>>参考 [一つ目、二つ目、三つ目]「奴隷の娘ヨンシー」「コンジ・パッジ

 

アロエの木  エジプト

 兄妹の子供をもった女の人がおりましたが、この人はまた、兄妹の継子をも持っていました。この人は邪悪な性質だったので、自分の子供は可愛がるのに、継子の兄妹には食事もろくにさせませんでした。

 お腹をすかせた兄妹は、飼っていた牝牛を可愛がって、自分たちに与えられたほんの少しの食事を分け与えてはこう言いました。

「僕らのお母さんが親切だったように、僕らに親切にしておくれ」

 すると、ある日 牝牛が口をきいて、兄妹に食べ物を出してくれたのです。それ以来、兄妹はお腹をすかせることはなくなりました。彼らのお母さんが生きていたときと同じように。

 継母は本当に邪悪だったので、継子たちが元気になったのを憎みました。そこで、自分の二人の子供たちに秘密を探るように言いました。

 二人の子供のうちの兄は、牝牛の秘密を知りましたが、継兄妹たちに牝牛の食べ物を分けてもらったので、秘密を漏らしませんでした。次に妹が秘密を知りましたが、彼女は母親によく似た邪悪な性質だったようです。彼女は口止め料にお菓子を分けてもらって、けれどそれでわざと服を汚し、母親に秘密を告げたのです。

 継母は仮病を使い、愛人を医者に仕立てて、継子たちの養っている牝牛を食べなければ治らない、と夫に言いました。夫は、妻に愛人がいることも、これほどに邪悪な性質であることも知りませんでした。あるいは、知っていながらも従っていたのかもしれません。牝牛はすぐに殺され、継母のお腹に収まりました。

 牝牛が殺されて、継子の兄妹は泣きました。継母は、食べ残しの骨だけを子供たちに返しました。継子たちは骨を焼き、灰を壺に入れました。せめて身近に置いておきたかったのかもしれません。

 ところが、骨壺からアロエの木が生えてきたのです。

 アロエの木は大きくなり、沢山の実がなりました。子供たちはその実を食べ、汁を飲んで、もう飢えることはなくなったのです。そして神様を讃え、幸福に暮らしたのでした。



参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.

※この話を読んだ時の感想。……アロエって木になるんだったのか。

 

 死者が植物に転生して遺族に幸を授けるモチーフは、私たち日本人には「花咲か爺」で馴染みが深い。それらでは神霊はまず獣の姿で現れ、殺されて植物になるという段階を踏むが、この[牛の養い子]は死んだ母親の墓からすぐに植物が生えて遺児に食事を与え養う筋立てで、グリム版シンデレラを始めとした多くのシンデレラ話群にも、その形のモチーフが含まれている。

 スウェーデンのアンナ・ビルイッタ・ルースは『シンデレラ・サイクル』において、この型の物語をシンデレラ譚の原型の一つとみなしている。近東で発生し、それが西欧に伝わって、幸せな結婚という結末を付け足した「一つ目、二つ目、三つ目」系の型に変化したのだろうと。



参考--> 「継子たち



牝牛と三人の娘  インドネシア

 ある山の大きな岩穴をねぐらにする大きな牝牛が、美しい三人の人間の娘を産んだ。牝牛は最初は草や葉を与えるが、子供達は食べない。そこで果物を探して与えた。苦労して娘達を育てたのである。

 ある日のこと、牝牛は出かける間際に言い聞かせた。私が帰ってきて「オパング姫や、ダワンゴ姫や、タリンガエ・アテイ姫や、戸を開けておくれ」と呼ぶまでは戸を開けてはなりませんよ、と。しかし、それを聞いていた三人の男達がいて、だまして戸を開けさせ、それぞれ一人ずつ家に連れ帰って妻にしてしまった。そして村人達には他の村から連れてきたと説明した。

 帰った牝牛は娘達がいないのを知って動転して岩にぶつかり、一度は倒れたが、やがて娘達を捜しに出かけていく。そして見つけるが、金持ちの妻となった一番上の娘は(米を乾かしていたが)牝牛を知らないと言った上、竹の棒で打ちのめした。中くらいの金持ちの妻となっていた中の娘も、米搗き杵で牝牛をぶって、牝牛の産んだ人間なんて見たことがないと言った。貧乏人に嫁いだ末の娘は稲刈りをしていたが、泣いて母を迎えて、家へ連れて行き、夫も食べ物や薬を出してくれた。

 末娘は姉達の許へ行って、母が来ていること、病気が重いことを告げたが、姉達はそんなことをしたら牝牛の子だと認めることになって世間の笑いものになる、と見舞いにも来ない。やがて牝牛は死んだが、姉達はやはり弔問には来なかった。

 牝牛は、自分が死んだら目をえぐり取って家の前に埋めてくれ、と遺言しており、その通りにすると一週間後に珍しい、きれいな木が生えた。葉は金や布で、果実は高価な瀬戸物の皿や鉢だった。末娘夫婦は裕福になった。噂を聞いて姉達が訪れ、葉や実を取っていったが、家に帰ると只の石や葉になってしまった。人々は自分の生まれは隠さないようにしようと言い合った。



参考文献
『世界むかし話集〈上、下〉』 山室静編著 社会思想社 1977.

※(特定の文言で呼ぶまでは)戸を開けてはならないと言い含めて親が出掛けた留守に、それを聞いていた悪者が親に化けて戸を開けさせてしまうエピソードは「狼と七匹の子ヤギ」や「金のきゅうり」など、【赤ずきんちゃん】や【瓜子姫】話群と共通しているが、戸を開けて《食べられて》しまい、《現世に生まれ変わった》娘たちが、今度は神霊(獣)たる母親を否定するようになるというのは面白い。




inserted by FC2 system