更、後には退けませんわ。このまま放置して、何かの拍子にそのヤバいものとやらが出てきては大変ですもの」

 勇んだナタリアに頷いて、ティアはジェイドに訊ねる。

「この装置はどうしますか? 奥に進んで戻りたくなっても壁が復活してしまったら閉じ込められてしまいます」

「また掘ればいいじゃん」

 ルークがそう言うと、「エンシェント鏡石は掘るのにお金がかかっちゃうよ?」とアニスは顔をしかめた。正確には掘削機の特殊な切刃に費用が掛かるのだが、どちらにせよ、買ってくることの出来た数も限られている。

「そうだな。壊してしまうのが一番か」

 頷いたガイの足元から、ミュウが甲高い声をあげた。

「ミュウにまかせるですの!」

 チョコチョコと駆け出すとボールのように跳ね上がり、回転しながら装置に体当たりする。

あたーっく!

 ミュウアタック。装備したソーサラーリングに刻まれた譜により地の音素フォニムの力――重力を操り、対象に打撃を与える譜術だ。巨大な音機関は一撃で破壊され、火花を上げて機能を停止した。

「なあ、もしかしたらこういうの他のところにもあるのかな?」

 跳ね戻ってきたミュウを両手で受け止めてから、ルークは仲間たちの方を向いて訊ねた。

「何かを閉じこめようとしているなら、ここ一箇所だけでは心許ない筈。あると考えた方がいいでしょう」

 ジェイドが答える。実際、探索機の反応は消えてはいないようだ。

「そうか、なら、見つけたら片っ端から壊していくしかないな」

 ガイが言う声を聞きながら、ルークは洞穴の奥のぼんやりと輝く壁をじっと見やった。



 それから、何度切刃を交換し、どれほどの壁を掘っては、フォミクリー機器を破壊しただろうか。

 壁の奥に広がっていた迷宮は想像以上に奥深かった。ミュウが感じ取っていた通りに魔物もおり、しかも、他では見たことのない種類の、なかなか強力なものだ。

「いててて……」

 幾度めかに襲ってきた魔物たちを蹴散らした後、シバが腕を押さえてしゃがみ込んだ。すぐにナタリアが近寄って状態を確かめる。

「怪我をしていますわね」

 幸いにも、怪我の程度は軽いもののようだった。譜を唱えてナタリアは癒しの光を当てている。

「今の戦いに巻き込まれてしまったのね」

「そうだな。もっと気をつけて戦わないと、シバにも被害がいっちまうってことか」

 ティアの声にルークが返していると、アニスも神妙な顔で頷いた。

「シバは民間人だからね。何度も怪我を負わせるんだったら引き返さないといけないかも」

「気をつけていきましょう。探索機は必要ですから」

 ジェイドの淡々とした声が響く。ルークたちはなんとも気まずい思いで沈黙した。

「……シバが必要なんじゃないんだな」

 ガイが呟く傍でシバは顔を引きつらせている。冗談なのか、本気で言っているのか。どちらにしてもジェイド恐るべし、であった。いつものことではあるが。

「そ、それより、随分奥まで進んだと思うけど……。まだ探索機に出ている反応には辿り着いていないのかな」

「そうだね。反応は大分弱くなってきてるけど、かなり大きなのがこっちに……」

 ルークに頷いて、探索機の表示部分を見ながらシバは言い、一方を指差した。その先の壁に、今までは見られなかったものがある。

「扉がありますの!」

 ミュウが声をあげた。金属製の頑丈そうなものだ。

「この奥に何かいるってことか?」

「鍵がかけられているようですね」

 ジェイドはしばらく壁面に付けられた端末らしきものを見つめていたが、素早く指先を走らせて何か操作した。圧搾音が響き、扉が開く。その奥にもホールのような空間があったが、入ってすぐに、アニスがギクリと体を強張らせた。

「あ……あれは……!?」

 ぼんやりとした明るさの中に、人影がある。黒いピッタリとした軍服を身にまとった、小柄な少年だ。その目と鼻は、奇妙な形をした金色の仮面で覆われている。

「シンク!」

「きょ……教官!?」

 ティアも動揺した声をあげていた。シンクの隣に立っている、金の髪を結い上げた女の姿を見て。

「どうして教官がここに!?」

「まさか、あんたたちの罠だったの!? シンクっ」

 疑問を投げかけられても、少年と女は動かなかった。その表情に浮かぶものは――何もない。

「な、なんですの……?」

「これは……まさか」

 ナタリアは戸惑い、ガイは表情を険しくした。見覚えがある。この、うつろな表情は……。

「レプリカ……か!」

 ルークが吐き出した。レムの塔で見た、刷り込み教育を施された無数のレプリカたち。彼らの表情と、今目の前にいる『シンク』と『リグレット』のそれは、よく似通っていた。

「だけど、どうしてこんなところに……」

 言いかけて、ルークは言葉を飲み込む。薄暗がりの中から更に二人、姿を現した者があったからだ。不気味可愛いオバケのヌイグルミを抱きしめた小柄な少女と、獅子のような髪と髭を生やした見上げるほどの大男。

「……アリエッタ……」

「おとう……さ……。いえ、ラルゴ……!」

 アニスが今度こそ言葉を無くし、ナタリアは悲鳴を飲み込むように喉を鳴らした。

 死んだはずの二人。――己が手で殺した者そのままの姿が、無感動な目をして佇んでいる。

「……こんな悪趣味なレプリカ情報を残しておくのはディストに違いありませんね」

 珍しく、ジェイドの声には苛立ちが含まれているように思えた。

「以前からこっそり情報を抜いていたって事か。なんて奴だ」と、ガイが続ける。

『シンク』はオリジナルイオンのレプリカ情報を流用したのだろうが、その他の情報は無断で入手していたに違いない。そんな言葉を交わす二人の方を見て、ルークが困惑した様子で問いかけた。

「なあ、まさか、あいつらと戦わなきゃいけないのか?」

「彼らに敵意がなければ放置しても大丈夫でしょうが……」

 ジェイドはそう言ったが、無表情に佇んでいたレプリカたちがサッと構えを取ったのを見て、息を吐いた。

「……どうやら、平和的にはいかないようですね」

 ルークたちも武器を構える。つい先程までの無感動さが嘘のように、レプリカたちから凶暴なまでの殺気がビリビリと感じられた。

「また……彼らと戦うなんて……」

「……もう……どうして何度も同じ人と戦わなくちゃいけないのっ!」

 ナタリアが呻き、アニスはやる方ない憤りを込めた声を張り上げる。

「……教官っ」

 ティアも表情を歪めていた。別人だと頭では分かっていても、その姿を見れば惑わされる。しかし、彼女たちはこちらの呼びかけにはまるで反応を返そうとはしない。それだけの自我が育っていないのかもしれなかった。

「残念だが、感傷に浸ってる暇はなさそうだ」

 ガイが言い、ルークは剣の柄を握る手に力を込めると声をあげる。

「くそっ! ……怨まないでくれよっ!」




 静けさが戻った鏡窟の中で、ナタリアは今は塵一つ残っていない場所をじっと見つめていた。

「……驚きましたね。被験者オリジナルと遜色ないレプリカだ。このレプリカの完成度だとディストのしわざと考えて間違いなさそうです」

 そんな彼女からやや離れた位置に立って、ジェイドが声を落としている。ガイが苦い顔で言った。

「……レプリカだがある程度の意志はあったな。しばらくはディストが教育を施していたって事か」

「それなのに、こんなところに閉じこめたのかよ。くそ……。酷いことをしやがる」

 ルークは悔しげに吐き捨てる。レプリカとして生み出されて閉じ込められ、無為な生を押し付けられた。自分は偶然外に出ることが出来たが、彼らはそれもなく、戦闘人形として死んでいったのだ。

「……彼らは、被験者の教官たちより強いように感じました。これは一体……」

 疑問を口にするティアの顔色は暗い。僅かに顔を伏せて眼鏡を押さえたジェイドも、幾分表情を翳らせたように見えた。

「……初期に私が開発した方法なら、彼らのように被験者より力が強いレプリカが出来上がります。ただ……その代償として様々なものが欠落してしまいますが」

 聞く耳を持たずに襲い掛かってきた。まるで獣のような凶暴性を感じたが、それは乏しい教育で自我が育たなかったせいだけではなかったのかもしれない。

「……彼ら、食事はどうしていたのでしょう」

 ナタリアの声が落ちた。ぽつりとアニスが言う。

「……ここって……魔物しかいないよね」

 誰もが黙り込み、沈黙が生じた。

「ここを出たら、四人の墓を作ってやろうぜ。遺体は音素フォニムの乖離で消えちまったけど……。このままなんてやるせないよ」

 ルークは提案する。模造品レプリカとして生み出され、けれど『失敗作』として廃棄されていた命。それでも、せめて存在の証くらい残してやりたいと思った。儚く消え失せたとしても、短期間しか存在出来なかったのだとしても。生きていたのだ。

「みゅうぅぅぅぅ……」

 こもる想いを感じ取ったのか、哀しげにミュウが鳴いている。

 後ろで見守っていたシバが、おずおずと口を開いた。

「なあ……レプリカ反応はまだあるよ。酷だとは思うけど。いつまでも立ち止まってちゃ……」

「……そうですわね。奥へ行ってみましょう」

 ナタリアが顔を上げる。奥の壁に穴を開け、一行は更にその先へと踏み込んだ。




 それから、どれほど進んだのか。

 穴を掘って潜り、発見したフォミクリー機器を破壊して、魔物が出れば戦う。

 薄暗い鏡窟の中では、時間の経過は曖昧だった。

「ご、ごめん……。ちょっと休憩しない? さすがに俺も疲れちゃったよ」

 最初に音をあげたのは、重い掘削機を担いだシバだ。

「確かにしばらく歩き通しだもんな。ここらで休憩しようか」

 仲間たちに顔を向けてルークは提案する。ティアが辺りを見回してから頷いた。

「……そうね。幸い、あまり危険な気配はしないわ。休みましょう」



「死神ディストが封じてたのってあの四人のレプリカなのかな?」

 淡く光を放つ鏡石の傍に座り込んで、シバがそんな疑問を口にしている。鏡石の放つ光のおかげなのか、洞窟の深部だというのに、辺りにはかなりの草が生い茂っていた。

「どうでしょう。まだ探索機に反応があるのなら、もっと別の物の可能性もありますよ」

 ジェイドが答える。

「そっかー……。うー、それにしてもどこまで続くんだろう」

 うんざりした様子で息を吐いたシバに、ルークも諸手を挙げて同意したい気分だ。まさか、こんなにも広大な迷宮が隠されているとは思わなかった。

「ああ。相当進んできたと思ったけど、掘れば掘るだけ出てくるんだもんなぁ」 

「キミたちは大丈夫かい?」

 ガイは首を巡らせて女性陣を気遣っている。そうしてから、微苦笑して肩をすくめた。

「まあ、そう聞いたところでキミたちなら無理してでも『大丈夫』と言いかねないけどね」

「あら、分かっているなら愚問ですわよ」

「まだ戦えるわ」

「……うん。いつまでも落ち込んでられないよ」

 ナタリアも、ティアも、アニスも覇気を失ってはいない。シバは笑いの吐息を落とすと立ち上がり、掘削機を担いだ。

「女の子がこんなに頑張ってるんだから俺も疲れたなんて言えないな。もう平気だよ。行こう!」




 それから何箇所もの壁を破って辿り着いた場所に、再び扉は現れた。ジェイドが鍵を解除し、奥へ踏み込む。

 その先は広大な空間になっていた。ところどころを自然の石柱で支えながら、遥か彼方まで空洞が広がっている。やや奥まった場所に見慣れたフォミクリー機器を見出して、ルークは歩を進めた。

「もしかしたら探索機の反応ってあれじゃないか?」

「……待って下さい。何かの気配がする」

 続こうとしたジェイドが立ち止まり、油断なく辺りを窺う。「尻尾がびりびりしますの!」とミュウが震えた。

「後ろよ!」

 ティアの叫びに、ルークは背後を見やる。いつの間にそこに現れたのか。それは見たこともない、巨大で不気味な生物――まさに『魔物』だった。

 奇妙な形の翼が生えている。鉤爪の伸びた二本の脚で直立した体は太い尾で支えられており、全身は鎧のような硬質な皮で覆われていた。そして異様なことには、通常の頭の他に、両腕の先それぞれにも竜の首が付いている。それどころか、胸にさえ乱杭歯を生やした大きな口があった。

「なんだ、こいつ!?」

「危ない! 散りなさい!」

 魔物の胸の口が輝きを漏らしながら開いたのを見て、ジェイドが叫ぶ。咄嗟に散ったルークたちが空けた場所を、吐かれた太い光線が真っ直ぐに焼き焦がした。

「くそっ!」

 ガイが剣を抜いて立ち向かう。ルークも腰の後ろから剣を抜いた。視界の端に、それぞれ臨戦態勢に入った仲間たちの様子が映っている。

 両腕の顔から吐かれる炎や氷の息を避け、大きな頭の頭突きをかわし、背後に回って斬りつけては引き付けた。アニスとジェイドは譜術と物理攻撃を織り交ぜ、ティアとナタリアは援護の合間に攻撃を行っている。

 時折舞い上がって空を飛び、強力な譜術すら放ってきたのは脅威だったが、こちらには防御譜術を使える譜術士フォニマーが二人もいるのだ。三つの首を断ち切り、歯噛みする胴体を譜術で焼き尽くすと、魔物はようやく動きを止め、音素フォニムに乖離して輝きながら消えていった。

「……とんでもない化け物だったな」

 流れる汗をぬぐいながら、ガイが消え行く光を見つめている。

「恐らくディストはこれを閉じこめたかったのでしょう……」

 そう言って、ジェイドは槍を腕に溶け込ませた。様々な生物のレプリカ情報を混ぜ合わせた怪物、さしずめ『レプリカンティス』ですね、と呟いている。

「厄介なもの作りやがって……」

 ようやく呼吸を整えて、ルークは剣を腰の後ろに戻した。近寄ってきたシバにナタリアが顔を向ける。

「どうです、探索機の方は」

「はい。レプリカの反応は消えました。後はフォミクリーの反応だけです」

 改まって答える声を聞いて、アニスが嬉しそうに言った。

「じゃあ、ここの装置を壊したら全部終わるんだね」

「よし、ミュウたのんだぞ」

「まかせるですの!」

 ミュウはフォミクリー機器に駆け寄り、くるくる回転して体当たりする。音機関が破壊されると、探索機の表示部を確認していたシバが「反応が完全に消えました」と声音を明るくした。

「……ふぅ。ようやくこれでおしまいか」

 ルークが肩の力を抜くと、「外界に影響が出なくて何よりだわ」とティアが表情を緩める。ガイも笑った。

「そうだな。それじゃあ目的も果たしたことだし帰るとするか」


 最後の最後になって、シバがナタリアにだけ丁寧語を使うので、正直、戸惑います。ずっと素の口調でいて、ここだけ丁寧語なんですもん。

 キムラスカの国民として王女には敬意を払う…のなら、王位継承権所持者のルークにも丁寧語を使うべきなんじゃないかなーと思うわけですが。

#まさか、レプリカだから丁寧な口を利かなくてもいいとかいう了見じゃないですよね。

#「旅の間は普通に喋って欲しい」とルークが願ったとして、ナタリアが同じことを言わないとは思えないですし。

 

 ちなみに、この後(原作ではシェリダンに)帰ると、シバはナタリアにも素の口調で話しています。ワケわからん。


 ダアトの教会に戻ったのは、シバの愛犬のペコをタトリン夫妻に預けていたためだ。

 教会のホールに入ると、歓声と共に近付いて来る軽やかな足音が聞こえた。茶色い犬を引き連れ、見慣れぬ杖を持ったフローリアンが、白い法衣の裾をひらめかせながら駆けて来る。ルークたちには気付かなかったようで、前を通り過ぎた。

「あははは! オリバーっ! こっちだよ!」

「お待ち下さい! フローリアン様! それはイオン様の……」

 その後ろからよろよろと、もう殆ど歩くようにしてオリバーが追いかけて来ている。

「パパ! 何してるの?」

 情けない姿を目にして、咎める口調でアニスが声をかけた。

「いや、パメラとイオン様の遺品を整理していたんだが、フローリアン様がその中の一つを持って、そのまま逃げ出されて……」

「それで追いかけっこかよ」

 やや呆れた口調で言ったルークの脇から、シバが「ペコ! ただいま!」と呼びかけながら飛び出した。茶色い犬が駆け戻ってきて、嬉しそうにシバに飛びつく。

「おつかれさん」

 仲睦まじい様子に目を和ませながら、ルークはねぎらいの声をかけた。

「こっちこそ! いろいろ協力ありがとうな」

「ゆっくり休むといいですわ」

 ナタリアも笑っていたわる。

「いや、これで心配事がなくなったから、またペコと一緒に世界を回るよ」

 ペコに顔を舐め回されながら言ったシバに、「そっか。分かったよ」とガイも笑いかけた。まだエルドラントの問題がある。本当に何の心配もなくなったわけではないが、この先は軍人や支配階級としての自分たちの仕事だろう。ティアはと言えば、揺れるふさふさの尻尾に目を奪われている。

「また、会おうね……ペコ……」

「……またペコしか見てないよこの人は」

 やれやれとアニスが肩をすくめるとティアは恥ずかしそうに赤くなり、ルークがぷっと吹き出した。

「アニス! おかえりなさい」

 ホールに反響して声が響く。見れば、二階の回廊の手すりから身を乗り出して、杖を持ったフローリアンがこちらに手を振っていた。健康そうで、その頬は薔薇色に色づいている。

「ねえ、遊ぼう! アニスがオニだよ!」

「も〜っ! 遊んでる暇なんてないんだよっ!」

 アニスはツインテールを振り立ててそう言ったが、ジェイドは少年の姿を見上げて僅かに目を瞠り、いやに朗らかな笑みを作るとアニスに言った。

「……まあ、たまには息抜きもいいんじゃありませんか?」

「あんたがそう言うってことは……何かあるな」

 ガイが面白そうにジェイドを見やる。構わずに、いっそ胡散臭い明るさでジェイドは仲間たちを促した。

「さあ、オニごっこといきましょうか。いや、かくれんぼかな?」

「よーしっ、伊達にガキの頃から家に閉じ込められてないぜ! 絶対見つけてやる!」

 理由は分からないながら、ガイ曰く『かくれんぼの天才』たるルークの血は騒いだらしい。拳を握って宣言すると、フローリアンを追って駆け出した。



 とは言うものの。

「やっと見つけた!」

 終了を告げたアニスの声は、大分くたびれていた。

 なにしろ、ダアトの教会は広い。しかも無数の廊下と膨大な部屋数があり、その上それらはどこもよく似ていた。

「ふふふ、楽しかった!」

 フローリアンは明るく笑っている。本当に楽しかったのだろう。その持つ奇妙な形の杖が微かな共鳴音を発していることに気付いて、ティアは柳のような眉を寄せた。聞き覚えがある。闇の音素ファーストフォニム光の音素シックスフォニムによる干渉音だ。

「これ……まさか惑星譜術の触媒?」

 仲間たちがハッとする。惑星譜術を使う鍵になるという触媒の武器を集めようとしていたのは、障気を消す以前のことだった。時間はさして経っていなかったが、随分と昔のことのように感じられる。

「こんなところに! 捜しましたよフローリアン様」

 その時、都合よく現れたパメラに、アニスがすかさず質問をぶつけた。

「ママ! この杖、イオン様のものだったの?」

「え? ええ……。正確には、先代の導師エベノスの遺品ですけどね」

「そうか。導師エベノスが惑星譜術を復活させようとしてたんだっけ」

 ルークは合点する。ナタリアも同じように手を打っていた。

「それなら、触媒を持っていてもおかしくはありませんわね」

 灯台下暗しだ。最初に触媒について話を聞いた時にはイオンもいたというのに、どうしてこんなことに気付かなかったのだろう。

「ママ、これ借りて行っちゃ駄目?」

「そんなことは私に決められないわよアニスちゃん」

 少し困った顔をしたパメラの様子を見て、ジェイドが迅速に手筈を決めた。

「詠師トリトハイムにお尋ねしましょう」

 それが確実だろう。安心したようにパメラは微笑み、優しくフローリアンを促した。

「では、フローリアン様はお部屋に帰りましょう」

「うん。アニス、また遊んでね」

 杖を持ったまま、フローリアンはパメラの後に付いて行く。イオンのお下がりなのだろうが上等の服を着て、髪も綺麗に整えられていた。表情に陰りもない。タトリン夫妻が心を込めて世話しているのだろう。



「前導師エベノスの遺品に惑星譜術の触媒となる武器があったのですか」

 執務室を訪ねて話をすると、トリトハイムも驚いた顔をした。

「お借りする訳にはいきませんか?」

 丁寧にルークは尋ねる。あの杖は触媒武器であると同時に、導師たちの遺品でもあった。そう簡単に持ち出せるものではあるまい。トリトハイムはしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げるとしっかりと頷いた。

「分かりました。特別に許可致しましょう。全てが終わりましたら必ずお返し下さい」




 調べると、あの杖の銘は『ケイオスハート』と言うらしかった。タトリン夫妻が整理して、教会の奥に丁重に納められていたそれを受け渡してもらい、他の触媒武器との共鳴を確認してから荷物に収める。

「こうして借りたところで無駄かもしれないけどな。闇の剣はディストに取られちまったままだし」

「そうね。それにもう一つ、光の触媒が見つかっていないわ」

「まあ、いいじゃないか。俺たちがこうして触媒の大半を集めているということは、ヴァンたちも惑星譜術を蘇らせることはできないってことだ」

 そんな会話を交わしながら教会の大ホールまで戻ってくると、「アニス! アニス! 助けて!」と叫びながら、フローリアンが転がるように駆け寄って来た。

「な、何々? どうしたの、フローリアン!」

「いたずら悪魔の役が必要なの。このままだと何も出来なくなっちゃう」

「いたずら悪魔?」

 突拍子のない言葉を聞いて、ナタリアが小首をかしげる。

「悪魔ならここに一匹凄いのが……」

 ルークは笑ってジェイドを見やったが、「何か?」と睨まれて慌てて目を逸らした。

「……い、いや。何でもない」

 そこに、小走りにパメラが駆けて来る。

「フローリアン様! ……あら あら あら! アニスちゃん! 丁度いいわ!」

「ママ。どうしたの?」

「実はね。身寄りのない子供たちの為に劇をすることになったんだけど、意地汚い、いたずら悪魔の役が熱を出してしまったのよ」

「おや、アニスにぴったりの役どころじゃないですか!」

 悪魔呼ばわりされた腹いせとばかりにジェイドが朗らかに認定した。いつも好調の悪魔コンビも、他人にそう言われるのは嫌らしい。アニスもジトリと表情を腐らせた。

「大佐……それってすっごく失礼じゃありませんか」

「アニス。ボクが初代導師の役なんだよ。いたずら悪魔をいい子にするの。一緒にやろうよ!」

 要するに、『いたずら悪魔』とやらの代役をしてほしいのだろう。急な話だったが、無邪気な笑顔を向けられて、アニスは満更でもなさそうに表情を緩める。

「……う……。その笑顔には弱いんだよなー」

「アニス。やってあげなよ」

 ガイが笑って後押しをした。

「うう……。分かったよぅ」



 劇の開始はすぐだった。

 物語自体は子供向けの説話としてよく知られているもので、アニスも台詞を覚えるのに苦はなかったようだ。

 劇としては簡易的で、礼拝堂の講壇を舞台代わりにしている。教会に引き取られて十日足らずのフローリアンが主役なのだ。もしかしたら彼を教会に馴染ませる目的も含めて企画されたものなのかもしれなかった。

 ともあれ、十数人ほどの子供たちが集まり、講壇の下の床に腰を下ろして熱心に劇に見入っている。

「わはははは。ボクはいたずら悪魔だぞ。みんなの大好きなお菓子をぜーんぶ独り占めだい」

 パメラが作ったらしい衣装を着たアニスは、なかなか可愛らしく魅力的な小悪魔に仕上がっていた。胸を張って見得を切る彼女の前に、導師の衣装を着たフローリアンが歩み出てくる。

「そんなことをしてはいけません」

「何だ、お前は。このお菓子はぜーんぶボクのだぞ」

 子供たちの後ろに立って芝居を見ながら、ルークはぼそりと感想を漏らしていた。

「お菓子を金に変えると、マジ違和感ねーんだけど……」

「……そ、そうかしら……」

 戸惑ったようにティアは返し、「そうかも……」と小さく呟いている。ナタリアと言えば。

「あんなにお菓子を食べては太りますのに、アニスったら……」

「……キミは、時々天然だね」

 今更のような感想をガイがこぼした。 ナタリアは不思議そうに小首をかしげる。
「まあ、何かおかしかったですか?」

「おや、そろそろ終わりそうですよ」

 ジェイドがマイペースに告げた通り、物語は佳境に差し掛かっていた。

「いたずら悪魔さん。何故、僕をかばったのですか?」

 舞台の上では悪魔が力なく横たわり、傍らに膝をついて導師が覗き込んでいる。

「ボクの初めての友達だからだよ。ボクのお菓子は導師にあげる。ああ、こんなことなら最初からみんなにお菓子を分けてあげればよかった……」

「ああ、星よ。ローレライよ。このいたずら悪魔さんを助けてあげて下さい」

 導師が訴えると、舞台の陰から誰かの声が響いた。

『いいえ。それはできません。ですがその子に新しい命を与えましょう』

 たちまち、譜術を利用した光で舞台が白く輝く。光が消えると小悪魔はおらず、代わりに金の輪を腰に穿いたチーグルがチョコンと立っていて、人の言葉で喋った。

「チーグルですの! こうしていたずら悪魔はチーグルになって、ローレライ教団の聖獣になったですの!」

 子供たちの中からわあっと歓声が起こり、拍手が巻き起こる。舞台は成功を収めたようだった。



 舞台で使ったお菓子をもらって子供たちが帰ってしまうと、ルークたちは役者を務めた二人と一匹を囲んで、それぞれにねぎらいの声をかけていた。

「アニス! はまり役だったぞ」

 ルークは心から褒めたのだが、アニスは複雑な顔をする。

「……な、なんか嬉しくない。最後、ミュウが拍手喝采だったし」

「照れるですのー」

「でもボクは、アニスが守ってくれて嬉しかったよ」

 そう言ったフローリアンを見上げて、「あれは劇のお話じゃん」とアニスは言った。

「でも、嬉しかったよ」

 一瞬、くすぐったさをこらえるような顔をして、すぐにへにゃりと緩んでアニスは陥落する。

「……ちゃは。まあいいか」

 そのなんとも照れ臭そうな笑顔に、仲間たちも笑いをこぼした。

「さて。いいかげん、プラネットストームを止めに行かないとな」

 ひとしきりの笑いの後でルークは表情を引き締める。随分と寄り道をしてしまった。

「オールドラントの最南端にあるラジエイトゲートへ行きましょう」

「よし、行くか!」

 ジェイドの声に頷いて気合を入れる。フローリアンを含む世界の人々を守るため、エルドラントを包む障壁を消さねばならない。


 フローリアンの登場するサブイベントは、全部で四つあります。

 一つは、『シチューのレシピ』。フローリアンをダアトに預けてからすぐに起こせるようになるもので、「万能包丁」を持った状態でイオンの私室に行くと起こります。まだ教会に慣れず・慣れてもらえず、奇異の目で見られて落ち込むフローリアンの様子が確認できます。

 このイベントと後の『古文書解読』イベントを見る限り、フローリアンは、どうもイオンの私室をそのまま譲り受けて使用しているらしく思われるのですが、深く考えてみると色々問題がありそうです。(導師は仕事上の役職で、イオンの私室は「導師の部屋」であるはずなのに、いわば血縁者というだけで個人使用させていることになる。自然に身代わり認定されてしまっている?) 服なんかは、お下がりを使わせてもいいんだと思いますけどね。(経済的問題から。導師の正装などはマズいでしょうけど、普段着なら。)

 次は『悪魔ッ子』と『魔杖ケイオスハート(ネビリム4)』。ラジエイトゲート突入以降に起こせるようになるもので、どちらも教会に入ると自動的に起こります。

『魔杖ケイオスハート』はトリトハイムに触媒武器について聞いていないと発生しません。「魔杖ケイオスハート」が入手できます。

『悪魔ッ子』は、ネビリムイベントが起こされていた場合、『ケイオスハート』の発生の方が優先されますので、通常ならトリトハイムと話してケイオスハートを入手した後、礼拝堂を出ると起こります。アニスがいたずら悪魔の代役をし、その衣装に変更できる称号が手に入ります。

 これらのイベントでは、教会に馴染んでのびのびと過ごしているフローリアンの様子がうかがえます。また、タトリン夫妻がフローリアンを「様」付けで呼んでおり、やはり(導師の身内か身代わりとして?)特別扱いされているらしく思われます。

 そして最後は、後にグランコクマでアッシュと決裂して以降、イオンの私室に入ると起きる『古文書解読(禁譜の石)』イベントの一つです。

 このイベントでは、フローリアンが「僕たちが、ずっと閉じこめられてた部屋においてあったんだよ。外に出る時、モースに持っていっていいって聞いたら いいって」と言っているのが注目できます。イオンレプリカたちはしばらく同じ部屋に閉じ込められていたのでしょうか。それとも、別の誰かと共に幽閉されていたのでしょうか。

 ファミ通外伝小説では、イオンレプリカたちは生まれてすぐにチェックされて、不適格とされた六体はそのまままとめて火口に投げ捨てられ、自力で抜け出したフローリアンをモースが拾ったことになっていましたので、後者でしょうか。ならば、フローリアンと一緒に閉じ込められていたのは何者か?

 終盤ギリギリになって登場するフローリアンですが、サブイベントのおかげで人となりが分かり、親しみが持てるようになっています。

 

 ダアトにフローリアンを預けると、ファブレ邸で『おでんのレシピ』というサブイベントが起こせるようになり、最後の料理レシピが入手できます。そして全ての料理熟練度を★★★にすると、ケテルブルクホテルのレストランフロアで『料理マスター』のサブイベントが起こせます。

 長いので、別ページで紹介します。→料理マスター関連イベント



 さて。次はいよいよラジエイトゲート突入なのですが、このエピソードのしょっぱなから困惑させられる事態が起こります。

 ラジエイトゲートに着陸しようとすると、断続的に向かってくる光弾の中で激しく揺れるアルビオールの様子が描かれ、ルークが「くそ! ゲートを閉じさせないつもりか!」と言い、ノエルが強行着陸を行います。

 この部分のルークの日記を見ると、こう書いてあるんですよね。

「ラジエイトゲートに近づくと、俺たちにプラネットストームを停止させないためなのか、エルドラントが砲撃を浴びせかけてきた。ノエルにこれを避けてもらい、俺たちはなんとかラジエイトゲートに辿り着くことができた。」

 ちょっと待て! ラジエイトゲートは南極点にあって、エルドラントは北半球の中央大海に浮かんでるんだろ? なんでラジエイトゲートに着陸しようとするとエルドラントが攻撃してくるんじゃー!!

 確かに、ゲーム上でもプラネットストーム停止前にエルドラントに近づくと砲撃されるんですけど。それにしたって北半球から南極点に砲撃ってのは無理がないか。そんなすごい大陸間弾道兵器があるんなら、グランコクマもバチカルも、世界中の全ての都市をエルドラントから砲撃可能じゃないですか。でもそんな脅威の話は全くされていませんし。

 

 これはシナリオがおかしくないでしょうか。

 初期設定段階ではエルドラントがあった位置、もしくはラジエイトゲートに相当するダンジョンの位置が現行の地理とは違っていて、その修正が忘れられているんではないか、などと邪推してしまいます。

 そもそも、第八セフィロトの上に浮いているエルドラントがプラネットストームに覆われていること自体が奇妙ですよね。ゲーム中でその理由を説明しないですし。でも、元々エルドラントがラジエイトゲートの上に浮いている設定だったなら、辻褄が合うのかも。実際、原作では着陸後にガイが「もしかしたらエルドラントから敵が出撃するかもしれない。危険だと思ったら退避してくれ」とノエルに言ってます。シナリオ的にはラジエイトゲートはエルドラントの間近にあるつもりで書かれているように思うのですが、どうでしょうか。

 

 でも、発売されたゲームではエルドラントとラジエイトゲートの位置はムチャクチャ離れてるんですよぉー。流石にこれは無視できない。

 対空砲撃されるエピソードは、エルドラント浮上直後、フェレス島からアルビオールを発進させて初めてエルドラントに近づくシーン辺りに挿入してくれてた方が個人的にはスッキリ出来たかもです。(このノベライズではそうしてみました。) …それとも、分かりにくいだけで実はあのシーンでも砲撃を受けていたのかな??

 そんな訳で、このシーン、ノベライズするのに大変困惑しました…。アルビオールに兵器は搭載されていないので、避けるだけで済ませなければなりませんが、大陸間を縦断して飛晃艇を狙う攻撃をエルドラントが行えるのなら、ぶっちゃけ、どこを飛んでいても狙われることになってしまう。死ぬって。ラジエイトゲートに迎撃装置が設置されていたことにした場合、それを破壊できないので一方的に攻撃され続けることになって着陸できなくなる。物語の都合上、この段階で捨て身の着陸はさせられません。

 どーすりゃいいのこれ。(@_@;)


 この星の最大にして第一のセフィロト、ラジエイトゲート。南極点の島に位置するその様子はアブソーブゲートによく似ていたが、渦巻く光の粒が吸い込まれるのではなく、噴き出している点が明瞭に異なっていた。

 惑星を循環するプラネットストームの流れは、ここから始まっているのだ。

 もっとも、帰結点たるアブソーブゲートは既に閉じられている。今は、星の力は殆ど地核に戻ることができず、ただ溢れ出しているだけの状態なのだろう。

 乱れる気流の中、ノエルは器用にアルビオールを操って近寄らせていったが、唐突に艇内に警告音が鳴り響いて、ルークたちをぎょっとさせた。

音素フォニムですの! 音素の塊が近づいてきますの!」

 耳を立ててミュウが叫ぶ。渦巻く光の辺りから、無数の光弾を伴った黒い塊が一直線にこちらへ向かってくるのが見えた、と思った時にはもう、アルビオールは旋回してそれを避けている。

「対空砲撃か!?」

 ガイが叫ぶ声を聞きながら、ルークはどうにか座席にしがみついて、広い風防ガラスの向こうのゲートを睨みつけた。

「くそ! ゲートを閉じさせないつもりか!」

 すぐに二発目が来る様子はなかったが、バランスを崩した飛晃艇は濁流に浮かぶ木の葉のように揺れている。ノエルが緊張をはらんだ声で「強行着陸します!」と告げた。

「頼む!」

 何とかバランスを取り戻しつつ、アルビオールは氷雪の大地に向けて高度を下げて行く。




 着陸した飛晃艇のタラップから凍った床の上に降り立って、けれどミュウはまだ大きな頭をぐらぐらと揺らしていた。

「……お空でぐるぐるしてフラフラですのぉ〜〜」

「ミュウ。しっかりして」

 ティアが気遣わしげに呼びかけている一方で、ルークは見送って降りてきたノエルに賛嘆の声を浴びせている。

「それにしても、さすがノエルだな。助かったよ」

「いえ……。兄ならもっと上手く突入できたと思います。私はまだ未熟です」

「そんなことないよぅ。私たちだけじゃどうにもならなかったもん」

「もしかしたら敵の攻撃があるかもしれない。危険だと思ったら退避してくれ」

 アニスとガイが言うと、ノエルはいつものように爽やかな笑みを浮かべた。

「ありがとうございます。皆さん、気をつけて」



 二千年の風雪に耐え切れなかったのか、ラジエイトゲートは今までに見たどのセフィロトよりも寂れ、荒れ果てているように思えた。

 金属のパーツを組み合わせた床や壁はあちこち緩み、剥がれてしまっている。ところどころそれを突き破って、巨大生物の背骨が枯れ木のように屹立していた。死期を悟った一角鯨が向かうついの秘境があるとの俗説があるが、あたかもそれを思わせる。

 正式な入口は崩壊しているらしく、突き出す背骨の一つが作った隙間を潜り、内部に入り込んだ。アブソーブゲートのような仕掛けも深さもなく、すぐに輝く音叉型の音機関が見えてくる。

「これって、パッセージリングだよね? やっぱりここにもあるんだね」

 音叉の中心に浮かぶ巨大な譜石を見上げてアニスが言った。後ろからジェイドが応えている。

「まあ、当然ですね。本来はここにも来る筈でしたし」

「……ここでアッシュが助けてくれましたのよね」

 ナタリアの目が確かめるようにルークを見た。

 本来ならここで、ルークが外殻降下の操作を行うはずだったのだ。時間が足りずにアブソーブゲートから強引に作業を行ったが、力が足りずに失敗しかけた。しかしアッシュがここから力を送ってくれて、何とか成功させることが出来たのだった。

「……ああ。俺、ホントあいつに助けられっぱなしだな」

 一人では成し遂げることは出来なかった。言外にそう込めたルークに青い瞳を向けて、ティアが静かに声を落とす。

「当然だわ」

「え?」

「大地を降ろしたのよ。二人でやれただけでも、大変なことだわ」

「アッシュ一人でも無理だったかもよ」

 アニスがルークに笑顔を向けた。ガイは真面目な表情でルークを見やる。

「ああ。実は一人の人間には大した力はないんだろうな」

 一時期、ルークが自分の足りなさを嘆いてばかりいたことを、仲間たちは知っている。レプリカだから。劣化しているから。そんなことを気にし続けて、本物オリジナルのアッシュには敵わない、彼がいるなら自分は要らないと、己を卑下してしまっていた。

 だが。アッシュであっても、恐らく一人では殆どのことを成し遂げられなかったはずなのだ。

 対立する二国に和平を結ばせ、外殻を降ろし、星を覆う障気さえ消した。

 それは、ルークが成したことだ。

 無論、彼一人だけの力ではない。アッシュや、仲間たちや、多くの人々の力を借りた。

 それでも、それがルークの行いだという事実は揺らぐことはない。

 己の非力を嘆く必要はないのだ。大切なのは、周囲と繋ぐ手を持っているということ。そして……。

「ですが、一人の人間が簡単に国を滅ぼすこともできます」

「大佐〜!」

 折角まとめかけた話に水を注されて、咎めるようにアニスがジェイドを睨んだ。

「どちらも真実です。人間の力には常に二つの側面がある。どちらの認識が欠けても、力は使いこなせないのでしょうねぇ」

 ジェイドは悪びれない。ルークは素直に頷いていた。

「……うん。俺にはよく分かる。俺の力は本当にそうだから……」

 握り締めた左手に視線を落とす。

 みんなの協力がなければ、成すべき事を果たし、人々の命を守ることは出来なかった。

 けれども。ただ一人でアクゼリュスを落として無数の命を奪った。それもまた、自分のこの手が行ったことなのだ。

「今のあなたは力の怖さも大切さも分かっている筈よ。恐れないで、そしておごらないで」

 真摯な思いをティアが伝えてくる。己を見つめる瞳を見返して、ルークは静かに、けれど強く頷いた。

「……ああ」




 既にセフィロトツリーは消失しており、今はパッセージリングを操作する必要はない。

 リングを環状に囲む通路の端に下に続く坂道スロープがあり、譜陣の描かれた丸い床があるのが透き通った通路から透かし見えた。アブソーブゲートと同じ構造ならば、あれがゲート制御の譜陣なのだろう。

 記憶粒子セルパーティクルが一面に立ち昇ってくる中を降りて行くと、不意に、空気をはたくような得体の知れない音が響いてきた。

「なんだ? 何かが近づいてくる?」

 足を止め、ルークは気配を探るようにして体を緊張させる。

「いやな予感がするな。早く済ませちまおう」

 傍らからガイが促し、一行は急いで一番下まで坂を駆け下りた。広く丸い床に至ったところで、再びあの音が響く。

「さっきの音よ!」

「くそ! 敵か!? 急いでゲートを閉じないと……」

「早く早く! 間に合わないよぅ!」

 急かされるまま、ルークは床に描かれた譜陣の中央へと走った。一緒に走ってきたティアとアニスが、ハラハラした様子で作業を見守っている。ルークが宝珠を持った左手を掲げると白光が迸り、床の譜陣が回転して形を変えた。ほぼ同時に、上空から例の音を響かせて、真っ直ぐに黒い塊が降りてくる。

「上です!」

 ジェイドが鋭く叫んだ。打ち鳴らす二対の翼から奇妙な音を響かせ、ルークたちの頭上を掠めると、それは意外に身軽な動作で床に降り立った。

すこあを……! ひゃははははっ!?

 黒く膨れ上がった体、太い両腕に細く短い足。モースだ。ビクビクと痙攣し、大きな口からよだれを垂れ流しながらも、ルークたちを睨みつけて何事か喝してくる。

すこあをまもるために……! おまえたちぃ……!

「まだ意識があるのね……」

 身構えながら、ティアがぐっと表情を歪めた。

ひゃはーっはっはっ。ぐおっ!? 私はこの監視者として……世界をはんえいに……ひゃはっ!?

 怒鳴っていたかと思えばけたたましく笑い、痙攣して声を詰まらせては苦しげによだれをこぼす。滅茶苦茶だった。それでも、その言葉を止めようとはしない。

「……イオン様を殺したのは……こいつなのに……!」

 アニスは吐き捨てたが、苦しげに表情を曇らせた。

「なのに……なんだか……可哀想……」

 そう。哀れだ。人の姿を失い、心すらも蝕まれて。尊厳を奪われながら、それでも彼は己の信念に固執し続けている。

 耐え切れなくなったように、ティアが前に駆け出して訴えた。

「導師……いえ、大詠師モース! お願いです! 正気に返って……」

 モースはじっとティアを見つめている。高く跳ね上がると、ズシン、と苛立ったように床を鳴り響かせた。

「モース様!」

……うらぎりものぉをををを!? ふおっ……世界はめづぼうざぜばじな……っ

 ティアが何者なのか思い出すことは出来たのだろう。しかしそれは一瞬で、言葉はもう散り散りに壊れていく。

 ルークはぐっと両の拳を握った。

「……戦おう! このままでいい訳がない!」

 その言葉を理解したかのように、モースがけたたましく叫ぶ。

しねぇーーー!? ひゃーははははははっ

 太い両腕を掲げると、光弾が流れ落ちてルークたちを襲った。第七音素セブンスフォニムを注入されたことによる譜力の上昇は、確かに彼に根付いているらしい。次々と放たれる譜術の数々は多彩で強力だ。しかしモース自身の動きは鈍く、巨大な体は狙い易いうえに脆かった。

す……こあ……が……

 やがて傷だらけになったモースは攻撃を止め、頭を抱えるようにして高い掠れ声をあげる。

ユリア……よ……! 世界を繁栄にぃーー!?

 アニスは青ざめた顔で口元を押さえていた。両親を利用して彼女を押さえつけ、三年もの間、苦しめ続けてきた男。しかしその末路は惨めで、あまりにも凄惨だ。

 身悶えるモースの体から火花が発し、全身が明滅を始める。体の形がぐにゃりと歪み、溶けたアイスクリームのように床にとろけ出して、それも見る間に蒸発して消えていった。

「……う……」

 あまりの臭気と無残さに、ルークは顔を伏せて呻く。

「……ひどい……。ひどいよ……」

 アニスは全身を強張らせて、涙声で繰り返していた。

「モースは最期まで預言スコアに執着していたんだな。怪物になっても預言預言って……」

 ガイも動揺を隠しきれないのか、硬い声は微かな震えを帯びている。

「大詠師モース……。お許し下さい」

 ティアはこうべを垂れ、鎮魂の祈りを捧げていた。

「ティア……」

 ルークは彼女を見る。出会ったばかりの頃、ティアはモースを尊敬し、その理想を強く信じていたものだった。

「……馬鹿ね、私。分かっているの。モース様は預言の為に、大勢の人々を見殺しにしてきた」

 微かに自嘲して彼女は言う。そして苦しげに目を伏せた。

「だけど……それは今までのローレライ教団の体質でもあったのよ」

「うん」

 ルークはティアの感傷を否定しなかった。アクゼリュス崩落以降にヴァンが起こした一連の事件。これがなければ、モースの掲げる預言遵守こそが世間一般の思想であり続けたはずだ。

「今回の事件で、初めてローレライ教団は揺らぎはじめた。もしもモースがもっと昔の時代の大詠師なら、立派な聖職者として名を残してたのかもしれない」

「……ええ。あの方はユリアの預言があれば、必ず世界が救われると信じていたわ。あの方なりに、世界を救おうとしていた……」

「だから預言に執着してたんだよね……」

 アニスが目を伏せる。

「許し難い人だけれど、憎みきれないわ。私たち教団兵は、みんな同罪だから」

 ルークにとってモースは最初から敵だったが、彼は異端だったわけではない。この世界で当たり前とされてきた価値観にのっとり、ひたむきにその正義を信じていた。

(俺たちと、同じように……)

 人類の繁栄を願い、破滅から救おうと。心から。

 ぞくりと背筋に寒気を感じる。

「……エルドラントへ行こう」

「ルーク……」

 彼を見て、ティアが胸を突かれたような顔をした。

師匠せんせいがレプリカ世界を完成させちまったら、なんにもならない。モースのやり方が間違っていたことを証明するためにも……。いや、違うな」

 出口へ歩いて行きかけていた足を止め、ルークは緩くかぶりを振る。

 自分たちがモースと同じではないという保証はなかった。それを考え出せば恐ろしい。それでも、ヴァンを許せばこの世界が消されてしまうのは確かなのだ。そこに生きる全ての命も諸共に。

 仲間たちに、ルークは真っ直ぐな視線を向ける。

「俺たちなりの未来を掴むためにも、ヴァン師匠を止めてローレライを解放するんだ!」

 仲間たちそれぞれの目に強さが宿ったように思えた。

 世界を救うなどという考えは、実はおこがましいものなのだろう。今の人類は滅ぶべきだとするヴァンの裁きが傲慢なものであるように。誰の思惑も無関係に、全ての命は自分のために生き、いつか必ず死んで行く。それが本来の形であるはずだ。

(それでも俺は、生きていたい。みんながいるこの世界で、出来るだけ長く)

 間もなく消える命であることを知っているからこそ、いっそう強く、焦がれるようにそう思うのかもしれなかった。

 死を見つめ、それ故に生きたいと願う。生きるために、この場所を潰そうとするヴァンと戦おうと。

 かつてアブソーブゲートで、憎しみを燃やしてぶつかった時とは違う。

「しかしエルドラントへ向かうなら、対空砲火を潜り抜けなければなりません。グランコクマの軍本部で検討してみませんか」

「ああ、そうだな」

 ジェイドの提案に、ルークは頷きを返した。


 ラジエイトゲートに突入すると、先に紹介したとおり、ダアトの教会で『魔杖ケイオスハート(ネビリム4)』と『悪魔ッ子』のサブイベントを起こせるようになります。

 

 音素乖離による死、または死体の音素乖離は、このゲームの中では何回か見られるものなのですが、何故かモースのそれだけはおぞましく醜いものとして描かれています。

 ルークの音素乖離は痛みも弱体化も何もない、(手が消えかかったりまた現れたりするような)幻想的で物悲しく美しいものとして描写されているわけですが、シュウ医師が説明していたように「細胞を繋ぐ音素が乖離していって細胞崩壊を起こす」のなら、本当は凄まじい痛みや部分的な壊死、内臓の異常による自家中毒等を起こしそうなものだと思います。そんな状態になったら戦えなくなってゲームにならないので、乖離寸前までは普通に行動できる設定にしていないとダメなんでしょうけど。

 死が必ずしも美しいものではないということを、モースだけが体現している、のでしょうか。あと、一途であることの危険性とか。


「グランコクマに来るのも、結構久しぶりだな」

 青い空と水と、建築物の白。美しい街並みを歩きながら、ガイは海上の都市の風景を楽しんでいる。

「来るのも、って、今はガイはここに住んでるんでしょ」

 アニスが可笑しそうに指摘すると、僅かに苦笑を浮かべた。

「と言っても、住んでまだ一ヶ月ほどだからなぁ。その後はずっと旅をしていた訳だし」

 マルクト軍本部は宮殿の向こう、外海に面した区画にある。とは言え軍港にキムラスカ船籍のアルビオールを停泊させるのは手続きが面倒で、いつものように民間港を使って、徒歩で市街を抜けて向かおうとしていた。

 なお、対空砲火に実際に対応するのは操縦士であるため、今回はノエルも艇から降りて同行している。

「……ん? 何だ?」

 前方から慌てた様子で市民たちが逃げてくるのに気付いて、ルークは怪訝に眉を寄せる。反対に、そちらへ向かう憲兵たちが後ろから何人も駆け抜けて行った。

「あんたたち! 早く逃げた方がいい! 爆発に巻き込まれるぞ!」

 突っ立っているルークたちに、逃げてきた市民の一人が足を止めて忠告する。

「ただごとではありませんわね! 参りましょう!」

「待って! ナタリア……」

 言うなり、ナタリアは駆けて行ってしまっていた。ティアが呼び止める暇もありはしない。

「行っちゃった。さすが正義の使者ナタリア……」

「そんなこと言ってる場合か。あのお姫様をほっといたら何しでかすか分からないぞ」

 呆けるアニスに幾分慌ててガイが言い、「同感です。追いかけましょう」とジェイドが促した。彼らも走り出す。



 グランコクマ水上公園は美しい噴水で知られ、いつもは恋人たちで賑わっている人気のデートスポットだ。それが今は無骨な憲兵たちに占拠され、異様な雰囲気に包まれている。

「処理班はまだか!」

「今、本部へ伝令が……」

 憲兵たちの緊迫した声が飛び交う中、彼らの中心にうずくまっていたのは、民間人の青年ただ一人だった。

「カシム!」

 小さく、けれど驚愕の滲んだ声をジェイドがあげる。

「カシムって、確か……」

「大佐の弟子だって言ってた人だよね」

 ルークとアニスは声を交わした。以前グランコクマを訪れた時、ジェイドの弟子を自称して擦り寄って来た若者がいたのだ。「弟子にしたつもりはない」とジェイドは冷たく跳ね除けていたが。

 両手で顔面を押さえるようにしているカシムの体は、赤々と輝いていた。特に強い光が指の間から漏れている。それを見て、ティアがハッとした様子で声音を緊張させた。

「大佐! 彼は音素フォニムの乖離現象を起こしています。まさか……」

「ええ、譜眼でしょう。しかも制御できずに暴走しかけている。モースと同じです。せめて他人に迷惑がかからない場所でやればいいのに」

「そのようなことを言っている場合ですか! 彼を助けないと!」

 ナタリアが叫ぶ。カシムの体内の音素は今や暴走状態になっているのだろう。放置しておけば、彼が乖離して死ぬか、肉体と精神が変質して怪物となるか、爆発して周囲を巻き込むか。

「カシムはどうでもいいですが、民間人が犠牲になるのはいただけませんね」

「どうすればいい?」

 ルークは指示を仰いだが。

「始末しましょうか。一番簡単な処理方法です」

 仲間たちはギョッと目を剥いてジェイドを凝視する。ティアだけは表面上の冷静を保っていたが。声を聞きつけたらしく、カシムも体を震わせた。

「何を言い出すのですか! カシムも民も助けるのです!」

「そうだよジェイド! 殺さなくていい時は殺したくない!」

 二人のキムラスカ王族に懸命な瞳で訴えられて、ジェイドは数瞬黙り込む。ティアに目を向けた。

「……ティア。譜歌でカシムの音素暴走を止めて下さい。その間に私が譜眼の処置を取り除きます」

「了解」

 その場で杖を構えたティアの唇が、第二音素譜歌フォースフィールドの旋律を紡ぎ出す。一時的に音素フォニム活動の止まった空間の中、ジェイドはカシムに歩み寄ると顔を上向かせ、その両目の上に己が手をかざした。カシムの体が大きく震え、次いで、彼から放たれていた音素の輝きが消え失せる。

「治まった……?」

 周囲で様子を窺っていた憲兵たちの中から吐息が落ちた。しばらく目を押さえていたカシムはよろけながらも自力で立ち上がったが、呆然と辺りを見回した顔が見る間に衝撃と恐怖で歪んでいった。

「……大佐……。目が……僕の目が……」

 ジェイドを映しているつもりなのだろう彼の視線は定まっていない。目に刻まれた譜陣を削除するべく焼き切った、その処置の結果だった。

「あなたは聞きかじりの知識で禁じられた譜眼を施そうとした。あれは入念な準備と素養が必要です。視力を失ったのは、自業自得ですよ」

「そんな……! こんなことになるなら、どうして大佐はもっと強く止めてくれなかったんですか!」

「止めましたよ? 死ななかったのは偶然です」

「うるさい! もっとちゃんと止めてくれれば……」

 黙ってやり取りを見ていたルークが大股に歩み寄る。その拳が唸り、地に殴り倒したカシムを容赦なく怒鳴りつけた。

「てめぇは生きてるだろうがっ! 死ななかっただけありがたいと思え!」

 カシムは震え、口を閉ざす。遠巻きにしていた憲兵たちがようやく駆け寄ってきて、彼を拘束してジェイドに伺った。

「この男、王立図書館から禁書を盗み出していました。連行してよろしいですか?」

「お願いします」

 ジェイドは頷き、こう続ける。

「身元引受人には私がなりますから、取り調べが終わったらカーティスの屋敷へ連れて行って下さい」

 カシムが驚いたように顔を上げた。

「大佐……」

「大佐が身元引受人になるなら、あまり厳しい取り調べは出来ないな……」

「しっ。大佐に聞こえるぞ。――大佐、了解しました。それでは」

 憲兵たちはカシムを連行していく。その様子を見送って、ガイがジェイドに笑いかけた。

「意外だな。あんたがそんな優しさを見せるとは」

「我が身を省みて恥じているだけですよ。アクゼリュスの時といい今度といい、丁寧に説明する手間を惜しまなければ、別の結果が訪れていたかもしれませんから」

 少し驚いて、ルークはジェイドを見上げる。

「だけどアクゼリュスの時は俺が悪かったから……」

「あなたが悪くないとは言っていませんよ」

「……わ、分かってるよ。あの後、みんなにこっぴどく叱られたし……」

「叱ったのは、あなたがアクゼリュスを崩落させたからではありませんよ。言い訳ばかりで、反省の一つもせず思考停止したことを叱ったんです」

 彼にしては珍しい、噛んで含めるような言い方だった。

「で、その後ちゃんと自分の責任を思い知ったルークだから、ジェイドもこうやって色々面倒見るようになったんだよな?」

 からかうようにガイが口を挟んでくる。ジェイドが一瞬、本当に絶句したのをルークたちは見た。

「……さ、こんな所で無駄話していないで、行きますよ」

「はぅあ! 大佐が照れた! めっずらしー」

 誤魔化しもむなしく、アニスが大声ではやし立てる。決まり悪げな最年長者を囲んで、仲間たちの笑い声が明るく弾けた。


 傲慢と無知による暴走で譜眼を自身に施し、音素まで暴走させて失明してしまうカシムのサブエピソード、『譜眼2』は、ゲームでは障気中和前の段階で起こせます。が、ジェイドの「こんなことなら、もっと親身に説明してやるべきだった」という後悔や、ルークの「てめぇは生きてるだろうがっ! 死ななかっただけありがたいと思え!」という怒りを見ていると、障気中和後の方が感じるものが深くなるように思ったので、ここに配置しました。

 

「こんなことになるなら、どうして大佐はもっと強く止めてくれなかったんですか!」とジェイドを責めるカシムの姿は、アクゼリュス崩落後に「こんなことになるなんて知らなかった! 誰も教えてくんなかっただろっ! 俺は悪くねぇっ!」と仲間たちを責めたルークの写しになっています。

 ジェイドはちゃんと止めていた。なのにその意味を考えず闇雲に反発し、自分の身どころか周囲にまで莫大な被害を与えかけた。それは間違いなくカシムの責任です。

 しかし、ここで別の視点も提示されます。

 カシムの行動の責任はカシムにある。けれど、愚かだからと突き放すだけでいいのか。ジェイド含む周囲の人間がもっと親身に応対していたなら、別の結末もあったのではないか?

#念のため。だからといってカシムの行動の責任がジェイドにあることにはならないので、注意です。「真でなければ全て偽」ではないので。

 

 他人の失敗を自業自得だと切り捨てるだけでなく、親身に感じる。それは他人に共感するということ。他人を理解するということなのだと思います。

 取り返しのつかない結末に至ってようやくそれを思うのは愚かなのかもしれませんが。人間、そうそう完璧じゃない。

 パーティーの中で最も大人で安定しているジェイドも、日々の中で変化し成長し続けているのですね。

 負うた子に教えられ、じゃないですが、彼にそれを教えたのは、反省(他人の視点を理解)して変わっていったルークの姿なのでしょう。



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