地上に帰ってきた伊邪那岐神は、九州の阿波岐原に行って水浴びをし、体を清めました。すると、あろうことか洗い水から沢山の神々が生まれました。いつのまにか独りで子供を作れるようになっていたようです。はじめは伊邪那美神と二人であんなに苦労していたのに、いつしか彼自身も出産のベテランになっていたのでしょうか?
ちなみに、この時 彼は自分の「
すっかり綺麗になった伊邪那岐神は、最後に顔を洗いました。左目から
この三人の子供達は特別に珍しくて素晴らしい神々でした。伊邪那岐神は喜んで、「天照大御神は
三姉弟はそれぞれの任地に行って仕事を始めましたが、須佐之男命だけは何もせず、くる日もくる日もひどく泣きわめいていました。どのくらいひどいかと言うと、山の木が枯れ、海や河が干上がり、悪神がハエのようにうようよと飛びまわって諸々の災いを起こすほどでした。「忍者ハットリくん」のシンちゃん以上の破壊力です。
楽隠居を決め込もうとしていた伊邪那岐神もさすがに呆れて、「お前はなんで毎日泣いてばかりで仕事もしないんだ」と問いただしますと、須佐之男命は「死んじゃった母上に会いたいんだ! 母上に会いにあの世に行きたい!」と言います。あごひげが胸に届くくらい伸びた いい大人のくせに、とんでもないマザコンです。ついでに言えば彼は伊邪那岐神が独りで生んだのであって、その前に伊邪那美神とはリコンしていたのですから、何も関係ないはずですが。でもまぁ、別説では三姉弟は伊邪那岐・伊邪那美二神の結婚で普通に生まれたことになっているので、これ以上つっ込むのはやめましょう。
生まれてから一度も会ったことがないからこそ、彼の母への慕情は昇華されることなく膨れ上がっていたのかもしれません。しかし伊邪那岐神には理解できませんでした。色々と複雑な心境でもあったのでしょう。彼はひどく怒って「だったらここから出て行け!」と息子を追い出し、自分は
追い出されてしまったので、須佐之男命は本当にあの世にいる母の元に行こうと考えました。けれど、あの世に行ってしまったらもう姉兄達にも会えなくなるでしょう。お別れを言うために、彼は姉の治める高天原に昇っていきました。彼はマザコンだけでなくシスコンでもあったのです。まだ見ぬ母の面影を姉に見ていたのかもしれません。
彼が天に向かうと、山も川も、国全体がドドドと震え動きました。大地震が天にも届く大津波を起こすように、海で天をも沈めてしまおうというのでしょうか?
この様子を見て、天照大御神はとても驚きました。
「さては、私の国を奪いに来るつもりか!?」
天照大御神はケンカっ早いおねーさんでした。ついでに男装の麗人でした。髪型を男の人用の「みずら」に結いなおし、男の服を着て、剣と弓矢を持って一人で弟を待ちうけました。そして足を踏み鳴らして土を蹴散らしながら「何のつもりでここに来た!」と雄雄しく叫びました。
「僕は何も企んでないよ。父上に任地を追い出されたから母上のいる根の国に行こうと思ったけど、姉上に会わないままじゃ行けるもんか。だから雲や霧を踏み渡って遠くから来たのに、姉上に怒られるなんて思わなかったな……」
と、須佐之男命はショボン。天照大御神は少しバツが悪くなったようです。
「……どうやったらお前の潔白を証明できるのだ」
「じゃあ、二人で神に誓いを立てて、子作りをしようよ。良い子が生まれたら僕は潔白ということだよ」
須佐之男命はマザコンでシスコンなだけではなく、たらしでした。
神様が神に誓いを立てるというのもおかしな気がしますが、伊邪那岐神と伊邪那美神も別天神に占ってもらって子作りをしたのですから、それでいいのかもしれません。何といっても二人は同母の姉弟ですし、神意ははかるべきでしょう。
二神は天の安川……天の川を挟んで向い合いました。神様はいつも水の側で結ばれます。天照大御神は自分の髪飾りの勾玉を須佐之男命に預け、自分は聖水で清めた弟の剣を口に含みました。須佐之男命も、同じ手順で姉の勾玉を口に含みました。
それぞれ口に含んだアイテムを噛んで吹き出すと、須佐之男命の予告した通りの子供が生まれました。
こうして、天照大御神は弟の潔白を認めて、自分の国に迎え入れたのでした。
なにしろ八人も子供を作っちゃったしね。
晴れて高天原に迎え入れられた須佐之男命は、心が
もう、母の国に行くのはどうでもいいみたいです。なにしろここには愛しい姉上がいるのですから。
田んぼを荒らしたり、水路を埋めたり、部屋の中に大便を撒き散らしたり、やりたい放題です。みんなが非難しましたが、天照大御神は大目に見ていました。彼を愛していたのでしょう。
けれど、ついに破局はきました。
天照大御神が部屋にこもって
怒りとショックから、天照大御神は天の岩戸の奥に隠れこもってしまいました。太陽の化身である彼女が隠れてしまったので、世界から「昼」は消え、暗黒に閉ざされて、またしても悪神たちが跳梁を始めたのでした。
高天原に属する
まずはニワトリを沢山集めて、岩戸の前で鳴かせました。次に大きな鏡と勾玉を作り、
その一方で、岩戸の前では
岩戸の中にこもっていた天照大御神は、あんまり外が楽しそうなので、そっと戸を細く開けて顔を覗かせました。
「私がここにこもっているというのに、みんな何をそんなに喜んでいるのだ?」
「あなた様より尊い神が現れたので、みんな喜んで騒いでいるのですわ」
すかさず天宇受売命がそう言い、天児屋命と布刀玉命が榊に飾っておいた大きな鏡を外して、天照大御神に見せました。
「お前は……!?」
天照大御神は鏡に映った自分を尊い神と勘違いし、もっとよく見ようと身を乗り出したところを、岩戸の陰に隠れていた
「もう二度とこの中へはお戻りにならないように!」
こうして世界に太陽は戻り、昼が復活したのでした。
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この話知ってる! 日蝕の話なんだよね。 | |
日本神話の中でも最も有名なエピソードの一つかもしれませんね。 | |
それにしても須佐之男ってヒドいよね! 働きもしないで乱暴ばっかり。どうして天照はかばっていたんだろう。 | |
子供っぽいところが可愛かったのかもしれませんよ。 | |
ガキっぽい男子なんてサイテーだけどなぁ? そういえば、伊邪那岐の生んだ三人の子供のうち、月読だけ全然話に出てきてないよね? どうしてたんだろう。 |
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彼は天照大御神にうとまれていらっしゃったから、高天原にはおいでになれなかったのでしょう。 | |
嫌われてたの? どうして。 | |
その話は、民話想の[星辰万象]で説明しますから。 そちらで調べてくださいね。 |
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ええー? | |
さあ、次も有名なエピソードですよ。 |
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