>>参考 [旅の仲間]

 

八兄弟  中国 漢族

 ある老婆に初生チューションという一人息子がいた。やがて秀英シウインという嫁をもらったが、四年経っても子供が出来なかったので、姑はぐちぐちと嫁をなじるのだった。

 そんなある日、初生が山に柴伐りに行き、柴を山と背負って帰る途中、大地主の王剥皮ワン パアピイと行き会った。狭い道のこと、避けることもひれ伏すことも出来ないでいると、王は「道も譲らず挨拶もしないとは無礼者め!」と、太い棍棒で殴り殺してしまった。

 夫が殺されてしまってから、秀英の暮らしはますます辛くなった。彼女が井戸端で泣いていると、一羽の白い鳩が飛んできて訊いた。

「何故泣くのだ、秀英」

「孫を産めなかったとお姑さんに叱られるのです。夫は死んでしまったし……」

「泣くな、裏の桃の木の一番赤いのを取って食べるのだ。そうすれば子が出来る」

 秀英がその通りにすると、たちまち妊娠し、次の日にはもう八人の息子を産んだ。

 姑は最初は喜んだが、やがて「こんなに子供がいて、何を食べさせて何を着せればいいんだい。このままではみんな飢えて凍えて死んでしまうよ」とぐちぐち言い始めた。

 あくる朝、秀英がまた井戸端で泣いていると、白い鳩が飛んできた。

「何故泣くのだ、秀英」

「折角産まれた子供も、食べるものも着るものもないので、飢え死に凍え死にしそうなのです」

「明日の朝、またここに来い。底知らずの鉢と四季知らずの着物をやろう。鉢からは食べ物がいくらでも出て、着物は年中暖かく、しかも大きくなるのでいつまでも着られるのだ」

 あくる朝、言われたとおりに井戸端に行ってみると、本当にそれらが置いてあった。

 姑は喜んだが、そのうちにまた溜め息をつき始めた。

「うちの子供たちには名前がないよ。名前がなければ豚と同じだよ」

 秀英はなるほどと思い、あくる朝、井戸端に行って泣いてみた。鳩が飛んできて「何故泣くのだ、秀英」と尋ねた。

「うちの子供たちには名前がありません。名前がなければ家畜と変わりません」

「心配するな。長男は初入り、次男は石滑り、三男は堅首、四男は柔首、五男は熱さ知らず、六男はのんべえ、七男は足長、八男は大食いと名付けよう」

 子供達に名前をつけてしまうと、鳩は飛び去って二度と来なかった。

 さて、子供達は底知らずの鉢から出る食べ物を食べて、四季知らずの着物を着て、健やかに成長した。ところが、これらの宝物の噂が大地主の王剥皮の耳に入り、ある日、奪い取ってやろうと手下を引き連れてやってきた。息子達の留守を狙ったつもりで真昼に来たのだが、ちょうどその日、長男の初入りが体調が悪くて家で寝ていた。

 初入りは、父の仇がやって来たと聞いて、棍棒を持って家の外に飛び出した。しかし多勢に無勢、縛り上げられてしまう。王は底知らずの鉢を奪おうとしたが、鉢は秀英がとっくに隠していたので見つからない。そこで初入りだけを連れて行って牢に入れた。

 他の息子達が帰って来ると、母は長男を助け父の仇をとってくれと涙ながらに訴える。そこで、次男の石滑りが小鳥になって飛んで行き、牢に入れられた初入りに話しかけた。

「地主の奴は、俺が今日たまたま四季知らずの着物を着ていなかったものだから悔しがって、明日俺を大石で押し潰して殺すと言っているよ」

「よし、じゃあ俺と入れ替わろう」

 石滑りが牢に入り、初入りは家に帰った。

 あくる日、王は大石を落として石滑りを殺そうとしたが、不思議なことに石がつるつると滑って決して潰されないのだった。

「では明日、首を切り落として殺してやろう」

 その夜、牢の中で石滑りと堅首が入れ替わった。朝になって首を切ろうとするが、硬くて切れない。

「では明日、首を吊るして殺してやろう」

 その夜、牢の中で堅首と柔首が入れ替わった。朝になって首を吊るが、全然死なない。

「では明日、火で焼いて殺してやろう」

 その夜、牢の中で柔首と熱さ知らずが入れ替わった。朝になって火で焼いたが、涼しい顔をしている。

「では明日、大量の酒を飲ませて飲み殺してしまおう」

 その夜、牢の中で熱さ知らずとのんべえが入れ替わった。朝になって酒を飲ませたが、いくら飲んでも死なない。

「では明日、海に投げ込んで溺れ死にさせてやろう」

 その夜、牢の中でのんべえと足長が入れ替わった。朝になって海に投げ込んだが、足首が濡れるばかりで全く溺れない。

「では明日、大量に物を食わせて悶絶死させてやろう」

 その夜、牢の中で足長と大食いが入れ替わった。朝になって飯を十万杯食わせたが、ペロリと食べてしまう。王は困り果てて、これでは米倉が空になるから帰ってくれと懇願した。大食いは屋敷の高い塀に登って尻をまくると、十万杯分の糞を垂れた。大地主の屋敷の中は糞の海となり、家族も使用人もみんな溺れて死んでしまった。

 さて、あの白い鳩は何者だったのだろうか。あれは死んだ初生の魂で、妻子を助けていたのだということだ。



参考文献
『中国の民話と伝説』 沢山晴三郎訳 太平出版社 1972.

※冒頭、母が桃の実を食べたことで主人公たちが生まれる点が「桃太郎」と共通しており、興味深い。また、苛められる秀英とそれを助ける白鳩には、シンデレラ系の要素も見える。

 参考として、中国に住む朝鮮族の類話を一つ挙げる。

六兄弟  中国 朝鮮族

 働き者で非常に仕事の速い娘がおり、多くの求婚者が集まるが、「自分より仕事の速い男と結婚する」と田植え勝負を行い、挑戦者に高慢に振舞って恨まれる。求婚者がいなくなった娘は男装して婿を探す旅に出るが、途中でかつての求婚者に崖から落とされる。崖の下には非常に仕事の速い若い鍛冶屋が住んでおり、娘が落ちてくる間に材料集めから始めて巨大な籠を編み上げ、娘を受け止めて助ける。娘はこの鍛冶屋こそ自分の求めていた人だ、と嫁になる。

 二人の間には六人の息子が生まれ、長男は『知恵者』、次男は『鍵要らず』、三男は『首切れず』、四男は『熱さ知らず』、五男は『溺れ知らず』、末っ子は『重さ知らず』だった。

 兄弟が一人前になった頃、この地方の知事が、ワイロを差し出さなかったといって父の鍛冶屋を牢屋に入れた。『知恵者』の指示で兄弟は父を牢から救い出し、代わりに『首切れず』が入っている。知事は怒って斬首刑を行うが、何度首を切っても彼は死なない。次に大きなカマドを作って中で焼き殺そうとしたが、入れ替わった『熱さ知らず』はカマドの天井に「雪」、下に「氷」の字を貼っていて、逆に寒さに震えている。次に川に投げ込もうとしたが、入れ替わった『溺れ知らず』は決して溺れない。最後に、鍛冶屋の一家を集めて大岩で押しつぶそうとしたが、『重さ知らず』は難なく大岩を支えて城門の外に投げ捨てる。

 知事は勝てないと悟ったが、引き下がるのも顔が立たない。苦し紛れに「(知事の位置からは岩の向こうになって鍛冶屋一家の姿が見えなかったので)わしの目に見えないところを見ると、ヤツらは全員くたばったようじゃ」と笑って、こそこそと立ち去った。


参考文献
『中国の民話〈上、下〉』 村松一弥編 毎日新聞社 1972.

 権力者があの手この手で超人たちを殺そうとするが失敗すること、最後には諦めて悔し紛れの発言をすることなど、グリムの「世界を股にかける六人男」とも共通している。



秦の始皇帝と十人兄弟  中国 漢族

 昔、あるおかみさんが十人の息子を持っていた。この息子達ときたら、誰も彼もどこかしら人間離れしていて、長男は『地獄耳』、次男は『千里眼』、三男は『怪力』、四男は『石頭』、五男は『鉄男』、六男は『足長』、七男は『大頭』、八男は『大足』、九男は『大口』、末っ子は『大目玉』だった。

 ある日、十人兄弟は揃って野良仕事に出かけた。すると、長男の『地獄耳』が人の泣き声を聞きつけた。

「誰かが泣いてるぞ。それも尋常な泣き声じゃねぇ。次男坊、お前ちょっくら見てくれや」

 そこで『千里眼』が見渡すと、始皇帝に万里の長城を建てさせられている人夫たちが、お腹を減らして泣いている。三男の『怪力』は

「オラが行って、仕事を代わってやるべぇ」

と出かけて、昼前に着いて昼過ぎにはもう長城を造り上げてしまった。

 始皇帝はそれを見て恐れをなし、『怪力』を殺しにかかった。

「いけねぇ、始皇帝のヤツ、『怪力』を殺す気だ」

『千里眼』の報告を聞いて、「オラが行って交代するべぇ」と四男の『石頭』が立ち上がった。始皇帝は刀を抜いて『石頭』に襲い掛かったが、どんなに斬り付けてもまるで歯が立たない。刀を何十本と駄目にした挙句、今度は棍棒を持ち出した。これを見ると四男は泣き出した。石の体は斬れないが、叩けば砕けてしまうからだ。

「また泣き声がするだ。次男坊、見てくれや」

「あいやぁ、いけねえ。始皇帝のヤツ、棍棒なんか持ち出しやがって、『石頭』を叩き殺す気だ」

『千里眼』の報告を聞いて、「オラが行って交代するべぇ」と五男の『鉄男』が立ち上がった。始皇帝は棍棒を振りかざして殴りかかったが、どんなに滅多打ちにしても、棍棒が折れるばかり。何十本と駄目にした挙句、今度は海に投げ込もうとし始めた。五男は驚いて泣きだした。鉄の体は斬れないし砕けないが、海に入れば浮かぶことが出来ないからだ。

「また泣き声がするだ。次男坊、見てくれや」

「いけねえ。始皇帝のヤツ、『鉄男』を海に投げ込む気だ」

『千里眼』の報告を聞いて、「オラが行って交代するべぇ」と六男の『足長』が立ち上がった。五男の代わりに海に投げ込まれてみると、水は足首にも届かない。『足長』は魚獲りを始めた。五、六十貫目も獲ったが、生憎、入れ物がない。そこへ七男の『大頭』がやって来た。

「おお、よく来てくれた。オラ、魚の入れ物がなくて困ってただ」

『大頭』の麦藁帽子に獲った魚を入れてみると、半分にもならない。六男と七男は魚をワンサカ担いで兄弟たちのところに帰ってきた。ところが、いざ焼こうとすると薪がない。その時、八男の『大足』が言った。

「オラ、こないだ山で芝刈ってて、トゲを刺しただ。こいつを抜いて使ってみたらどんなもんだべ」

 トゲを引っこ抜いてみると、なんと椿樹チャンチンの大木である。それを『怪力』が引きちぎり、九男の『大口』がこすって吹いて火を起こす。さて、魚が食べごろに焼けてくると、『大口』は

「焼け具合はどうだべ。オラがまず一口」

と、ペロリと全部食べてしまった。それを見て末っ子の『大目玉』が泣き出した。涙は雨になり、たちまち大洪水を起こして、あっという間に万里の長城を押し流してしまった。始皇帝の鬼めも、このとき海に流されて、スッポンに食われてしまったそうな。



参考文献
『中国の民話〈上、下〉』 村松一弥編 毎日新聞社 1972.

※このタイプの話は、中国や朝鮮に多数語り伝えられている。兄弟の人数は五人、六人、九人と色々ある。最後に涙や大小便で大洪水を起こす、というのがミソか。

 他の[旅の仲間]系物語に比べると、仲間達が「巨人」として描写されている点は注目すべきかもしれない。日本にも「だいだらぼっち」など巨人伝説は色々あるが、巨人が兄弟でワンサカ出てきたらこんな感じなのだろうか。……迷惑ぽいなぁ。



六人男、世界を股にかける  ドイツ 『グリム童話』(KHM71)

 昔、ある所に勇士がいた。彼は勇敢で、あらゆる技を心得、戦争に出て立派な働きをしたのだが、平和になるとお払い箱。長い間王様のために働いたのに、貰えたのは煙草代のヘレル銅貨三枚きりだった。

「今に見ろ! 俺に気のきいた家来が見つかったら、王様に国中の宝物だって出させてみせるぞ!」

 勇士がそんなことをうそぶきながら森に入ると、立ち木を六本、まるで麦のように根こぎにして突っ立っている男と出会った。

「お前、俺の家来になって一緒に旅歩きする気はないかい?」

「よかろう。だが、この薪の束をお袋のところに届けてからだ」

『根こぎ男』は木の一本を紐代わりにして木の束を縛り上げると、ひょいと肩に担いで行ってしまった。それからまた戻ってきて、勇士のお供になって歩いていった。

「俺達二人なら、世界を股にかけられるさ」と、勇士は言った。

 それから少し行くと、二人は片膝をついて鉄砲の狙いをつけている狩人と出会った。勇士は尋ねた。

「狩人、何を撃つんだ?」

「ここから二マイル先の柏の木の枝に、ハエが一匹とまっている。その左目をぶち抜くのさ」

「驚いた奴だな。なあ、俺の家来になって一緒に来いよ。俺たち三人揃えば世界中を股にかけられるぜ」

『目の鋭い狩人』は承知して付いてきた。そうしてまた進むうちに、三人は風車が七つあるところにやってきた。不思議なことに、風車の羽はぐるぐる回っているのだが、辺りにはまるで風が吹いていないのだった。

「不思議だな。何がこの風車を回してるんだろう」

 そう言いながらそこを過ぎて二マイルほど行くと、木の上に一人の男が腰掛けていて、鼻の穴の片方を押さえて、もう片方からぶうぶうと鼻息を出している。

「おい、そんなところで何してるんだい?」と、勇士は尋ねた。

「見てみな。二マイル先の七つの風車を回してるのさ」

「スゲー奴だなぁ。おい、俺の家来になって一緒に行かないか。俺たち四人が揃えば世界を股にかけられるよ」

『鼻息の荒い男』は木から降りて付いてきた。しばらく行くと、一本足で立っている男に出会った。もう片方の足は、関節で外して脇に置いてあった。

「おかしな休み方をしてるんだな」と、勇士は言った。

「俺は飛ぶ鳥より速く走れるんだが、速すぎて困るから普段は片足を外しているのさ」

「大変な奴だな! 俺の家来になって一緒に行こうや。俺たち五人揃えば、それこそ世界を股にかけられるだろ」

 そう言われて、『片足男』はピョンピョンと跳ねて付いてきた。それから間もなく、小さな帽子を被った男に出会った。帽子は斜めになっていて、片耳をスッポリ隠している。

「ヤー、あんたイカしてるな。だが、その帽子のかぶり方はバカっぽいだろ。やめないかい?」と、勇士は声をかけた。

「そうもいかないのさ。なにしろ俺がまっすぐに帽子をかぶろうもんなら、たちまち冷えて飛ぶ小鳥すら凍え死んで落ちるからな」

「呆れた奴だなー。なあ、俺の家来になって一緒に行かないか? 俺達が六人も揃えば、それこそ世界中を股にかけられるってもんだ」

『横っちょ帽子男』も承知して付いてきた。

 

 やがて六人はどこかの国のどこかの都に入った。ここの王様は、自分の娘と駆け比べをして勝つ者があれば、誰でも娘の婿にする。しかし負ければ首を取る、という布告を出していた。勇士は挑戦を申し出た。

「ただし、私は家来を代理人にして走らせますので」

 王様は承知して言った。

「ならば、お前とその代理人、二人分の首を賭けてもらおう」

 勇士は『片足男』を呼んで、パチン、と外していた片足をはめてやると、「ひとっ走り行って、俺たちを勝たせてくれよ」と頼んだ。

 競争は、遠くの泉から先に水を汲んで帰って来る者が勝ちと定められていた。いよいよスタートするとき、『片足男』は水がめを一つ、お姫様も一つ受け取った。そして同時に駆け出したが、瞬き一つの間に『片足男』の姿はもう見物人の視界から消えていた。まるで風がビューッと通り過ぎたようなものだった。

『片足男』はとうに泉に着いていて、かめ一杯の水を汲んで、帰り道を走り始めた。ところが、途中で急に眠たくなってきて、水がめを脇に置いて昼寝を始めた。そうこうするうちに、お姫様も並の人間としてはとても足が速かったので、『片足男』が寝ているところに追いついてきた。お姫様は笑って、『片足男』の水がめを蹴って水をこぼし、ゴール目指して駆けていった。

 この様子を、山上の城から『目の鋭い狩人』が見ていなかったら、どうなっていたことだろう! 『目の鋭い狩人』は鉄砲に弾を込めると、あやまたず一発、『片足男』が枕にしていた硬い馬の頭蓋骨だけを撃ち砕いた。

『片足男』は飛び上がって目を覚ましたが、見れば自分の水がめは空っぽで、お姫様はずっと先を走っている。それでも気を落とすことなく、再び泉に戻って水を汲み直して、けれどお姫様より十分も早く帰りついた。

 王様とお姫様は困り果てた。たかが一兵卒上がりの男を婿にするのはごめんだと思った。

「安心するがよい、姫よ。きゃつらを、二度と寄り付かぬようにしてやるからな」

 王様はお姫様にそう言って、六人の男達には「皆の者、くつろいで飲み食いするがいい」と言って、ご馳走を並べた小部屋に案内させていった。その部屋の床は鉄張りで、扉も鉄製、窓には鉄格子がはまっていた。

 六人が部屋に入ると、王様は扉に錠を下ろしてかんぬきをはめさせた。そして料理番を呼んで、鉄が灼けるまで部屋の床下に火を入れろと言いつけた。

 部屋の中の六人は、飲み食いしているうちにどんどん暑くなってきて、最初は飲み食いしているせいかと思ったものの、外に出ようにも鍵がかかっていたので、王様の悪だくみだと気がついた。

「そうは問屋が卸さないさ」

 そう言って、『横っちょ帽子男』が帽子をまっすぐにかぶり直すと、たちまち馬鹿馬鹿しいくらいに気温が下がって、皿の中の料理が凍り始めた。それから二、三時間後、王様が もう干乾びて死んだだろう、と戸を開けさせると、六人はピンピンしているどころか、この部屋は寒くてたまらないと文句を言う有様だった。

 王様はこんな方法ではどうにもならないと気付いて、勇士を呼んで「お前が姫を諦めるなら、金貨と、なんでも欲しいものを遣わそう」と持ちかけた。勇士は承知して、「私の家来たちが担げるだけものを下さい。そうすれば、姫様をいただこうとは申しません」と答えた。

「では、十四日後にいただきに参ります」

 

 城を出ると、勇士は国中の仕立て屋を一人残らず呼び集めて、丸二週間かけて大きな大きな袋を縫い合わさせた。縫いあがった袋を『根こぎ男』に担がせて王様のところに行くと、王様は得体の知れない予感に怯えながらも金貨が一トン入った大樽を持ってこさせた。ところが、屈強の男達が十六人がかりで持ってきたそれを、『根こぎ男』はヒョイと袋に放り込んで「こんなんじゃ全然足りないぞ」と言ってのける。次から次にお宝が運び込まれて、しまいに国中の金貨を積んだ七千台の荷車が集まってきたが、『根こぎ男』は車を牽いている牝牛ごと全部袋に入れてしまって、袋を背負って仲間達とさっさと帰ってしまった。

 国中の財産を奪われて、王様がどんなに怒ったことか。ただちに騎兵隊が差し向けられ、二個連隊が六人を取り囲んで、袋を返せと迫った。ところが、『鼻息の荒い男』が「何をぬかす!」と片方の鼻の穴を押さえてもう片方からぶうっと息を吹き出すと、兵達は全て空に舞い上がって、バラバラに山の向こうに吹き飛ばされてしまった。ただ一人、声を張り上げて命乞いをした曹長だけが許されて、

「帰って王に伝えるがいい。いくらでも兵をよこせ、全て俺が吹き飛ばしてやるとな」

と申し渡された。王はこれを聞くと、

「ええい、もう放っておけ! あの者共も、なにかしら取り得があるわい」と言った。

 

 こんなわけで、莫大な金を持ち帰った六人の男達は、それを山分けにして、世が終わるまで面白おかしく暮らしたそうだ。



参考文献
『完訳グリム童話集(全五巻)』 J.グリム+W.グリム著、金田鬼一 訳 岩波文庫 1979.

※この話では《超人たち》が兄弟ではないが、妻ぎの要素が希薄で、どちらかといえば「悪い王をコミカルにやっつける」という要素の方が強いため、ここに分類してみた。

 この話の主人公は姫より金貨を選ぶ。古来よりのテーマの「結婚して子孫繁栄」ではなく、「金で死ぬまで面白おかしく暮らす」が賞賛されているわけで、世の価値観の変容をうかがわせる。

参考 -->「陸を走る船




inserted by FC2 system