[桃太郎]は日本で最も好まれた民話の一つであり、恐らくは第一に挙げられるものであろう。そのため、時代(政治)の要求に合わせてアレンジされ、利用されることも多かった。

だが、物語の骨子自体は世界に普遍のものであり、特殊誕生した英雄による冥界下りと再生を物語っている。

>>参考【瓜子姫】【三つの愛のオレンジ】【かぐや姫】【悪神退治】

小さ子英雄と旅の仲間

異常誕生した異能の男児が、個性的な仲間達の助けで(怪物を倒す/姫君を救い出す)という偉業を成し遂げ、王者になる話。

基本の桃太郎>>物語を読む

日本で現在一般的に知られている桃太郎。このタイプの世界の他の伝承と比べると、非常にシンプルである。

  1. <異常誕生>a.母が川で拾った桃の中から b.母が桃の実を食べて)男児が誕生。桃太郎と名付ける。
  2. <子供の異能性>桃太郎は、普通とはどこか違っている。
    1. 短期間で急成長
    2. 容姿が美しい
    3. 怪力の持ち主、文武に優れる
  3. <旅立ち>成長した桃太郎は、家を出る。
    1. 自主的に鬼ヶ島の鬼を倒しに
    2. 怪力・豪放なために周囲に(疎まれ/感心され)、鬼退治でもして来いと命じられて
    3. 鳥に教えられて
  4. <獣の仲間>犬、雉、猿が現れて黍団子と引き換えに仲間になる。
  5. <化物退治>鬼ヶ島に乗り込んで鬼を懲らしめる。
  6. <後段>鬼の宝を持ち帰り、(天子様にご褒美を貰って、)大金持ちになって両親を安楽にした。

桃太郎・寝太郎型>>物語を読む

桃太郎はひどい怠け者で、親に養わせる一方でまるで仕事をしない。やっと柴刈りに行ったが、木を丸ごと取ってきたために家を潰したり、親を殺してしまう。

岡山、鳥取など、中国・四国地方一帯に多く伝わっているタイプの桃太郎。

桃太郎が桃から生まれたことも、鬼退治をすることも、一切語られない場合がある。あくまで、異能ゆえの悲劇を笑うブラックジョークがメインであるようだ。

英雄の異能を現すモチーフの一つとして、

「長い間(a.全く働かない b.バカと呼ばれている c.灰にまみれて醜い d.揺り篭に寝ている、喋らない)状態だったが、ある日突然起き上がって、すばらしい能力を発揮して偉業を成し遂げる」

というものがあるが、通常はメインになる「偉業を成し遂げる」部分が希薄になり、「怠け者だった」という導入部を強調・発展させて語ったもののようだ。


桃太郎・猿蟹合戦型>>物語を読む

日本各地に伝わる「桃太郎」の中には、後半が「猿蟹合戦の後半」風になっているものが珍しくない。動物や無生物に助太刀を頼み、待ち伏せ・チームワークで鬼を倒す。


伝説になった桃太郎>>物語を読む

桃太郎は日本人に大変好まれている民話である故に、桃太郎を伝説・神話化して故郷を定めようとする動きが活発である。岡山県を筆頭に、我こそが桃太郎の郷土だと縁の史跡まで挙げている土地は少なくなく、一説によれば全国で二十数か所あり、単に物語中で「爺婆は実在する○○という地に住んでいて……桃太郎は○○という実在の場所に鬼退治に行き……」と語っているようなものまで含めると、三十数か所になるという。

ここでは、そのうちの幾つかを紹介してみる。 


力太郎>>物語を読む

(異常誕生した)怪力の男児が、(a.乱暴者なので b.大飯食らいなので c.ひどい怠け者なので)周囲に疎まれて家を出るが、旅の途中で個性的な仲間達に出会い、その助けで怪物を倒して、妻を得て王者になる話。

日本ではいかにも童話的に語られるものだが、中国や朝鮮半島(韓半島)、ベトナムなどでは、悪徳権力者や侵略者と戦って退ける、民族の英雄として語られることも多い。


熊の子ジャン>>物語を読む

[力太郎]に、「半分熊」という属性と、仲間の裏切りと冥界からの帰還のモチーフが加わったもの。

  1. <異常誕生>熊にさらわれた(娘/人妻)が、熊の子を産む。または、牝熊が男児を拾って育てる。
  2. <逃走>母子は(a.子の怪力で b.母の努力で)戸を開けて熊の巣から逃げ出し、追う熊から逃げ延びる。
    1. (娘の父/熊の子)が熊を殺す。あるいは、熊は自ら死ぬ。
  3. <子供の異能性>熊の子は、普通とはどこか違っている。
    1. 異常な怪力〜簡単に周囲の者を傷つけ殺し、物を破壊してしまう
    2. 異常な食欲
    3. 毛深い
    4. 勉強が苦手で、学校には馴染めない
  4. <旅立ち>周囲に疎まれ、鉄の杖を持って旅立つ
    1. 親に買ってもらう
    2. 鍛冶屋の見習いになり、自ら作る。(鍛治の道具の破壊)
  5. <旅の仲間>旅の途中で二〜三人の怪力男と出会い、仲間になる。
  6. <化物退治1>魔法の家に住み着く。一人を留守番に残して外出するが、(冥王/山姥)が現れて留守番をこてんぱんにする。最後に留守番になった熊の子は逆に相手を伸す。
  7. <化物退治2>熊の子は竪穴を発見し、仲間にロープで底まで下ろしてもらう。地の底には一〜四人の姫がいて、それぞれ怪物に囚われている。熊の子は怪物を倒して姫たちを救う。
  8. <仲間の裏切り>仲間たちは熊の子を裏切り、穴の底に置き去りにして姫たちを連れ去る。
  9. <帰還>熊の子は援助者の力で地上に戻る。
  10. <後段>地上では仲間たちが偽の英雄として姫たちと結婚しようとしていたが、そこに熊の子が現れて本物の英雄の証拠を示す。仲間たちの処罰と熊の子の結婚。

力太郎・寝太郎型>>物語を読む

度を超えた怠け者、または十代の半ばを過ぎても(揺り篭から起きない/喋らない)問題児が、ある日突然立ち上がって異常な怪力で豪放な仕事をする。だが、力がありすぎる故に傲慢で無神経でもあり、雇い主に憎まれて危険な仕事に行かされる。

周囲の陰謀など全く意に介さないマイペースな主人公と、彼を殺したいほどに憎むが空回りする雇い主の対比が、半ば笑話的に描かれる。

「殺そうと難題を出す」→「死なずにあっさりクリア」→「更に憎んで次の難題を……」の繰り返しは、[旅の仲間]や[怪兄弟]にも近い。

[力太郎]や[熊の子ジャン]話型の前半部が拡大・独立化したものと思われる。

[桃太郎・寝太郎型]と同系。


二人兄弟〜竜退治型>>物語を読む

母が不思議な(食物/水)を摂取することにより産まれた双子の兄弟、または双子的な若者二人を主人公とする正統派のヒロイックファンタジー。「兄弟の絆」の肯定がメインテーマになっている点が特徴。

小さ子がお供の動物を連れて魔物退治の旅をする、という点でも[桃太郎]とよく共通している。

  1. <異常誕生>子供がないことを嘆く夫婦が、神秘的な方法で双子の男児を得る
    1. 神に祈る、恨み言を言う
    2. 神秘的食物(魚/果実/水/祝祭食物/聖獣の心臓)を経口摂取する
  2. <子供の異能性>生まれた子は、普通とはどこか違っている
    1. 短期間で急成長
    2. 容姿が(美しい/見分けが付かないほどそっくり)
    3. 怪力、武術や乗馬に優れる
  3. <旅立ち>双子は成人し、(a.武者修行のために b.継母的存在に憎まれて)家を出る
  4. <獣の仲間>a.双子の兄弟分の b.森で偶然出会った)数種の獣がお供として従う
  5. <生命の指標>双子は別れるが、(a.刀を幹に刺して b.泉を湧かせて c.木・花を植えて)、これに異常が起きたら自分が死んだと思ってくれ、と言い残す
  6. <竜退治>双子Aがある町に着くと、そこでは人々が悲しみに暮れている。王女を怪物の生贄に差し出さねばならぬからと言う。若者は怪物を倒す。
  7. <偽の英雄>怪物を倒すとAは立ち去る。"偽の英雄"が王女を脅して口止めし、怪物を倒した手柄を横取りして王女と結婚しようとする。結婚式の日にAは戻り、動物のお供を使いに立てて王女と連絡を取り、怪物殺しの証拠を示して偽者を排す。この条が10の後に入ることもある。
  8. <兄弟の絆>王女と結婚して王になったAは、(魔女/牝鹿)の策略にはまって石になる。生命の指標の変化によりそれを察知した双子Bが救援に駆けつける。
  9. <純潔の刀>Aの妻は兄弟の見分けが付かず、夫が戻ったと勘違いする。Bは二人の間に刀を置いて彼女に触れない。
  10. <兄弟の再会>Bは魔物を倒し、石になっていたAを救う。 (大抵はここでハッピーエンド。Bの結婚が語られることもある。)
  11. <誤解による悲劇>AはBが自分の妻を抱いたと思い、Bの首を切って殺すが、後に誤解だったと分かる。慙愧して、再生の霊草でBを蘇生させる。)
  12. <後段>それぞれが富んで幸せに暮らす

桃太郎と地獄の姫>>物語を読む

異常誕生した男児が(a.異界の姫を見初める b.魔物に奪われた姫を取り戻しに行く)。魔物の追撃をかわしながら、姫を連れて人間界に逃走する。

いわゆる「魔法使いの娘」タイプの話。「旅の仲間」の要素がない。

一寸法師>>物語を読む

子の無い夫婦が神に祈願して、豆粒か指のような小さな男児を得る。成長しても小人のままである。家を出て、策略を用いて長者の娘を嫁にする。何度も獣に呑まれ、吐き出される。夫婦で異界に行き、鬼に呑まれて吐き出されて、呪宝を得る。

一口に一寸法師と言っても、実は様々な物語のタイプがある。絵本でよく語られるタイプに慣れているとピンと来ないかもしれないが、一寸法師も[桃太郎]と同じ、「子の無い老夫婦が得た小さ子が、鬼ヶ島に鬼退治に行って宝を持ち帰る話」である。


川を流れる桃>>物語を読む

参考までに、果実から生まれて魔物退治する中国の英雄民話を紹介する。 


旅の仲間>>物語を読む

主人公に同行する、優れた力とユニークな個性を持つ素晴らしき仲間たち。主人公は彼らの助けを得て大きな冒険を成し遂げる。

[桃太郎][力太郎][熊の子ジャン]などと違うのは、主人公自身は突出した能力を持っていない、凡人だという点である。

怪兄弟>>物語を読む

異能(異形)の超人たちが、それぞれの個性を活かして大活躍する話。「兄弟」扱いになっていて、誰が主人公ということがなく、平等である。

「旅の仲間」から主人公を排し、仲間たちの個性と活躍の部分のみを抽出した「キャラクター紹介版」のような感じで、シンプルである。


獣の仲間>>物語を読む

複数種の獣がお供になって、主人公の冒険を助けてくれるモチーフ。話型は様々である。

桃太郎のあれこれ>>文章を読む

桃太郎に関する雑学あるいは考察?



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