>>参考 [牛の養い子][牛とシンデレラ〜母親的な牝牛]「金のハゼ」「予言する牛とその主人

 

一つ目、二つ目、三つ目  ドイツ 『グリム童話』(KHM130)

 母親と三人の娘がいた。ところで、一番上の姉さんは一つ目で、一番下の妹は三つ目で、真ん中の娘だけが二つ目だった。それで、平凡な彼女は母親と姉妹たちに苛められていた。

 二つ目は家畜の番をさせられて、お腹をすかせて野山で山羊を追っていた。あんまりお腹がすいたのでしくしく泣き出して、涙で川が二筋出来るほどだった。

「何故 泣いてるの?」

 顔を上げると、綺麗な女の人がいた。占い師らしかった。二つ目が訳を話すと、女の人は「いいことを教えてあげる」と言った。

「あなたの山羊に《子山羊、メエメエ トレイ 出てこい》と言いさえすれば、ご馳走がのったきれいなトレイが出てくるから、好きなだけ食べられる。トレイがいらなくなったら、《子山羊 メエメエ トレイ 引っこめ》と言えば、また消えてしまいますよ」

 そう言い終わると、占い師はどこかへ行ってしまった。

 二つ目が試してみると、白い布のかかったトレイが出てきて、ナイフとフォークと銀のスプーンが付いていて、それは見事なあつあつのご馳走だった。二つ目は満足して、それから姉妹たちが出してくれる残り物のご飯には目もくれなくなった。

 さすがに奇妙なことだと家族たちは感づいて、秘密を探ろうと考えた。

 二つ目がいつものように山羊を追って出かけようとすると、一つ目が付いてきた。

「私、あんたがちゃんと山羊の世話をしてるのか見たいのよ」

 もちろん、二つ目は一つ目の企みを見抜いていた。それで山羊をくさむらの中に追いやると、自分は一つ目と並んで座って、魔法の歌を唄い始めた。一つ目はうとうとして、一つだけの目を閉じて眠ってしまった。それで、二つ目は山羊に唱えてトレイを出して、存分に味わうことが出来た。それからトレイをしまって、一つ目を起こして、一緒に家に帰った。そしてやっぱり、家で出されたご飯にはまるで手をつけなかった。

「どうしてご飯を食べないんだい」

「私、山羊の番をしている時にうっかり眠ってしまったの。だからお腹がすいていないのよ」

 二つ目はこう言って誤魔化した。

 翌日は、三つ目が山羊の番に付いてきた。二つ目は同じように歌を唄って三つ目を眠らせようとしたけれど、目が三つもあったので、最後の目がしっかり起きて、一部始終を見ていたのだ。

 家に帰ると、三つ目は「あの高慢ちきがどんな方法で飲み食いしていたか、みんな見たわよ」と母親に告げた。「自分だけでそんなご馳走を食べるなんて!」母親は怒って、牛刀で山羊の心臓を一突きして殺してしまった。

 二つ目がしょんぼりして外で泣いていると、またあの女占い師がやってきて「どうしたの」と尋ねた。

「二つ目ちゃん、いいことを教えてあげる。姉さんに頼んで、殺した山羊のはらわたをもらって、家の前に埋めなさい。そうすれば、運がむいて来ますよ」

 それで二つ目は家に帰って、「ねえ、私にも、私の山羊の何かをちょうだい。いいところを下さいなんて言わないから、せめてはらわたでも」と頼んだ。「そんなものでいいんなら、あげるわよ」家族たちは笑って、山羊のはらわたをくれた。夕方、二つ目はそれをこっそり、家の戸口に埋めた。

 翌朝、みんなが目を覚まして外へ出ようとすると、戸口にそれは綺麗な不思議な木が生えていて驚いた。なにしろその葉は銀で、その間に金のりんごが実っているのだ。広い世界に、おそらくこれより綺麗な値打ちのあるものはないくらいだった。けれど、どうして この木が夜の内にこんなところに生えたのか、みんなわけがわからなかった。ただ二つ目だけは、ちょうど埋めた場所だったので、それが山羊のはらわたから生えたのだと気がついた。

「一つ目や、お前 登っていって、木の実をもいでおいで」

 母親に言われて一つ目が木に登り、黄金のりんごを一つ掴もうとしたけれど、枝がぴんと手からはねてしまった。何べんやってみても同じことだった。

「三つ目や、お前が登ってごらん。お前なら一つ目より、辺りがよく見えるだろう」

 ところが、三つ目も上手くやれなかった。いくらやっても、黄金のりんごは後ずさるばかりだ。しまいにかんしゃくを起こして母親が自分で登って行ったけれど、やっぱり少しもりんごが掴めず、手を伸ばしてばたばたするばかりだった。そして二つ目が言った。

「私がやってみるわ。きっと上手くいくわよ」

 姉妹は「お前なんか二つ目玉でいったい何をするつもりさ」と大声で言った。

 ところが、二つ目が登って行くと、黄金のりんごは離れるどころか、ひとりでに二つ目の手の中へ入ってきて、エプロンいっぱい取って下りて来た。

 母親はその実を奪いとって、家族はなおさら二つ目を苛めるようになった。妬ましくてたまらなかったのだ。

 

 それからしばらく経ったある日、みんなが木の所にいると、向こうから若い騎士がやって来るのが見えた。

「急いで隠れるのよ、二つ目」と姉妹がどなった。「お前みたいなのがいると、あたしたちが恥をかくからね!」

 そう言って、ちょうど木の側にあった空樽を二つ目にかぶせて、彼女のもいだ黄金のりんごも一緒におしこんでしまった。

 さて、その騎士はとても立派な身なりの人で、金と銀の木を見ると立ち止まって感心して、二人の姉妹に向かって言った。

「この素晴らしい木は誰のです? 一枝いただければ、お礼に何でもお望みのものをさしあげるのだが」

 それで一つ目と三つ目は「この木はあたしたちのものです」と返事して、一枝折ろうと何度も何度も試したけれど、やはりどうしても上手くいかなかった。

「あなたたちの木だというのに、一枝も折れないなんて、まことに不思議だ」

 姉妹はそれでもやっぱり、この木はあたしたちのものですと言い張った。

 ところが、そう言っている間に、どこからか金のりんごがころころと騎士の足元に転がり出した。本当のことを言わない姉妹に腹を立てて、二つ目が樽の下から転がしたのだ。騎士は驚いて、これはどこから出て来たのだと訊いた。

「実は、私たちにはもう一人姉妹がおります。けれど、あれには他の下品な人間同様、目が二つしかありませんから、お目通りさせるわけには参りません」

 一つ目と三つ目はそう答えたが、騎士はぜひ逢いたいと言って、「二つ目ちゃん、出ておいで」と呼んだ。二つ目が ほっとして樽の下から出てくると、騎士は彼女の美しさに驚いた。

「二つ目ちゃん、あなたならきっと、あの木の枝を一枝折れるだろう」

「はい。あの木は私のものですから」

 そして登って行って、わけなく銀の葉と黄金の実のついた枝を一枝折って、騎士にさし出した。騎士は言った。

「二つ目ちゃん、お礼に何をあげようか」

「あの」と二つ目は答えた。

「朝早くから夜おそくまで、私は飢え乾き、苦労しております。それで あなたさまのお伴をさせていただいて、ここからお助け下さいましたなら幸せと存じます」

 騎士は二つ目を自分の馬に乗せて、父の城へ連れて帰った。城へ帰ってから、きれいな着物や結構な食べ物、飲み物を存分に与えて養って、その後に、めでたく祝言をあげた。

 

 残された姉妹はとても悔しがり、うらやましがった。そして考えた。

「この不思議な木は、とにかく残っているのだもの。あたしたちに木の実は取れないけど、人が木の前に立ち止まって、あたしたちのところへ来て、あの木を誉めたてるわ。あたしたちにだって、きっと運が向いてくる!」

 ところが、あくる朝になると木は消えていて、二人の願いも水の泡となってしまった。木はどこに行ったかといえば、お城の二つ目の部屋の前だった。木の方が彼女に付いて行ったのだ。二つ目は大喜びだった。

 

 二つ目は長い間、何不足なく暮した。ある時、二人のみすぼらしい女が城へやって来て、何かおめぐみ下さいと言った。二つ目が二人の顔を見ると、姉妹の一つ目と三つ目だった。二人はすっかり落ちぶれ、乞食をして暮らしていたのだ。二つ目は姉妹を歓迎し、親切に世話をした。それで二人は、若い時分に姉妹に意地悪したことを、しんそこから後悔した。



参考文献
『完訳グリム童話集(全五巻)』 J.グリム+W.グリム著、金田鬼一 訳 岩波文庫 1979.
『完訳グリム童話(全三巻)』 グリム兄弟著、関 敬吾・川端 豊彦訳 角川文庫

※姉妹が一つ目と三つ目の異形で、かえってまともな二つ目が苛められているのにはぎょっとするが、中国少数民族の創世神話に、現在の横並びの二つ目人間の世の前には、一つ目人間や縦並びの二つ目人間の世があったというものもあるので、何かそういう古代めいたモチーフの片鱗なのかもしれない。そうした神話では人間と動物が実の兄弟として語られることが少なくなく、人間は最も年少で立場の弱い者として描かれるのだ。

 

二つ目  中国北部

 三人兄弟があり、長兄は一つ目、次男は二つ目、三男は三つ目だった。父は早くに死に、母が三人の息子を女手一つで育てたが、どういうわけか次男には辛く当たった。いつも腐れかかった冷たいご飯を与え、冬にも薄い着物しか着せない。しかも辛い仕事ばかりさせていた。

 彼は毎日牛を追って草原へ行き、夕方になると帰ったが、何かと難癖をつけられて夕飯をもらえないことも多かった。母は他の二人の息子に二つ目の後をつけさせ、二人は「あいつは牛の世話もせずに遊んでばかりいる」と報告して、ひどくぶたれた。

 そんなある日、空腹に耐えかねた二つ目は、とうとう牛を殺して食べてしまった。残った頭と尾を持って東の丘へ行き、頭を半分土に埋めて

牛の頭よ、牛の頭よ
母さんが来たら三度鳴け

と言い、西の丘へ行くと尾を半分だけ埋めて

牛の尾よ、牛の尾よ
母さんが来たら三度振れ

 と言った。そして家に駆け戻ると、牛が気が狂ったように暴れて丘の中に潜ってしまい、今は東の丘に頭が、西の丘に尾が出ているだけだと、いかにも困惑したように言った。母が行ってみると、東の丘では牛の頭がモーモーと三度鳴き、西の丘では尾が三度振られた。母は何を言うことも出来ずに帰った。

 次の日から二つ目はあひるの番をさせられたが、やはり空腹に耐えられず、一羽また一羽と殺して食べていって、ついに一羽もいなくなってしまった。あひる小屋の前で明日からどうしようと考えていた時、頭の上を一群のガンが飛び渡って行った。

ガンよ、ガンよ もう暗い。
ウチのアヒル小屋で一晩休んで
明日になったら飛んでいけ

 ガンの群れはあひる小屋に入った。

 その晩、母親が「明日はあひる小屋のチェックをするよ。一羽でも減っていたり痩せていたら、ただじゃおかないよ」と怖い顔で言ったが、二つ目は何の心配もなくぐっすり眠った。

 翌朝、母があひる小屋の戸を開けようとした時、彼は言った。

「母さん、今開けてはだめだよ。今日はあひるの誕生会をやっている。開けたら、怒ってみんな飛んで逃げてしまうよ」
「何言ってるんだい、この子は。あひるが空を飛ぶわけないじゃないの」

 母が戸を開けると、ガンたちが一斉に飛び出て、飛び去って行ってしまった。

 

 次に、母は二つ目に羊の番をさせた。そして羊の数が減ったり痩せたりしないか、厳重に見張っていた。

 二つ目は朝早くから羊を連れて山野を歩き回り、空腹と疲れから岩にもたれてうとうとと眠った。目を覚ますと、羊が一頭足りない。山中を探しまわったが見つからなかった。辺りはすっかり暗くなり、思わず二つ目は泣き出したが、その時、羊の尾が地面から出ているのを見つけて、走りよって引き出そうとした。ところが、逆に地面の中に引きこまれた。

 羊に引きこまれたのは地下の洞窟だった。先に進んで行くとどんどん洞窟は広くなり、タイルと大理石で出来た立派な宮殿に辿りついた。驚いて見ていると、白いひげの老人が杖をついて出てきて、二つ目に言った。

「お前が羊飼いの少年か。来るのを待っておったんじゃ。お前にこのビンをやるが、何かほしいものがあったら、それを唱えながらビンを右へ回せ。いらなくなったら、いらないと言いながら左へ回すのだ。さあ、羊を連れて家へお戻り」

 二つ目が家に帰ると、母が怖い顔をして待ち構えていた。彼は母にひどくぶたれ、夕飯を抜かれた。ベッドに入ったが、空腹で眠れない。その時、老人にもらった小さなビンのことを思い出した。

 まずはランプを出し、続いて十皿十鉢の温かいご馳走とご飯を出して、たらふく食べた。ところが、眠っていた母が美味しい料理の匂いで目を覚まして、物陰からその様子をすっかり見ていた。二つ目が眠ってしまうと、母は忍び込んでビンを盗んだ。母は一つ目と三つ目と一緒に食べようと思い、ご飯十皿と八鉢の肉と野菜料理を頼んだ。しかし、ビンを回す方向を間違えてしまい、あっという間に狭いビンの中に吸い込まれた。

 母は息も出来なくなって助けを呼んだ。一つ目と三つ目が駆けつけたが、異常事態にうろたえるばかりでどうにもできなかった。ビンの中の母が言った。

「私を助けるんだったら、早く二つ目を連れてきておくれ」

 二つ目はぐっすり眠っていたが、話を聞き終わるより早く走ってきた。母はもう窒息しかかっている。

 二つ目はビンを手に取ると、「急いで僕の母さんを出してくれ」と言ってビンを右に回した。ビンは窓を突き破って中庭の真ん中へ飛んでいき、その泥の中に潜って消えてしまったが、母は無事にそこに立っていた。

 数日して、ビンの消えた場所に金の枝と葉の不思議な大木が生えた。二つ目がその葉や枝を取ると金のままだったが、母や兄弟たちが取ると泥に変わった。それ以来、母は二つ目を虐待するのを止め、三人の息子を平等に愛して、みなで幸福に暮らすようになった。


参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.

※珍しく家庭内ハッピーエンド。

 この他、中国には「一つ目、二つ目、三つ目」と細部までよく似た「金銀の木」という類話があるそうだ。 

 

 二つ目は歌を唄い、見張りにきた一つ目や三つ目を眠らせる。このエピソードは、ギリシア神話のイオの物語を思い出させる。

 美しい巫女のイオとゼウスが逢瀬していたところに、ゼウスの妻のヘラがやってきた。ゼウスはヘラを恐れてイオを白い牝牛に変えて誤魔化そうとした。ヘラは先刻承知していたが、そ知らぬ顔をしてゼウスに願って牝牛を貰い受け、百眼の怪物アルゴスに見張りをさせた。この怪物の目は常にどれかが目覚めており、24時間休むことがないのだった。そこでゼウスは奸智に長けた息子、ヘルメスを派遣し、ヘルメスは笛を吹いて(もしくは魔法の杖で)アルゴスの目を全て眠らせ、鎌で首を切り落としてイオを救い出した。

(この後、イオはヘラの怒りにより牝牛の姿のまま世界をさすらい、最後に人間に戻ってエジプトの女王になる。彼女は「月」に擬せられ、エジプトの女神イシスと同一視されるが、実際にはヘラ自身の分身だったようだ。ヘラもまた牝牛に擬せられる白い顔の女神(月)だからである。なお、一説によればイオを牝牛に変えたのはヘラ自身である。)

 

 持ち主にだけ自動的に枝を下げる果樹、というモチーフは、日本の【瓜子姫】の岡山県の類話にも見られる。天邪鬼に殺された瓜子姫が埋められた床下から梨の木が生え、遺された両親の「上がれ、下がれ」の声で自在に枝を上げ下げしたので評判になり、殿様が見物に来て褒美をもらう、というもの。

 果実を足元に転がして注意を引くモチーフは「カトリンが胡桃をぱちんと割った話」にも見られる。ギリシア神話の俊足の乙女アタランテの物語のように、物を投げて注意を引いた隙に逃げる、呪的逃走モチーフの変形だろう。



白い子羊  フランス

 お妃を亡くした王様に、二人の娘がいました。一人は器量良しのマルグリット、もう一人は不器量なルイーズ。マルグリットは父親がいつまでも一人でいるのを気の毒がって、しきりに再婚を勧めましたが、ルイーズは「新しいお母さんなんて!」と嫌がります。そのうちとうとう、王様は新しいお妃を迎えましたが、お妃はあまり美しい人ではなく、自分に似た気質のルイーズをとても可愛がって、綺麗で良い子のマルグリットを疎んで苛めるのでした。

 マルグリットは本当に良く出来た娘だったので、どんなに苛められても泣き言や恨み言を言ったりめそめそしたりすることはありません。どうしても辛い時は荒地に行き、そこで聖歌を唄うのです。荒地に住む山羊の群れのうち、一頭の子羊がこの歌声を殊のほか気にいり、マルグリットによくなつくのでした。

 そんなある日、この地方の領主が荒地を通りかかり、歌声に感動して、マルグリットに結婚を申し込みました。ですが、マルグリットは「分不相応です。わたしなど」と断るのでした。失意のままに領主が去ると、マルグリットは美しい女の人がやってくるのを見ました。子羊が、そのしもべのように彼女の足を舐めました。

 女の人は、もうじきこの子羊はあなたの継母に殺されるでしょう、と言いました。ですが、私がその埋め合わせをします。子羊が殺されたら、あなたは子羊の頭と四本の足をもらいうけておきなさい、と。

 翌日、大宴会が開かれて、子羊は本当に殺され、料理されて食べられてしまいました。マルグリットが頭と四本の足を貰い受けて荒地に行くと、またあの女の人が現れて、頭を荒地の中央に、足を四隅に埋めなさいと命じるのでした。すると、頭を埋めたところからは泉が湧いて、足を埋めたところからは見事なりんごと梨の木が二本ずつ生えました。荒地は見事な庭園に変わったのです。そして、女の人は消えていました。

 マルグリットは泉の水を飲もうと思いました。彼女はみっともなく這いつくばって水を飲む必要がありませんでした。泉の側には石の台があり、台には銀の鎖のついた銀のコップがあったからです。まず一杯水を汲んで飲むと、素晴らしく美味しい水でした。それで二杯目を汲むと、それは上等のぶどう酒に変わっていました。りんごや梨の木には実がたわわに実り、マルグリットが手を伸ばすと、もぎやすいように勝手に枝が下がるのでした。

 それから、マルグリットはお城へ帰りませんでした。心配した王様が、娘の様子を見に来ました。マルグリットに庭園を案内されて、父王は驚きました。泉の水を汲み、りんごと梨は父王が取ろうとすると枝が上がるので、マルグリットが手ずからもいで与えました。父王はしまいにぶどう酒で酔っ払い、上気分でフラフラしながら帰っていきました。お妃はその有様を見て憤慨し、自分も様子を見に来ましたが、同じようにいい気分でフラフラと帰ることになりました。

 一方、かつてマルグリットに結婚を断られた領主は、諦めきれずにまた荒地にやってきていました。すると、以前にはなかった立派な庭園があるので、驚いて訪ねました。マルグリットは彼をもてなし、両親にしたように庭園を案内しました。領主は再び結婚を申し込みました。その熱意に動かされて、ついにマルグリットは承諾したのでした。

 領主の城で、盛大な披露宴が催されました。ルイーズは、まだ自分には結婚相手がいないのでカリカリしています。招待された客の一人が言いました。

「こんな素晴らしいお城に住むのは、あの荒地にいるよりずっといいでしょうね」

 けれど、マルグリットは首を横に振りました。

「いいえ。あの荒地に羊といるのはとても楽しいことでした。ここにわたしの泉や木があればいいのに」

 たちまち、城の庭にあの泉と木が現れました。その側には、あの女性が太陽のように白く輝く服を着て微笑んでいました。

「神の国で、また会いましょう」

 そう言うと、女の人は消えました。その場にいた人々は彼女が聖母マリア様だと悟ったのでした。



参考文献
『世界の伝説(全十巻)』 株式会社ぎょうせい

※かなりキリスト教化されている。

 マルグリットが結婚をすぐに承諾しないのは、女性はつつしみを持てという意味だろうか。継母も特に表だってひどいことはしないし、色んなことのトゲが削られ、あいまいにぼかされている感じで、物語としてあまり良くない。ただ、あまり器量の良くない継母が、同じように血の繋がらないルイーズは可愛がるのに、恐らく前妻によく似ているのだろうマルグリットを苛めるのがいかにも人間くさく、そこは印象に残る。

 なお、この話には「死体から水が湧く」という観念が出ている。ギリシアのレルネの沼は冥界に通じるとして有名だが、この沼の水はダナオスの娘たちに殺された沢山の婿の首から湧き出しているという。




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