「おーほほほ! ウィッチの魔法の店、リニューアルオープン! どうですかしら、感想は」
久しぶりにウィッチの店を訪れたシェゾは、すっかり変えられた店内の内装に目を丸くした。
「……こりゃまた随分と変わったもんだな」
「壁紙は王都から取り寄せましたの。素晴らしいでしょう。それから、この棚は……」
「よくそんな金があったな」
相変わらず、店内にはシェゾの姿しかない。
「あら、お金は、この間の報酬が入りましたもの」
「この間?」
「ほら、イクスグレイズの。領主さんから払っていただきましたのよ」
「……ちょっと待て! なんだそりゃ、俺はそんなの受け取ってねぇぞ!」
「あら、だってシェゾは一人で先に帰っちゃったじゃありませんの。お城から直接」
「…………!」
「わたくしたちは真面目に歩いて帰りましたのよ。それで領主さんに報告していこうということになりまして、そうしたら領主さんがぜひ、と。それが、アルルさんもルルーさんも二人してそんなのいらないって言うんですのよ。全く、お金に苦労してない人は困りますわね。わたくしは、くれるというものはいただきますわ」
はああ……。シェゾは大きくため息をついた。
「分かった、もういい……。にしても、結局俺だけタダ働きかよ」
「ま、自分の行動が招いた結果というやつですわね」
ウィッチがコロコロと笑ったとき、ドアベルの音が響いてアルルが入ってきた。
「こんにちはー! あれっ? お店が変わってる」
「いらっしゃいアルルさん。どうかしら、ウィッチの店リニューアルオープンですのよ」
「すっごーい、可愛い。すごくイイよ、ウィッチ」
「ありがとうですわ」
女の子二人で盛り上がっている。ついていけんな……そう思ってなんとなく背を向けたとき、アルルが話し掛けてきた。
「あっシェゾ。久しぶりだね」
「ああ……」
「この間はありがとう」
「礼を言われるようなことじゃない……別にお前のために何かしたわけじゃないからな」
「またぁ……でも、そう言うと思ったよ」
そのまま、アルルは黙ってしまい、なんとなく場は沈黙した。とはいえその場を離れる雰囲気でもない……。
「あのね、シェゾ……」
長い沈黙の後、アルルが言った。
「グロストさんは……どうしてあんなになっちゃったのかな。ううん、あの時はあれで仕方がなかったんだケド……」
「……あいつがまいた種だろ」
「うん……だけど……うまく言えないんだけど。あの後領主さんの館に行ったらみんなすごく喜んで、グロストさんがすごく悪いことを沢山してたってコトは分かったんだけど……変かな。ボクには何だかグロストさんが心の底から悪い人だったようには思えなくて。だって、ボクたちに魔獣退治の依頼に来たでしょ、自分の名前の……もしかしたら止めてほしいって思ってたのかなって」
「呆れた奴だ。お前はお人よしだな」
「そうかな。でもね……思ったんだ。グロストさんはどうして闇の魔導師になったんだろうって。みんなが、元は普通の人だったって言ってたのにね」
「さぁな……それが重大な出来事にせよ、くだらないことにせよ……それは奴自身の問題だ。闇の道を選んだのはな」
「……シェゾは?」
「え?」
「シェゾはどうして闇の魔導師になったの?」
アルルの金無垢の瞳が、まっすぐにシェゾを見上げている。こいつは、その瞳にも魔力を宿しているのだろうか……捕えられそうな自分を感じて、シェゾは思った。
「……もう、忘れた。昔のことだからな」
「ええー?」
「あーうるさい。それより、お前、買い物に来たんじゃないのか」
もうこの話は打ち切りとばかり、シェゾはアルルを追い払う。
「あっ、そうだ。ボク、急いで買い物して行かなきゃならないんだった」
アルルは慌てて腕に品物をかき集め始める。
「魔導酒に携帯食のカレー、竜の角……。アルルさん、どこかに探索にでも行くんですの?」
品物を検分し、ウィッチが言った。
「うん。……それが、補習なんだ。ほら、この間、結局無断欠席しちゃったでしょ。だからマスクド校長先生に怒られちゃって」
「まぁ……それは大変ですわね」
――いろんな意味で。あの風変わりな校長を知るウィッチは本気でそう思った。
「うん。でもルルーも付き合ってくれることになってるから。……ルルーは何であたくしまで、って怒ってたケド……」
「フ……今度は探索中に行き倒れるなよ」
「大丈夫だよ」
シェゾが例によって憎まれ口をたたくと、アルルは笑って返した。
「だって、そうなったらまた、シェゾが助けに来てくれるでしょ」
「なっ……!」
シェゾは絶句し、アルルに向き直った。
「何で俺がお前を助けに行かなきゃならんのだっ」
「えー? だって……」
「大体お前はカンチガイしてるぞっ。俺とお前の仲はだな、そもそも、お前は俺の――」
「『俺の獲物に過ぎない。ただ、お前の魔力をいただく前にどうにかなられては困るだけだ』……でしょ?」
言おうと思っていた台詞を先に当のアルルに言われてしまい、シェゾはただ口をぱくぱくと開け閉めした。
「まぁいいけどね。でも、だったらちゃんと、ボクのこと守ってくれなくちゃ」
「ぐ、貴様……」
二人がなおもやいのやいのと言い合いを続けている間、ウィッチはカウンターに座り、それを眺めていた。カウンターには、アルルの肩から降りたカーバンクルが陣取っていて、そこに置かれたままの品物を勝手に食べている。
「黄金りんごは10,000G……ま、これはもうシェゾが代金を払ってるやつですから、わたくしには関係ないですわね……」
ウィッチは両手で頬杖をついた。
「やれやれ、ですわ……」
とりあえず、平和である。
END