オレンジ生まれの娘  アルバニア

 昔、父母と息子の家族がいた。

 ある日、母親がオレンジを二キロ買って、戸棚の中に置いた。食事の時に戸棚から取って、どんどん食べているうちに、残りが二個になった。母親が行って、一つを取ろうとすると、大きい方が言った。

「やめて、私は取らないで!」

 そのオレンジは少しずつ大きくなって、女の子くらいの大きさになった。二年経つと、床をごろごろ転がりだした。随分大きくなって、学校へ通えるようになった。他の子より成績がよかった。毎日こうして転がっていた。

 ある日、王子がこのオレンジを見かけて、母の王妃に言った。

「あそこへ行ってあの子を嫁にもらうか、床に就いて死ぬかです」

 王妃は「あの人たちから、どうして私があれを取って来れるんです?」と言った。「あれは、あの人たちが食事の時に食べようと思って買ってきたものなんですよ」。

 王子は自分でオレンジの家に行って、オレンジを貰い受けてきた。

 こうして月日が経ち、オレンジは十五歳くらいになった。

 ところで、別の王の息子が結婚することになった。婚礼の宴が開かれ、王子と王妃は供を連れ、馬に乗って出かけていった。オレンジは留守番だった。

 皆が出かけると、オレンジは手早く仕事を済ませて、髪の毛を一本火にくべた。そして現れた一人の男に向かってこう言った。

「絹の赤い服を二着と、赤い馬を一頭出してちょうだい」

 娘がオレンジの中から出てきて、赤い服を着て、もう一着をカバンに入れると、赤い馬に乗った。

首は鉄、足はウサギ足の者よ!

では行こうか、山を越えて!

 娘は仕度中の花嫁のところに行くと、カバンから赤い服を出して花嫁に着せ、花嫁の隣に座った。するとオレンジ娘の方がよほど美しいのがよく判った。

 王妃はそれを見て、

「なんて奇麗な娘だろう! でも、お前はオレンジを愛してしまった。とても他から嫁をもらえそうにないね」

 と王子に言って、気絶してしまった。オレンジ娘は髪の毛を一本火にくべて王妃を正気づかせると、やって来た赤い馬に乗ってすばやく立ち去った。

 家に帰ると、オレンジ娘は元通り皮を着て、でかいオレンジになってごろごろしていた。王妃がまた王子に言った。

「なんて奇麗な娘だったろう! でも、お前はオレンジを愛してしまった。とても他から嫁をもらえそうにないね」

 王子は応えた。

「大丈夫、お母さん、大丈夫だよ!」

 あくる日になると、今度は三日続けの大掛かりな婚礼があって、王子と王妃は供やお祝いの品を従えて出かけていった。オレンジは今度も家に残されたが、またみんなの後を追った。緑の馬に乗って、緑の服を二着揃えて。仕度中の花嫁のところに行くと、カバンから緑の服を出して花嫁に着せ、花嫁の隣に座った。すると、やっぱりオレンジ娘の方が美しいのがよく判った。

 王妃はそれを見て、また気を失った。オレンジ娘は髪の毛を一本燃やして王妃を正気づかせると、家に戻ってオレンジの中に入った。王妃は家に帰ると、また同じことを息子に言った。

「なんて奇麗な娘だったろう! でも、お前はオレンジを愛してしまった。とても他から嫁をもらえそうにないね」

 王子はまた応えた。

「大丈夫、お母さん、大丈夫だよ!」

 あくる日には、王子は温泉に出かけて行った。オレンジ娘は家事をみんな済ませると、皮を脱いで庭の泉で水浴びをした。ところが、王子は出かけたふりをして、隠れてそれを見ていたのである。

 水浴びを済ませると、オレンジ娘はひとりごちた。

「これからちょっと一眠りしてこようかしら。皮は着ないで、後で着るわ」

 まさか王子が隠れているとは知らないオレンジ娘は、オレンジの皮を台所に置きっぱなしにして、まっすぐに王子の寝室に行った。その間に、王子は何をしただろうか? 脱ぎ捨ててあった皮を取って、焼いてしまった。娘が寝ていると、オレンジの焼ける匂いが鼻を刺激した。下に駆け下りてみると、オレンジが焼けているところだ。

「まあ、なんてことをしてくれたんです! どうして私のあれを焼いちゃったんです?」

 けれど、王子はきっぱりと言った。

「これから結婚式を挙げよう。もうオレンジの中で窮屈にしている必要はないよ!」

 そこへ王と王妃も来て、すぐに結婚式になった。



参考文献
『世界の民話 アルバニア・クロアチア』 小沢俊夫/飯豊道男編訳 株式会社ぎょうせい 1978.

※果実から生まれる小さ子の話と、獣が皮を脱いで人間と結婚する異類婚姻譚が融合している。

 果実を入手して戸棚に入れ、後で それを食べようと取り出すと、中から声がする……という導入は、【瓜子姫】や【桃太郎】と同じである。

 

 大好きな話。だって……何だか楽しくないだろうか? おっきなオレンジがごろごろ転がって学校に通ったり家事したりしてるのって。

 しかし、物語は色んな要素を詰め込みすぎていささか煩雑かつ破綻している。最初にオレンジを買った一家と後で引き取る王家はどうも同じ家族なのではないかと思われるし。

 オレンジ娘が呼ばれてもないのに結婚式に押し掛け、花嫁に自分と同じ服を着せてダシにするという、マナー違反バリバリのものすごいことをやっているが、これも本来はオレンジ娘の夫たる王子が別の花嫁と結婚しようとし、オレンジ娘が正体を現して《花嫁比べ》を行った、というエピソードだったはずだ。

 ところで、とても気になることがある。「髪の毛を一本火にくべ、現れた一人の男に頼んだ。」って…。皮をまだ脱いでいないのに、どの髪の毛を燃したんだろう…?



参考--> 「たまご息子




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