ズーニー族のシンデレラ  アメリカ ズーニー族

 いつも一人ぼっちで七面鳥の番をしている娘がいた。《聖なる鳥の踊り》の祭の日も、出かけることが出来ずに泣いていた。すると突然七面鳥が口をきいてこう言った。

「あなたは本当に私たちの母親のように優しい。お祭りに行って楽しんでらっしゃい。ただ、太陽が沈むまでには帰ってこなければなりませんよ」

 七面鳥たちはみんなで娘を美しく飾ってくれ、娘は感謝しながら祭へ出かけた。若者達と思いきり楽しく踊り、時を忘れ、そうして気がつけば日は暮れていた。娘は大急ぎで家に走ったが、時すでに遅く、七面鳥はみんな空に飛び立ち、娘の衣装は元のボロに戻ってしまった。

※話はここで終わっている。《魔法使いの言い付けにそむいて失敗したシンデレラ》という感じ。
このシンデレラの項の中で扱った例話には他にないが、シンデレラが七面鳥の番の娘である話は少なくない。フランスの民話にもそういうのがあった。

参考--> 「サンドリヨン、またはガラスの小さな靴」「灰かぶり



貧しい母親と三人の娘  南アメリカ・インディオ

 貧しい原住民の母親が美しい娘を三人持っていた。三か月の飢えの月を乗り切るため、まず上の娘が働きに行った。歩き疲れて茂みの無い場所で日向ぼっこしていると、高価な馬具を着けた貴人が通りかかり、何故太陽に背を向けているのか、と尋ねた。「疲れているのです」と答え、仕事を探していることを話すと、「私の家で洗濯をしないか」と言われ、そこで働くことになった。馬に乗せて連れていってくれた。一か月後、銀貨と鞭とどちらを選ぶかと言われたので銀貨を選び、娘は家に帰った。

 銀貨を見て、中の娘も働きに出かけた。日向で脇腹を上にして寝ていると、馬に乗った貴人が現われて訳を尋ねた。「このほうが休まるのです」と答え、その家で料理人として働き、一か月後にはやはり銀貨を選んで家に帰った。

 最後に末娘も出かけたが、姉達は「甘えん坊に何が出来るの」と馬鹿にして笑った。それでも出かけて、疲れて日向に眠ったが、頭は四角い布で覆った。目覚めると貴人が立っていて、太陽に恥じることでもあるのか、と尋ねた。「それなら私は岩陰に隠れたでしょう」と答え、「姉さん達のように母に装身具を買ってあげたいから働きたいんです」と言った。動物の世話と家の掃除の仕事をした。一か月後、鞭と銀貨を出されたとき、末娘は鞭を選んだ。それは欲しいものがなんでも出てくる魔法の鞭だった。末娘はそれで母親に銀の装身具を贈ったが、姉達は密かに悪口を言った。

 部族の大きな祭りの日、姉達は「お前は若すぎるし、馬鹿で、装身具をみんな母さんにやってしまって身なりが整わないもの」と末娘に留守を言いつけ、母親と共に出かけていった。末娘は埋めておいた鞭を掘り出すと、銀の装身具と服と、銀の馬具を着けた馬と立派な身なりの二人の小姓を出して祭りに向かった。姉達はそれを見て妬み、馬と衣装を奪った。娘が裸同然で藪の陰にしゃがんでいると、例の貴人の息子が通りかかって娘を見つけた。彼はかねてから彼女を見染めていたので、父親の同意を得て彼女と結婚した。

 貴人は、この国を治める国王だった。娘は早速一番美しい馬と自分だけの小姓と侍女を四人ずつ貰い、母親だけを屋敷に迎え取った。



参考文献
『世界むかし話集〈上、下〉』 山室静編著 社会思想社 1977.

※前半部は通常はシンデレラ譚に使用されないモチーフで、後半もシンデレラ譚だとハッキリは言い難い。だが読了するとシンデレラ譚に感じられる話。母親が亡くなっていない点が最大の相違点である。



小さなやけど娘  アメリカ ミクマック族

 昔、湖のほとりに大きなインディアンの村があった。この村に妻を亡くした男がおり、三人の娘を持っていた。

 末娘は虚弱で体が小さく、よく病気になっていたので、姉たちはこの妹を軽んじた。二番目の姉はまだ優しくて、妹が言いつけられた家事の手伝いをしてやることもあったが、一番上の姉は酷薄で、焼けた炭を押しつけて末妹の顔や手を焼くことさえした。肌は焼け、髪はチリチリに焦がれた。

 父親が帰って来て、末娘の酷い有様に気付いて訳を尋ねたが、一番目の娘はすかさずこう答えたものだった。

「大したことじゃないわ。危ないから駄目よって言ったのに、この子が言うことを聞かなくて火に近付いて、自分で勝手に転んで火の中に落ちちゃったのよ」

 それで父は末娘を叱った。火傷の痕は残り、人々は彼女を《焼けただれた肌の娘》と呼ぶようになった。

 

 さて、村の外れに大きな天幕があり、偉大なヘラジカを守護神トーテムに持つ大酋長が住んでいた。しかし彼は《見えない人》であって、その姿は彼の妹にしか見えないのだった。この妹が兄の世話の一切を取り仕切っていたが、もし彼を《見る》ことの出来る娘がいたならば、その娘こそが大酋長の花嫁になれるのだと言われていた。

 日が暮れて、大酋長が狩りから帰って来ると思しき時刻になると、妹は湖岸へ行く。そこには、大酋長の妻になりたいと望む少女の誰かが待っている。妹は彼女と連れ立って兄を迎えに行きながら尋ねる。

「あなたには兄さんのことが見える?」

 すると、大概の少女はこう答えた。

「ええ、勿論よ。よく見えるわ」

「じゃあ、兄さんはどんな肩紐を着けているかしら? 兄さんのヘラジカ橇はどんな鞭を使っているかしら?」

 すると少女は「なめし革の肩紐よ」だとか「緑の柳の小枝の鞭よ」などと答える。本当は見えていないことが分かったので、妹は静かに「分かったわ。さあ、私たちの天幕に戻りましょう」と言うのだった。

 天幕に着くと、少女はかいがいしく夕飯作りの手伝いをする。妹は「そこはお兄さんの席だから、あなたはその隣には座らないでね」などと注意する。

《見えない人》は天幕に戻って鹿皮靴モカシンを脱ぐと姿を現し、普通の人と変わらず見えるようになる。少女は《何かが起こる》ことを期待してその夜を過ごすが、たとえ一晩中その天幕に留まったところで何も起きはせず、花嫁に選ばれることはないのだった。

 このようにして多くの娘が挑戦していたが、誰一人として成功していなかった。《焼けただれた肌の娘》の姉たちにも挑戦の順番が巡って来て、精一杯めかしこんで湖畔に行ったが、やはり酋長の妹の質問に正しく答えることはできず、何も得ることはできなかった。

 

 翌晩、父親は沢山の小さな綺麗な貝を持って帰って来た。娘たちは早速、この貝殻に紐を通してネックレスなどを作った。

 いつも裸足だった《焼けただれた肌の娘》は、ある日、父親から古い鹿皮靴をもらっていた。それは小柄な彼女には大き過ぎたので、湖に行って水に漬けて小さくし、自分に合う大きさにした。(それでも彼女の膝まで覆うほど大きかった。)それから姉たちに、少しだけ貝殻の飾りを分けてくれと頼んだ。一番上の姉は邪険に追い払ったが、二番目の姉は少し分けてくれた。《焼けただれた肌の娘》は僅かなボロしか身につけていなかったが、森に行って白樺の皮を剥いで、それを少し加工して服にした。これを着ると彼女はお婆さんのように見えた。

 それらを身につけ、更にペチコートを穿き、ゆったりした上着をはおり、帽子やハンカチを身につけると、彼女の支度は完成した。彼女もまた、自分の運だめしをしようとしていたのだ。彼女の目には村外れの天幕にいる《見えない人》の姿がはっきりと映っていた。そして、彼女と彼の間を、シュルシュルホーホーと不思議な音を立てる気の流れが結んでいるのが感じられた。

 姉たちは末妹の奇妙な格好を見て散々笑い物にし、家に留まらせようとした。それでも諦めないので、とうとう怒鳴りつけた。しかし彼女は構わずに出て行った。まるで何かの霊が彼女を突き動かしているかのようだった。

 奇妙な姿をしたこの娘を、しかし大酋長の妹は暖かく迎え入れた。高貴な魂を持つ彼女には、物事の本質を見抜く心が備わっていたからである。

 夕闇が降りると、彼女は少女を伴って湖畔に降りた。そして「あの人が見えますか?」と尋ねた。

「勿論、見えますとも。ああ、なんて素晴らしい方なのでしょう」

「あの人の肩紐はどんなもの?」

「藤の蔓です、お姉さま」

「それでは、橇を繋ぐ紐は何で出来ているかしら」

「虹です。虹で出来ています」と少女は答えて、少し怯えたように言った。

「お姉さま、橇の先端に結んである紐は何ですか」

「あれはね、天の川よ。あなたには本当に見えているようね」

 妹は少女を天幕へ連れて帰ると、集めた夜露で身体を丁寧に洗ってやった。すると彼女の肌を覆っていた全ての傷や火傷の痕が消えた。髪はぐんぐん伸びて、まるで黒鳥の羽のように艶やかになり、櫛を入れると更に伸びるようであった。瞳は星のように輝いた。こんなに綺麗な少女はこの世界に二人といないと思えるほどだった。妹は宝箱から色々な飾りを取り出して、少女を花嫁の装いに飾った。

 支度が済むと、妹は少女に「天幕の妻の座に座りなさい」と言った。そこは戸口の脇の座で、大酋長の座の隣だった。《見えない人》がとうとう天幕に入って来た。神々しいほどに美しい彼は、少女に笑いかけて言った。

「とうとう見つけたな」

「はい」

と、少女は答えた。

 こうして少女は《見えない人》の妻になり、村中の人々を集めて立派な結婚式を挙げた。



参考文献
『幼児に聞かす世界昔話集 一日一話五分間のお話』 西本鶏介著 芸術生活社
『人類最古の哲学―カイエ・ソバージュ〈1〉』 中沢新一著 講談社選書メチエ 2002.

※シャーマニズム的な味わいになっている。妹にかしずかれ、日暮れと共に橇に乗って帰って来る姿の見えない大酋長は、姉(太陽の娘)に育てられたアイヌ神話の英雄神や、母や姉妹に世話され、世界の果てに住んでいる太陽神を思い浮かばさせさせられる。また、その妻となる娘が《焼けただれた肌の娘》なのは、月の黒斑を月神の火傷の痕とみなす伝承との関連を思わせる。

 アルゼンチンのオナ族の伝承によれば、かつて世界に偉大な力を持つ魔女がおり、彼女の支配下で女権社会が形作られていた。彼女は月であった。男たちは反乱をおこし、七歳以下を除いて女を皆殺しにした。月が地上に降りてくると、捕まえて火に投げ入れた。しかし天が轟いたので、男たちは恐れて月を解放した。月は天に昇って二度と降りて来なくなった。その表面には今でも火傷の痕が暗く見えるのだ。(『世界の太陽と月と星の民話』 日本民話の会/外国民話研究会編訳 三弥井書房 1997.)

 

 末妹が大酋長のもとへ行く際に木の皮の服をまとい、それを着ると老婆のように見えたというのは面白い。日本のお伽草子版「姥皮」で、主人公は観音に授けられた姥皮をまとって結婚相手の家に向かうが、その姥皮は「木の皮のようなもの」だったと語られているからである。

 この話は、1884年の『アルゴンキン伝説集』に収められていたものだという。原型はフランス人が語った「サンドリヨン」の物語で、それをミクマック族がアレンジしたものだという説があるようだ。しかし前述の姥皮のモチーフを見る限り、そうとばかりも言いきれない。

 

 なお、カナダのミクマック族の伝承によれば、太陽には無数の妻がおり、中の一人が蛙だったという。しかし彼女は好奇心がとても強く出しゃばりだったので、太陽は彼女を嫌っていた。太陽はひどく怠け者で気まぐれだったので苦情が出て裁判沙汰になった。蛙の妻は夫のまぶたの上に乗って傍聴した。弁舌に優れた太陽は裁判に勝ったが、まぶたの上から蛙妻が取れなくなってしまい、醜くなった彼は月と役を交代させられた。…即ち、現在の月はかつて太陽で、その表面には蛙の影が見えるのだという。(『世界の太陽と月と星の民話』 日本民話の会/外国民話研究会編訳 三弥井書房 1997.)

 インドの「日食の伝説」では、太陽王子と結婚する娘はヒキガエルの皮をかぶっていた。


参考 --> <蛙の王女のあれこれ〜蛙と姥皮



ペリア・ポカク  インドネシア ジャワ島

 少女ペリア・ポカクはいつも七人のおばに小馬鹿にされ、着るものと言ったらボロでみすぼらしかった。

 その日もおば達は水浴びし美しく装って、色っぽく腰を振って道を歩き、領主の息子ダトゥ・テルナとその供のカロヤデの側を通りかかった。と、その時二人の会話が聞こえた。カロヤデはおば達の中の誰それがいいと言ったのに、ダトゥ・テルナは、その一番後ろのみすぼらしいペリアが一番奇麗になるだろうと言ったのだ。その時からおば達はムスッとして醜くなり、ペリアを苛めだした。無力なペリアの母はおろおろするばかりである。

 翌日、おば達はペリアを薪取りに誘いだした。ペリアの母は心配したが、ペリアは出かけていった。しかしおば達はペリアが枝を取ろうとすると邪魔し、取り上げる。ペリアは薪を探して一人で森の更に奥へ入り込んだ。途方に暮れていると、七人の妖精が出て来て、ペリアを天国へ連れて行き、天の織物の技術を教えてくれた。妖精は、ペリアが初めて織った二枚の織物を一見腐ったように見える竹筒に入れてお土産に持たせてくれ、その日の午後には森の同じ場所に帰してくれた。持ち返った織物を見た母は、これで夜の寒さも大丈夫だと言って喜んだ。

 翌日から、おば達はますますペリアを苛め、ペリアに藍の染料を塗りたくってみっともない姿にした。しかし、ダトゥ・テルナは「太陽は曇っている方が見易い」とますますペリアを誉め、ついにはカロヤデもそれを認めたのだった。

 ペリアが昨日の森へ行くと、妖精達が体を洗ってくれて、更に模様の織り方を教えてくれた。こうしてペリアはしょっちゅう森へ行くようになり、どんどん織物の技法を覚えた。数年経つとペリアの家は素晴らしい織物の入った竹筒が山となったが、彼女は決してうぬぼれず、相変らずもの静かで控えめだった。

 

 そんな頃、ダトゥ・テルナは満月が膝に落ちる不思議な夢を見た。不安になって意味を父の領主に尋ねたが、領主は笑って、太鼓を打って人々を集めて彼らに聞くがいいと言った。そうして人々が集められると、占い師はみんな「吉兆です」と言った。人々は喜び、みんなで漁や狩りに行った。ところが、他の人々は大漁で戻ったのに、ダトゥ・テルナとカロヤデだけが戻らなかった。彼の母は嘆き、父は心配して捜索させたが、息子の行方は分からなかった。

 ダトゥ・テルナとカロヤデは獲物のないまま意地になって山奥へ入り込み、迷って深い谷間に辿り着いていた。そこには高い木があり、《世界の始まり》と名付けた。カロヤデがその木に登って水を探したが、一番近い水場まで山五つもあった。彼らはそこを目指したが、四番目の山で、辺りにこだまする機織りの音を聞いた。人がいるのかと五番目の山の周りを探したが、音ばかりで何も見つからなかった。これは天国で機を織るペリアの立てる音だった。ペリアは二人に気付き、「見つかったら私の運命は駄目になってしまうわ」と、慌てて逃げ帰った。

 ダトゥ・テルナとカロヤデは小さな池を見つけて水を飲み、流れを溯って、七人の妖精の泉を発見した。そこには金の水汲み桶があり、二人は何故こんな山奥にこんなものが、と不思議がった。それから存分に水浴びしてスッキリした。さて、帰ろうとしたが、ナイフの柄が何かに引っかかる。よくよく見れば蜘蛛のそれのような細い糸が張り巡らされていた。見れば機(はた)があるが、高いところにあって登れない。テルナに支えてもらってカロヤデが竹を登り、やりかけの織物を取ってきた。見れば見るほど素晴らしい織物である。二人はそれを獲物に、無事に帰りついた。

 帰って来たダトゥ・テルナは、やがて国中におふれを出した。

「森の奥で見つけた織物を最後まで仕上げることのできた女と結婚する」

 多くの娘が挑戦したが、できなかった。ペリアの七人のおばもやってみたが、だめだった。殆ど国中の女が失敗したかと思われた時、ダトゥ・テルナは聞いた。「もう他に試していない女はいないのか」「私達の姪のペリア・ポカクが試しておりません」おば達は答えた。「でも、あの子にできるはずありません。あの子は織物なんて一度もしたことがありませんわ」

 ペリアに迎えが差し向けられたが、ペリアはおば達の言ったことを聞いて、挑戦するのを渋った。

「私、行きません。お屋敷に行けるような服がありませんから」

 それを聞くと、ダトゥ・テルナは美しい服を届けさせた。こんな調子で、上着、巻きスカート、ショール、ベルト、様々な装身具、髪用のココ椰子の油、櫛、乗っていくための馬、駕籠とお供、楽隊――ペリアの傲慢とも言える要求にダトゥ・テルナは全て応えた。

 ついに口実もなくなり、ペリアは着飾って領主館へ行った。ダトゥ・テルナが贈った服ではなく、現れた七人の妖精たちの用意し着付けしてくれた、輝くばかりの服だった。彼女は例の織物のところへ行くと、最初は織れないようなそぶりをし、ちょっとの隙に完璧に織り上げてしまった。

 ダトゥ・テルナは急いでペリアに負けないような立派な服に着替えてきて、領主は二人の結婚を宣言しようとした。しかし、ペリアは逃げ口上をした。だが妖精に説得され、結婚を承知した。

 ペリアは、家から腐った竹筒を持ってこさせ、山と積ませた。人々は不審に思ったが、割らせると、全ての筒から美しい天の織物が出て来た。

 こうして二人が結婚すると七人のおば達は恥ずかしさのあまりこそこそと姿を消し、七人の妖精はペリアの許しを得て天国に帰っていった。



参考文献
『世界の民話 インドネシア・ベトナム』 小澤俊夫編訳 株式会社ぎょうせい 1977.

※七人のおばたちが、嫉妬にとらわれた途端に醜くなる、という描写が面白い。美しさは肉体の造作ばかりの問題ではない、ということだろう。

 この七人のおばたちと同じ人数の妖精たちがぺリアを助ける。そして妖精たちと叔母たちは同時に姿を消すのだ。妖精とおばたちは表裏一体の存在だと感じさせられる。

 森の中で機織りの音だけが響くエピソードは、日本の機織淵伝説を思い出させる。

 

 それにしても、ぺリアは結婚したくなかったみたいなのに、幸せになれたんだろうか?



アンデ・アンデ・ルムト  インドネシア ジャワ島

 ダダパン村に住む寡婦やもめに、上からクレーティング・アバング(赤い水差し)、クレーティング・イヨ(緑の水差し)、クレーティング・クニング(黄色い水差し)という三人の娘がいた。ところが、寡婦は何故か末娘のクニングを虐待していた。(異伝によっては、クニングは継子になっている。)

 川へ食器洗いに行かされたクニングが、あまりの辛さにアラーの神に祈って泣いていると、巨大なコウノトリバンゴ・トングトングが現れて口をきき、仕事を手伝ってくれた。(異伝によれば、このコウノトリは亡き父の化身らしい。)それから毎日、手伝ってくれるようになった。

 そんなある日、王子アンデ・アンデ・ルムトが民間から嫁選びをすることになり、上の姉二人は着飾って王宮へ出かけるが、クニングは「ダメよ、あんたはブスだもの」などと言われて置いていかれた。するとコウノトリが来て、「私の手助けも今日が最後だよ」と、魔法の椰子の葉脈サダ・ラナングをくれる。母が「お前には着替えたり体を洗ったりさせないよ」と引きとめようとするが、クニングはそれを振りきり、体を洗いもせず、ボロ服のまま出ていった。

 一方、姉達は橋のない川に行く手を阻まれていた。川の神に祈ると大蟹ユユカングカングが出現し、それぞれのキスと引き換えに川を渡してくれた。だが王宮に着くと、王子は会ってくれようとさえしない。二人は既に大蟹によって「使われて」いるからというのだ。

 その頃クニングは例の川にさしかかり、大蟹に渡してくれと頼んだが、大蟹はクニングのみすぼらしい姿を笑うばかり。怒ったクニングが魔法の椰子の葉脈で川を打つと、たちまち川が干上がった。大蟹は元に戻してくれるよう懇願し、クニングは水を戻してやった。それから帰りがけの姉達に出会って馬鹿にされたが、構わずに王宮に行った。母の王妃はクニングのみすぼらしさを見て邪険に追い返そうとするが、王子は「この人こそ私の待っていた人だ」と中に入れて、洗って着飾らせ、結婚した。



参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.

※物語の舞台は「バヴァン・プティとバヴァン・メラー」と同じダダパン村。

 処女性を失った姉達は王子との結婚の資格を失う。目的地に行く途中で水(溝)に行く手を阻まれ、そこで助けてくれた者と結婚してしまう展開は、「小町娘とあばた娘」と同じだ。

 大蟹は水神である。ところが、クニングは水神を凌駕する呪力を身につけている。魔法の椰子の葉脈は、生命の木の枝と同義なのだろう。

 異伝では、最初に主人公を助けるコウノトリと王子アンデ・アンデ・ルムトは同一人物で、最初に結婚の約束をしたことになっている。ユユカングカングは《カニのような男》で、川の渡し守。クニングは処女性を守り通して川を越え(つまり、冥界に下って)夫に逢いに行く。

 川を渡ることを《境界を越える》と考えれば、大蟹は三途の川を守る番人であり、冥王だ。水の境界を渡る時、鞭や杖で打って水を割り、道を作るモチーフは『旧約聖書』の出エジプト記にもある。「クワシ・ギナモア童子」「せむしのタバニーノ」など、冥王から逃走する説話にも、そのモチーフが見える。



頑固な頭の少年と小さな足の妹  アラビア 『千夜一夜物語』

  語り伝えますところによれば、昔、国々の間の一つの国の、村々の間の一つの村に、敬虔で善良な男が住んでおりました。申し分のない妻との間に息子と娘をもうけておりまして、息子は頑固な頭を、娘は優しい心と小さな足を持っておりました。

 二人の子供がある程度の年齢に達したとき、父親が亡くなりました。彼は臨終の床で妻に頼みました。くれぐれも息子を厚遇するように。何をしようとも叱らず、何を言おうとも逆らわず、どんな時でもあの子の好きにさせてやってくれ、と。妻が泣きながら約束をしますと、父親は安らかな気持ちで亡くなって、何の心残りもありませんでした。

 母親は亡くなった夫の最後の願いに従わずにはいられませんでした。

 それからしばらく経つと母親も死の床について、娘を枕元に呼んで言いました。

「娘や、よくお聞き。亡くなったお父様は、ご臨終のとき、決してお前の兄さんの気に障らないようにと私に誓わせたのです。今度はお前がこの申しつけに従いますと私に誓って、安らかに往生させておくれ」

 娘が母親にその誓いをしますと、彼女は満足して主の平安のうちに亡くなりました。

 さて、母親の埋葬が済むとすぐに、少年は妹に会いに行って言うのでした。

「聞いておくれ、おお、お父さんとお母さんの娘よ! 僕は今すぐに、僕らの持っている家具だの収穫物だの仔羊や水牛だの、一言で言うとお父さんが遺してくれたもの全てを家の中に集めて、容れ物も中身もそっくり焼いてしまいたいのだ」

 少女はあっけにとられて目をみはり、母の申しつけも忘れて叫びました。

「まあ兄さん、でもそんなことをなさったら、私たちはいったいどうなるの?」

「とにかくそうするんだ」

 兄は答えて、自分の言ったとおりにしました。全部を家の中に積み上げておいて、家に火を放ったのです。これで財産の一切が燃えてしまいました。また彼は、妹が色々な品物を隣人たちに預けて逃れさせていたことに気づいて、妹の小さな足跡をたどっては見つけ出し、一軒一軒、容れ物も中身も次々に焼き払ってしまいました。

 それらの家の人たちは、物凄い目つきをして熊手を掴み、兄妹を追いかけて殺そうとしました。妹は恐怖に囚われて言いました。

「おお、兄さん、自分のしたことがどういうことか解ったでしょう。逃げましょう! さあ、逃げましょう!」

 二人は足を風に任せて逃げ出しました。一昼夜走って首尾よく逃げおおせ、農夫たちが収穫をしている立派な農地に着きました。生きていくために兄妹で職を求めたところ、愛嬌のある顔をしていたので採用されました。

 数日後、少年は家で、たまたま地主の三人の子供たちだけと一緒になったのを見て、色々と可愛がってやって懐かせ、「麦打ち場に行って、麦打ちごっこをして遊ぼうよ」と言いました。四人で手をつないで麦打ち場へ行き、最初は少年が麦役になって子供たちがこれを殻竿で打ちましたが、打つ強さは優しいもので、あくまで遊びの程度のものでした。そのうち役を交代することになって子供たちが麦になりました。すると少年は、子供たちを本当に麦を脱穀する時のように打ちました。子供たちが練り粉みたいに潰れてしまうほど強く打ったのです。それで子供たちは麦打ち場で死んでしまいました。

 妹の方は、兄がいないのに気づくと、これはまた、何か滅茶苦茶なことをしでかしているに違いないと思いました。そこで兄を探してやっと見つけたところ、ちょうど地主の三人の子供を平らに伸ばし終えたところです。これを見て妹は言いました。

「早く逃げましょう、おお、兄さん、早く逃げましょう! 兄さんはまた、こんなことをしでかしたのね! この土地で上手くいってたのに! とにかく早く、早く逃げましょう!」

 そして妹は兄の手を掴んで、無理矢理一緒に逃げ出させました。少年は元々そうするつもりだったので引かれるままになりました。地主は家に帰って子供たちが練り粉になっているのを発見し、兄妹が姿を消したことを知りましたので、使用人たちの方を向いて命じました。

「俺たちはあの二人の悪人を追わねばならない。あいつらは俺の三人の子を殺して、我々の恩義と歓待に報いたのだから!」

 そこでみんなは弓矢と棍棒を持ってすごい武装をし、兄妹と同じ道を取って追いました。そして夜になって、たいそう大きくたいそう高い一本の木のところに着くと、その根元で休んで夜明けを待つことにしました。

 ところが、兄妹はまさにその木のてっぺんに隠れていたのでした。明け方になって下を見ると、木の根元には追手たちが眠っているのです。兄は三人の子供の父親である地主を指差して言いました。

「ほら、あそこに大男が眠っているだろう。あいつの頭に大小便をひっかけてやろう!」

 妹は震えあがって、自分の口を手の甲で打って、兄に言いました。

「おお、私たちはこれでもう助からないわ! どうかそんなことはしないでください、ねえ、兄さん! あの人たちはまだ私たちが頭の上に隠れているって知らないんだから、兄さんがじっとしていれば、そのうち行ってしまって私たちは助かるのよ」

「いやだ! どうしても、僕はあの大男の頭に大小便をひっかけてやるんだ!」

 兄は一番高い枝の上にしゃがんで、地主の頭と顔に小便をかけ、大便を落としました。地主はハッとして目を覚まし、木の上で少年が悠然と葉でお尻を拭いているのを見ました。怒りが極限に達して、弓を取り、兄妹めがけて矢を放ちました。けれども木がとても高かったので、どの矢も届かずに枝に引っかかるばかりです。そこで地主は部下を起こして命じました。

「この木を切り倒せ!」

 少女はこの言葉を聞くと、兄に言いました。

「ご覧なさい、私たちはもうおしまいよ!」

「そうとも限らないさ!」と兄は答えました。

「ひどい目に遭うわ、兄さんがあんなことをしたせいよ!」

「まだ僕らはあいつらの手に落ちたわけじゃない!」

 木が斧で倒されようとした、まさにその瞬間。一羽の巨鳥ロックが通りかかって兄妹を見つけ、襲いかかると、二人一緒に鉤爪に引っ掛けてさらってしまいました。倒れた木の傍で地主は怒り狂いましたが、もうどうしようもありません。

 ロック鳥は兄妹を鉤爪に掴んだまま飛び続け、いよいよ最後に入り江の上を横切ろうとしました。少年は妹に言いました。

「妹よ、僕はこの鳥の尻をくすぐってみるよ」

 少女は恐ろしさに胸が鳴って、震える声で叫びました。

「おお! 後生だから、兄さん、そんなことはしないで、しないでったら! 鳥が爪を放したら、私たちは落ちてしまうわ!」

「どうしても鳥の尻をくすぐってみたいんだ!」

「でも私たちは死ぬわ!」

絶対にやってやる! こういう風にさ!」

 くすぐられた鳥は横ざまに跳ね上がり、掴んでいた兄妹を放してしまいました。アーーー!

 兄妹は海に落ちました。そして海の底まで沈みました。そこはとても深い海でした。けれども二人とも泳げたので、水面まで浮かび上がって岸にたどり着くことができました。ところが、そこはさながら暗黒の夜のように何一つ見分けられません。それというのも、兄妹が着いた国は《闇の国》だったのです。

 すると少年は躊躇なく、手探りで探した二つの小石をこすり合わせて火花を出し、やはり手探りで集めてうずたかく積んだ木に火を点けました。木の山が燃えると辺りがよく見えるようになりましたが、その瞬間、恐ろしい唸り声が聞こえました。野生の水牛の声が千も集まったような声です。焚き火の明かりで見れば、真っ黒な、途方もなく大きな女食人鬼グーラーがこちらに向かって来るではありませんか。

「私が闇に定めた国で、明かりを灯す無法者はどいつだ!?」

 女食人鬼はかまどのような口を開けて叫ぶのでした。

 妹はすくみあがり、消え入る声で兄に言いました。

「おお、お父様とお母様の息子よ、今度こそ間違いなく私たちは死ぬでしょう。おお! あの女食人鬼のなんという恐ろしさ!」

 そして兄にぴったり寄り添って、もう気を失ってしまいました。

 しかし兄は少しも慌てず、すっくと立ち上がって女食人鬼に立ち向かい、燃え盛る薪の大きなおきを一本一本取っては、女食人鬼の大きく開けた口に投げ込み始めました。こうして最後の大薪を放り込んだときには、恐ろしい女食人鬼は、真ん中から裂けてしまいました。

 すると太陽が、この闇に定められていた国を照らしました。それというのも、今までは女食人鬼が、その途方もなく大きな尻を太陽に向けて、この地を照らすのを妨げていたからでした。

 この国を治めていた王様は、長年の暗闇の後に再び太陽が輝きだしたのを見ると、あの恐ろしい女食人鬼が死んだのだと悟り、この国を闇と圧迫から解放してくれた勇者を探すために、護衛を従えて宮殿を出てきました。海岸に着くと、まだ燻っている薪の山が遠目に見えましたので、そちらへ向かいました。

 妹は、王様を先頭にした輝く武装の集団が近づいてくるのを見ると、非常な恐怖に襲われて兄に言いました。

「おお、お父様とお母様の息子よ、逃げましょう! さあ、逃げましょう!」

「何故逃げるんだ? 何が怖いんだい?」

「あなたの上のアッラーにかけて! 行ってしまいましょうよ、あの武装した人たちがここまで来ないうちに!」

「いやだ!」

 そのうちに王様は燻る薪の山の傍に着いて、女食人鬼が粉々に砕けているのを確かめました。そしてその傍に、娘用のごく小さなサンダルの片方を見つけました。それは妹のものでした。兄が丘のような岩の陰に行ってしばらく横になって休むと言うので、自分も兄の傍に行って隠れようと駆け出したとき、その小さな足から脱げ落ちたものだったのです。王様は部下に言いました。

「これこそ女食人鬼を殺して我々を暗闇から解放してくれた女のサンダルに相違ない。よく探してみよ、きっと見つかるであろう」

 少女はこの言葉を聞いて、思いきって岩陰から出て、王様に近付きました。そして王様の足元に身を投げ出して保護を願いました。

 王様はこの少女の片足に、先ほど見つけたサンダルの片割れを見つけました。そこで少女を立ち上がらせて、抱きしめて言いました。

「おお、祝福された乙女よ、あの恐ろしい女食人鬼を殺したのは、確かにその方であるか?」

 少女は答えました。

「いえ、私の兄でございます、おお、王様!」

「して、その勇者はどこにいるのか?」

「誰も兄をひどい目に遭わさないでしょうか?」

「それどころではない!」

 そこで少女は岩陰に行って、兄の手を取りますと、彼はそのまま付いてきました。王様は前に案内されてきた少年に言いました。

「おお、勇者らの首領にして彼らの冠よ、余は一人娘をそなたにめとらそう。そして余は、サンダルによって見出したこの小さき足の乙女を妃に迎えることに致す」

 すると少年は言いました。

「差し支えござりませぬ!」

 こうして一同は満足し繁栄して、歓楽のうちに暮らしたのでした。



参考文献
完訳 千一夜物語 12』 豊島与志雄/渡辺一夫/佐藤正彰/岡部正孝訳 岩波文庫 1988.

※マルドリュス版、881夜〜882夜。次々と破壊と逃走が繰り返され続けるジェットコースターのような話。それにしても最後に少年が素直になってよかった。ここでまた「いやだ!」と言ってたらどーなってたことやら。

 ラスト近く、落ちていたサンダルを王が見つけて、その持ち主の少女を妃にするくだりのみ、シンデレラ譚と共通している。スリッパテストはないが、妹の足が非常に小さかったと語られている点に片鱗が見える。

 

 日常生活では人心を意に介さない破壊的で厄介な少年が、闇の国で食人鬼に襲われるという異常事態になると頼もしい英雄となる。劇場版ジャイアン。《頑固な少年》となっているが、実際は説話の定番モチーフの一つ、《恐れを知らない若者》だろう。けれど、恐れ知らずで怪力で常識外れの兄と、常識人で苦労性の妹がセットになっているのが面白い。

 人間を麦に見立てて殻竿で打つ遊びは、実際にそのような収穫儀礼が行われていたことが知られている。例えばフランス西部のヴェンデ地方。農夫の妻が《小麦の女》の役になり、藁でくるまれて脱穀機の傍まで運ばれ、麦のように打たれて後に、毛布の上で上に下に弾まされる。要は人間を麦に見立てて脱穀作業を再現した儀礼で、収穫後の穀霊神を(来年の芽吹きのために)殺す意味のある豊穣祈願の農耕儀礼である。

 狡猾な子供が高木の上に潜み、下の大男に悪いものを投げるのは、「袋の中の男の子」や「人食い女」で見られるのと同じ、木の上から人食い鬼をからかうモチーフの変形だろう。「シュパリーチェク」と同じように、木が倒される瞬間に鳥が子供をさらって救う。鳥は魂を乗せて運ぶもの、魂そのものの化身でもあり、魂の昇天のニュアンスがあるようだ。

 寄る辺のない兄妹が空飛ぶ獣に乗って異郷へ向かうくだりは、黄金の羊に乗ってコルキスへ向かったプリクソスとヘレー兄妹のギリシア神話を思い出させる。これは冥界への渡りである。コルキスは太陽が休むと言われる世界の果ての国であり、その王は太陽神〜冥王の性格を持っている。プリクソスはコルキスの王女と結婚したが、ヘレーは途中で羊から海峡に落ちて、海神ポセイドンの妻になったとされる。

 怪物の口の中に松明を投げ入れて殺してしまうくだりは、「山姥と石餅」と同じモチーフ。

 怪物が太陽に尻を向けていたため国が暗黒に覆われていた…というくだりは、一見して滑稽にも思えるのだが、その怪物が女性である点に注意すべきなのだろう。つまり、この牛のような声で吠え竈のような口を開ける巨大な女食人鬼グーラーは、地母神であり竜であり神牛であり、太陽の母なのだと思われる。彼女は太陽に向けて足を開き、子宮に呑みこんでいた、そんなイメージが根底にあるのではないか。怪物の死後に現れる輝く武装の王は、太陽・冥王の化身とみなせる。



なくした金の靴  アイルランド

 遠い昔のこと。マニ王は愛する妃と賢い娘ミャドヴェイをもっていた。不幸なことに妃が病死すると、王はベッドに横たわり、国政に構わなくなった。家臣たちは相談し、王の承諾を得ると、王の新たな妃を探して旅に出た。三人の家臣たちは海で迷い、見知らぬ土地に上陸した。美しい琴の寝に導かれてテントに行き、美しい女性を見つけた。彼女はこの国の王の妃だったが、海賊が王を殺し妻になれと迫るので、それから逃れてきたのだという。彼女こそマニ王の新たな妃に相応しいと思われ、三人の家臣は渋る彼女を説得して、彼女とその小さな娘を連れかえった。彼女を見ると王の悩みは消え去り、盛大な婚礼をした。

 王は徴税のために地方に出かけて行った。継母は自分の娘と共にやってきて、ミャドヴェイを散歩に誘った。最初はとても親切だったが、城から遠く離れると急に怖くなり、ミャドヴェイと自分の娘の服を取り替えさせ、魔法をかけて娘をミャドヴェイそっくりに変えた。そして本物は手足を縛ってそこに置き去りにして行った。城の人々はミャドヴェイの性格が突然変わったのに驚いたが、姿はミャドヴェイそのものだったので、誰も別人とは思わなかった。

 ミャドヴェイは夢を見た。死んだ母が現れて縛めを解いてくれ、何でも食べ物の入っている布をくれた。ただし、食べ物は全部食べてしまってはいけないし、人に見られてもいけない。継母とその娘に気をつけなさい、と言って母は消えた。目覚めると手足は自由になっており、ちゃんと布があった。

 そこへ、今はミャドヴェイに成りすましている娘が、母の言い付けでミャドヴェイが本当に死んでいるかを確認にやってきた。ミャドヴェイが無事なのを見ると、娘は「母のしたことは悪かった、これから王様が帰るまで私はあなたと共にいます」と言い、ミャドヴェイの側に付いて秘密を探ろうとした。ミャドヴェイは娘が眠ったときに布を取り出して食事を始めたが、眠ったふりをしていただけの娘は飛び起きると、布を奪って城に帰った。

 途方にくれ、ミャドヴェイはさまよった。疲れて眠ると、再び母が夢に現れて、「お前は軽率だったね」と言った。「こうなったらまっすぐに海辺へ行きなさい、すると小路の先の岬に小屋があります。鍵がかかっているけれど、鍵はドアに刺さっています。太陽に付いて三度家の廻りをめぐり、三度反対にめぐって、その度に鍵に触れると鍵が開くから、お前はそこで暮らすことです。何も心配いらないよ」、と。

 そして、こんな歌を唄って聞かせた。

そこでは郭公が呼び

そこにはニラが生え

そこでは牝羊が皮を脱ぐのだよ

 それからミャドヴェイは岬の小屋で暮らし、毎日楽しく過していた。

 ある日、気晴らしに丘に上ると、すぐ近くを一団の帆船が通った。彼女はひどく驚いて小屋にかけ戻ったが、金の靴の片方をなくしてしまった。

 その船団を率いていたのはある国の王子で、噂に高いミャドヴェイ姫に求婚に訪れたのだった。王子は船を降りて王宮に行く途中で金の靴を拾い、あまりに美しく華奢なその靴に心惹かれ、この靴の合う女性とでなければ結婚しないと思った。

 王子は王宮にやってきて「ミャドヴェイ姫をいただきに来ましたが、途中で拾ったこの靴が合う人でなければダメです」と言った。妃は靴を受け取って、これはミャドヴェイのものです、以前なくしたのですと言い、奥に入って娘に靴を履かせた。けれど、足は半分も入らなかった。妃は娘のつま先とかかとを削ぎ落として無理に履かせた。娘は「ひどい」と言ったが、王子と結婚するためにはこのくらい辛抱しなくては、となだめた。偽のミャドヴェイが着飾って現れると、王子の目にも確かに靴が合っているように見えたので、彼女に求婚し、一緒に国に連れて帰ろうとした。ところが、船がミャドヴェイの小屋の側を通りすぎた時、王子は高らかにさえずる鳥の声を聞いて不安になった。というのも、彼には鳥の言葉が解ったからだ。

舳先に座るのは かかとを削いだ娘

靴を赤い血で染めて。

花嫁に相応しい マニ王の娘ミャドヴェイはこの陸にいる

戻りなさい、王子様!

 王子は最初鳥の言うことが信じられなかったが、靴を見るとそのとおりだとわかったので、魔法の杖で偽のミャドヴェイの肩に触れた。すると娘は醜い女巨人になり、これまでのことを残らず白状せねばならなかった。王子は女巨人を殺して肉を塩漬けにしたが、十二樽分もあった。その樽は火薬を詰めた一艘の船の上に運ばれた。

 それから、王子はボートを下ろして岬に上がり、小屋を見つけた。小鳥の歌によって鍵の開け方を知り、中に入ると、素晴らしく美しい女がいた。娘はマニ王の娘ミャドヴェイと名乗り、継母の手を逃れてここにいると語った。王子がこれまでのことを語って靴を履かせると娘はやすやすと履いたが、見れば、片方は既に履いているではないか。王子はこれこそ自分の真の花嫁だと思い、彼女を船に連れていった。

 さて、それから王子はマニ王の王宮に戻って、ミャドヴェイの両親に一緒に結婚式に来て欲しい、と船旅に誘ったが、妃は渋ってなかなか乗りたがらなかった。説き伏せて乗せたが、途中で船酔いのために食欲がなくなった。王子は十二の樽に入れた塩漬け肉を勧めた。妃は毎日一樽ずつ肉を食べたが、食べるときには醜い女巨人の正体を現すのだった。十二日目、王子はマニ王にその様子を見せ、肉の樽を乗せた船の火薬に火をつけて、妃の女巨人を爆死させた。

 こうして王子とミャドヴェイは盛大な婚礼を挙げた。

 やがて王子は王位を継いで王となり、二、三年経つと美しい息子も生まれた。子供を産んだ後、妃のミャドヴェイは風呂に入った。そして石鹸を取りに侍女が場を離れた隙に、一人の見知らぬ女がやってきて、挨拶し、服を取り替えてくれと言った。ミャドヴェイが取り替えた途端、女は呪文を唱えてミャドヴェイそっくりに変わり、ミャドヴェイに向かっては「私の兄弟のところへ行け」と唱えた。すると本物のミャドヴェイは消えてしまい、妃は入れ替わった。誰もこの入れ換えには気付かなかった。ただ、妃が以前より優しくなくなったとは感じても。

 さて、王はミャドヴェイと出会ったあの小屋を気に入っていて、魔法で持ってきて妃の住居の側に移築していた。平和な時には郭公が呼び、ニラが芽をふき、牝羊が皮を脱ぐという歌が聞こえていたが、今はそれも一変していた。

もはや郭公は歌を唄わず

土からはニラが芽をふかず

牝羊は皮を脱がず

そして揺りかごの中の赤ん坊は 決して泣き止むことはないだろう

 こんな歌が聞こえ、国中の全てが狂っていくように見えた。

 そんなある日、王の羊を世話している牧夫が海辺を通ると、岩礁の下からガラスの箱が浮かび上がってきて、中には妃のミャドヴェイにそっくりの女が捕らえられていた。箱は鉄の鎖で縛られ、鎖は醜い巨人がしっかりと握っていて、また箱を海に沈めるのだった。

 驚いた牧夫はしばらく小川の側で考えこんでいた。すると子供が川に水汲みに来たので、金の指輪をやった。子供は喜んで岩の下に姿を消し、すぐに小人が出てきて、子供への贈り物の礼を言い、お返しに何をあげましょうかと言った。牧夫は答えた。「僕はあの岩礁の間に見えたものが何なのか知りたいだけだ」

「ガラスの箱の中にいるのはお妃のミャドヴェイだ。今 城にいるのは入れ替わった女巨人で、その女巨人の兄弟が、鎖を握っていた巨人なのだ。巨人はお妃が四度だけ陸に出るのを許しているが、その時に誰かがお妃を助けられたなら、彼女は救われる。しかし、彼女は既に三度陸に出ていて、明日が浮かび上がれる最後の時なのだ」

 牧夫は小人に援助を申し入れた。小人は牧夫に斧を与えて、明日 箱が浮かび上がったら、これで鎖を断ち切れと教えた。

 牧夫はその晩は岩の中で待ち、朝になると例の岩礁に出かけた。そして鎖を断ち切るのに成功したが、たちまち巨人が躍りかかって彼を殺そうとした。小人が手にした袋から何かを巨人に投げかけ、すると巨人は視力を失って、そのまま岩から滑り落ちて死んだ。

 牧夫と小人はミャドヴェイをそこに待たせて城に行き、偽の妃に魔法の杖で触れて正体を暴いた。醜い女巨人になった偽の妃は、かつてのミャドヴェイの継母は自分の姉だったので、復讐しようとしたのだ、と語った。王は怒って女巨人を打ち殺させた。

 牧夫は訊いた。もしお妃にかけられた魔法を解いて救った者がいたら、どんなお礼をしますか、と。王は大きな財産と貴族の称号と領地を与えようと答えた。牧夫はすぐに妃を連れてきた。王と妃の再会は、口では言えないほどの喜びだった。

 こうしてミャドヴェイがまた幸福になると、郭公は呼び、ニラは芽をふき、牝羊は皮を脱いで、揺りかごの中の赤ん坊は泣き止んだ。それからは、彼女は老年になるまで幸せに暮らした。



参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.

※……なんでいつもいつも簡単に服を取り替えるんだよミャドヴェイ…。


参考--> 「フェアとブラウンとトレンブリング」【白雪姫




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