『〜聖魔導物語〜』感想文 13/17

「手がたわない」話

2012年に東京で開催されたトークイベント『裏コンパイルナイト〜地下版〜』にて、『魔導物語 EPISODE U CARBUNCLE』(一番最初の『魔導』)内に「手がたわない」というテキストがある件について、製作者の米光一成さんが、方言だと気づかずに使ったと語っておられたそうです。

「手がたわない」は「手が届かない」という意味。広島含む中国地方と、四国や北部九州の一部で使われる言葉です。
気づかずに方言を使ってしまった経験は、地方出身者なら誰しもにあるのではないでしょうか。私にも色々あります。日々の生活で何不自由なく使えていると、それが全国区では通じないなんて思いもよらないですよね。


さて。
『〜聖魔導物語〜』第一章、「オボロの森」初通過後に発生する会話イベントにて、ププルが以下のように言います。

ププル
#満面笑顔
とってもかわいくて甘〜い森だったね!

くぅちゃん
#不機嫌そうに
く〜

ププル
あ〜、もっとオボロ食べとけば
よかったかなぁ?
あ、そうだ。
プニィへのお土産に……

くぅちゃん
#げんなりしたように
くく〜? く〜……

ププル
ま、いっか。
帰り通るもんね!

くぅちゃん
……げっぷ

「は?」と思いました。
お土産にとか、「もっとオボロ食べとけばよかった」と言っているので、お菓子の家みたいに森自体が「オボロ」なる食べ物で出来ているか、森の中にそれが沢山あるって設定…なのかなぁ?
でも、マップ(ギミック、アイテム)にそれらしき食べ物はなかったですし、背景に描かれていた記憶もありません。何なの? とーとつに。
このゲーム、シナリオとシステムに乖離を感じることがしばしばありますが、またしてもです。

っていうか。
そもそも「オボロ」って何?

このイベント場面の背景やワールドマップで見ると、オボロの森はカラフルなピンク色の桜の木みたいなものが茂っている森に描かれています。(ただし、オボロの森のマップには、ピンク色の木はまったくない。)
で、ププルの言によれば「オボロ」っていうのは甘いものらしい。

ピンク色でモコモコしてて甘い…。
………巻き寿司やちらし寿司に入れる、桜でんぶ?

いやでも、あれは「でんぶ」であって「オボロ」じゃない。
カレーにも関係ない。甘い食べ物として女の子キャラが嬉しげに語るに相応しいスイーツでもない。

オボロという名で私が思いつく食べ物は「オボロ昆布」や「オボロ豆腐」くらいです。
でもこれらは甘い味じゃありません。

知らないものは調べてみよう、ってことで検索。
でんぶとほぼ同じ使い方をする食品として「オボロ」が存在することを知りました。

人によって説明が異なっていて、オボロとでんぶは同じものだと言う人もいれば、材料から調理法まで違う別物だと言う人もいます。
まあでも、魚やエビのすり身を甘辛く炒り煮して細かく解した食品で、巻き寿司やちらし寿司に入れるっていう点では同じですね。桜でんぶは、それに食紅でピンク色をつけたものです。

でんぶより高級なものがオボロだと言う人。でんぶは白身の魚、オボロはエビで作るものだと言う人(江戸前寿司の職人さんに多い?)。材料は関係なく、でんぶは細かく繊維状に解されて綿菓子のようにフワフワ、オボロはそぼろより細かい程度で粒状だと言う人(京都ではサバでオボロを作る)。様々です。

どうも、オボロは関東地方(江戸前寿司)で特に使われ、そちらではでんぶは使わないようです。
他地方在住の私は、でんぶは知っていても、寿司に入れるオボロっていうものを見たことも聞いたこともありませんでした。
検索していると、やはりオボロを知らずに、でんぶのことをオボロと言われて驚いたという関西の方のブログ記事を見たので、私だけではないと思いたい……。

…と、長々書いてみましたが、オボロの森のオボロは本当に寿司に入れるヤツなのか。確証はありません。
なんか全然違うものなのかも? インドかどっかのスイーツとか?? 謎です。


というわけで。
私からすると、「甘くてかわいい食べ物」として、何の説明もなく「オボロ」を出されても、意味が判りません。
でもゲームの製作者さん方からすれば、ホットケーキやふりかけくらい、説明するまでもないメジャーな食べ物だったんでしょうか。

私が物知らずなだけ、というオチでないのなら、「手がたわない」話と同じと言えるのかもしれません。
大手出版社の漫画や小説だと、全国で通じる普遍性のある表現なのか、世に出る前に校閲が入るものらしいですが、ゲームシナリオはそうしたチェックは緩いのかなと思いました。

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