桃太郎 |
[桃太郎]は日本で最も好まれた民話の一つであり、恐らくは第一に挙げられるものであろう。そのため、時代(政治)の要求に合わせてアレンジされ、利用されることも多かった。
だが、物語の骨子自体は世界に普遍のものであり、特殊誕生した英雄による冥界下りと再生を物語っている。
異常誕生した異能の男児が、個性的な仲間達の助けで(怪物を倒す/姫君を救い出す)という偉業を成し遂げ、王者になる話。
日本で現在一般的に知られている桃太郎。このタイプの世界の他の伝承と比べると、非常にシンプルである。
桃太郎はひどい怠け者で、親に養わせる一方でまるで仕事をしない。やっと柴刈りに行ったが、木を丸ごと取ってきたために家を潰したり、親を殺してしまう。
岡山、鳥取など、中国・四国地方一帯に多く伝わっているタイプの桃太郎。
桃太郎が桃から生まれたことも、鬼退治をすることも、一切語られない場合がある。あくまで、異能ゆえの悲劇を笑うブラックジョークがメインであるようだ。
英雄の異能を現すモチーフの一つとして、
「長い間(a.全く働かない b.バカと呼ばれている c.灰にまみれて醜い d.揺り篭に寝ている、喋らない)状態だったが、ある日突然起き上がって、すばらしい能力を発揮して偉業を成し遂げる」
というものがあるが、通常はメインになる「偉業を成し遂げる」部分が希薄になり、「怠け者だった」という導入部を強調・発展させて語ったもののようだ。
桃太郎は日本人に大変好まれている民話である故に、桃太郎を伝説・神話化して故郷を定めようとする動きが活発である。岡山県を筆頭に、我こそが桃太郎の郷土だと縁の史跡まで挙げている土地は少なくなく、一説によれば全国で二十数か所あり、単に物語中で「爺婆は実在する○○という地に住んでいて……桃太郎は○○という実在の場所に鬼退治に行き……」と語っているようなものまで含めると、三十数か所になるという。
ここでは、そのうちの幾つかを紹介してみる。
(異常誕生した)怪力の男児が、(a.乱暴者なので b.大飯食らいなので c.ひどい怠け者なので)周囲に疎まれて家を出るが、旅の途中で個性的な仲間達に出会い、その助けで怪物を倒して、妻を得て王者になる話。
日本ではいかにも童話的に語られるものだが、中国や朝鮮半島(韓半島)、ベトナムなどでは、悪徳権力者や侵略者と戦って退ける、民族の英雄として語られることも多い。
[力太郎]に、「半分熊」という属性と、仲間の裏切りと冥界からの帰還のモチーフが加わったもの。
度を超えた怠け者、または十代の半ばを過ぎても(揺り篭から起きない/喋らない)問題児が、ある日突然立ち上がって異常な怪力で豪放な仕事をする。だが、力がありすぎる故に傲慢で無神経でもあり、雇い主に憎まれて危険な仕事に行かされる。
周囲の陰謀など全く意に介さないマイペースな主人公と、彼を殺したいほどに憎むが空回りする雇い主の対比が、半ば笑話的に描かれる。
「殺そうと難題を出す」→「死なずにあっさりクリア」→「更に憎んで次の難題を……」の繰り返しは、[旅の仲間]や[怪兄弟]にも近い。
[力太郎]や[熊の子ジャン]話型の前半部が拡大・独立化したものと思われる。
[桃太郎・寝太郎型]と同系。
母が不思議な(食物/水)を摂取することにより産まれた双子の兄弟、または双子的な若者二人を主人公とする正統派のヒロイックファンタジー。「兄弟の絆」の肯定がメインテーマになっている点が特徴。
小さ子がお供の動物を連れて魔物退治の旅をする、という点でも[桃太郎]とよく共通している。
異常誕生した男児が(a.異界の姫を見初める b.魔物に奪われた姫を取り戻しに行く)。魔物の追撃をかわしながら、姫を連れて人間界に逃走する。
いわゆる「魔法使いの娘」タイプの話。「旅の仲間」の要素がない。
子の無い夫婦が神に祈願して、豆粒か指のような小さな男児を得る。成長しても小人のままである。家を出て、策略を用いて長者の娘を嫁にする。何度も獣に呑まれ、吐き出される。夫婦で異界に行き、鬼に呑まれて吐き出されて、呪宝を得る。
一口に一寸法師と言っても、実は様々な物語のタイプがある。絵本でよく語られるタイプに慣れているとピンと来ないかもしれないが、一寸法師も[桃太郎]と同じ、「子の無い老夫婦が得た小さ子が、鬼ヶ島に鬼退治に行って宝を持ち帰る話」である。
主人公に同行する、優れた力とユニークな個性を持つ素晴らしき仲間たち。主人公は彼らの助けを得て大きな冒険を成し遂げる。
[桃太郎][力太郎][熊の子ジャン]などと違うのは、主人公自身は突出した能力を持っていない、凡人だという点である。
異能(異形)の超人たちが、それぞれの個性を活かして大活躍する話。「兄弟」扱いになっていて、誰が主人公ということがなく、平等である。
「旅の仲間」から主人公を排し、仲間たちの個性と活躍の部分のみを抽出した「キャラクター紹介版」のような感じで、シンプルである。
桃太郎に関する雑学あるいは考察?