その他の日蝕・月蝕の話

 

天の大ムカデ  シベリア ドルガン族

 貧しい老夫婦と小さな一人息子が、食物が何一つなく、飢え死にしようとしていた朝、大ムカデがやってきて家を取り巻いた。

 老人が「貢ぎ物に残っているのは息子と槍一本だけ。両方持っていけ」と言うと、大ムカデは何も言わずに息子をくわえて天の果てに飛び去った。そして何処からか食べ物や水を持ってきて息子の世話をし、一緒に暮らし始めた。ムカデが腹這いに寝ると辺りが暗くなって夜になり、寝返りをうって横向きになると夜が開け始め、火のように赤い腹を上に向けると昼になるのだった。

 ある時もう一匹、体中真っ黒な大ムカデが飛来し、降りると辺りは暗黒に包まれた。赤いムカデと黒いムカデは絡み合って戦い、黒いムカデが優勢になったのを見た息子は槍でその心臓を突いて殺した。たちまち辺りは明るくなり、赤いムカデは息子をくわえて元の老夫婦の家に飛び戻ると、言った。

「私が毎朝人間達に光明を送るので、黒いムカデが私を殺そうとしたのです。でもこれでもう大丈夫。私が天の片隅で寝返りを打つ度に、昼と夜が交互にやってきます」



参考文献
『シベリア民話への旅』 斎藤君子著 平凡社 1993.

※この話は日食の話とするにはやや微妙で、どちらかといえばムカデが毎日寝返りを打って夜昼を作る点に重点があるようにも思う。中国の神話で、鐘山に燭陰という石の首があり、この目が開いているときは昼で閉じているときは夜(あるいは、左目が太陽で右目が月で片目ずつ交互に開ける)だというが、それを思い出させる。また、月や太陽が子供をさらう、というおなじみの信仰が現われている。

 もう一つ、参考として中国の話を挙げる。(『捜神後記』/『中国怪異集』 鈴木了三訳編 現代教養文庫 1986.)

 ある猟師が深山に小屋掛けしていると、黄色い服に白い帯の男がやって来て「明日、私は敵と戦うので助太刀して欲しい、南から迎え撃つ白帯の方が私だ」と頼む。承知して、翌朝約束の谷川に行くと、北から黄、南から白の大蛇が現われて戦い始める。猟師は旗色の悪い白蛇に加勢して黄蛇を射抜く。夕方に再び例の白帯の男が現われて礼を言い、今後一年間この山で猟をするといいが、その後は二度と来ないことだ、と言う。その後一年間は大変な大猟となって財産を得る。

 数年後、財産を使い尽くした男は再び例の山に入る。白帯の男が来て責め、「黄蛇の子供たちが成長してあなたを仇と狙っている、私には助けられない」と言う。猟師は逃げようとするが道に迷って出られない。そこに三人の黒衣の若者が現われ、大きな口を開けて猟師をかみ殺す。

 この類話は、日本でも語られている。また、田原藤太が竜神に頼まれて大ムカデを退治する伝説や、その原話と思われる『今昔物語』巻十六第九も、類話と言えるだろう。

 

 ムカデが日食や月食を引き起こすという話には、以下のようなものもある。

ムカデが月を食う  中国 シュイ

 雄のムカデが餌を探していたが、月の光が明るいのでバッタもコオロギも逃げてしまったうえ、人間に見つかって尾を傷つけられた。逆恨みした雄ムカデは月を噛み殺そうと考えた。

 ムカデは次々と高い山に登ったが、天に通じる道はない。ガッカリして家に帰ると、雌ムカデが言った。

馬桑マサン樹がこの世で一番高い木だそうよ。馬桑樹を伝えば天に行けるわ」

 雄ムカデは馬桑樹から天に登り、月に飛びかかって噛みついた。最愛の娘の泣き声を聞いて天の神様は驚き、雷公にムカデ退治を命じた。一方、地上の人々は月が真っ赤な血に染まったのを見て、銅鑼や太鼓を打ち鳴らし、爆竹や銃を鳴らした。ムカデは慌てて馬桑樹から滑り降りて岩陰に隠れた。雷公はムカデを見つけられなかった。

 雷公の報告を聞くと、天の神様は蜘蛛に命じた。

「すぐに下界へ行って、お前の糸で馬桑樹の芽吹きを縛って伸びないようにし、ムカデが二度と登ってこられないようにしろ」

 蜘蛛は言われたとおりにしたので、それからは馬桑樹は伸びなくなった。また、雷公は天の神様に命じられて、地上に行く際にはムカデを斧で八つ裂きにするべく探し回るようになった。だから雷が聞こえだすと、ムカデは急いで岩の下に潜り込んで隠れてしまうという。


参考文献
『世界の太陽と月と星の民話』 日本民話の会、外国民話研究会編訳 三弥井書房 1997.


参考 --> 「日食の伝説」[太陽を奪う者




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