>>参考 「ナルト叙事詩・ゼラゼと双子の兄弟」「海幸・山幸」
ここには、《(釣り針/槍/矢/ナイフ)などで獲物をしとめようとしたが逃げられてしまった男が、(a.獲物を追って b.失った道具を取り戻すために c.祖霊に迎えに来られて)異界へ行く》というモチーフを持つ話を並べることにする。
このモチーフには、
などのモチーフがくっつくことが多い。
昔、モルッカ諸島のハルマヘラ島に住むある男が、夜に畑の見張りをして、畑を荒らした猪を槍で突いた。猪は槍を刺したまま逃げ、翌日、男は血の跡を辿って岩の割れ目から地下に降りた。
そこには町があり、一軒の家の戸口に自分の槍が立てかけてあった。中からは病人のうめき声が聞こえてくる。中からその家の主人らしい男が出てきて来意を問うたので、猪に取られた槍を取りに来たと話すと、主人は男をなじった。
「お前は私の娘を傷つけた。お前は娘を癒し、結婚しなければならない。何故なら、娘の傷は傷つけたお前にしか癒せないのだから」
見ると、家の垂木に猪の皮がかけてある。この国の人々は、地上に出るときは猪の皮を着て出かけるのであった。
男は言われるままに娘の傷を治し、夫婦になった。しばらく経つと地上が恋しくなり、一度地上に帰りたいと言うと、妻は猪の皮を着て行けと言う。以来、男は地上に赴くときは猪の皮を着て行った。
こうして三ヶ月ほどが経ったある日、男が他の者たちと一緒に地上に行くと、「開けろと言われるまで目を開けるな」と言われた。男が目を閉じると、猪たちは「今後は猪が畑を荒らしても手荒なことはせず、口頭で《この畑に来るな、よそに行け》と言え、そうすれば猪はよその畑に行くだろう」と告げた。許しを得て男が目を開けると、自分の畑におり、元の人間の姿に戻っていた。以来、男は地下の妻と会うことは永遠に無かった。
参考文献
『世界神話事典』 大林太良ほか著 角川書店 1994.
※日本人なら、失われた釣り針を探して竜宮に行き、豊玉姫と結婚する、神話の「海幸・山幸」を思い出すだろう。
夜に畑または果樹の番をしていると、獣または鳥が現れる。だが、その獣は神の使いだ。
このモチーフは、非常にしばしば民話や古い神話に現れる。獣を神だと見ぬき、傷つけなかった者は神の祝福を得る。あるいは、獣を傷つけ、その血の跡を追うと異界に行き、獣は異界では皮を脱いで人の姿になることを知り、傷を癒すことによって祝福を得る。
異類婚姻譚にもしばしば現れるが、獣は《獣の皮(肉体)をまとった異界の人》――祖霊であり、神なのである。